一度は聴いてみたかったCORALのスピーカーを手に入れたので、メンテナンスしてみる。
CORALについて
実のところ、CORALという日本のオーディオメーカーがかつて存在したことを知ったのは、比較的最近だった。
オークションサイトでヴィンテージのスピーカーを探すようになってから、稀に「CORAL」の文字を見かけることになり、初めのうちは「聞かない名だし、国外のメーカーかな」くらいの認識でいた。
ところが、YAMAHAのテンモニについてインターネットで情報を集めている最中に、比較対象としてCORALの「EX-101」というモデルが引き合いに出されていた。何ぞやと思い検索をかけると、同じ密閉型でサイズも同等だという。テンモニよりも明るくスピード感のある音なんて称するものもあった。
ブックシェルフ型で置きやすく、しかも飾りっ気のないシックなデザイン。俄然興味が湧いたわけである。
狙うはEX-101として、オークションサイトを定期的にチェックしていたら、その後継モデルの「EX-102AV」が手に入ってしまったのだった。
余談
今は無きCORAL、もとは1946年6月設立の「福洋コーン紙株式会社」というコーン紙製造専門メーカーだったようだ。そこから時勢に乗って、自社スピーカーユニットの製造、大手家電メーカーへのOEM供給と続き、1948年に自社ブランドとして「コーラル」が誕生のが始まり。その後音響機器メーカーへと変貌した。
ただし、調べてみると、一時はアンプやチューナーも製造していたみたいだけど、すぐにスピーカー製造一本体勢に戻っている。成績が振るわなかったらしい。
それでも、なんせ元はコーン紙専門メーカー。スピーカーが高品質かつ比較的リーズナブルとして、オーディオ界隈では有名だったらしい。
1960年代後半で早くもブックシェルフ型スピーカーを製品展開していたり、名機と呼ばれる中にバックロードホーンモデルがあったりと、技術力を堅実に押し出していた印象を受けるメーカーだ。
バブル崩壊とオーディオブームの尻すぼみとともに規模縮小、1992年にCORALは解散した。
ただ、今日まで「コーラルトーン」は地味ながら求められ続けていたらしく、近年中古市場でもCORAL製スピーカーはわずかに値上がり傾向。
状態の良いEX-101を、早期に入手したいものである。
改修前の音
EX-102AVは、前モデルと異なり、前面にバスレフポートが設けられている。また、そのすぐ上に「TONE SELECTOR」なる押しボタンがあり、押し込むと高音域がやや引っ込むギミックが搭載されている。
今回の試聴は、自分の好みだった「NORMAL」のほうで行った。
傾向としてはいわゆる"ドンシャリ"。高音と低音がよく聴こえる鳴り方。
ただ、低音域は太鼓の打音が共鳴するようなボワつきがある。
また、中音域がやや遠くで鳴っており、高音域とのつながりに違和感がある。
高音域は、割と上の方まで出ている気がする。
スピードがあって音場も広め。それなのに前述のバランスのせいでチープに聴こえてしまう。なんとももったいない。モデル名末尾に「AV」が付されているので、予想はしていたけど。
分解
出音に期待していただけにちょっとガッカリしつつも、改修で調整できそうな部分もなんとなく検討がつく。手を加えて確かめてみる。
両ユニットとも巨大なマグネットが使われている。拘りがうかがえる。
筐体はMDF製。厚みが1.5cm以上あり、かなりしっかりした造り。そして重い。
吸音材は、背面部前面に厚めのフェルトが貼られている。クロスオーバーネットワークの基板が収まる位置には、切り込みが入れられ干渉しないようにしてある。
ネットワーク回路はスピーカーターミナルユニットと一体になっており、背面からスピーカーターミナルユニットを取り外すと、回路基板も一緒に引き抜くことができる。
前面パネルにある押しボタンは、表からネジ2点留め。
ネジ穴は金属製化粧プレートの裏に隠れている。プレートは接着剤が劣化していたからか、少しずつ力を加えてやると簡単に剥がすことができた。JBL 4312Mとは大違いである。
