いつか消える文章

本当は、ペンとノートを持ち歩くことにあこがれている。

KENWOOD S270 をメンテナンスする

ケンウッドのブックシェルフスピーカー「S270」が手元に届いたので、整備してみた。その所感。

リアルウッドホーン

自分の扱う小型ブックシェルフスピーカーとしては、高級な部類のものが手に入った。ケンウッドのS270というスピーカーだ。

KENWOOD S270
1997年に「K's Esule」シリーズのスピーカーとして登場したもの。小型ながらCDプレイヤーとチューナーが一体となったアンプ「K270」が税別16万円という、いわゆる高級コンポーネントの一角である。
このS270もペア9万5千円。小型オーディオとは思えない、結構なお値段だ。
しかし、このS270やK270をベースにした「K's Esule Silver Signature」というモデルも存在し、そちらはまさしく伝説級のお値段だという……。
さておき、いの一番に目を引くのは、ツイーターに取り付けられたホーンだろう。天然木で、なんと手作りだという。
手作りといっても、おそらくある程度は機械で削り出してから仕上げを手作業、といった感じだろう。それでも全体的にゆったりとした曲線が描かれ、有機的で温かみを感じるものとなっている。

内側から膨らむような曲線を描いている
素材はハードメープル。ギターのネックや野球のバットなどにも使われる硬質な木材。
量産するのは難しいだろう。この部分だけでも相当なコストがかかっているとみえる。
 
天然木といえば、エンクロージャーの外装も前面を除きすべて突板仕上げとなっている。

側面と背面
こちらも、縞模様の杢目が散りばめられ、光の反射の具合で美しく輝く。部材を厳選しているのだろう。

ここまで綺麗な突板は、他所ではあまり見れないのではないか
材質はわからないけど、ホーンと比べると若干赤みが強いので、メープルではないのかもしれない。とすれば、色味的にマホガニーあたりだろうか。
 
天然木がふんだんにあしらわれた外装ではあるけど、前面バッフルだけは対照的に、アルミダイキャストである。浅めのシボ加工に、マットな黒に近いグレーの塗装が施されている。
先述のウッドホーンは、このバッフルに乗っかる形となっている。バッフル全体も曲線で構成されており、メーカーはこれを「DDD(Diffused Diffraction Design)バッフル」と呼んでいる。鋭角な部分を減らし、ドライバーの位置を適切にすることで、回折波を分散させる狙いがあるらしい。
バスレフダクトを含めた前面のほぼすべてが金属であるため、当然ながらけっこうな重量がある。

口を開いたような楕円のポート
ウーファーはエッジのロールがやや大きめの12cmコーン型。
エッジが柔らかそうに見えるけど、手で押してみても想像ほどダンピングせず、一般的。
 
前面部に各ドライバーユニットを固定するネジ頭が見当たらない。これは筐体内部で固定しているからである。
 
このスピーカー、背面の銘板を見ると、「L」と「R」の表記がある。

背面。ラベル右上に各々「L」と「R」がある
てっきり左右とも同じ形状をしているものと思っていたけど、区別するものがあるようだ。何か違いがあるのかと探してみたところ、ウッドホーンの形状が左右対称になっていることを発見。

Lのホーン

Rのホーン
わかりづらいけど、ドーム中央部からホーンの外周部までの傾斜の具合に差異を設けて削られており、その削り方が左右で逆になっている。
微妙な差。これもDDDバッフルの設計のひとつらしい。拘りがうかがえる。
 

音のバランスは、中低音を重視するものとなっている。
 
低音は重心低めのどっしり構える鳴り方。割と下の方まで出ていて、安定感があり安心して聴いていられる。
同じケンウッド製で低音重視のブックシェルフスピーカーである「LS-1001」と比較してみると、あちらの量感たっぷりの主張する低音とは異なり、S270は容積なりの共鳴音をクリアーかつ上品に鳴らす印象を受ける。
しかし、時折下のほうから凄むような低音が出てきて「おお」となることもある。堅牢な金属製バッフルの影響だろうか。
 
中音域は、表現するのが難しい。
パースはあまり感じないのだけど重厚感があって、単独でミッドレンジドライバーが存在するような音の広がりがあるのに耳に届く質感はむしろ点音源に近いというか、そんな感じ。厚みの付け方が独特、というべきか。
音自体は硬めだけど、ニュアンスが少し甘めなためか、そこまで冷たく感じない。
トランペットなどの金管楽器が艶っぽく鳴ってくれるので心地よい。倍音の表現が上手いのだろう。
反面、特徴的な厚みがやや煩雑に聴こえることもある。そのせいかボーカル曲の場合、特に女性ボーカルは音域とタイミングによってはかき消されることがある。ここは整理してみてもいいところ。
 
