いつか消える文章

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DENON SC-CX101 をメンテナンスする

デノンのブックシェルフスピーカー「SC-CX101」を整備してみた記事。

 

素性

2006年ごろに登場した、小型ブックシェルフスピーカーである。
デノンは1980年代に「SC-101」というスピーカーがヒット作となっており、本機はそれを意識したであろう型番の付け方となっている。
正確な時期はわからないけど、このスピーカーも2010年代まで発売されロングセラーとなっていたようで、中古市場でもそこそこ流通はあるものの、それなりの価格で取引されている。

前面ネットを付けた状態
新製品だった当時、このスピーカーを家電量販店のデモ機で聴いて、かなり好みの音だったことを覚えている。高級ミニコンポのスピーカー部として繋がれていた本機は、ほかのスピーカーと聴き比べても、音自体が一歩前に出ていて輪郭がきちんとわかる音色だった。それまであまりスピーカーに関して気に留めていなかったのに、この試聴をきっかけに興味を持つようになったのだ。高くて買えなかったけど。
 
個人的に思い入れのあるスピーカーである。このたび、ようやくある程度の状態を保ったものをオークションで競り落とすことができた。
 

外観

同時期に発売したSC-CX101の廉価版ともいえるスピーカー「SC-F102SG」と比較しながら見ていく。
エンクロージャーはMDFを芯材とした総突板仕上げとなっている。
SC-101では暗いグレーを基調とした割と「AV機器」っぽいデザインだけど、こちらは天然素材を全面に張った仕上げで、高級感がある。

背面と側面
寸法も異なる。SC-101と比べるとSC-CX101は一回り小さい。よりデスクトップ向けといえる。ただし、重量は1本あたり5kg以上あり、ズッシリとしている。
また、SC-F102SGでは前面バッフル部に杢目がハッキリ表出している木材で、それ以外の面では模様がほぼ無い部位を使用して切り替えているけど、こちらは全面に渡り同一素材で、遠目で見てもそれとわかるほど杢目がくっきり浮かんでいる。

天面

側面
やはりこのくらいになると、製品としての所有感が高い。半つや程度に抑えられた仕上げも、落ち着いていてよい。
背面のバスレフポートも、開口部がホーン型に加工してあって、手間がかかっている。

美しい
ウーファーは、一般的なラバーエッジにセンターキャップの無い皿形の振動板の組み合わせ。グラスファイバーで編まれているらしい。
この振動板も、「DDLDENON Double Layer)コーン」というデノン独自の技術で二層になっている。
 
ツイーターはシルク製ソフトドーム。表層になにか塗られており、質感はビニールに近い。

ツイーター正面
そして、スピーカーターミナルは、バイワイヤリング接続対応の大型のものが搭載されている。

ショート線は付属していなかったので、仮のもの
ポスト部は透明樹脂製のキャップで、汎用的なものよりもやや大型なものが採用されている。そのため、埋込型ユニットでありながら、背面の面からポストの頭がはみ出ている。筐体が小型なので、異様なまでの存在感だ。
 

音を聴いてみる。
アンプはヤマハのAVレシーバー「RX-S602」。
なお、本来はバスレフポートを塞ぐスポンジが付属するようだけど、今回到着したものには無かったので、開放状態で鳴らす。
 
フラットなバランス。SC-F102SGではややドンシャリ気味だったけど、こちらはさらにフラットに近い。
低音は量感があり、余裕を感じさせる鳴り方。これは、このサイズのスピーカーではなかなか出せない音ではないかと思う。けっこう低い音まで聴こえる。
中高音は、高めの中音域に少し癖があるような感じだけど、尖った部分が無く聴きやすい。
横方向の音場が広め。奥行き感は平均的。重心が低めで、安定して聴こえる。定位感や解析力は高くなく、どちらかというと雰囲気重視の音作りだ。
アクティブであってほしい音はちゃんとそうなるし、どんな楽曲も無難に聴かせてくれる。鳴らせる範囲をきちんと響かせる。
 
