オーラトーンの「5C」が手に入った。鳴動するもののエンクロージャーが劣化していたので、同じようなものを新たに拵えてドライバーを載せかえることにした。その所感。
※ この記事は、前後編の前編にあたるものです。
Super-Sound-Cube
その存在だけ知っていて、されどあまり心惹かれなかったスピーカーが、オーラトーンの「5C」というキューブ型スピーカーだ。
それまでは、なにやら有名なモノらいしけど、今となっては古すぎるし、正直「ミニスピーカー」の類に音質を期待しないところがあった。しかし、最近オーレックスの「SS-S1W」の音を聞いてその考えを改め、中古流通品のなかから比較的状態の良さそうなものを狙ってみることにしたところ、このたびオークションで落札できた。
アメリカ発の小型モニタースピーカーとして、1970年代の音響の現場で普及したもの。事前の知識としてはその程度しか持っていない。あとは、以前古いオーディオ雑誌を開いていたときに名前を見かけて、70年代末あたりのミニスピーカーブームの火付け役を担ったことを知ったくらいか。
骨董品だと思っていたスピーカーだけど、インターネットによるところ、近年復刻版が発売されていて、ブランド名も製品名もそのままに現代によみがえっていた。
現代機らしく、アンプ内蔵のアクティブスピーカーも開発されている。へー。
ただ、当時のオーラトーンは5C以外にもスピーカーシステムを展開していたようだけど、復活したのは5Cのみとなっている。そのことからも、5Cはよほど特別視されていたものと見える。
そのあたりの事情をまったく知らない自分にとっては、ただ感興の赴くがままにアンプに繋げて聞くのみだ。
外観
初代モデルは1970年代のもので、以降細かくリニューアルされているらしく、流通しているものを眺めていると同じサイコロ型でもデザインにいくつかパターンが見受けられる。今回手に入れたものは、おそらく1980年代初頭ごろのものにあたるようだ。
手製のネット
古いスピーカーゆえ、前所有者はどの程度いたのか知る由もないけど、大切にされてきたことは外観からなんとなくわかる。元は専用のフォームが前面の保護用として付属していたけれど、おそらく経年で朽ちてしまったのだろう。その代わりに面ファスナーで固定する前面ネットを手製しているのが、一例だ。
軟化処理(?)
また、クロス製のエッジはなにかが塗られていて、軟化処理を施したように見える。40年経過しているとは思えないほど、しなやかな状態を保っている。振動板も破れがないどころか、シミひとつ見あたらない。
エンクロージャー
対して、エンクロージャーのほうはけっこうくたびれている。
板材はMDFのようだ。吸湿した影響か所々膨れており、前面バッフルに至っては、平面な部分が無いほどにデコボコになっている。
前面のバッフルを縁取るように、ゴールド色の樹脂製のフレームが取り付けられている。これも角部はほぼ割れており、フレーム自体が外れかかっている部分もある。
どちらかというとドライバーユニットのメンテナンスを覚悟して手に入れたので、この現状はちょっと想定外。
見てきたとおり、仕上げは六面すべて木目調のPVCシート。ただし、前背面の2面とそれ以外の4面はシートの模様が微妙に異なる。
化粧板を正方形に加工した前背面の2面に対し、キャビネット部の4面は素のMDFで筐体を組んだあとからシートをグルリと張ったものと推測する。
背面には、銘板のシールとコネクターがあるのみ。
バインディングポストは小型ながらバナナプラグが挿さるのが便利。
音
現代ではパッシブスピーカーの5C用のアンプが用意されているようだけど、当然そんなものは手元に無いので、いつものとおりヤマハのAVレシーバー「RX-S602」に繋いで音を聞いてみる。
一聴では、こんなもんかな、という感じ。中音に寄り気味、というか、低音がバッサリ落とされている。高音は意外と丸く、若干キリキリするところがあるものの、自然に添えられている。
ナローレンジではあっても、ラジカセのようなどん詰まりの音ではなく、適度にドライ、適度に寒色、中音を過不及なく鳴らしている。モニタースピーカーなのでもっとソースに切りこんでくるのかなと思っていたけど、その傾向はあれど意外と落ち着いている印象。
可もなく不可もなくだな、小径フルレンジ1基として平々凡々なんだな、などと思いながら眺めていると、スピーカーの真正面に顔を持っていったとき、ハッとさせられる。能率感とはまた違うエネルギー。ものすごい実在感を伴って音が飛びこんでくるのだった。
鮮烈とも言える明瞭な音が、散らばることなくひとまとまりになって、目の前に具現している感じ。それが耳ないし頭の中にカチっと収まる感覚。
どうも、それまではリスニングポイントが悪かったらしい。
ある程度の指向性があるようで、ニアフィールドで2chだとむしろ位置決めが難しいのかもしれない。しかし、それがハマったとき、鼓膜を圧覚させるかのごとき音数と明瞭感で鳴っていることを窺知するわけである。
鳴らしやすさという意味での能率は平均的で、パース感も並み。レンジも狭い。しかし、圧倒的な音数とそれをまとめ上げる力が格外。なるほど、こりゃ評判になるわ、といった感想だ。
マイクの収音は、軸上50cmの位置で実施。
高音域の自然な減衰は、小径フルレンジ1基のスピーカーとしては特筆すべきところ。フィルター回路を噛ませて均しているような綺麗な特性だ。
周波数測定時、片方のスピーカーからたまにガサガサとノイズが出てくるようになった。どうも低音域の再生のさいに出やすいようだ。
なんとなく、はんだ接合部にクラックができたときの音に似ている。スピーカー内部にPCBは無いだろうから、ドライバーかコネクターのケーブル接続にはんだが使われているのか?
