ボースの「111AD」を入手したので音を出してみた。その所感。いわゆる「101系」との差異もなるべく示す。
101の後継機
久々にボーズの小型スピーカーが手元に届いた。「111AD」という品番のフルレンジ単発システム。
見たまま、かの有名な「101」シリーズの系譜である。
ボーズの101系は、ブログの記事にしていないだけで、以前にいくつか分解してみたことがある。よって、本機111ADは初めて手にするけど、新鮮味はない。101となにが違うのかを確認するために得たようなものだ。
今回はサラリと流していく。
外観
見た目や大きさは101シリーズにそっくりでも、仕様は大なり小なり異なっていることがうかがえる。
バスレフ
まずはやはり、フロントバスレフの形状だろう。一般的なストレートのダクトチューブから、やや潰れたホーンのような曲線的なものにリニューアルされている。
一見して、ポートノイズは減っていそうだ。
ドライバーの位置
ドライバーユニットは、若干下がった位置にある。ユニットを固定している3点のネジの位置が、不自然に傾いているのは、ダクトに干渉しないようにするためだろうか。
バッフルの面積は既存の101から変えずに、どうにかしてダクトの形状を大胆に変更しようとした、メーカーの苦肉の策ともいえそう。
前面保護
前面グリルの形状も異なる。かまぼこ型になって、やや深さが増している。ロゴエンブレムも大きくて目立つ。
このエンブレムがやたら回転する。そのため、グリルと擦れてグリル側の塗装が剥げてしまっている。
このスピーカーはフリーセッティングなので回転すること自体はいいのだけど、なにか違和感がある。
……これ、化繊のネットが無いな? 最後に整備したのがかなり前なので記憶が曖昧なのだけど、たしか101MMGみたいにグリルの上にジャージネットが被せられていたはず。それが無いということは、なんらかの理由で前オーナーが取っ払ってしまったのか?
ラベル
まあ、そこは新たに張ってやればいいかと、背面を見る。こちらは特に変わったところはない。標準ジャックが特徴的な、見慣れた構成だ。
……と思ったけれど、やはりなにか引っ掛かる。銘板のシール、こんなに明るい色だったっけ?
なんだか様子がおかしい。
異端種?
インターネットのにお伺いを立ててみる。オークションやECサイトなどの出品物を見るかぎり、銘板は黒地だ。そして、やっぱり記憶のとおり、グリルには黒いジャージネットが掛かっているのだった。
ただ、今手元にあるような、シルバー地の銘板とジャージネットの無い機体も、少数ながら存在することも確認できる。理由はわからないけど、あとから手を加えられたわけではなく、そういうモデルのようだ。
101シリーズに負けず劣らず息の長い製品だったので、どこかでマイナーチェンジしていることは十分にありうる。しかし、そのあたりの情報がいっさい見あたらない。気が向いたら調べてみるか。
整備前の音
音を聞いてみる。アンプはヤマハのAVレシーバー「RX-S602」。
妙に高音に寄っているな、という印象。101MMや「101VM」などとは質感が異なるのが意外だ。全体的に硬く、中音にクセがある感じ。
高音はややシャリシャリしていて、存在感はあるけどあまり綺麗な質ではない。
中音はそこそこ見通しが良い。でも特定の音域が強まるのか、少し不自然に聞こえる。
101系より低音がしっかり出てくるのかと思っていたけど、別にそんなことはない。むしろ控えめなくらいだ。
ボーズの101系はなんでもそつなく鳴らすイメージだったのだけど、111はオーラトーンの「5C」のような狭い帯域幅でこなすのが得意なのだろうか。バランスとしては、101系のほうが断然良い。
こんなもんか?