しかしながら、プレート自体は薄く曲がりやすいので、作業は慎重に。
今まで扱ってきた2WAYスピーカーのネットワーク回路では、パーツ点数が圧倒的に多い。
この回路は、ツイーター手前にある2.2μFの電解コンデンサーと0.16mHのコイルの通電状態を、押しボタンで切り替えられるようにしている。両者は通常ショートされていて、ボタンが押された状態、つまり「MILD」状態になると稼働する。
以前改修した「Pioneer S-X11」でも同様の音質調整機能があったけど、あちらとやっていることはほぼ同じ。こちらは二極双頭形スイッチを使って、フィルターの掛かり方を少し複雑にしているだけだ。
改修
コンデンサーの交換
いつものように、劣化したコンデンサーの交換を施すことにする。
とはいえ、このスピーカーのネットワーク回路には一部フィルムコンデンサーが使われている。これらは静電容量値を測定して異常がないことを確認後、再使用する。
ついでに、ネットワーク基板から各ユニットまでのケーブルをOFCスピーカーケーブルに引き換えておく。
スピーカーターミナルユニットの交換
既存のプッシュ式ポストをバナナプラグ対応品に換装する。
既存に合うサイズのユニットを用意できなかったため、筐体側を加工しなければならない。
孔の両サイドをノコギリで大体5mmほど切り落とし、広げる。切りくずが大量に出るので、屋外作業。
仕上がりはある程度粗くてもユニットを取り付ければ隠れるので問題ないけど、削る際に化粧シートが大きく剥がれやすいので、そこだけは注意。
孔の拡張を終えれば、新しいユニットを嵌めて4点ネジ留めするだけ。
既存のスピーカーターミナルは、ネットワーク基板を抱いていたけど、新しいユニットは単体設置とし、ネットワーク基板は内部に別途配置する。メンテナンス性は悪くなるけど、同じことをしようとするとスピーカーターミナル側の加工が必要なので、妥協する。
ネットワーク基板と吸音材の再配置
内部の吸音材をすべて剥がし、ネットワーク基板をネジ留めする。
基板は数ミリ浮かせる必要がある。しかし、そのためのスペーサーを用意し忘れたので、適当な木材を敷いて代用した。
固定するネジは、トラス頭の25mmタッピングネジ。
この段階で、前面パネルの押しボタンもネジ留めしておく。
スピーカーターミナルと各ユニットへ配線した後、新しい吸音材を詰める。低音を抑えたいので、大量に入れることにした。
今回用意したのは、手芸用綿。ウーファーの真後ろにこれでもかとギッシリ詰めておく。
最後に化粧プレートを再接着して、完成。
改修後の音
再度組み上げた後の出音は、思いの外改善してくれた。
意図した通り、低音域のボワつきがかなり低減され、タイトになった。それに伴い、音像を捉えやすくなった。意外と下に沈むような低域だったことがわかる。
中音域はやや後ろに位置しているのは変わらないものの、張りが出て実在感が増した。スピーカーとの位置関係で定位がぴったり合う場所を見つけると、シルキーな弦楽器や張り詰めたしなやかな打楽器を楽しめる。
高音域の変化はあまり感じられない。ただ、中音域との繋がりは改善されている。ソースによってはややピークに癖を感じるので、気になるならTONE SELECTORで「MILD」に切り替えてもいいかもしれない。
まとめ
正直なところ、素の音はまとまりがなくて長時間聴いていられない音だった。それが改修により、質実剛健なボディから生まれる本来のポテンシャルをうまく発揮してくれるようになってくれたのはよかった。
いつもならコンデンサー交換による音色の変化が大きいところだけど、今回は吸音材の効果が際立った結果となった。収める箱の密度をガチガチに上げたほうが、ユニットのドライブが生きるのかもしれない。
噂に違わぬというか、マニア受けしそうなスピーカーだと感じた。未だにCORAL製品を追い求める人がいるのもわかる気がする。
これでますます、EX-101を手に入れたくなった。
(追記その1) オレンジドロップを搭載してみる
またEX-102AVに巡り合うことができた。
