※ この記事は、前後編の後編にあたるものです。
※ 前編は↓から。
整備
新バッフル
東京に出張。渋谷のハンズにて、15mm厚のMDFをバッフル調に加工してもらう。
長辺232mm、短辺116mm。ふたつの孔は既存が直径95mmなので、それに合うよう穿孔。ついでに片面にトリマーをかけて、半径3mmで面取りもしてもらう。
既存のバッフルの四隅にある黒いなにかを、シンナーを使って除去する。綿棒にシンナーを浸みこませて、少しずつ拭き取るように擦る。綿棒は数回交換する必要がある。
そのあと、既存のユニットを固定ていたタッピングビスの穴のバリを取る。切れ味の落ちた古いニッパーの刃先が作業に役立つ。
新たに用意したMDF製のバッフルを嵌めてみる。これで、既存の板材と合わせて24mm厚の前面バッフルを備えることになる。
新ドライバー類
パッシブラジエーター
ドライバー類は、パッシブラジエーターの選定にちょっとだけ苦慮する。既製品のうち、10cm径相当でフランジが矩形のものが、ほぼ見あたらないのだ。円形のフランジのものはそれなりに流通しているのだけど、それだと今回はスペースの都合で乗せられない。
結局、AliExpressでよくわからないショップから購入。製品は3週間ほどで海を渡ってきた。
このパッシブラジエーター、膜の部分は見た目から硬めのラバー製だと思っていたのだけど、じつは円形の金属板で意外とズッシリしている。
はたしてこれを10cm径のコーンひとつでドライブさせられるのか不安になってくる。
フルレンジドライバー
そうこうしているうちに、フルレンジドライバーも現着。エンクロージャーがフォステクス製のキットということで、新しいドライバーもキットによく用いられるものをチョイスしてみる。「P1000K」と呼ばれる、Pシリーズの10cmコーン型フルレンジドライバー。
性能面で選ぶなら、振動板がやや重めでパッシブラジエーターをしっかりドライブしてくれそうな「FF105WK」がいいのだけど、金欠かつデザイン面で今回は見送り。
P1000Kは、ひとつ上の機種と比べると背負っているフェライトマグネットの径がいくぶん小さめではあるものの、やや大きくロールされた発泡ゴムのエッジがかなり柔らかめで、それなりに能率感はありそう。
埋込ナットとボルト
エンクロージャーの改装に戻る。
既存のユニットの固定は木ネジだけど、今回はバッフルの厚みが大幅に増えることもあり、せっかくなので爪付きナットを仕込んでミリネジに対応させておく。
ユニット固定用のネジは、黒いM4の六角穴付きボルトとしたかったのだけど、在庫が足らず。補充分を発注しても手元に着くまで時間がかかる。
そのため、パッシブラジエーター側は代替策として、近所のホームセンターですぐに手に入る頭に穴の無い六角ボルトとし、頭のみ黒で塗装することでそれっぽく見せる。
塗装
塗装は、もちろんバッフルにも行う。
ちょうどサンディングシーラーも切らしていたため、逆に余っていたグレー系のサーフェイサーで下地を代用。
そのあと、つや消しブラックのラッカー塗料とつや消しクリアを3回ずつ吹き付ける。
- サーフェイサー吹き付け → 400番で研磨
- 再度サーフェイサー → キッチンペーパーで研磨
- つや消しブラックラッカー塗料吹き付け → 400番で研磨
- 再度つや消しブラック → キッチンペーパーで研磨
- つや消しブラック最終吹き付け
- つや消しクリア吹き付け → キッチンペーパーで研磨
- 再度つや消しクリア
- つや消しクリア最終吹き付け
最近、キッチンペーパーを紙やすりの代わりに利用することを試している。だいたい800番相当だろうか。
あまり擦り続けると塗装面に繊維質が付着して汚くなってしまうけれど、軽く撫でる程度であれば塗料を必要以上に削り取らずに平滑にできる。
バインディングポスト
塗装と並行して、コネクターユニットの換装を進める。
既存のコネクターのベースは流用する。そのために、ネジ式のポストを取り外す。
ベース内側にあるふたつの爪を起こせば、ネジごとゴロっと外せる。ここでも古いニッパーが便利。
新しいバインディングポストは、樹脂製のキャップが付いた汎用品とする。
ベースの孔を少し拡張して、いくつかワッシャーを噛ませてポストを固定。それをエンクロージャーにネジ留めする。
バッフルの接着
新しいバッフルは、既存のバッフルに張り合わせて一枚にする。
接着には、基本として2液性エポキシ系接着剤を使用。多少のゆがみを埋められるようにたっぷり盛るけど、ネジ穴まで広がらないよう、穴の周辺をさけて塗り広げる。
逆に、穴の周辺と最外周には、シールの意味もこめてE6000を使う。
既存のフォームシートを細く切り出して、パッシブラジエーター用に流用する。
これを、バッフルの孔の縁に置く。ここでもE6000を使う。
ただ、ここの密閉は、フォームシート無しでE6000だけでもよかったかもしれない。
ちなみに、フルレンジドライバーのほうは、P1000Kに付属するパッキンをそのまま使用する。
完成図
というわけで、ようやく完成。
前面バッフルが黒で統一されて、締りと落ち着きが出たように思う。
撤去したグリルネットの代わりに、サランネットのフレームを自作しようかとも思ったけれど、ここで満足してしまったのでこれ以上手を入れないかもしれない。
改修後の音
P1000K + パッシブラジエーター
出音を聞いてみる。
