オーラトーンの「5C」が手に入った。鳴動するもののエンクロージャーが劣化していたので、同じようなものを新たに拵えてドライバーを載せかえることにした。その所感。
※ この記事は、前後編の後編にあたるものです。
※ 前編は下記より↓
整備
オリジナルのエンクロージャーと、仕様をなるべく揃える。最低でも容積は同じにすることを目標とする。
板材
筐体を組むのに必要な板を用意する。適当に起こしたメモを片手に、ハンズに行って板材の確保とその加工を依頼。
三日後に到着。すべて9mm厚のMDF。
MDFで筐体を作ること自体は経験があるけど、今回はひとつ試してみたいことがあるので、のちほどその調整に苦慮しそうな予感。
前面バッフル
基本的に表層はオリジナルと同じくシート仕上げにしたい。シートに隠れない部分は塗装する。
塗装
とりあえず前面と背面の仕上げから。ドライバーが収まる部分の木口を黒く塗装する。
水性の黒のサーフェイサーと木工用多用途を2対1くらいで混ぜ合わせたものを筆で塗る。
見える木口はすべて塗料で埋めていく。端部の強化を兼ねて接着剤を混ぜることをしているけど、これは単にシーラーを敷くのが面倒で横着しているだけだ。
化粧シート
ほかのスピーカーで使用したPVCのリメイクシートがちょうどいい具合に余っているので、それを前面と背面の仕上げとする。
それ以外の面のシートは別途用意する。オリジナルと同じく、似たような模様の別の種類とするつもりだ。
もう一枚、ひと回り小さめにくり抜いたMDFに重ねて貼り合わせることで、18mm厚の前面バッフルを形成する。
これは、オリジナルより若干厚い。そのぶん、奥行きを広げることで容積に変更がないよう調整している。
ただ、こうしてみるとドライバーのフランジが接着される部分が、やや狭い。くり抜く孔の直径をどういうわけか10mm大きく指定してしまったようだ。
同じようなことを、バックパネルとなるMDFにも施す。
マグネット
サイコロ型に組み上げる前に、前面バッフルに細工したいことがある。前面ネット固定用のマグネットを埋めこむのである。
現代のメーカー製スピーカーでは、前面ネットの固定を磁力でバッフルに吸着させている方法が採られている製品を見かける。意匠的にも着脱もスマートで良いと思っていて、今回せっかく一からエンクロージャーを作る機会を得たのだからということでチャレンジしてみるのだった。
ネオジウムマグネット自体を扱うのは、今回が初めて。一応、ちっちゃくても吸着がメチャ強力だ、くらいの認識はあって、小さければドライバーとの距離を離せるから音への影響が無いだろうし、板に埋めこまれていてもそれなりの磁力を保ってくれるだろうと、なんとなく思ったわけだ。
直径4mmのものを採用。4.5mmのドリルビットで、バッフルの四隅に前面の仕上げまで2mm程度を残す深さの穴を開ける。
穴の内部には、磁石の固定用として2液性エポキシ接着剤を放りこんでおく。4つの磁石は極性を揃えるために、適当な印を付けて目視で判るようにしておく。
組み上げ
それが終わったら、板を箱状に組み上げる。接着はゴリラグルー。
オリジナルの筐体は、前面バッフルが6mmほどセットバックしているので、今回作るものもそれに倣う。
前面木口の塗装
突き合わせた小口の段差を目立たなくするため、内装下地調整用のパテを擦りこむ。
800番のやすりで多少整えてから、油性の塗料を塗り重ねていく。ここが油性なのは単純に、なかなか使いどころがない塗料をさっさと消費したかったから。
粘度が高いので、ペイントうすめ液を少しだけ加えている。
この塗料は以前、別のスピーカーで鉄部に塗ったさいは、特に意識しなくても塗りムラが少なく済んだのだけど、木部の場合はそうはならないらしく、けっこう凹凸のある仕上がりとなった。やり直すのも面倒だし、ここはこのあとの作業である程度隠れてくれる心積もりなので、このままとする。
キャビネット部の表層の仕上げ
天面、底面、両側面の4面の仕上げは、やはり青系の木目調のPVCシートを巻きつけることとする。似た色味でも前面とは異なる仕上げに切り替えるのも、オリジナルの仕様に倣っている。
