いつか消える文章

本当は、ペンとノートを持ち歩くことにあこがれている。

YAMAHA NS-10MX のコンデンサーを交換してみる

最近購入して気に入ったYAMAHAのスピーカー「NS-10MX」の、ネットワークに使われているコンデンサーを交換した。その備忘録。

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動機

先日中古で購入して、一聴して好みの音を奏でたYAMAHAのパッシブスピーカー「NS-10MX」。

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そのまま聴いていても違和感は無いのだけど、30年前の製品である。ネットワークに使われているコンデンサーが劣化していれば音質も変化してきているだろうし、いつかは交換しなければならないと思っていた。劣化の程度がわからないので、出音がいつ狂ってもおかしくはない。なるべく早めに済ませて起きたい。

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改修前のNS-10MX
とはいえ、作業にははんだ付けを伴う。いきなりドライバーユニットを開けてはんだごてを当てるのにも勇気が要る。別の安いスピーカーを練習台にして、ある程度感じを掴んでから手を入れたかった。

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不安をそこそこ拭ったところで、初めてのネットワークメンテナンスに挑んだのだった。
 

用意したもの

工具

  • 六角レンチ
  • ボックスレンチ
  • プラスドライバー
  • はんだ工作道具一式
  • 電工ペンチ
  • ボンド
  • マルチテスター

換装パーツ

保護具

  • ビニール製手袋
  • マスク
 

作業

ドライバーユニットの取り外し

NS-10MXは2WAYスピーカーである。二つのユニットどちらとも、六角穴の小さなネジ4本でエンクロージャーに留まっている。
穴は対辺3mm。棒レンチのような力を入れやすいものがよい。

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ウーファーのネジ
このスピーカーはウーファーから外すと、ツイーターを外す際にエンクロージャーの内側に手を入れられるので作業が容易になる。
 
ウーファーを取り外すと、吸音材のグラスウールがどっさり出てくる。できることなら屋外で作業したいところだけど、そんなスペースはないので部屋内で静かに行う。

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ウーファーユニットを持ち上げた状態
手袋、マスクは必須である。
 
ツイーターの前面プレートは樹脂製。ビス穴すべてにクラックがあった。

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これは仕方がないのかもしれない

ワッシャーで大体隠れるので見てくれは気にならないけど、ボルトを締め直す際に力加減に注意。

 
ツイーターユニットとエンクロージャーの間には、極薄いシートが挟まっていた。これは再利用する。

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なお、ウーファー側には無かった
各ユニットはケーブルを切り離し、いったん退避。その際、スピーカーに接続されているケーブルの極性を確認しておく。写真に収めるか、ユニット本体に書き込んでしまってもいい。
 
NS-10MXは前モデルと異なり、ツイーターユニット前面に保護ネットが無く剥き出しなので、置く際に誤ってドームを潰さないよう注意。

吸音材を取り出す

エンクロージャー内部から大量のグラスウールを引っ張り出す。
グラスウールはある程度束になっており、内部側面3束、中央に1束収まっている。ネットワーク取り外しだけなら、中央の1束だけ取り除けばアクセスできる。

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奥に見えるのがネットワーク基板
本来なら扱いにくいグラスウールから別の材質の吸音材に取り替えたいところだけど、金欠につき今回は断念。
取り出したものは再利用するので、適当な段ボールに寝かせておく。

ネットワーク基板を取り出す

スピーカーの要となるクロスオーバーネットワークの組まれた基板は、ウーファーの真後ろにエンクロージャー内部で6本のボルトにより固定されている。ボックスレンチのような柄の長い工具を利用して、筐体の外側からナットを回すと作業しやすい。
ナットは、対辺7mm。

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この長さでギリギリ

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背面からのアプローチは基本できない
基板はバックプレートと一体になっている。エンクロージャーから取り出すと、バインディングポストも一緒に抜けてくる。

既存パーツの除去

ネットワーク基板を取り出したら、既存のパーツを取り除いていく。

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既存のネットワーク俯瞰
ケーブル
ケーブル類を外していく。
作業前に写真を撮っておくと、復旧の際に確認できて便利。
 
すべて端子にはんだ付けなので、はんだを熱して溶けたところを引き抜く。既存のはんだを吸取線などである程度はんだを抜いたほうが外しやすい。

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ヤニが大量に出てくる
使用したはんだごては40Wのヤツだけど、結構長い時間熱していないと古いはんだが溶け出してくれなかった。
コンデンサ
コンデンサーは3点。すべて基板に接着されている。
マイナスドライバーなどを挿し込み、てこの原理で引き離す。あとは、ケーブルと同様に脚を引き抜く。

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コンデンサーの両脚を切断してから剥がした状態
古いコンデンサーを保管する目的がないのなら、先に脚を切ってしまうほうが作業はしやすい。
なお、今回はコイルは再利用するため、そのまま。
 
