当時の日本ビクターから発売された木製振動板搭載スピーカー「SP-EXA5」が手に入ったので、音を聴いてみたり少し整備してみたりした。その所感。
素性
このSP-EXA5は、DVDオーディオコンポ「EX-A5」のスピーカー部となる。2004年発売ということで、ホームユースのウッドコーンスピーカーとしては比較的初期の製品。
高域方向の再生周波数が大幅に伸長されたDVDオーディオの規格に対応する、ウーファー+ツイーターの2ウェイ2スピーカーシステム。ただし、このツイーターのドーム型振動板も木製となっており、これが世界で初めて量産化に成功した「ウッドドームツイーター」なのだという。
なんでそんな画期的なドライバーユニットを搭載したスピーカーがコンポ付属品なんだ……と思ったら、同時期に単品システムとしても発売されたようだ。
型番は「SX-WD5」。外観、搭載ユニットともにSP-EXA5とよく似ているけど、定格性能の数値は微妙に異なっている。両者はまったく同じものというわけではないのかもしれない。
SP-EXA5は、SX-WD5をEX-A5のレシーバー再生用にチューンしたものと予想する。今後、SX-WD5を入手できることがあったら比較してみたい。
外観
ウッドコーンスピーカー自体は、じつは以前「EX-HR5」という製品を使用していた時期があり、質感や音はある程度知っている。
ただ、木製ツイーターと相まみえるのは今回が初めて。
2cmドーム型ツイーター。リアルウッドということならば、一応ハードドームの部類になるのだろうか。上塗りされているのか、表面は光沢がある。
前面にある透明の樹脂はディフューザー。
周辺のプレートは、ドーム周りのディフューザーが取り付けられている部分は樹脂製で、それ以外のフランジ部は金属製。
振動板の見た目以外は、いたって普通のツイータードライバーユニット。とはいえ、どんな音が出るのか、期待が高まる。
フルレンジユニットの1ウェイ1スピーカーだと径は8.5cmや9cmだけど、こちらは11cm。ウーファー動作用としてある程度低域を確保するため、大きめのものとしているのだろう。
エッジはしなやかなラバー製。センターキャップも木製なのが良い。ウッドドームツイーターは、このキャップの発展なのだろうか。
木材は樺だという振動板は、ツイーターと同じような色合いをしている。おそらく同一色になるよう染色しているのだろう。
そして、表面はやはりなにか塗られているような風合いで、思いのほかツヤツヤしている。
エンクロージャーは、チェリー材を使用したという贅沢なもの。
ただし、「天然無垢」と謳っているものの、その点はあまり惹かれない。以前、同じくチェリー材を筐体に使用しているという「SP-FS1」を整備したさいに、"無垢材"がなにを指しているのか判断がつかなかったからだ。
とはいえ、七分つや程度の上質な仕上げとどこかクラシカルな佇まいは、所有欲を満たしてくれるのは間違いない。
背面にはコネクターユニットとバスレフポートがある。
コネクターのバインディングポストはバナナプラグが挿さる汎用的なもの。だたし、ベースのボックス型の樹脂製ユニットは「半埋込」とでも呼ぶべきもので、ポストがエンクロージャーの背面に垂直に近い形で固定され、やや出っ張り気味になっている。
バスレフポートは、開口部にフェルト製のリングが貼られてノイズ対策としている。ダクトは紙製。
改修前の音
音を聴いてみる。
アンプは、ヤマハのAVレシーバー「RX-S602」。インシュレーターは、とりあえず黒檀サイコロ三点支持とする。
特筆すべきは、中音から中高音までの濃密で有機的な響きだろう。音の余韻とメリハリが自然で、楽しく聞かせてくる。
音場感は、横方向奥行き方向ともに平均的。再生周波数的なレンジ感はやや狭い。といっても、あまりワイドレンジを期待して導入するスピーカーでもない気がする。
たまにガヤガヤすることもあるけど、いろんな音が整然と鳴っているのが聞いてとれる。意外と解析的なところがある。
なにを鳴らしても尖る部分が無くまったりと往なすような鳴りかたで、それでいてダイナミクスも備える。
ただし、低音域は思いのほか聴こえてこない。聴こえないというか「出ていない」が近いかもしれない。鳴っている雰囲気が無い。木製振動板の質量が径に対して重すぎるのか? アンプとの相性か?