思い立って、以前から気になっていたコンデンサー「オレンジドロップ」を、クロスオーバーネットワークに採用してみる改造を施す。
思いつき
今回は、スピーカーに関する作業内容は動画にまとめたので、ここには詳細を記さない。
オレンジドロップは、ギターやアンプに搭載されるコンデンサーとしては有名だ。その辺明るくない自分でも、名前くらいは聞いたことがあった。
ネットで検索をかけると、値段が手ごろで、静電容量もそこそこ大きめのラインナップがあることを知り、これをスピーカーに使ってみたらどんなもんだろう、と興味が湧いたのだった。
先日、秋葉原でたまたま「716P」を見つけ、購入。1個500円くらい。
本当なら、スピーカーに元々使われているのと同じポリエステルフィルム製の「418P」にしようと思っていたけど、まあいいか。
ネットワーク回路の変更
ウーファー側に0.47μF、ツイーター側に0.1μFを用意。
静電容量は既存とだいたい同じにしたかったので、不足する容量分は別のコンデンサーで補うことに。
このスピーカーは、前面のトーンセレクターでツイーターの音質を変更できるギミックを持つ。これを生かし、高音域が少し抑えられる「MILD」状態にするとオレンジドロップが効いてくるようにした。
ウーファー側は、パッシブ動作。
エンクロージャーの塗装
ついでに、エンクロージャーの塗装にも手を付けた。
せっかくならコンデンサーのケースと同じオレンジにしてしまおうと、意気揚々と作業を始めたのだけど、これが思いのほか手間がかかり、内部の改造よりも時間とお金を吸い取られる結果となってしまった。
塗装、難しいな。
音の変化
改修後の音は、上記掲載の動画内で比較できる。
音の変化としては、ウーファー側はほとんど変わらず。ツイーター側は、「NORMAL」ではよりHiFiに、「MILD」ではより高音を抑えるようになった。
それを踏まえたうえで、オレンジドロップを追加したMILD状態の周波数特性では、改造前のそれと比べて5kHzから上が-8dBくらい落ちる結果となった。
要するに、よりマイルドになったのである。
静電容量の規定値は改造前2.2μF、改修後で2.3μFと、ほぼ一緒。むしろ既存の電解コンデンサーは劣化して実容量が3μF以上になって大きく狂っていたことを鑑みれば、ツイーターに並列接続されたPPコンデンサーの影響は、たとえ0.1μFというパッシブネットワークとしてはかなり小さな容量でも、LPFとして、また"色付け"として効果が遺憾なく発揮されるといえそうだ。
一方、ウーファーのほうは、録音を聴き比べてみると、たしかに中音域のやや高めのほう、1kHzから2kHzあたりは雰囲気が変わっているのが感じ取れる。ただ、聴感ではそこまで変化は無いように思う。
もっと大音量で比較すれば違うのかもしれないけど。
(追記その2) ネットワーク基板の差異
上記の機体を手放して久しいころ、別の個体を入手したので同じように開封してみたところ、ディバイディングネットワークの構成が以前のものと少し違っているものだった。それをここに追記しておく。
この個体の基板には、フィルムコンデンサーの追加と抵抗器の換装が、明らかに後付けで行われている。
いったんはんだ付けしたものを取り外した形跡もある。なにか試行錯誤したのか?
基板のパターンも、以前のものとは異なる。こちらが初代の基板で、のちに再設計されたものが搭載されるようになったのだろう。ただ、なにかしらの管理番号と思しき数字が以前のものと変わらないのは謎だ。
フィルターの掛かりかた自体は同じ。ここで行っているのはパーツの交換、あるいは追加して、以前見た個体の定数に近づけているものだ。
理由は知る由もないけど、メーカーとしては開発当初の設計から再チューンを図りたかったらしい。
品質管理の観点からするとあまり良いことではないのかもしれないけど、すでに現物があがっているものに対して音の調整をどうにかして行おうとする姿勢は、個人的にはなんとなく嬉しく思う所作だ。まあ、それはそれとして、構成を変えるなら変えるでちゃんと直したものを載せてくれよ、とも思うけど。
終。
(以下資料)