いつか消える文章

本当は、ペンとノートを持ち歩くことにあこがれている。

SONY SS-M95HD をチューンアップする

ソニーのコンポスピーカー「SS-M95HD」を入手したので、整備した。

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ハイコンポスピーカー

このスピーカーは、ソニーが2000年代に発売したハードディスク搭載コンポ「NAS-M95HD」に付属したもの。
NAS-M95HDはシリーズのフラグシップモデルで、当時10万円以上の価格で発売された、「ハイコンポ」と呼ばれる製品。高級オーディオ志向を謳っている。
たしかに、ほかの機種はカジュアルな雰囲気の製品ばかりだけど、このコンポだけはシルバーと木目調のデザインでまとめられ、佇まいが異なる。
スピーカーについても、それ単品で発売されているような、「イイ音を出しそう」な見た目をしている。
エンクロージャーはMDFとパーティクルボードで組まれており、重量は一本当たり3.6kg強。内部では補強材も渡され、それなりに堅牢に作られている。

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SONY SS-M95HD
同じく高級コンポスピーカーだった「KENWOOD LS-VH7」と違い、落ち着いた意匠だ。
スピーカーターミナルも、金メッキのバナナプラグ対応ポスト。

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高価なだけある
これ自体はめずらしくはない仕様だけど、ソニーもこういう製品を作るんだな、という感想を持ってしまった。
ソニーの音楽関連の製品は、自分としてはオーディオというよりは"AV機器"であり、あまりこういったオーディオの権威に寄り添うようなモノを作る印象は無かった。そういう意味で新鮮である。
 

改修前の音

前面下部に横に広がったパスレフポートを備える。
ダクトは背面で上に曲がるL字構造になっており、「キレのあるパワフルな低音を再生」するらしい。

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最奥でさらに繊維板を立てて、ダクト長を稼いでいる
いつものように、ヤマハのAVレシーバー「RX-S602」に接続してみる。
想像通り、低音域に重きを置くスピーカーだ。ズンズン響かせて、音に説得力を持たせようとしている印象。キレがあるかはさておき、パワフルであるのは間違いない。
低音自体も、120mmコーンにしては結構下まで聴こえてくる。エンクロージャーの奥行きがそれなりにあるからか、軽量繊維質のコーンだからか。

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スマートに見えて、実は奥行きがある
反面、中高音は大人しい。聴こえないわけではなく、凹凸なくフラットに鳴っている。
これはおそらく、低能率が主因である気がする。平坦すぎて印象に残らない点を「大人しい」と感じている。アンプ側でボリュームを上げると多少張りが出てくるものの、併せて低音も盛況してきてワチャワチャしてしまう。
それと、このサイズのドーム型ツイーターなら、高音域がもう少し出ていてもいい気がする。
 

分解

中を覗いてみる。
ウーファー用の円形の前面ネットを留めるスタッドが、六角穴のネジになっている。対辺2.5mmのドライバーで回す。

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この構造、合理的で好み
すると、黒い樹脂製の化粧フレームとともにウーファーユニットを取り出せる。
このフレーム、ABS製でかつかなり華奢なので、そのうち経年劣化でネジ穴の周辺から割れてきそう。元に戻す際、ネジのトルクに気をつける必要がある。

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ユニットと固定を別にするか、せめて金属製にしてほしいところ
ウーファーのすぐ後ろに、ウール系の吸音材がある。バスレフダクトの上に敷かれるように、L字に折り畳まれている。
接着剤などは使われておらず、簡単に取り出せる。
ウーファーのフレームは金属製。プレスだけど、ここはそれなりにしっかりした造りだ。

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一般的なウーファーユニット
錆止め塗装は施されてないようなので、そのうち腐食してくるかもしれないけど。
 
コーンの黄色は、「アラミド繊維」というものらしい。
アラミドってなんだろうと思いインターネットにお伺いしてみると、ナイロンの一種らしい。
強靭かつ軽量ということでコーンの素材に採用されたようだけど、編んであるので、コーン自体が細かく凸凹しており、結構スケスケ。

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こんなんでも音が出るのだから不思議だ
ツイーターユニットは、六角穴のネジを外すだけで取り出せる。

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意匠が凝っている
ツイーターには、前面に専用の金属製ドーム型グリルネットが接着されている。これは基本脱着できない。ただ、グリルが変形している場合は、修正のために取り外すことも考えられる。

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剥き出しのコイル線を断線しないよう注意
ネットワーク基板を取り出そうとエンクロージャー内を覗くと、L字ダクトの開口部に詰められた吸音材が奇妙であることに気付く。
基板両サイドに見える白い化繊ウールは、一見ダクトを狭めるようにして接着されているようだけど、実はダクト内にU字型に詰められたものの上部が見えている状態なのだった。つまり、ポートを完全に塞いで半密閉状態であるわけだ。

