いつか消える文章

本当は、ペンとノートを持ち歩くことにあこがれている。

YAMAHA NS-10M 発売当時のレビュー記事抜粋

ヤマハのスピーカー「NS-10M」発売当時の各オーディオ雑誌に掲載されたレビューから、音に関する部分を抜粋し以下にまとめる。
 
 

 

電波科学 1977.11.

Test Room 3 栗原信義

(前略)さて音質ですが、SPシステムのテストではいつも第一番にかける「ビレッジヴァンガードのビルエバンス」という、ピアノトリオのジャズレコードを聴いてみました。
(中略)
まず全体の雰囲気や臨場感の再現はすばらしいもので、各楽器の自然な定位感、音の密度の高さ、バランスといった点で、まさに、小細工をせず、正攻法で取り組んで完成された質の良いシステムであることを感じさせるサウンドです。
ただやはり当然のことながら、全体のサイズからくる限界としての低域のスケール感の面でやや不満が残るところですが、音としてはベースの最低音部まで、きちんと再現されており、さらに軽量コーン紙特有の歯切れの良い、音程のしっかりした質の良い低域を持っております。そこで試みに、ヤマハC-2(プリアンプ)のトーンコントロールで、低域を6dB程、アップしたところ、もたつきや、ブーミングはまったくなく、スムーズに低域が上昇し、このレコードに関しては、ほぼ満足できるトータルバランスが得られました。
ただしこの状態で、ボリウムを上げてゆきますと、実に簡単に、50W〜100Wくらいのパワー(ピーク値)が入ってしまいますが、音のくずれはなく、スムーズに音圧が上昇してゆきます。ウーファを見ていると、さすがにかわいそうになってきますが、あらためて、低域のパワーリニアリティの良さを確認した次第です。
(中略)
以上のことからもわかりますように、このNS-10Mは、小型でどこでもおけるメリットを最大限に活かして固い壁の前とか、コーナ、あるいは本がつまっている本棚などに入れて使うなど、積極的にバッフル効果を利用して低域のレスポンスを上げて使うのが、うまい使用法といえましょう。もしそれでもたりない場合には、トーンコントロールで低域を少しもち上げてやれば、スケール感は別といても、大型システム並みの重低音も不可能ではありませんし、それだけの可能性を持ったシステムです。(後略)
 

無線と実験 1978.1.

MJレポート マニアサイドからみた新製品レビュー 小林貢

(前略)小型のSPシステムとあってさほど期待していなかったが、まず音を出してみて驚いたのは全帯域にわたり非常に滑らかに鳴っているということである。また箱の大きさが倍に感じる程のスケール感である。
音の印象はヤマハ独特のナチュラル・サウンドといわれるものを継承しており、ゴテゴテとした装飾的なところがなくすっきりとしている。
低域はよく出ているが、ウッド・ベースの重低音となるとさすがに苦しい。しかし締まりがあり、腰くだけにならずにしっかりとしている。このあたりは低域を無理に伸ばさずに、60Hzとやや高めで切っているのが、良い結果を引き出せたのだと思う。
エレクトリック・ベースはアタックが鮮明で、フレーズ、リズムともにはっきりと聴こえる。
カラバナの音楽などは、さわやかさがあり、雰囲気満点で、このスピーカーの持つキャラクターに特にピッタリという感じである。
また、ピアノの音も張りがあり、かなりなものだ。これだけ小型であるにもかかわらず、オーケストラの音の拡がりも十分感じられるし、シカゴXのバックに聴こえるストリングスも不自然さはなく美しい。またヴォーカルも声の質が良くわかる。(後略)
 

スイングジャーナル 1978.6.

ベスト・バイ コンポーネント

菅野沖彦
(前略)コンパクトなサイズにしては意外なほど、スケールが大きく、しっかりとした芯のある音像で、明るく大らかになることだ。そして、パワーに対して大変タフで、片チャンネル300Wのアンプで、150Wぐらい入力を入れても音くずれがなく鳴り響く。といっても、決して低能率ではなく、50Wクラスのアンプで、十分なラウドネスとダイナミック・レンジが得られるのである。屈託のない効果的なサウンドは、リトル・ジャイアントと呼ぶにふさわしい。(後略)
大塚晋二
(前略)ミニサイズ・システムの使われ方を追跡調査すると、堂々とメイン・システムとして使われているのが大半だときく。こうしてみると、NS-10Mは大きすぎることはないがミニ・スピーカー・システムと呼ばれるほどに小さなシステムではない。つまり市場の製品概念からするとブックシェルフ・システムというには小さすぎるし、ミニ・スピーカー・システムというには大きすぎる。(中略)しかしNS-10Mのもつ、表現の豊かさは間違いなく一クラス上の大型システムのものだ。一貫した音楽産業を持つ同社ならではの、音楽を再生するスピーカー・システムがもたねばならぬ音質と、スペース・ファクターといういわば二次的な問題とのギリギリの妥協点が、NS-10Mの大きさに落着かせたのだろう。(後略)
 

ラジオ技術 1978.7.