同じ木目調でも、艶のあるフラットなバッフル面と異なるマットな質感で、エンボス加工のあるものをチョイス。
角部の90度折り曲げる施工が苦手なので、少し練習してから本番へ。
以前、天然木の突板をスピーカーに張ったことがある。工数が多くて手間のかかるあちらよりもPVCシートの扱いのほうが難しいと感じるのは、この折り曲げる部分を自然に仕上げる難度が高いからだと思う。
金属フレームもどき
筐体はとりあえずかたちになったので、次。
オリジナルでは前面の縁にあった樹脂製のフレームを、新しい筐体でもそれっぽく再現して雰囲気を出す。
木材の加工
昨今はこんなものは3Dプリンターで印刷してしまうのだろうけど、さりとてそんなものを用意する資金も場所もない。ホームセンターに赴きそれっぽい木材を調達して加工するのが、自分の整備では順当といえる。
細い丸棒を縦に引き裂いて4分の一にしたようなものがあったので、それを切り出して塗装する。
両端の木口をやすりでだいたい45度の角度になるように削る。割れたり欠けたりしないよう、計8本16か所、ていねいに削る必要がある。
目止め
水で薄めた木工用多用途に、MDFを削ったときに生まれた細かい木質の粉末を砥の粉の代用として混ぜ入れて、即席の"なんちゃって目止め液"とする。
塗ったあとに乾燥したら、800番で軽く擦ってから再度塗布。これも3回くらい繰り返す。
しかし、シャバシャバな液体に対して砥の粉の量が少なすぎるためか、塗り重ねてもそれほど綺麗にならない。
これも思いつきで作ってみたものだけど、目的としていた目止めとするには、あまり意味を成さないようだ。湿気には多少強くなっているとは思うけど。
塗装
ここの塗装は、Mr.カラーのスーパーメタリックシリーズより「スーパーリッチゴールド」とする。色味がオリジナルと似ていたからだ。
ブロンズほど赤すぎず、ゴールドほど黄色すぎない。真ちゅうのような落ち着いた金色で、とても良い色味だ。
目止めが不十分なため、木肌の凹凸が目立たなくなるまで何度も重ね塗りする必要がある。塗料が優秀なので、目止めの段階でちゃんと平滑になるまで下地を仕上げておけば、金属っぽい質感にもできたかもしれない。
バインディングポストの新調
バインディングポストはオリジナルのものを流用してもいいのだけど、黒一色の同じものが二つ並んでいるよりも、やはり色分けがされているほうが好ましいだろうということで、新しく調達する。
9mm厚のMDFを直付けで貫通できるロングシャフトタイプのポスト。
じつは、この製品は構造の欠陥でそのまま使うことができず加工が必要になるため、できることなら購入を避けたい代物なのだけど、長いシャフトを持つポストは選択肢があまり無く、アマゾンで容易に手に入るこのポストを今回は仕方なく使うことにしたのだった。
ポストの受け側の樹脂カバーを、1mmほど削る。
この作業をせずにYラグを固定しようとすると、樹脂カバーを破損する可能性が非常に高いといえる。ケーブル直付けでも同様のことが起こりうる。あまり良い製品ではない。
ちなみに、内部のケーブルはJVCケンウッドのOFCスピーカーケーブルを引く。
前面ネット(失敗、保留)
さて、あとはドライバーユニットの固定をすれば、スピーカーとして音が出るようになる。ただしその前に、バッフルに仕込んでおいたマグネットに前面ネットがちゃんと固定されるのかを確認しておく。
フレーム
5.5mm厚のMDFをフレームとし、これにサランネットの類を張るかたちにしたい。
このフレームにもマグネットを取り付けておくことで、バッフルにピタリと吸い付いてくれる想定だ。
マグネット
とりあえずここも、いくつかマグネットを調達したなかから良さそうなものを選んでみる。
フレームに孔を開けて、マスキングテープで塞いだ部分にマグネットを設けて仮設とする。
固定できず
しかし、「磁力が強すぎて逆に取り外せなくなったらどうしよう」とか憂慮していたネオジウムマグネットでさえ、バッフルに近づけても、吸い寄せられはするものの吸着するには至らず、下にズリ落ちてしまう結果となる。
