いつか消える文章

本当は、ペンとノートを持ち歩くことにあこがれている。

DIATONE DS-B1 を鳴らしてみる

ダイヤトーンのブックシェルフスピーカー「DS-B1」を入手したので、少し整備して音を聴いてみた。

 

素性

ダイヤトーンから1995年に発売された民生用スピーカーである。

DIATONE DS-B1
このころのダイヤトーンは、前年から「ダイヤトーン工房50周年記念」と題した製品を世に送り出しており、DS-B1はそのシリーズの第4弾。
「放送用モニター直系」を謳い、高価なラインナップが続いたなか、このスピーカーはエントリークラスの位置付けで登場したようで、比較的リーズナブルな価格で発売された。

前面ネットを取り付けた図
アンティーク家具のような瀟洒で重厚な佇まいの製品が多いダイヤトーンのスピーカーでも、このDS-B1はコンセプトが異なるようにみえる。どちらかというとカジュアル寄りな出で立ちなのである。
前面ネットのカラーが標準でフォレストグリーンという、暗めの緑色をしている。

グリーンのネットって、意外と見かけない
このネットはほかに、6色もの別カラーがオプションとして用意されていた。このあたりも、音響をキッチリ計算した重々しい環境に鎮座させることよりも、生活空間の中に気軽に置けるインテリアコーディネートを意識しているように思う。
 

外観

エンクロージャーの形状は、シンプルな直方体。どの面を見ても矩形で、すべての角部が角張っている。

側面と背面
まさに"ハコ"といった感じ。こういう直線的な筐体は嫌いじゃない。
 
仕上げは、前面と背面以外がバーズアイメープルの複雑な杢目で覆われた、明るいものとなっている。

この模様、あまり綺麗だとは思わないんだけど……
もちろん、突板ではなくPVCの化粧シート。これを天然木で張ったら、それだけで定価がとんでもない金額になりそうなので、妥当ではある。表面は光沢仕上げとなっている。
前面と背面は、手触りがザラザラしているブラック一色の化粧シート。ただ、前面のバッフル部は少しセットバックされている。

陰影が生まれ、デザインに立体感も出る
これにより、周囲の明るい木目調とのコントラストが強調され、英国メーカーのスピーカーのような締まった面構えとなっている。素材はビニールなので、よく見るとチープな印象なのがどうしても拭えないけど、それを感じさせないような上手なデザインだと思う。
 
反対に、背面は隅々まで黒色で、コネクター部以外がすべてフラット。背面側がこういったデザインなのは意外とめずらしい気がする。
ケーブルを接続するコネクターユニットも、小型で必要最低限といった感じのものだ。

真ん中にセパレーターを設ける気遣いが良い
残念なことに、湿気を吸ったのか、ボードの端部が膨張している。

ここは、シールしてほしかった
 
ウーファーは、紙製の振動板と柔らかめのラバー製エッジが使われた、13cmコーン型。
特に際立った特徴は無いけど、センターキャップのコーティングが、なにやら渦を巻くような形で塗られているのが独特ではある。

振動板拡大
 
ツイーターは、3cmコーン型。

ツイーター正面
これ、「コーン型」と称しているけれど、外観からは現代のスピーカーだと「セミドーム型」とか「バランスドーム型」などと呼ばれているものに相当するように見える。真ん中に小さなドームがあり、その周囲がコーン状になっている振動板だ。
ダイヤトーン的には、これはコーン型ツイーターに分類していたのだろうか。それとも、なにか別のメカニズムなのか。
ちなみに、イコライザーの中心部に、小さなフェルトのようなものが接着されている。どういった意図があるのだろうか。

初めて見る処置
 

備前の音

音を聴いてみる。
アンプは、ヤマハのAVレシーバー「RX-S602」。いつものヤツ。パソコンから「DIRECT」モードで再生。
一聴して、元気で張りのある中音が飛び出してくる。適度に乾いていて、歯切れよくパンパンと繰り出す。
音の輪郭がくっきりしていて、トランペットは快活に、クラヴィネットはよりファンキーなサウンドで醸す。
また、細かい音もよく拾っている。ドラムのハイハットの刻みかた、ボーカルやアコースティックギターのディレイのニュアンスなどを実直に伝える。
現行のポピュラー系やクラシックの一部の曲だと、高めの音が耳に刺さるか刺さらないかの境界を彷徨うことが時折あるけど、同じダイヤトーンの「DS-11XL」ほど顕著ではなく、長時間のリスニングでも自分の耳はギリギリ許容する。
 
低音域の聴感上の最低音は高め。聴こえてくる範囲の量感はそれなりにあり、欲張らなければ不足を感じない。この点は、柔らかいラバーエッジの特性が出ていると思う。
音自体はクリア。しかし、鳴らす曲調によっては唸るような低音が瞬間的に聴こえてくることもある。これは不思議に思うと同時に不自然にも感じるので、もしかしたら自分の環境ではうまく鳴らせていないのかもしれない。
とはいえ、基本はバスレフ臭さみたいなものが無い、タイトで好みの音だ。
 