これだと個人的に、この2ウェイはツイーターとミッドレンジに割り当てて、さらに大径のウーファーを加えたくなってくる。そこまでしなくても、それ以外の帯域が素晴らしいのに、バッサリ切られたような低音域だけが妙に不自然である。
周波数特性を見てみる。
稜線を見ると、やや右肩下がりのフラット。聴感では1kHzから4kHzまではもう少し出ている印象がある。
低音は、200Hz以下が下がっていくのは予想通りではあるのだけど、このグラフを見るかぎり、マイクの収音上は低音域もそれなりに出ていることになっている。聴感では150Hz付近から下は崖になっている印象だったのだけど。
低音は、200Hz以下が下がっていくのは予想通りではあるのだけど、このグラフを見るかぎり、マイクの収音上は低音域もそれなりに出ていることになっている。聴感では150Hz付近から下は崖になっている印象だったのだけど。
分解
なんかもったいないな、と思いながら中身を見ていく。
見えているネジを外していく。ただ、ウーファーもツイーターも、バッフルとの接合面のパッキンが少し糊状になっていて、ネジをすべて取り払ってもいずれのユニットも外れることがない。
仕方がないので、背面のコネクターユニットを外した孔に木の棒を突っこみ、ツイーターのマグネットを突き出すようにしてバッフルから分離する。
ツイーターは、ダブルフェライトマグネット仕様。
金属製のフランジで重量があるものの、やはり一般的な仕様。
これ以上の分解はディフューザーのある部分を取り外す必要があるっぽいけど、ヘンに傷をつけたくないので実施しない。
ウーファーのほうもアルミダイキャスト製フレームに組まれた堅牢なもの。
コンポ用スピーカーといっても10万円以上の高価格帯の商品だし、さすがにそれなりの物量を投入しているとみえる。
フレーム内を覗くと、おそらく未着色の状態であると思われる木製振動板の色味を見ることができる。
また、ラバー製エッジとは別に、振動板外周部にファブリックテープのようなものが貼られているのも判る。
筐体のほうを見ていく。
まず目を引くのが、妙な方向にあるバスレフダクトだろう。ダクトの一端を斜めに切り落としたものを二本用意し、その断面どうしを接合している。
おそらくダクトの全長を稼ぐため、すなわち共振周波数を下げたいがための措置だろう。メーカーはなんらかの意図があって、直管一本では間に合わない程度にある特定の音域を増幅したかったのだろうと推測する。
理屈はわかるけど、なかなか無茶なことをしている。しかしそれにしても、そこまでしているにも関わらず、聴感の低音は伴っていない感じなのはなぜなのか。
ちなみに、ダクトのすぐ下、底面部には1cm強のパーティクルボードの切れ端を貼りつけてある。
吸音材は、フェルトとウールの二種類。ウールはエステルウールではなく天然のウールのような手触りの良いもの。
フェルトは厚み1cm程度で、底部のパーティクルボードの上にダクトを挟むようにして分割された2枚と、正面向かって左側面に一枚配置されている。
ウールは正面向かって右側面に貼られている。ただこのウール、背面側も余裕で覆えるほどの大きなシートで、かつ固定は側面の一部分に接着されているのみで、かなり"遊び"がある。
そのため、固定されていない背面のウールは前面側に垂れ下がり、件のバスレフダクトにもたれかかるような状況になっている。
背面にはフィルター回路一式があるために接着できなかったのか。それとも意図的なものなのか。いずれにしても、ビラビラしているウールがバスレフダクトの開口部に掛かるような状態なのはやはりみっともないので、ここはなんとかしておきたい。
背面側には、コネクターユニットの下部にディバイディングネットワークが固定されている。それを、ロングシャフトのプラスドライバーで取り出す。
PCBではなく、繊維板上に並べた各パーツ類をはんだで繋ぐ方法。このネットワークの施工の雰囲気は、お気に入りのスピーカーのひとつVictor「SX-300」のそれとよく似ている。
12dB/octを基本とするシンプルな構成。
ただ、使われている電解コンデンサーのケースがやたら大きい点が、2000年代のスピーカーらしからぬ異質さを醸している。いずれもELNA製で、HF側は「LZ」シリーズ、LF側は「SILMIC」があてがわれている。特にSILMICは並のポリプロピレンフィルムコンデンサーをしのぐ大きさで、自分は新規に入手したことはないけれどかなり高価な代物だったとどこかで見たことがある。
それをツイーター直列ではなく、ウーファー並列に使用しているところも、音質的な意図があるような気がしてならない。