基板にプラスネジで留まっているケーブルターミナルがガタついていたため、ドライバーでネジを締め直す。
 
基板に古い接着剤が残るけど、除去が大変手間なのでそのままにした。ただし、新たに乗せる接着剤が付きにくくなるデメリットはある。

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対象物をすべて除去した状態

既存コンデンサーの容量

増えてる……?
今まで付いていた古いコンデンサーの静電容量をテスターで計測してみる。
すると、ツイーター側の灰色の大きなコンデンサーは、容量が抜けているどころか逆に増えていた。
規定は2.7μF。4つあるうちの3つが約3.3μF、ひとつが約3.1μFを示した。

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容量が増えるってこともあるんだな……
規定より値が高いということは、ツイーターのクロスポイントの周波数が下がっていたということだ。ツイーターが担う音域が設計した意図よりも下に広がったのだから、ウーファーが出す音とラップする周波数帯が広めにとられていたことになる。
多少なりともオリジナルの音から離れていたわけだ。
 
ちなみに、ウーファー側の電解コンデンサーは、規定と同じ値だった。一番劣化を心配していたヤツだったけど、まだ大丈夫だったみたい。
新しいコンデンサーの容量
ここで、新しいコンデンサーを用意するにあたり、以下の選択肢が発出する。
  • 既存の容量と同一にする
  • オリジナルの容量と同一にする
コンデンサーのスリーブに記載されている値と同じ容量のコンデンサーを用意するのがセオリー。ただ、既定の容量と異なるとはいえ、今までの音が気に入っているならば、あえて計測値に近い容量のコンデンサーを組み込む手もある。

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オリジナルのコンデンサーたち
とりあえず今回は、既存と同じ容量のコンデンサーを購入した。
如何せん、このスピーカーの新品当時の音を知らない。今の音も好きだけど、少しでもオリジナルに近づきたい気持ちが勝った。

新しいパーツ類

コンデンサ
今回積み替えるコンデンサーは、すべてフィルムコンデンサーにした。
ツイーター側は、JantzenAudioのCrossCapシリーズ。

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チョイスの理由は、2.7μFという若干マイナーな静電容量を製造しているメーカーのうち、秋葉原のコイズミ無線でたまたまセールをしていて安かったから。インターネットで上がっている先駆者様の情報を見ても、割と定番のコンデンサーのようなのでちょうどよかった。
 
本当はこちらもJantzenAudioで揃えたかったのだけど、該当の容量はちょうど売り切れていた。だったらAmazonで手に入るヤツでもいいや、ということで2個セットのものを購入。
ただ、よりオリジナルに近づけるのなら、ウーファーコンデンサーはオーディオグレードのアルミ電解コンデンサーにするべきだったかもな、とも思う。

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新しいコンデンサーたち
ケーブル
配線に使うケーブルは、ホームセンターで切り売りしていたVFFケーブルの1.25sq。
特に拘りはない。なんの変哲もないビニールケーブル。色分けだけしたかったので、4色をそれぞれ2mずつ購入。

バインディングポストの交換

今回は手を入れるつもりはなかったけれど、既存のバインディングポストの固定が甘く、背面のキャップを回すとターミナル自体も一緒に回ってしまう状態だったので、急きょ交換することにした。
おそらく経年変化で基板の樹脂が痩せて緩まったのだろう。
ナットは、対辺8mm。

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接着剤が付いているけど、動いてしまう
どうせならバナナプラグに対応したでっかいヤツを付けてやろう、ということで、秋葉原ラジオ会館に行き、トモカ電気でバラ売りしている安いバインディングポストを手に入れてきた。

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手前が新しいバインディングポスト
たしか1個520円。外見は良いのだけど、ネジの精度がイマイチで、モノによってガタガタだったりキツキツだったりする。
購入の際によく吟味しないといけなかったんだな。失敗。
 
基板側の補強を兼ねて、ワッシャーも購入。ユニクロメッキで、穴のサイズはインチネジの7/16相当。

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左右合わせて8枚入手
基板の穴を適当に拡大させて、ワッシャーを挟んでナットで締める。
ナットは対辺12mm。

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はんだごてで溶かした

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結構しっかり固定できた

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見た目にも違和感なし
ケーブルを配線後に、念のためボルトナットに接着剤を塗布。

組み込み

コンデンサ
基板に乗せていく。まずは接着が必要なコンデンサーから。
並列で接続するJantzenAudioの二つは、先にコンデンサーどうしを接続してから、ターミナルにはんだ付けする。
それが済んだら、コンデンサー本体を基板に接着して固定する。接着には、セメダインの「スーパーX」を使用。 ホットボンドでもいいのかもしれないけれど、設置面に古い接着剤が残っていて強度が不安なことと、固まっても少しだけ弾性があって振動に強そうだと思い、スーパーXにした。
 
また、10μFのフィルムコンデンサーが体積的に既定の場所に収まらないため、基板の空いている場所に接着剤で無理やり固定した。
配線
接着剤が固まったら、ケーブル類をはんだ付け。