高音は、ほかの音域に比べると控えめ。変哲もないソフトドームらしい質感。
しかし、なんとなく意図的に抑えているような鳴り方だとも思う。LS-1001のように、アッテネーターでガッツリ落としている可能性もある。
 

分解

中身を見ていく。
エンクロージャーの背面に8点の皿タッピングネジがあり、それを外すと内部にアクセスできる。

背面を開けた図
できればここはタッピングネジではなく、ナットを埋め込んでミリネジにしてほしいところではある。
 
背面のバッフルの裏面に、クロスオーバーネットワーク基板がネジ留めされている。

背面裏の図
基板は2枚ある。スピーカーターミナルユニットの裏面にあるのがツイーター用。そのすぐ隣にスペーサーで浮かされてバッフルにネジ留めされているのがウーファー用だ。両者間には青黒の短いケーブルが渡っている。
 
基板とケーブルは平形端子で接続されているため、着脱が容易。ケーブル側の端子には熱収縮チューブがあてがわれているのが好印象。

丁寧な仕事
基板を見る。
コイルはすべて有芯。ウーファー用の1.5mHのコイルが巨大で存在感抜群である。銅線が太く、直径1.5mmある。

ネットワーク基板表裏
コンデンサーはすべてELNA製の電解コンデンサーが用いられている。
ツイーターのHPF用2つはネットワーク用の「LZ」シリーズ。ウーファー用の12μFは、おそらく特注品。

いいヤツ使っているっぽい
抵抗器も見たことない形のものが使われている。酸化金属皮膜抵抗だろうか。

これ、どこかで手に入らないかな
回路的には、複雑なことはしていない。

ネットワーク回路
予想に反して、ツイーター側にアッテネーターはあるものの、特別強めにしているわけではなさそう。ただ、単発で3Ωとせず、あえて5.6Ωと6.8Ωを並列させて作っているあたり、緻密に音を作り込んでいるとみえる。
 
エンクロージャー側を見る。
内部は、コの字型に折り畳まれたウールシートが3つ収まっていて、かなり吸音している。

2つ外すと、奥にもうひとつある
吸音材をすべて外すと、前面バッフルの裏にある金具が現れる。「UR(Unified Rigid)マウント」と呼ぶらしい。

これもアルミ製
ウーファーとツイーターは、この金具とバッフルの間に挟まれるようにして固定されているのである。
この金具、なんとアースが施されている。ウーファーに接続するケーブルのマイナス側の端子からアース用のケーブルが分岐している。

めずらしい処置だ
パッシブスピーカーでこの処置をしているのは初めて見る。
ここの意図はわからない。大きな金属のプレートに接続すると逆にノイズが乗りそうな気もするけど、電気的、あるいはオーディオ的になにか優位になることがあるのだろうか。
 
8つのミリネジを外すと、金具は容易に持ち上がる。

この小さな金属片は失くさないよう

金具を取り出した図
金具はバスレフダクトの延長も兼ねており、妙な造形をしている。およそスピーカーのパーツには見えないけど、確かにこのマウント方法ならタッピングネジよりも堅固だろう。コストが跳ね上がるのも間違いないけど。
ウーファーとツイーターが密着する面には、それぞれグリスが塗られている。接点の保護用と思われる。

金具裏面。白いものがグリス
これは再装着の際に塗り直すので、今のうちに拭き取っておく。
 
この段階で、ツイーターはそのまま外すことができる。ただしウーファーと前面バッフルは、さらに接着剤で固定されているためこのままでは取り出せない。今回はさしあたり不具合も無いので、ウーファーと前面バッフルはそのままにしておく。
また、ツイーター周辺の4つのネジを外すとバッフルからホーン部が分離できるようだけど、こちらも弄らない。
 
ツイーターのドームには、なにやらコーティングされていて、それが劣化してボロボロになっている。

ヒビだらけのドーム
アルコールを浸み込ませた綿棒で撫でると、簡単にポロポロと剥がれてしまう。ウレタンコートだろうか。
何か別のものを塗ろうにも代替案がないので、そのままにする。いっそ、すべて剥がしてしまってもいいのかもしれない。
 