一聴して低音域にブースト感をあまり感じられないことは、バスレフ式のエンクロージャーと異なる感覚だ。どちらかといえば密閉型に近い質感だけど、まったくもって同じかというとそうでもなく、量感よりもエネルギー感が少し増している印象を受ける。
ただ、これはドライバーの性能の面もあるはずなので、別の機種に換装すればまた違う印象になるのかもしれない。
中音に関しては、適度に歯切れよく元気に鳴っている感じ。やや直進性が強く質感がカサカサするところもあるけど、それなりに細かく分解しているし、不自然なところはほぼ無い。
問題は高音だ。高域方向にある程度達したあたりから急に引っこむ。そのため伸びがイマイチで、音全体がチープで古臭い印象になってしまう。
ポップスやソリッドなジャズ、ソースが古いプログラムならほとんど気にならないとしても、ストリングスやエレピなどでは如実で、音場がかなり狭まって聴こえる。
安価なユニットなのであまり多くを求めても仕方がないのだけど、そのほかのバランスが良好なだけに、これは本当にもったいないと思う。
個人的には、1μFのコンデンサー単発でフィルターしたツイーターを付加したくなってくる。
周波数特性を見てみる。
概ね聴感と一致する。あまり意味は無いけれど、整備前のYK10Wの特性と重ねてみる。YK10Wは、エッジを軟化したあとのもの。
低音域の特性は、意外と下まで出ているな、という印象。初代FE103も、本来はこのくらい出ていたのだろうか。
55から60Hzあたりに盛り上がりがあって、バスレフで持ち上げたみたいな稜線になっているのは、パッシブラジエーターの影響なのか? これだけではよくわからない。
高音域は、P1000Kは11kHzを超えたあたりからなぜか下がり始めている。この特性がレンジ感の低下の原因だろう。
いっぽうFE103は、さらに上の帯域までカバーしている。14kHzあたりからやっぱり落ちてきてしまうけど、このくらい鳴らせれば聴感では十分といえるだろう。
パッシブラジエーター不動作時
こうしてみると、300Hzから下をゆったりと持ち上げている。疑似的にウーファーが設けられたような感じだろうか。
55から60Hzあたりの盛り上がりは、もともとユニットが持つ特性だったようだ。
なるほど、パッシブラジエーターは、低音のスケール感をひと回り引き上げる効果があるんだな。
ちなみに、密閉型にすると2kから3kHz付近に現れる谷は、数回収音を繰り返しても同じように出現した。密閉状態の筐体内の空気が振動板を抑制した結果、この環境ではここの帯域の振幅を抑えるように働くのかもしれない。
パッシブラジエーターの採用について
低音の増幅の仕方
今回初めてパッシブラジエーター式のスピーカーを弄ってみたわけだけど、低音の"エネルギーの"補完の意味では、バスレフ式よりも安定して増幅できる仕組みだな、という印象を受けた。
バスレフでは、ダクトから低音のほかに中音も出てくるので、それが邪魔になるようなら抑制が必要だけど、パッシブラジエーターだと単に低めの中音から下の増幅だけで済むので、設計が少し単純になる。
ただ、単に増幅の度合いでいえば、ダクトを利用した共鳴音の力のほうが強い印象なので、力強い低音を求めるならばバスレフダクト、あるいはバックロードホーンなどを選択せざるを得なくなる。増幅したい特定の周波数帯が決まっているならバスレフ、とりあえず低音のエネルギー感を増したいならパッシブラジエーター、というところか。
ただしその場合でも、手のひらサイズのような体積の小さなスピーカーが欲しい場合は必然的に容積が足らずに上手く増幅できないこともあるため、それならパッシブラジエーターで疑似的に再生能力を増やし、ドライバーがもともと再生できる範囲の低音を持ち上げてしまうほうが、より良い結果となることもありうるのかもしれない。
そんな感想を持った。
導入のコスト
エンクロージャーを一から作るような自作スピーカーの趣味は持ち合わせていないから、この先低音の増幅方法の選択について困る機会はあまり無いように思う。
それはさておき、エンクロージャーを制作するさい、バスレフでもパッシブラジエーターでも、大きさがなんであれ板材に孔をくり抜く作業は必要になる。そこを同等とするならば、あとはダクトを買うのかラジエーターを買うのか、の違いとなる。
パーツは既製品で済ませようとする場合、一般的にはパッシブラジエーターのほうが高くつく。だけど、ある程度大型のスピーカーで、ダクトを長大にしたいような場合、時間も手間も資金も圧倒的にバスレフ型エンクロージャーのほうが増大する。
とはいえ、まずはできるだけ良いドライバーの入手にコストを割くことが先決だと思っているので、エンクロージャーの構造についてはお財布との相談かな、とは思う。
まとめ
ユーザー自身が組み立てるキットで、ドロンコーン式を採用していたのはユニークだなと思う。
とはいえ、グリルネットの固定に接着剤のようなものを使うのだったら、バスレフダクトをエンクロージャーに接着することにしてもいいじゃないか、と思ったりもする。そこをあえてドロンコーンを採用したとなれば、やっぱりJBLを意識した製品なのかな、と邪推してしまう。
FE103本来の音の再現ができなかったのは残念だけれど、改装後の音は割と気に入っている。予算の都合で断念したけど、高音が弱点であることがわかった今、やっぱりFEシリーズやFFシリーズをドライバーとして迎え入れたかったなという気持ちは残り続けている。
他所に旅立たず、しばらく手元に残っているようなら、別のドライバーに換装してみるのもいいかもしれない。それが容易にできるように改装したのだから。
終。