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改修後のネットワーク俯瞰
反省点としては、バインディングポストの巨大化と10μFコンデンサーの配置変更により距離が近くなった箇所に、何かしらのショート防止策を施したかったこと。問題ないとは思うけど。
さらに言えば、手を入れる前の写真を確認しながらの作業なので間違えることはなかったけれど、この程度の配線ならはんだ付けではなくて圧着してしまってもよかったかもしれない。
 
ネットワーク基板から各ドライバーユニットまでのケーブル長は、既存がいずれも約25cmだったので、それに倣った。

ネットワーク基板と吸音材の取り付け

リケーブルが終わったら、基板をエンクロージャー内に戻していく。

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ネットワークの上にグラスウールを1束置く
テンモニは吸音材のグラスウールが音を吸い過ぎてしまっているため、量を減らしたり別の素材に替えたりする改修が有用みたいだけど、とりあえず今回はすべて原状復帰させた。

ドライバーユニットの取り付け

ツイーターユニットとエンクロージャーの間に挟む薄いシートを、エンクロージャー側に固定する。
シート自体が伸びてシワシワになっていたため、適当に切断してサイズを調整した後、エンクロージャー側に接着剤を薄く塗って張り付ける。

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スーパーX付属のヘラで薄く伸ばす

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シートを張り付けたところ
ネットワークからのケーブルの極性をよく確認し、ユニットの端子にはんだ付け。
ユニットを筐体にネジ留めし、片側のメンテナンス完了。

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完成!
同じ作業を、もう片側のスピーカーにも施す。
 

意図せずバナナプラグに対応してしまったので、メンテナンス後はケーブルもリニューアル。以前中古で手に入れたものの出番がなかったバナナプラグが付された「K-102」という極太ケーブル。

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メーカー不詳のケーブル。YAMAHA製?
アンプはYAMAHAのAVレシーバー「RX-S602」を「ダイレクト」出音。
インシュレーターは1.5cm角の黒檀サイコロ3点支持。
音源はCDやパソコンからの圧縮音源などさまざま。
 
メンテ前と比較すると、高音から低音まで、かなり平坦になった。元々クセの少ない機種ではあるけど、それに磨きがかかった感じ。
音の傾向としては、ボーカルがかなり前に出てきた。ローカットコンデンサーの静電容量が変わってクロスオーバー周波数が上がったせいだろうか。
最近リファレンスとして再生しているスピッツの「見っけ」では、ボーカルの草野マサムネの声がここまではっきり聞こえるのは、パッシブスピーカーでは初めての経験かもしれない。
南壽あさ子の繊細な歌声も、ウェットになり艶めかしさが加わった。 また、パソコンによるWASAPIの再生とWindows標準再生との違いがより明確になった。これは、捉え方によってはデメリットかもしれないけど。
うまいこと耳が慣れてくれるといいな。
 
ただし、改善といえるのは今のところそのくらいだ。音が変わって気になる点もある。
まず、高音が若干耳につくようになった。特にCD音源の際に、シャリシャリとまではいかないまでも一瞬だけカリカリすることがある。圧縮音源ではさほど気にならない。コンデンサー固有の特性なのだろう。あるいは、ツイーターが受け持つ再生周波数帯が減少したことで、高音の能率が上がったのかもしれない。ポテンシャルを発揮したともいえる。
また、中音域のスピード感が下がった。音自体はクリアーになってそれこそクセのない音になったけど、以前のパンパン前に出てくるようなヌケの良さは控えめになった。これもウーファー側のハイカットコンデンサー交換の影響なのか。ツイーターと異なりこちらは換装前後で容量は変わらないものの、元はアルミ電解コンデンサーだったものがフィルムコンデンサーに変わっている。
 
定位や音場に変化は感じられない。低音が出ないのも相変わらずである。
 
よりモニタースピーカーっぽくなったといえばその通り。だけど、リスニング用途としては、無味無臭なってつまらなくなってしまったともいえる。 
 
 

まとめ

これはいわゆる「沼」だ。
コンデンサーの交換で結構音が変わってしまった。それを知ってしまったので、ここから好みの音を追求していくのなら、また今回のような作業をたどって内部の改修を施さなければならない。
深追いしてはいけないし、そこまでする気力も今のところ湧かない。
 
その上で、もし今後手を加えるとしたら、または別の機種でも同様の作業をする機会があったら、次のことを念頭に置くかもしれない。
  • コンデンサーは、必ずしもフィルムコンデンサーである必要はない
  • ケーブル接続はスリーブなどによる圧着が可能であれば、そちらを優先
とはいえ、なんにしてもまとまった時間の確保と資金が必要なので、おいそれとできるわけではない。しばらくはこのままオールフィルムコンデンサーのNS-10MXを聴いていることにする。

jp.yamaha.com

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改修後のNS-10MX

終。
 
(以下資料)

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