いつか消える文章

本当は、ペンとノートを持ち歩くことにあこがれている。

SOUND WARRIOR SW-S20 をチューンアップする

国産バンブースピーカー「SW-S20」が手に入った。中身を覗きつつ、音を調整してみた。その所感。

 

竹製エンクロージャ

つい先日整備した「SB-PS800」よりもさらに小型なマルチウェイスピーカーを手に入れた。城下工業のオーディオブランド「SOUND WARRIOR(サウンドウォーリア)」から登場した「SW-S20」という製品。

SOUND WARRIOR SW-S20
これまでサウンドウォーリアというブランドは知らなかったものの、城下工業については、はるか昔にどこかで耳にしたことがあるような気がする。どこで知ったんだろうと記憶を掘り返してみると、以前DTMに手を出していたころ、モニター用のヘッドホンを購入しようと選定するさいにその名前を認知したのだった。
だけど、結局そのときは別のメーカー、たしかオーディオテクニカの「ATH-SX1」にしたんじゃなかったかな。なんとも懐かしい。
そのあとはしばらくしてオーディオから離れてしまっているのでさっぱり。
 
ブランドが立ち上がってからはデスクトップオーディオも発表しているようで、このスピーカーも2005年ごろに発売している製品。

サウンドウォーリアの製品を所有するのは今回が初
真空管プリメインアンプとのセットの利用が想定されていたようだ。
 
後継機として「SW-S25」というものもあるようだけど、前面にグリルネットが設けられている以外で、スペックの数値上はSW-S20と同じもののように見える。
 

外観

まず目を引くのが、竹の集成材をエンクロージャーの板材に使用している点である。

節も見える
今でこそ中国製のスピーカーで採用されていることもある竹製筐体だけれど、当時日本のメーカーが自社製造で世に送り出すのはめずらしいように思う。
表層はクリア塗装で仕上げられており、木材や樹脂とは明らかに異なる、独特の硬質な触感がある。

維管束の断面が独特で、個人的にちょっと……
小型かつ角張った直方体の風貌は、ちょっと小洒落た弁当箱のように見えなくもない。しかし、前面バッフルを見ると、振動板周辺にホーン状にテーパー加工が施されていて、単なるハコではないことがわかる。

精密に削られていて、美しい

どうやって削っているんだろう
これはこれで独特の"味"があって嫌いではないけれど、これをわざわざ竹の集成材でする必要はどこにあるんだろうと思わなくもない。有機的な雰囲気があるので、高級感はある。
 
横幅12cm、高さ22cm程度の小さな面積に、ドライバーユニットが3基並んでいるのもユニーク。

寝かせてみる
20mmのソフトドームツイーターが一基と、50mm径のペーパーコーンウーファーが二基。ウーファーはおそらく同じ動きをするだろうから、2ウェイ3スピーカーとなる。

ツイーター正面

ウーファー正面
バッフルの面積に対してウーファー径がやや小さめ。筐体をスリムにしたかったというのも理由としてあるだろうけど、あえて小径のものを採用してふたつ並べることで振動板の面積を稼ぐ意図なのかもしれない。

ちなみに、ウーファー部の孔の開口は直径約5.5cm
背面にはバスレフダクトとコネクターユニットがある。背面までしっかりと竹材が使われているようだ。

側面と背面
バックパネルが開閉できるようになっている。パネルは4点のネジで固定されている。
ネクターユニットはスナップインタイプ。バスレフダクトは紙製のようだ。

ちゃんと素材にこだわっているのは嬉しい
 

改修前の音

音を聴いてみる。
アンプはヤマハのAVレシーバー「RX-S602」。パソコンからの出力を「DIRECT」設定で再生。
高音が喧しい。ここまで高音に寄った感じは、オーディオテクニカの「AT-SP50」以来だ。
ウーファーと比較して、ツイーターからの出音がやたら大きい。また、おそらくふたつのウーファーはフルレンジ動作だろう。これらの相乗効果で聴き疲れするのだろうと思う。
 
また、低音域が全然聴こえてこない。スカスカである。高音が目立つぶん、余計にチープに聴こえる。
背面のバスレフがほとんど機能していないようである。中音域ばかりが飛び出してきて、肝心の低音は不自然なほどに鳴っていない。
これについてはどうしてなのかよくわからない。たしかにドライバーの振動板はあまりストロークしないタイプのようだけど、それにしたってもう少し聞こえてきてもいいはず。それとも、逆に低音がバンバン出てくるパナソニックの「SB-PS800」の音に、耳が慣れてしまっているのか?
 