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実は一本のウール材
おそらく意図的なのだろうけど、塞ぐくらいだったらL字型ダクトなんて止せばよかったんじゃないの? とも思ってしまう。
少なくとも、この部分が素通りとなっているメーカーホームページの説明図とは異なる。
 
スピーカーターミナルユニットの固定は、内部で筐体に接着剤。これは外部から見たときに何となく察しがついていた。
しかし、ネットワーク基板まで接着剤だとは想定していなかった。シリコンシーラントっぽいもので、スピーカーターミナルの真裏にくっつけていた。

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力尽くで剥がす
このくらいの小さな基板なら、背面上部に十分なスペースがあるのだからそちらにネジ留めすればいいのに、なぜわざわざこの形をとっているのだろう。施工的にはこちらのほうが簡便だからだろうか。
 
高級オーディオ志向が聞いて呆れる。
 
ネットワークは、ツイーターのHPFのみ。ウーファーはスルー。

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ネットワーク基板

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ネットワーク回路
-18dB/octで、だいたい8kHz以上の高周波数部のみをツイーターで補助するような感じ。
コンデンサーはいずれもBENNIC製の電解コンデンサー。コイルは空芯。
この程度の構成なら、基板を設けなくてもよさそう。
 
なお、一部のファストン端子はメスオスでサイズが合っておらず、接続が物理的にガタガタ。
 

整備

この時点でなんかもう、手を加えるのも億劫な感じになってしまったけど、ネットワークの整備だけしておくことにする。
 
ツイーターのフィルターを、18dB/octから12dB/octに変更。クロス周波数も少し下げる。優等生すぎる鳴りに、ちょっと箔を付けたいイメージ。

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ネットワーク回路(新規設計)
とはいえ性格の変化は極力抑えたいので、おそらく煩くなるであろうツイーター側はアッテネーターでバランス調整しておく。
本当はウーファー側もハイカットしてやるほうが周波数特性的にバランスがとりやすいのだけど、金欠なので高価なコイルを買いたくない。よって、今回は弄らず。0.15mHの空芯コイルを再利用しているのも同じ理由。
 
自分の改造では定番となっている、パンチングMDFボードにパーツを乗せていくやり方を今回も採用。筐体背面の上部にボードを配置する。
ただ、エンクロージャーの背面部のボードの厚みは1cm未満で、そのままセルフタップのネジでガッチリ留めようとすると先端部が背面に貫通しそうだったため、余ったMDFボードを適当に切り出し接着剤で貼り付けて、搭載部だけ厚みを増しておくことにする。

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基板をネジ留めしない理由がわかった
クロスオーバーネットワークのパーツ類は、何の変哲も無いものばかり。

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ネットワークに搭載するパーツ類
2.2μFのコンデンサーは、Panasonic製PETフィルムコンデンサーを採用。コイルは既存を流用する。
3.0Ωの抵抗は、手持ちに2.2Ωと1.0Ωのセメント抵抗器があったので、それらを直列接続することで代用。
 
今回初めて、エーモン製の平型端子を使用してみた。

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スリーブ付き
今まで使ってきた秋月電子通商で売られているものよりも少し軟質で、同じ要領でかしめるとときどき失敗する。といっても、amazonで売られているようなよくわからないメーカーの激安品よりはしっかりしているので、ケーブルが抜け落ちることはなさそう。

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端子台も余りもの
別のスピーカーに使用した2液ウレタンクリアが余ったので、急きょこのスピーカーに吹き付けることにした。

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ウレタンクリアの吹き方も、ある程度わかってきた
このエンクロージャー、もともと妙な「ビニール感」というか、ウレタンでもニスでもない独特のツヤと手触りがあって、ほとんど目立たない木目調とミスマッチな気がしていた。
ウレタンクリアも余りものなので、塗膜はかなり薄いけど、それっぽい平滑感は出たのではないか。
 
筐体内部の固定は、トラスネジ16mm。吸音材は、例のダクト部のものも含めて一切弄らないことにする。

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仮留めの様子
 

改修後の音

改修後の音色は、ほぼ意図した通りとなった。

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改修後の姿
相変わらず盛大に出てくる低音の中に、ちゃんと中高音も乗っかってくる。固定アッテネーターによる出力調整もちょうどよい感じ。キンキンつんざくこともない。
 
意外とすんなりまとまってしまった。ただ、所詮この程度の変化だ。
ウーファー側はそのままだし、バスレフポートも改善の余地はあるだろう。弄る気力はもうないけど。
 

まとめ

入手当初、ソニーフラグシップコンポスピーカーってどんなもんだろう、なんて思いもあった。しかし蓋を開けてみれば、ガワだけそれっぽく綺麗に作ってあるだけで、中身は急ごしらえの、バラックのようなそれだった。
言ってしまえば、体積大きくして重くしておけばいいだろう、みたいな印象。それで音が良ければいいのだけど、特別そういうわけでもない。
なんだかな。

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LS-VH7のほうがちゃんと作ってある
ソニーのオーディオに対する姿勢が垣間見える製品だった。
 
終。 
(以下資料)

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