コイルは、LFがコアコイルで、HFが空芯コイル。0.47mHの空芯コイルは導線が極細で、形がややゆがんでいるのが気になるけど、性能的には問題ないようだ。
整備
当初、整備は吸音材の調整だけ済ませる程度にしておこうかと思っていたのだけど、コンデンサーの静電容量がすべて狂っていることがわかったので、せっかくの貴重な高級コンデンサーだけど交換してしまうことにする。
しかしそうなると、はんだ付けした上から接着剤を被せている状態のオリジナルをそのまま改修するのは難儀。コイル類は再利用することも考えたけど、結局面倒くさくなって、すべて一から作り直してしまうことにする。
ディバイディングネットワーク
ベースとなるのは5.5mm厚のMDF。これを、オリジナルと同じ大きさに切り出す。これを固定するネジは、既存のタッピングネジを再利用する。
オリジナルの繊維板は厚みが約9mmであり、用意したMDFをそのまま取り付けるとネジが背面まで貫通してしまうおそれがある。その対策として、固定するさいに3mmのスペーサーをネジ孔部に接着する。
別件で秋葉原に用事があったので、ついでに電子パーツショップをハシゴして必要なものを入手。新しいパーツ類もオリジナルに近いものになるよう意識してチョイスしてみる。
コイルは、コイズミ無線で入手。
両極性電解コンデンサーは、千石電商で入手したParcAudio製。ただし、2.7μFというものは存在しないので、2.2μFに0.47μFを合成させることにする。0.47μFは手持ちのパナソニック製メタライズドポリエステルフィルムコンデンサー「ECQE」。
抵抗器も千石電商で売られている酸化金属皮膜抵抗。
これらを切り出したMDFの上にバランスよく並べられるよう位置決めをし、結束バンドで固定するために必要な孔をMDFに開ける。
ケーブルは、最近よく使用するJVCKENWOOD製のOFCスピーカーケーブル。配線はすべてこれにしてしまう。
結線はできるだけ裸スリーブによる圧着とする。全部はんだ付けでもいいのだけど、使用頻度の低いラチェット式圧着工具の扱いに慣れたいので、あえて圧着としている。
結束バンドでパーツを固定したら、先に挙げたスペーサーを瞬間接着剤でくっつける。
あとはパーツ類にもゴム系の接着剤を塗して、硬化のためしばらく放置する。
吸音材
件のウール製吸音材の処遇だけど、いくつか案を考えた末、シンプルに天面に移設することに決定。
固定されていない背面側の余ったウールを切り取り、それを現況なにも付いていない天面側に接着する。
取り払われた背面側はなにも無いことになるけど、もともとウーファーの真後ろに吸音材があるのは好みではないので、これで不都合が出なければ良しとする。
バインディングポスト
コネクターユニットは分解して、ポスト部を酸性洗剤に軽く浸して研磨する。もともとそこまで汚れていないので、さっと流す程度。
改修後の音
整備を終えたあとの音を聴いてみると、低音が明らかに聴こえてくるようになっている。
質感はウーファー径並みだけど、量感はまるで別物かと思うほどに増えている。
整備前の印象はなんだったのだろうか。スピーカー背面と壁との距離が整備前後で異なるのかとも思い、数センチずつスピーカー本体を前後させてみたりもしたけど、あまり関係なさそう。ということは、吸音材の配置換えが想定を上回って効いたのか?
周波数特性上は、整備後も変わっていない。大げさな改修をしていないので当然ではある。
2kHz付近にみられるディップの位置が微妙に変化しているのは、おそらくコンデンサーの容量が是正されたからだろう。
こうしてみると、まあ、たしかに70Hzから110Hzにかけて差異があるといえばある。ただ、これだけでは聴感ほどの差があるようには見えない。
うーん。
ネットワーク回路の影響はあまり受けない音域のはずだし、とするとやはり吸音材の位置がカギだったのか。
まとめ
この記事を作成している時点で、このスピーカーは手元から離れ新天地で活躍しているはずなので、これ以上の検証ができない。あまりスッキリしないけど、良い方向に変化してくれたのは良かった。
聴感と数値との齟齬がここまでハッキリと現れたスピーカーは、これが初めてかもしれない。こういうこともあるのか。
ウッドコーンスピーカーは以前所有していて悪いものではないことは知っていたけど、今回入手したものもなかなかツヤっぽい音を出してくれて聴き心地が良い。無理やりワイドレンジに持っていくよりも、鳴らせる範囲の音をしっとりと楽しく聴かせてくれるスピーカーのほうが好みなんだなと改めて思う。
終。