長時間聴いているのはつらいものがあるので、ほどほどのところでアンプから切り離す。そのため、クリアで硬質な音であること以外は、オリジナルの音に関してあまり感想がない。
 
周波数特性を見てみる。

周波数特性
およそ聴感のとおりである。
低音は、密閉型エンクロージャーのような波形をしている。80Hz付近を増幅しているように見えなくもないけれど、勘違いのようにも思う。インピーダンス特性を見てみると、密閉型スピーカーのそれに見える。
そして、経験上、自分の耳は11kHz前後が他の帯域よりも持ち上がっているとたいてい不快に感じるのだけど、今回もまさにこの周波数特性が示すとおりの結果だったようだ。これについては最優先で是正したいところ。
 
さて、不思議なのは、なぜこのようなチューンなのか、である。先述した真空管プリメインアンプの特性に合わせたものなのだろうか。そうだとしても、このスピーカーは単品販売もされていたことを鑑みると、腑に落ちないところではある。
 

分解

リチューンが決定したところで、内部を見ていく。
 

バックパネル

背面からアクセスする以外に正規の方法はないだろう。

木ネジ

ネクターユニットの裏には、ケーブル以外なにも無い
バックパネルの木ネジ4つを外すと、パネルは簡単に外れる。パネルの裏には、フィルター用のパーツを背負ったラグ板と、90度に折れているバスレフダクトが付いている。

これを見た瞬間、ああなるほど、と思った
狭い筐体内でダクト長を稼ぐために角度をつけてダクトを接続して延伸させる方法は、以前別のスピーカーでも見たことがあるし、わざわざカーブさせた樹脂製ダクトの既製品があるくらいなので、驚くことではない。ただ、このスピーカーの場合、ダクトの断面積が途中で変わることが影響して共鳴できていないのだろう。この直角に折れ曲がったダクトかつドライバー2基を使用した場合の共振周波数をどのように設定しているのかわからないけれど、それが低音不足の原因だと推測する。
 

ネットワーク回路

ウーファーは、予想のとおりフィルターレスのフルレンジ動作。バックパネルにあるフィルターは、ツイーター用のHPFだ。

フィルター回路

ネットワーク回路図
コンデンサーはパナソニック製のメタライズドポリエステルフィルムコンデンサー。小指の先程度しかない小型のコアコイルをパッシブスピーカーに使っているのは初めて見たけど、それ以外はごく一般的な-12dB/octの構成。能率の調整もここでは行われていない。
ウーファーは二基直列。
 

エンクロージャ

筐体側。ウーファーユニットの固定方法が、やや独特であることが見て取れる。

俯瞰
エンクロージャーの素材として使われている竹集成材の厚みは、すべての面で15mm弱ある。体積からすると厚めではあるけど、この選択は音質面からではなく、必要となる強度や集成材の規格との兼ね合いで決まるのかもしれない。
 
ツイーターユニットは二本のネジとスペーサーで留まっている。対してウーファーのほうは、二枚の金属製のプレートで前面バッフルに抑えつけられる形で固定されている。

ウーファー固定用の金属プレート
ツイーターのように板材に直にネジ留めせずこのような措置を採っているのは、おそらく孔のキワにネジをとおすとそこから割れる可能性があることと、前面がホーン形に削り取られており板材の厚みを十分に確保できないためだろう。

ここを接着剤に逃げなかったのはエライ
金属プレートは、一枚あたり3点のタッピングネジでバッフルに固定している。
各ドライバーユニットとバッフル面にはパッキンが挟まっており、やや固着しているため、振動板を傷つけないよう慎重に、剥がすようにしてユニットを外す。
 
吸音材は、天面側にグラスウールのシートがあるのみ。

今時裸のグラスウールもめずらしい
 

ドライバーユニット

ドライバーユニットは、「Toptone」の印字があるとおり、すべて東京コーン紙製作所製。
ツイーターはダブルフェライトマグネット。

ツイーター。FH19D01-1
ツイーターは不明だけど、ウーファーは後継品と思しきユニットが現在のラインナップにある。やはりフルレンジドライバーらしい。

ウーファー。S50U33-1
紙製コーンにラバーエッジ。磁気回路はおそらくネオジウムマグネットが使われていて、ちっちゃい。外観ではこちらのほうがツイーターに見える。