整備

配線

今回は新しいケーブルの準備から始める。
各ドライバーユニットに接続する配線はもちろん、セパレートのネットワーク基板間の渡りもすべて引き換える。
 
用意したのは、BELDENの「STUDIO 708EX」。

OFHCケーブル
チョイスの理由は、音質的なことは別段無くて、無難でとりあえず信頼しているから。今回は既存と同じようにするため、端子部を覆う熱収縮チューブも一緒に購入。
また、アース線も作らなければならない。適当なビニールコードにクワ型端子を取り付けて、ウーファー接続側のマイナス側のメス端子から分岐するように圧着。この施工もオリジナルの真似。

オリジナルは丸型端子だった
熱収縮チューブは3cmくらいで切り出して使う。
 
今回は一応ケーブルの色の指定基板に印字されており、それに合わせて赤と青の印を絶縁テープで目印とする。赤がツイーター。青がウーファーだ。
この赤と青の色分け、製品によっては逆のことがある。青線がツイーターで赤線がウーファーであるケースだ。どちらかというと自分はこの認識があり、2芯導線を引き直す際はたいていそのようにしているので、接続には細心の注意を払う。

やっとできた
ケーブルが完成すれば、あとは接続するだけ。
 

金具

グリス
各ドライバーを固定する金具とドライバーユニットの接触面にはグリスが塗られているので、ついでに塗り直しておく。
使用するグリスは安いシリコングリスでいいのだろうけど、メカニカルキーボードの潤滑材として用意しているPermatexの「PTX22058」が手元に大量に余っているので、今回はそれを利用する。

まさかここで使うことになるとは
金具の接触面に適当に塗る。これは後になって気付いたことだけど、この塗り方だと金具をエンクロージャーに組み込む際にケーブルが触れるなどして汚れやすくなるので、金具ではなく各ユニットのほうに塗布するべきである。

ツイーターに塗った図
ダクトの接合
バスレフダクトの接合部に、シーリングとして接着剤を塗っておく。接着剤を綿棒で少しずつ掬いつつ、隙間なくやや多めに盛り付ける。

こちらは、作業性優先で金具側に塗る
使用したのはセメダインの「スーパーX」。適度な粘性があり、硬化後もシリコンのような弾性があるので今回の用途に合う。
固定
金具を元の位置に固定する際は、事前にウーファー部のすぐ脇にある空間にケーブルを通しておく。グリスや接着剤が付着しないように注意を払う。

アース線もここを通る

組み込んだ図
 

スピーカーターミナル

スピーカーターミナルのユニットは汎用的なものが使われている。異常が無ければ研磨して再利用するところだけど、作業時間が押しているので、ポスト部のみ新しいものに交換してしまうことにする。
新ポストは、最近よく使用する金属製三角ナット型のキャップのもの。

新しいポスト
プラスとマイナスの物理的な間隔が近いので樹脂製キャップにしたかったけど、今回は見た目重視でこちらを採用。

程よいケレン味があって好みではある
ネットワーク基板との接続は、ポストから伸びるケーブルバインド部を直接基板に挿し入れてはんだ付けする方法が採られている。これも当初は特に弄るつもりはなかったけど、後々音質比較のために基板へのアクセスが必要になってくると不便に感じたため、平型端子で着脱できるように変更する。

空間を得るため、ユニット側のスタッドをM3スペーサーで延長している
 

ネットワーク

既存のコンデンサ
クロスオーバーネットワークは先述した通りで、あまり変に弄りたくない。ただ、ツイーターのHPFに用いられている電解コンデンサー2つが、容量が増えていることを確認。すべて2.8μF前後になっている。

もう一つのスピーカーもこんな感じだった
許容差10%を逸脱しているのでおそらく劣化によるものだろうけど、それを2個並列で使っているおかげで誤差の広がり方も大きい。「2.2μF×2=4.4μF」から「2.8μF×2=5.6μF」では、さすがに音のバランスも変わってしまう。
もしかしたら、中音域がやや煩雑に聴こえるのは、ここの静電容量の変化が影響しているのかもしれない。直感だけど、あまり下の方まで再生できるツイーターには見えないんだよな。
 
よって、2.2μFのコンデンサーのみ交換してみる。
ちなみに、ウーファー並列の12μFの電解コンデンサーは、許容差内に収まっていた。
換装1回目
ちょうど手持ちにEROの「MKT1826」が4つあったので、それを基板に乗せてみる。ちょっと古めのメタライズドポリエステルフィルムコンデンサーである。