ツイーターは、中低音の広範囲を濾波しているようで、耳に届く音はだいぶ絞られている。おそらくウーファーが高音域もそれなりに担っているためで、ツイーターはあくまでも高域方向の延伸として動作させる意図なのだろう。
 
音域的なレンジ感はやや狭め。しかし反面、定位感がすこぶる良く、ソースの中で各々鳴っているパートが明確である。エネルギーの偏りが真ん中に集中している分、音の違和感が小さい。音がストレートに耳に届く感じは、フルレンジスピーカーに近い印象だ。
 
前面ネットを付けていると、勢いが少し減衰する代わりに集中していたエネルギーがほどほどに分散、平滑になり、まとまりがよくなる感じ。
 
周波数特性を見る。

周波数特性
4kHzあたりがやや沈んでいるのと、そこから上の8kHzくらいまでの範囲に乱れがあるけど、全体のバランス的にはどちらも突出しているわけではないので、こういうものなのかもしれない。中高音の耳につく感じはこのあたりのピークが原因かなと思うも、やはり同じ理由で断言できない。
 
 

分解

そこそこ状態の良いものを入手したので、大きく手を入れることはしないつもりだけど、一応中身を見ていく。
前面と背面にあるネジを外すだけである。すべてプラスネジ。
 
ウーファーユニットは、プレス加工の金属フレームで組まれている。

ウーファーユニット
外面と同じく、一般的な構造をしている。マグネットの径も標準的。
 
ツイーターは、小さなフェライトマグネットがくっついたもの。

ツイーターユニット
フランジ部と化粧プレートは一体で、すべて樹脂製。ダイヤフラム側とは接着剤で接合されている。
このタイプのツイーターを見かけるといつも思うことだけど、あまり低い音は出そうにない。
 
背面のコネクターユニットを取り外すと、そのままケーブルがズルズルと出てくる。

内部のケーブルとコンデンサ
圧着端子と結束バンド、さらに接着剤まで使ってガッチリ固定された両極性電解コンデンサーは、ルビコン製。1.5μF単発で、ツイーターのHPFとして搭載されている。
なお、ウーファー側は、フィルターレスの直結配線だ。

デバイディングネットワーク回路
ネクターユニットの内側を見ると、接続は丸型端子を使っていて、それをナットで挟み込むように固定している。ワッシャーに銅製を採用していたりして、エントリークラスながらそれなりにコストをかけて制作しているようで、安心感がある。

ネクターユニットの背面。ほかのメーカーもぜひ真似してほしい施工
コンデンサーのリード部も含め、ケーブルの結線はすべて圧着で行われ、はんだを使用していない。回路に使われるマテリアルは一般的なものだけど、こういった施工にメーカーのスタンスが垣間見えて嬉しくなってくる。
ただ、しっかり圧着されているとはいえ、支持の無い導体とコンデンサーの重量が圧着部に長時間ダイレクトで加わり続ける状態というのは、そのうち引っこ抜けそうでなんとなく怖い気もする。

大丈夫なんだろうけど……
 
エンクロージャーは、前面と背面をパーティクルボードとし、ほかの面はMDFで構成している。

俯瞰
パーティクルボードは15mm厚。MDFは正確にはわからないけど約10mm程度で、スピーカーの筐体としては最小限の厚みである。内張りや補強はいっさい無い。
小型ゆえ、箱鳴りの抑制よりも容積を稼ぐことを優先しているのかもしれない。
 
吸音材は、ウーファーの後ろ側にエステルウールのシートと、天面と底面にニードルフェルトをそれぞれ接着している。

底面側
この二枚のニードルフェルトは、いずれも正面向かって左側面にずらすような形で折り曲げられており、左側面も3分の2くらいはカバーされる格好となっている。

天面側
 

整備

既存のコンデンサーの静電容量に若干の増加が見られる以外、特段の異常は見受けられない。ただ、バインディングポストはそれなりにくすんでいて、研磨しておきたい。そこまで分解するのであればということで、内部にほんのちょっとだけ手を加えることにする。
 

バインディングポスト

ネクターユニットからポスト部を抜き取る。
内側のナットを外し、ポストを抜き取ると、ユニットに円形の金属プレートが残る。これはけっこうキッチリ嵌っていて、素手では外しづらい。
今回は、ユニットの内側から千枚通しの先で押し出すようにして外す。

分解した図
研磨は、いつものように酸性洗剤に短時間浸して行う。汎用品の新しいポストを用意して丸ごと交換したいところだけど、それをコネクターユニットに綺麗に収めるための加工が手間なので、既存の研磨に逃げる。