スペックを見るかぎり、凡庸で扱いやすい性能のようだ
 
ちなみに、ケーブルの接続はすべてはんだ付けで行われている。
 

整備

今回の整備では主にバスレフダクトとディバイディングネットワークの調整により、とりあえず長時間聴いてられる音にすることを目標とする。
 
本当は、既存よりもさらに低音域を再生できるスピーカードライバーに換装してしまいたいところなのだけど、例によって金欠につき、今回は見送る。なんせ、ペアで計4つ用意しなければならないからだ。中古品を探そうにも、そもそもこのサイズのドライバー自体が少なく、いつ入手できるかわからない。
もしも換装するならば、候補としてTangbandのフルレンジドライバー「W2-1803S」、あるいはさらに安価なFountekの「FR58C」あたりが良さそう。寸法はもちろん、フランジの形状もオリジナルと同形で、エンクロージャー側の加工が最低限で済みそうだからだ。
 

ダクト長の調整

というわけで、今回はドライバー類はいっさい弄らずお茶を濁すこととする。
これから行おうとするバスレフダクトの調整は、先述のようなドライバーに交換する場合は不要である可能性に留意する。
 
紙製のバスレフダクトを短くする。くの字に折れるように接続されている部分にカッターナイフで切りつけて、分離を試みる。

キリキリ
ただ、ここは接着剤がしっかり塗られていて、切込みを入れるにも時間がかかる。早々に適当なノコギリに持ち替えて、切断する。

バッサリ
斜めの切り口はこのままとする。これでダクト長は5分の三程度となる。正確には計算できないけど、エンクロージャーの内容積を2リットルとした場合、共振周波数はだいたい100Hzあたりになっているはずだ。
あとはドライバーとの相性で、音をどの程度まで増幅してくれるか……。
 
ダクトには制振用にラバーフォームシートを巻きつけておく。ロール状のシートを適当に切り出し、両面テープと接着剤を併用して貼る。

仮止め用の結束バンドだったけど、そのまま付けていてもいいな
シートは外周に巻いたけれど、これはこれとして、ダクト内部にも同じように貼って、ダクト径の縮小と中音の抑制を行ってもよかったかもしれない。整備後の音を聞いてみて判断。
 

ネットワークの修正

低音の次は高音の調整。ディバイディングネットワーク回路を少し弄る。
出過ぎるツイーターの出音をなだめるため、既存のHF回路にアッテネーターを新設する。併せて、LF回路にはフィルターを追加して、フルレンジ動作のウーファーの高音域をある程度抑制させる。
調整後の回路は下図のとおり。

ネットワーク回路(改修後)
ウーファーは-12dB/octを高めの位置に掛ける。高音はツイーターが頑張ってくれているので、そちらに任せて大人しくしておいてもらう。

現行機種(S50U33-3)の特性
いっぽうのツイーター側は、オーソドックスな減衰器を組んで能率調整をする。ここの定数はカンで決めている。
また、ツイーターの位相接続を反転しているのは、先に見た現況の周波数特性の波形から判断している。自分の整備では通常、位相接続の決定は最終段で、実際に音を聞いて違和感の無い組み合わせを見つける方法を採っているけど、波形を見て明らかにおかしい場合は今回のように決め打ちすることもある。一応、組み上げたあとからでも容易に反転できるような構造に仕上げられることが前提としてあるけれど。
 
既存のHPFはラグ板ごと流用する。そのほかのものは手持ちの在庫から。

コアコイルはほぐして規定のインダクタンスにしている
パーツを乗せるベースとなるMDFは9mm厚のもので、やや厚めのものを用意している。これは、ラグ板を立てるためのタッピングネジの捻じ込みの深さがある程度欲しいため。そのほかの選定については、特段の拘りはない。
 
結線はオリジナルと同じようにはんだで行う。

着脱機構を用意しようとも思ったけど、面倒になって止めた
よって、すべてのパーツを結線し終えてから筐体内に収めることになる。扱いが煩雑になりがちなので、ツイーターのソフトドームやウーファーのセンターキャップなどを誤って潰さないよう注意を払いながら作業する。
 