ERO MKT1826 2.2μF 50V
誤差が一番大きいものでも2.3μFで、だいたい2.2。それらをふたつ合わせてほぼ4.4μFとする。

けっこう小さいな
今回は、整備前のスピーカーと交互に音を出しながら、オリジナルの音の雰囲気に近く、かつ中音域が整理されるような組み合わせを目指す。
 
音を出してみると、中音域がスッキリして明瞭になった。やっぱり静電容量の増加が音に影響していたようだ。ただし、音の厚みは減少した。音数も減っているようで、ちょっと痩せすぎかな、という印象。
しかし、それ以前に、なにやら高音域がシュワシュワして違和感がある。音像が定まらず、聴いていて気持ちが悪い。
一応、周波数特性を見てみる。整備前のR側と、MKT1826に交換したL側。

換装1回目の周波数特性
静電容量が減ったぶん、7kHzあたりから下にかけて減衰量が微妙に増えているように見える。シュワシュワの原因はよくわからない。
ちなみに、低音域の波形が両者で異なっている。これは、3つある吸音材のうち、バスレフダクト付近のひとつを誤った向きで配置し、ポートを塞いでいたためである。
正しい向きは以下の写真のとおり。

コの字型のウールをこの向きで挿入する

収めた図
換装2回目
MKT1826は相性が悪いのだろうと判断し、別のものを組み込んでみる。
今度は、電解コンデンサー3.3μFとフィルムコンデンサー1.5μFの組み合わせ。オリジナル同様に電解コンデンサーを採用し、中音域に張りを持たせる狙い。
電解コンデンサーはPARC Audio謹製、フィルムコンデンサーはMONACORのメタライズドポリプロピレン製だ。

コイズミ無線で入手
また、静電容量を少し増やし、合計4.8μFとする。これは、おそらくこのくらいの値が、オリジナルの電解コンデンサの新品当初の実測に近いのではないか、と推測するためだ。
「2.2μFの許容差10%=約0.2μF」、「2.2μF+0.2μF=2.4μF」、「2.4μF×2=4.8μF」。

どうせなら、スリーブの印字の向きを揃えればよかったな
音を出してみると、シュワシュワ感は無くなり、想定通り中音域がある程度前に出てくる。雑然とした音色も落ち着いて、高音のボーカルが埋もれず明快に聴こえてくる。バランス的にはこのくらいでいいのではないか。

換装2回目の周波数特性を追記
周波数特性的には、前回とほぼ同一。ツイーターの3kHzあたりから7kHzまでの音域について、若干傾斜が緩やかになっているように見えなくもないけど、誤差の範疇という気もする。
しかし、未整備のR側のスピーカーの音と聴き比べると、まだ差異がある。0.5μFの増加ではたいした変化は無いのだろうか?
音色の差
このあたりでなんとなく様子がおかしいことに気付き始める。
備前の音が気になってきたので、元に戻してみる。すると、この状態でもLとRで音色の雰囲気に若干の差があることに気が付く。ほんの僅かだけど、L側のほうが高音域が穏やかで暗いように感じる。
どうも、このペアは入手時から差異があったようだ。ステレオで鳴らすとほぼ判らないけど、単品で聴き比べると判る。
 
それを踏まえて周波数特性の波形を再度見てみる。
音色の暗いL側のほうがツイーターの受け持つ周波数帯の出力が数dB低いようにみえる。ただ、有意な差であるかというと微妙なところだ。それこそ誤差っぽい。
R側にも同じ整備を施し、波形を重ねてみる。

改修後の周波数特性
ますますわからなくなってしまった。3kHzを超えたあたりから6kHzまでの、聴感で比較的しっかり聴こえる部分は、整備後はむしろL側のほうが出ている。どういうことだろう。
なにか別の方法で厳密に測定できる環境であれば、この問題の原因が判るのかもしれないけど、とりあえず自分の環境では、これ以上追及できない。
 

まとめ

経年による劣化か、はたまたユニットの個体差か、定かではない。ただ、ケンウッドのスピーカーは、比較的新しくてもユニットが故障しているものに出会う頻度が、他社製品と比べて高い。偶然かもしれないけど、ていねいな造りや心地よく聴かせる音作りが上手いのも知っているので、残念なところである。

整備後の姿
この記事を作成している最中も、AVレシーバーに繋いで様々な音楽を鳴らし続けている。黒檀サイコロによる三点支持のインシュレーターで、L側のスピーカーのすぐ左に壁が来るように配置して、反射音を利用して聴感上のバランスを保つことをしている。何ら問題なく聴けている。
 
このスピーカーも、いつか手放すことになるのだろう。それまで、この贅沢なスピーカーの音を堪能しておくことにしよう。

なかなか聴ける機会もないしな
終。