かかる労力が全然違うからね
なお、樹脂製のコネクターユニットは、内側に型押しで"PP"とある。よく見かけるABS製ではなく、ポリプロピレン製なのだろうか。
 

内部配線、コンデンサ

ネクター部が組み上がったところで、配線を作っていく。
すべて新しいものにするわけだけど、せっかくダイヤトーン製スピーカーを整備するならということで、使用するパーツ類はすべて国内メーカー製で揃えてみる。

用意したケーブル
バインディングポストから直結のウーファーには、オーディオテクニカの「AT-ES1100」というケーブルを渡らせてみる。
このケーブルは初めて採用する。内部配線に使用するにはシースが固くて扱いづらく避けていたのだけど、今回は短距離かつネットワーク基板レスのため、支障なく施工できるだろうと踏んでチョイスしてみた。
ツイーター用には、手元にちょうどよい長さで余っていたという都合でZONOTONE「SP-330MEISTER」を引く。
コンデンサーは、PARC Audioのメタライズドポリプロピレンフィルムコンデンサー「DCP-FC001」とする。静電容量は、オリジナルと同じ1.5μF。
これらを、オリジナルとほぼ同等の方法で接続していく。圧着端子も、オリジナルを真似て使用する。

圧着スリーブなども国産品
ソルダーレスとしたかったけど、やっぱりリードが挟みこまれた部分の圧着はすっぽ抜ける心配が払拭できず、圧着後にはんだを流しておくことにする。

結線後の図。接着剤塗布はとりあえず無し
 

バスレフダクト

備前の試聴で、低音の出音に若干違和感があったので、どの程度効果があるかわからないけれど、バスレフダクトの制振を施してみることにする。
1mm厚のゴムシートを紙製のダクトに巻きつけるだけ。

幅50mmのゴムロール
巻いたシートの固定は接着剤としたけど、両面テープと併用すればよかったかも。

二重に巻いておいた
 

整備後の音

電気回路はオリジナルと同一なので、改修したあとでも音は大差ないだろうと思っていた。ところが、試聴してみるとわりと変化がある。
フィルムコンデンサーの搭載で、高音がクリアになっているのはわかる。しかし、中音域についても少し持ち上がって聴こえるような気がするのだ。

完成後の姿
このスピーカーでその帯域を担うのはもちろんウーファーなわけだけど、今回の整備において、ウーファーの回路はケーブルをOFCケーブルに引き換えただけだ。たしかにケーブルの換装で音が変化することはあるけど、ここまで如実に変わることもあるのか?
 
周波数特性を見てみる。すると、特性が明らかに変わっていることがわかる。

周波数特性(改修後)
左右ともに4kHzや6kHz付近の落ち込みが見当たらなくなっている。逆に、7kHzから8kHzにかけて少しディップが出ている。

改修前後の周波数特性
どうやらツイーター回路のコンデンサーの交換による影響が出ているようだ。コンデンサー固有の特性が、クロスオーバー付近のウーファーが担う帯域で異なる作用をしたことによる。
 
不思議なのは、特性的には持ち上がっているはずなのに、聴感上ではやや丸く聴こえることだ。整備前に聴こえていた「耳に刺さるか刺さらないか」という音が、ほぼ無くなっている。
耳につく音はウーファー由来だと思っていたけど、おそらくこれも、ツイーターの影響だったのだろう。電解コンデンサーからフィルムコンデンサーに変更したことで、電解コンデンサー特有のひずみが縮小したことや、増加していた静電容量が元に戻ったことなど、音質に複合的な変化があった結果とみる。
じつは、どうしても高音が耳につくようなら、吸音材としてフェルトを追加してみることも検討していた。その必要は無くなりそうだ。
 
そして低音。整備前の「特定の音が瞬間的に増幅する」現象は、整備後10時間以上聴き続けている現在、発生していない。
これは、バスレフダクトの制振が効いているとみていいだろう。ただ、ウーファーユニットを固定しているネジのトルクなども関係しそうだから、あまりここで断定はしないでおこう。
 

まとめ

今までそれなりに小型スピーカーを入手して音を聴いてみたけど、このスピーカーが手元に届いてから数日、なんというか「もうこれでいいんじゃないか?」という気がしている。
音階的な広がりは狭いものの、分解能の高さと空間表現のうまさ、定位感がそれを補って余りある。
個々にみても、暴れずタイトな低音、整然としながらも鳴りっぷりの良い中音、主張せず適度に華やかな高音と、欲しいものをバランスよく兼ね備えている。

ひとつの完成形と出会った気がする
さらにインテリア性にも気を配っているとあれば、エントリークラスのカジュアルな小型2ウェイブックシェルフスピーカーで、ほかになにか求めることがあるだろうか。
 
終。