コーラルの小柄なブックシェルフスピーカー「4B-1AV」を入手したので、音を聴いたり、改装してデザインを整えたりしてみた。
素性
コーラルから1980年代に発売された、小型パッシブスピーカーである。
10cm径コーン型フルレンジドライバーを備えた、フロントバスレフのブックシェルフスピーカーとなっている。
手元に資料が無いので、インターネットでザッと調べてみる。
発売当時、同じフルレンジスピーカーの「4B-1R(ワインレッド)」「4B-1B(ブルー)」という製品がラインナップされており、その後継として登場したのが本機のようだ。
末尾に「AV」と付くことからも想像できるように、4B-1AVの筐体には4B-1Rと4B-1Bのドライバーユニットを防磁設計にしたものが搭載されている。
そのほか、前面のパンチングメタルのネットの大型化や、背面にブラケット固定用のネジ穴が追加されたりしている。
エンクロージャーの細かい寸法の差異などは、よくわからない。
なお、発売は1983年。当時はアイボリーとワインレッドの2カラーの展開で、のちにブラックとブルーが追加されて4カラーとなったようだ。
外観
当時としてはかなり小型の部類で、コーラルの製品にしてはややポップな外観から、エンクロージャーは樹脂製かと思っていたけど、6面中4面は塗装されたMDF製だった。
吸水性の高いMDFは塗装だと手間がかかるイメージがあるのだけど、化粧シートではなくあえて着色にしているのは、メーカーの拘りだろうか。
今回購入したものは、前オーナーがドライバーの振動板外周にあるエッジをセーム革で張り替えたものだ。オリジナルはウレタン製で、例によって経年でボロボロになるらしい。
前オーナーが張り替えたエッジは、ところどころシワが寄っているものの、おおかた綺麗に張られている。機能的にはなんら問題ない。
振動板は、表面がザラザラしていて、触覚は紙というよりはファブリック系に近い。
また、ドライバーのすぐ下にバスレフポートがある。
左右にRが付けられたスリット型のポートだけど、そうなっているのはバッフル部だけで、内部のダクトは角張っている。
音
出音を聴く。
このスピーカーには、底面にフェルト製のシートが付いているので、それをそのまま利用。いつも使っている花こう岩プレートの上に乗せて試聴する。
密度のある中高音が飛び出してくる。中音域だけでいえば、先にも取り上げたDS-B1や同じコーラル製の「EX-101」と雰囲気がよく似ている。音の粒立ちがハッキリしていて、張っている。特定の音域で癖が出るようなことも少ない。
高音は意外と上まで伸びている。やや硬い部分もあるけど、空間表現を自然に再現する。
逆に、低音の再生は「こんなもんか?」という印象。聴感上では100Hzから下はあまり出ないような感じ。バスレフ型ではあるものの、低音域の増補のために設けているというよりは、筐体内の共鳴音の調整に使われているようだ。
空間的な広がりかたは10cmコーン単発なりのもので、音の厚みにも限界がある。ただ、音の分離とパース感は良好で、複雑なソースもそれなりに再生してしまう。言ってみれば、オーディオっぽい鳴りかたに聴こえるのだ。
ボーカル系では、特に女性ボーカルが真ん中からズイっと一歩前にいるような立ち位置で歌い上げるのが、迫力があって良い。
当時の最廉価グレードでも、ここまでしっかりした音が出てくると、なにかポテンシャルを感じてしまう。
周波数特性を見る。
おおむね聴感と一致する波形である。
それにしても、古いものでは40年前の製造品となるにもかかわらず、ふたつのスピーカーの特性がここまでピッタリ一致するのは、感嘆する。
分解
中身を見てみる。
といっても、ユニットを固定しているネジを外すだけである。
背面側を覆うのは、吸音材のグラスウール。不織布に包まれていて、通線部に孔が開けられている。
バスレフダクトは、筐体と同じ素材である9mm厚のMDFで作られているのが特徴的。
内部配線は20cm程度の一般的なダブルコードで、背面のコネクターユニットから出ているタブにはんだ付けされている。ドライバー側は平型端子で接続。
フルレンジドライバーは、「4F-1BKAV」というもの。"BK"はブラックの意味だろうか。
内部はカバーで覆われているためほとんど見えないものの、けっこう径の大きいマグネットが採用されているように見える。
フレームはプレスの金属製。フランジ部の鋼板が割と薄く、やや心許ない気もするけど、一本あたり8,500円という価格を踏まえれば納得できるもの。
振動板は、表と裏で色味が異なる。裏張りされている可能性もあるけど、表側は多少色あせているのかもしれない。
整備
コーラルのスピーカーは、ケーブルに圧着されている平型端子がどういうわけか腐食しているものを多く見かける。そのため、分解した場合、配線はすべて引き換えることにしている。
また、全身ブラックの筐体に対して、セーム革のホワイトが色味的にややミスマッチに感じるため、エンクロージャーを別のカラーにしてみる。
エンクロージャーの塗装
ちょうど手元に「オリーブドラブ」のラッカー系スプレーが余っているので、それをベースカラーとする。
本来は既存の塗料を落とす必要があるけど、削り落とす手間がかかるのと、そこから新たにサンディングシーラーを買ってきて塗ることもしたくないので、既存の塗装をシーラー代わりとして直接塗りつける。
軽くサンディングして、シリコンオフで拭いたあと、4度塗り。
あとは、つや消しクリヤーで上塗り。
ケーブルとバインディングポストの新設
背面のスナップイン式のコネクターは、小型なためか結線部の穴が小さく、太めのケーブルや棒型端子ではスプリングで挟みこむことが難しい。ちょっと面倒だけど、扱いやすくなるようにコネクターユニットごと換装してしまうことにする。
この板材も、オリーブドラブに塗装する。
ただ、仕上がってみてから判ったことだけど、ここのカラーは筐体側と合わせてブラックにしておくべきだった。たぶん、そのほうが締まって見えるはず。
ここに繋げるケーブルは、Zonotoneの「SP-330Meister」。
最近は、迷ったらとりあえずこのケーブルを採用して様子を見ることにしている。入手性が良く、なにより扱いやすいのだ。
バインディングポストは、バナナプラグ対応の汎用品。
結線は、前回整備したDS-B1に触発されて、圧着端子をナットで締める方法にする。ただし、丸型端子ではなくクワ型端子とし、芯線だけでなく被覆部も爪でかしめる形にする。
また、ドライバー側の平型端子のタブは、187型であることに注意。
メープル板材の固定は、既存のネジ穴の位置でM3.5相当のタッピングネジを捻じ込む。ただここも、ニッケルめっきではなく黒色に塗装されたネジを探してみてもよかったかもしれない。
まとめ
ともあれ、完成してみればそれっぽい佇まいになったので、とりあえず良しとする。
ヴィンテージの域に入るいにしえのスピーカーではあるけど、現代でも十分通用する実力を持つことがわかった。カジュアル向けの製品でも造りが本格的でしっかりしているあたり、スピーカー製造を専業としていたコーラルの硬派な面がにじみ出ているようにも思う。
コーラルのスピーカーの音は、やっぱり自分の好みなんだなと再認識したのだった。
終。