話題の小型スピーカ・システム21機種を測定・試聴する

スッキリとしていて、シャープで都会的なふんい気を持ったスピーカである。若干の冷たさ、ユウズウのきかなさを感じるのは、硬質なところがマイナス面として表れているのであろう。ついてまわってフワッとふんい気を作るような残響とか余韻といった音の成分が、少し整理されてしまっているようだ。反面、余計な音が出てこないので、モニタ・スピーカ的に細かな部分まできき込みたい、という場合には適切である。ジャズなど、シンバルのピーンとした感じはうまく再生するし、りんかくもはっきりとしている。エネルギッシュなサウンドといえる。音像定位感も大変すぐれていて、ボーカルの声を張ったところなど、ノドの奥までのぞき込めるか、と思うくらいにくっきりとしていて前へ前へと出てくるようだ。(石田)
ボーカルが生き生きとしてきたような魅力あるハッピー・ボーカル・サウンドである。高域に1つの味付けはあるが、良くまとめ上げられたスピーカである。ボーカルがすなおに再生されるスピーカはとくに魅力があるものだ。少々ブラスやシンバルはうるささが残るが……。ポップ・サウンドは分離の良さがそのまま再生されたような音で好感が持てる。きれの良い低域そして中域高域は少々だがオーバー気味か。現代音楽のピアノはすごさも出て内部奏法はクリアに浮き出してくる。ルックスのわりにはスケールの大きな点が良く出されるスピーカだ。トゥィータを1ノッチさげたい感じもしないではないが、本機にはアッテネータは付いていない。打楽器はスケール感が大きい好印象の音だ。しかしここでも高域が少々きつい。(行方)
 

ステレオ 1982.4.

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藤岡誠
(前略)白いコーン紙のためなのだが、低域は小型の割に量感がある。これが本機の大きなポイントである。また、分解能力がある。これはこのコーン紙が軽く動きやすいからだ。パワーを入れると多少ソフト気味のサウンドになるが、聴きやすさを第一と考えれば問題はない。
本機も本だなに収容すると良い。ヨコ方向、タテ方向でもあまり大きな音質差は出てこない。気軽にセットして良さそうである。
定位も良く、高域はなめらか。使い勝手も良く、自由に鳴らしてみたい。小型にまとめてみたい人にはうってつけのシステムだろう。
福田雅光
ミニスピーカー時代後期に生まれた、小型ブックシェルフスピーカーだが、伸びのいい豊かな表現力を持ちロングセラーを続ける名作。生きいきとした中域を軸に、よく前に出る明瞭なサウンドが特徴になり、コンパクトながら量感の出るスピーカーである。
(中略)セッティングでは、やはり壁面などを利用してバッフル効果を生かした方が、低域の再生で有利だろう。
 

ステレオ 1986.7.

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井上良治
(前略)ほど良いサイズで使いやすく、鳴りっぷりの良さはかなりのもの。高域方向がやや優先するが、バランスも上手にとられている。 表現力が実に豊か。ボーカルをきっちり定位させる魅力もある。音をアグレッシブにほうりだし、活き活きとしたサウンドを楽しませる。
藤岡誠
(前略)これはいい音である。おだやかでスムーズ。神経質な部分がどこにもない。高域はソフトドーム独自のなめらかさ。一見ヤワに見えるウーファーから出てくる低域は実はかなりのクォリティで2ウェイとしてのバランスはみごと。ベストセラーを続けている理由がそこにある。
 

スレテオサウンド 1986. AUTUMN

S・H・C・P コンポーネント研究

(前略)一方ヤマハNS-10Mは、もはやけして新しいとは言い難い製品だが、長いあいだその良さを温めてきただけあって、今聴いてみても、そのよさは感じとることができた。生真面目なモニター風の出で立ちだが、音はけっこう耳あたりが軽い、むしろ家庭的なサウンドと聴けた。脂っ気の殆どない、多少脱脂しすぎかな、とも思えるあっさりしたタッチ。かといって水分不足の乾燥した感じはない。こうした印象は多分に音の軽さ、薄さゆえの結果だろう。パワーを入れすぎると、ピークで音がのび切らず、うるさいかんじになりがちだから、やはり中程度の音量で楽しみたい。