新たなネットワーク回路の固定位置は、筐体の底部になる。スペースが限られているので、消去法でこの位置にならざるを得ない。

固定は接着剤
 

気密性の向上

着脱可能なバックパネルは、エンクロージャー側との接触面にはなぜか四隅に小さなラバー製のパッチが貼られているだけで、その厚みのぶん隙間ができて、筐体内部の空気が抜けてしまう。これが低音不足に拍車をかけているとまでは言わないものの、不利である。
そこで、エンクロージャーの気密性を上げる試みをする。
 
厚み0.5mmのNRゴムロールに両面テープを貼って、適当な幅で細く切り出したものを筐体側にグルリと貼っていく。

ネジ穴の部分は"逃げ"が必要で若干手間
スピーカーユニットやコネクターユニットはフォームシートを挟んでキッチリ密着させているのに、なんでバックパネルだけスカスカなんだろう。不思議。
 

ネクターユニットの交換

バックパネルに付いているコネクターユニットは、バナナプラグに対応させたいので換装する。
埋込ボックス型の円形の汎用パーツが、ほぼ未加工でそのまま取り付けられる。フランジ部に挟むフォームシートのパッキンも、オリジナルを流用できる。
ただし、既存のネジを流用せず別途用意する場合は、パネル側に下穴を適切に設ける必要がある。そのまま捻じこむと、竹の特性上、繊維方向に割れやすいためだ。
 
個人的なトレンドとして、ディバイディングネットワークに渡るケーブルの接続は、ポストに付属の平形端子用のタブを使わず、ケーブルに圧着した丸形端子をポストのシャフトにナットで固定する方法としている。
ひとつのシャフトに複数のケーブルをまとめて固定するケースで便利であるほか、タブに平形端子のメスを嵌めるのが苦手なので、その代替方法として重宝している。

この写真では無いけれど、ワッシャーもちゃんと挟んでいる
 

改修後の音

さて、ここまで組み上げて、音を聴いてみる。

整備後の姿
備前はあまり気にならなかったけれど、能率が低めだ。公称値よりもだいぶ下に聞こえる。アンプのボリュームを上げてやる必要があるのだけど、整備前は盛大な高音のせいで、それが適わなかったのかもしれない。
 
低音はマシになったものの、ようやく最低限聞こえてくるようになったな、といった感じ。あとは壁面に極力近づけて配置することで増幅を図るなど、環境の調整でなんとかするしかないように思う。
やはりここは、ドライバーを別種に換装しない限り、根本的な改善には至らない気がする。
 
高音域は、目論見どおり抑えらえている。長時間聴いていても聴き疲れすることはなくなったけど、個人的にはさらにもう少し丸めてもいい気もする。
ウーファー回路に新設の0.3mHのコイルは、0.4mHくらいでもいいのかもしれない。

周波数特性(改修後)

改修前後の周波数特性比較

インピーダンス特性(改修後)
低音は、調整したバスレフダクトの影響でちょこっとだけ持ち上がっている。これだけでも聴感上はけっこう変わっている。
高音については、意図したとおりの特性が出ていて、なにも言うことがない。
中音にあったディップは、位相接続の変更により消えてくれたようだ。
 
さて、整備後の音の印象。
音場感は横方向はやや広めであるものの、それ以外は凡庸。奥行き方向はほとんど感じず、表面的。といっても昔のスピーカーのような"どん詰まり感"はなく、それなりに抜けていくので、このあたりはプログラムとの相性しだいだろう。
音自体はクリアで、ひずみ感が無い。硬めだけど分解力が高いというわけではなく、どちらかというと音の塊を投げてくるようなスポーティな鳴りかた。サイズなりであり、サテライトスピーカー向き。
 

まとめ

このスピーカーは、「竹を使うこと」と「この体積で収めること」を最優先として作られている印象を受けた。音質面では端的に調整不足と受け取られかねないものであったし、構造についてもほかのオーディオメーカーと比較すれば詰めが甘い。せっかくスクリューレスのスマートな外面なのに、音質が伴わないのはもったいないことこの上ない。

整備後の背面
デスクトップオーディオとしての体裁を保つために筐体の体積を変更せずに改善するとすれば、ウーファーはバッフル中心部一基にして面積の許す限りサイズアップ、下部にはバスレフポートを設けてフロントバスレフにしてみたいところ。

良い音で聴きたいよな
 
終。