また、低音や低めの中音の聴感に、左右で若干の差異がある。ある程度の大音量で鳴らすと、片方は微小ながらどこかがビビっているような雰囲気がある。
これは個体差か、経年劣化か、やはりケーブルの接続の不良なのか、起因はよくわからない。まあ、実務上はほぼ不必要になる音域だろうし、無視すればいいといえばいいか。
内部
ドライバーユニットの固定方法
筐体内部を覗くといっても、内部のアクセスは前面のドライバーユニットを取り外すよりほかない。しかし、ネジの頭に被せるカバーだろうと思っていた黒いそれを千切ってみたところ、ネジはどこにも見あたらないのだった。
どうも様子がおかしいとフランジを眺めていると、先ほど取り除いた柔らかい樹脂っぽいものが少しはみ出ているのを確認する。
このドライバーユニットは、どうやら接着剤かコーキング材のようなものによってバッフルに固定されているらしい。カバーだと思っていた黒いものは、その充填された何某がフランジの孔から浮き出るように盛り上がったものだった。
無理やり剥がす
なんで接着なんだ、気密性を重視していたのか? などと怪訝な面持ちで、されどドライバーユニットは綺麗だから傷つけたくないし、ここからいったいどうやって取り外せばいいんだ、となる。
「表がダメなら裏から押し出しちゃえばいいじゃない」
ということで、背面に孔を開け、そこに棒を突っこんで前面に押し出すことにする。
フランジの外周にシンナーを少しずつ浸みこませていく。
バスレフポートでもあれば利用できるのだけど、密閉型のこのスピーカーには無い。ここは背面にドリルを貫通させて、そこにドライバーの柄を挿し入れてマグネットにアクセスするかたちに。
しばらく押しこんでいると、しだいにバッフルから離れ、ユニットがストンと落ちる。
ドライバーを手に持ってみると、意外と重量がある。そして、フェイライトマグネットが角形であるのもユニーク。
タブから平形端子を抜こうとすると、ひとつは端子からケーブルが抜けてしまった。ケーブルの径に対して端子が大きすぎてうまく圧着できていなかったらしい。スピーカーという製品にありがちな"緩い"施工だ。
ドライバーユニット
ドライバーユニットは、金属フレームの一部に腐食があるものの、ヨークの白錆も最小限に抑えられており、40年以上密閉状態だったことを鑑みれば状態は良いほうだと思う。
ヨークには「AURATONE」の文字と品番と思しき数字の羅列が薄っすらと認識できるけど、表面が焼け落ちたようになっておりほとんど読み取れない。
エッジはクロス製。織り目がやや粗めで光を易々と透してくる。なにかしらダンプ材が塗られていたのかもしれないけど、現状よくわからない。
シート成形なのも同じ。ただ、シートを貼り合わせた部分の端部の位置が、左右でまったく異なっている。コーンに走る筋の位置までは拘りがなかったのかもしれない。しかし、貼り合わせた部分にハトメをするのはどうなのかとは思う。
エンクロージャー内部
エンクロージャーは、前面が約15mm厚、それ以外の面が約9mm厚のMDF製。
筐体にMDFが使われているスピーカーって、1980年にはすでに存在したんだな。知らなかった。
内部に入っている赤っぽいものは吸音材で、正方形のシート状になったグラスウール。ほぼ隙間なく詰められている。
吸音材を取り除いたあとのエンクロージャー内は、ただの箱となる。筐体を補強するようなものがいっさい無い。
樹脂製フレーム
脆くなっていた前面の外周を縁取る樹脂製のフレームは、筐体を構成するうえでなにか意味があるのかと考えていたけど、こうしてみると意匠的な部分で設けられている以外に意図は無いように思えてくる。おそらく木口を隠すためだろう。
ケーブルの接続方法
背面に直付けされたバインディングポストも、その裏側で薄型ナットで固定されているだけである。ネジ山はM4。
ワッシャーの代わりなのか、ケーブルを直に挟みこんで締め付けるという、なかなかどうしてワイルドな施工をしている。しかも、そのひとつはナットがかなり緩んでいた。
はんだ付けされているだろうとにらんでいたインナーケーブルは、実際にはまったくそんなことはなかった。
そのケーブルは、錫めっきのような加工が施された撚り線となっている。