どうやら、たとえ2mm程度の空間であっても、磁石どうしの距離が開いている場合は磁力が想像以上に落ちてしまうらしい。
また、たとえ孔が大きく開いていたとしても、木質ボード製のフレーム自体の質量が思いのほか大きい、というのもあるだろう。ここはやはりモールドで形成したいところだ。
改善するならば、バッフル側に隠ぺいされたマグネットは仕上げ面のレベルに合わせるくらいの位置に配備して、ネット側の磁石あるいは受け金具としっかり突き合せられるようにすることだろう。
見た目重視
さて、こうなると、代替案を探っていくことになる。マグネットを前面バッフルの四隅に接着するのか、はたまた面ファスナーにするのかなど、固定方法ならいくつか思い浮かぶ。
ただ、せっかく木目調のバッフルに仕立てたのに、それが後付けされた何某で隠れてしまうのはもったいないし、野暮ったくなってみっともない気がする。また、リメイクシートの上にそのままなにかをくっつけるとなると、シートの耐久面も気になる。
ここは、なにか妙案を思いつくまで、このままにしておくこととする。
ドライバーユニットの固定
気を取り直して、エンクロージャー本体へのアッセンブルを進める。
ドライバーユニットの固定は、オリジナルと同じくネジを使わず接着とする。ドライバーのフランジが引っ掛かる部分に、接着剤を満遍なく塗布する。
接着剤はもちろん2液性エポキシ接着剤。まあ少なくとも、ユニットが自然に剥がれ落ちることはない。
そしておそらく、次回故障したら、分解されることもなく廃棄となるのだろう。
フレームもどきの接着
そのままの流れで、ゴールドカラーとなった木の棒も接着する。
塗膜の上に乗せることになるけど、ここは最悪剥がれても支障のない部分だし、いいか。
音の変化
新築物件に移住することとなった5Cのドライバーは、しかし居住の面積も内装も従前と一緒であるため、旧居となんら変わらない生活を送るのであった……。
……となっているかはわからないけど、聴感では全体をとおして整備前と変わり映えしない。音がやや硬くなったような気もしなくもないけれど、おそらく気のせいだろう。最後に音を聞いてから、10日以上経っているのだから。
周波数特性としては、整備前より800Hzから1kHzまでが少し持ち上がっている。ただ、収音環境が別なので比較するには慎重になるべきだろう。
整備前にあったノイズは無くなっている。しかし、低い音域にある左右の聴感上の差異は、小さくなっているものの依然として感じ取れる。
これも是正するならば、エッジあるいはダンパーの調整が必要なのかもしれない。まあ、そこまではしないけど。
それにしても、歌モノのボーカルやナレーションの声が不自然なほど際立って聞こえてきて、クラクラしてくる。たしかに中音に特化したスピーカーではあるのだけど、ここまでくると特異と呼んでもいいのかもしれない。それでいて、バランスとして奇抜になっていないところがまたスゴイ。
まとめ
2時間半くらいリスニングを続けたところで、頭痛が始まった。どうも自分の脳にはエネルギーの消耗が激しい音のようだ。気に入っているけれど、アンプから切り離すこととなった。
この巧緻を極めたような音は、もし自分がまだDTMを趣味として続けていたのなら、おそらく手放すことはせずモニター用途として据え置かれていたことだろう。
小型モニターとして、よくヤマハの「NS-10M」が引き合いに出される。たしかにトランジェントの傑出している点は一緒でも、定位の正確さはどうしてもフルレンジ単発の5Cに分があるし、音の従順さ、柔順さを追求するならあえてこのスピーカーをチョイスするのもアリかもな、という気がする。
他方、現代において一般的なリスニングの用に供するには明らかにレンジ感が不足するし、このスピーカー単発では力不足となりうる。小音量でゆったり流すとか、マルチウェイシステムのミッドレンジ用に充てるとか、よほどこの音が気に入っているのでもないかぎり、あえて選択肢に入れる必要も無いように思う。
このスピーカーについて別言すれば、
「やはり野に置け蓮華草」
これに尽きると思う。
終。