周波数特性を見ても、聴感と一致する。
低音域は一応バスレフが効いているものの、まだ101MMのほうが出ていた。
また、おそらくこの機種もイコライジング用のパッシブフィルターを噛ましているはずだけど、乱高下している稜線を見るにあまり効いていないような気もする。
あと、サイン波で40Hzから50Hzくらいまでを流すと、前面のポートから風切り音が盛大に出てくる。この形状なら小さく抑えられそうなものだけど、通常のダクトと大差ないのだった。
内部
見た目は似ていても、101系とは異なるチューンを施して差別化を図っているのだろうか。内部を見てみる。
ネジ
前面に見えているネジは、すべてプラスネジだ。ここは101系だと、バッフルを固定する6つは特殊ネジだったはず。
ダクト
ちょっとしたダクトのようにも見える孔は、ドライバーの周囲を囲うように走るバスレフダクトによる体裁だ。
前面バッフルの裏面に、ダクトを形成するためのパーツがネジ留めと接着剤で固定されているかたち。
筐体内部
白いものは吸音材。ドライバーのすぐ後ろにおもむろに置かれた、カサカサしたエステルウールが一枚。
それ以外は、101系と同じに見える。
ドライバーユニット
それなりの径のあるフェライトマグネットを背負った、11.5cmフルレンジドライバー。
フィルター回路
特定の周波数を削ぐとされるパッシブフィルターは、基板自体は101のものを流用しているものの、101系には無かったサーミスタが追加されている。
サーミスタはヒューズランプと並列に設けられている。大入力時の保護をさらに手厚くしたものと思われる。ただ、専用のホールが無く空いているホールを利用しているため、後付け感は否めない。
また、ヒューズランプはセメント抵抗に接着されているけど、熱を持つはずのものを直に接着していいものなのだろうか。
整備
エッジの軟化
ただし、今回はドライバーのエッジの軟化もしておきたい。
この、既存のエッジをしなやかにするための溶剤は、未だになにがいいのか決めあぐねている。あまり強いものを使うとエッジ自体が剥がれかねないから、ヘタに試すことができないのだ。剥がれて再接着するくらいなら、端からエッジ自体を別のものに張り替えてしまうほうが間違いないと思ってしまう。
今のところ使っているのは、シリコンオイルだ。溶剤として使うには溶解力がかなり弱いほうだと思う。
含侵させたら、余分なオイルを拭き取り、ロール部が崩れない程度に軽く揉んでおく。このくらいしかできない。
コーンが紙製のため、時間経過でオイルが徐々にコーン紙に染みていく。
見た目が悪くなることも、溶剤を塗布したくない理由のひとつだ。ただしこれは、あとから誤魔化せる。
コネクターユニットの換装
背面のコネクターユニットは、バナナプラグ対応のものに換装する。
コネクターユニットの背面に、通線用の孔を開ける。
また、既存のネジ穴は固定に使わない。3.2mmのビットで孔を広げて、内部まで貫通させてしまう。
コンデンサーの換装
ほかのスピーカーでもそうだけど、最近は電解コンデンサーをフィルムコンデンサーに置き換えることをしなくなってきている。特に理由がないかぎりは、整備後もオリジナルの特性ひいては音質からなるべく離したくないという心理が働くようになっている。
配線接続
ポストとの接続は、丸形端子とする。
コネクターユニットを固定したら、通線孔をパテと接着剤で埋めることを忘れずに。
吸音材の追加
ドライバーを元に戻す前に、ケーブルのタッチノイズを低減するための柔らかめのニードルフェルトを少量詰めておく。
前面グリルの補修
サランネットを新規に張ろうかと思っていたグリルネットは、樹脂製のフレームにしっかりと接着されており、剥がすのが面倒になったので傷の補修のみでお茶を濁すこととする。
グリルはつや消しブラックで塗装。エンブレムをグリルの形状に沿うように少しだけ弧を描くように曲げ、ガタつかないように接着する。
整備後の音
低音域の再生は、振動板が見るからにストロークするようになったわりには、量感の増加はそれほど感じられない。しかし音自体は下のほうまで伸びたようで、安定感を得られている。
また、中音の妙なクセも小さくなっているように感じる。これもやはりコーンとエッジの振動の変化が音に影響しているのだろう。
コンデンサーの静電容量の是正のためか、中高音の峰がなだらかになっている。これが本来の特性だと信じたい。
まとめ
個人的な好みからすれば、101MMや101VMのバランスのほうが耳に合っている。自分の環境では、特徴的なバスレフダクトもそれほど性能を発揮できていないこともある。
とはいえ、これは製造品質の違い、個体差の可能性もある。図らずも引き当てたこのめずらしいタイプの111ADが、偶然そういう音だっただけであり、一般的な評価とは殊のほか異なってしまったのかもしれない。
そのあたりは、整備を続けていれば追々理解できるところだろう。
終。