音自体は素直で、適度に艶っぽい感じもあって良いのだけど、なんというか「整えられら音」という印象を受ける。あまりに平坦すぎるというか、「不自然さが無いところが逆に不自然」みたいな音色だ。
それは、最近までダイヤトーンの「DS-155AV」とかJBLの「A520」のような「元気いっぱいストレート一直線」みたいなスピーカーで聴いていたから余計そう感じるのだろう。言ってしまえば、耳が毒されているのだ。
とはいえ、透明感とか押し出し感がもう少し欲しいと思う場面もあるのは確か。
 
周波数特性を見てみる。

周波数特性
聴感と一致する。また、波形もSC-F102SGとよく似ている。
 

分解

中身を見ていく。
ユニットを固定しているネジは、すべて六角穴のタッピングネジ。スピーカーターミナルユニットのネジも六角穴のネジが使われているのはめずらしい。

皿ネジタイプ
各ユニットと筐体の接触部には、近代のスピーカーでもよく見かけるパッキン用のグレーの発泡シートが挟まっている。しかし、ここにさらに黒いゴム製の接着剤が塗られており、ネジを外してもユニットが固着して外れないことが多い。
対処としては、ウーファー、ツイーター、スピーカーターミナルのうち外れやすいものを見つけてゆっくり少しずつ動かしていくしかない。

ウーファーを外したところ
筐体の気密に対してかなり気を遣っているとみえる。
また、この接着剤は劣化してボロボロのうえにベタベタなので、周囲を汚さないよう作業台を頻繁に清掃する必要がある。
 
エンクロージャーで目を引くのは、ウーファー背面に流れる補強材だ。

俯瞰
ここは、ウーファーユニットを固定すると、マグネット部が当たるような位置にある。筐体自体の補強というよりは、ウーファーの振動をハコ全体で受け止める意図で設けているのかもしれない。
このような筐体内部でウーファーを保持する方法は、パイオニアのスピーカーでも採用されていた。
エンクロージャーに使われている板材は、厚めのものが使われている。前面バッフルの一番薄いところでも1.6cm、厚い部分で2.0cm以上。その他の面は正確にわからないけど、少なくとも1.5cm以上はある。
また、天面部と両側面の上半分には、5mm厚のMDFが接着され、さらに厚みを増している。

筐体の上半分
ユニークなのは、筐体内部にもラワン材のようなものが全面に張られていること。内張りまでしているスピーカーは初めて見る。
わざわざ異なる木材としているのは、補強のほかに音質的な調節も兼ねているのだろうか。
 
吸音材は大半がフェルトシート。底面部、ウーファーのマグネットを囲うように一枚と、天面と両側面の上半分にコの字型に貼りつけてある一枚。

ウーファー周りの吸音材
さらに、バスレフダクトの先端部、スピーカーターミナルユニットの背面、ツイーターのマグネットにブチルゴムシートが貼りつけられている。
 
ドライバーは、ウーファーツイーター共にアルミダイキャストのフレームでガッチリ組まれている。
SC-F102SGでは硬質な樹脂製を採用している。ここはグレードの差が明確である。

ウーファー

ツイーター
このフレームは、露出面も含めて黒色の塗装がされている。砂をまぶしたようなザラザラした手触り。
ウーファーのコーンの二層目は、ファブリックのような材質のコーン型。

重なっている振動板って、どうやって鳴動するんだろう
ツイーターはネオジウムマグネットで、薄い。現代機のツイーターらしい小型のユニットだけど、金属フレームのため重量はそれなりにある。

小さなゴムシートが貼ってある
ドームをよく見ると、正面向かって3時の方向にピンホールがある。通気孔としてあえて設けられているようだ。

初めは外的な要因で開いたのかと思っていた
そして、クロスオーバーネットワークにも拘りがうかがえる。
ほかの現代のスピーカーと同じくスピーカーターミナルユニットの裏にネットワーク基板を取り付ける構造だけど、なんと二階建てである。

思わず四方向から撮影しちゃった
ウーファー回路の基板にスペーサーを設け、その上にツイーター回路の基板を乗せて、長いネジを通して固定している。省スペースなのに大型のパーツをなんとかして組み込みたいとした結果とられた処置だろう。

ネジとスペーサー
このスピーカーターミナルユニット単独だけでも、そこらのウーファーユニットよりも重量がある。
これも初めて見た。ほかのスピーカーでもネットワーク基板を分割しているものを見かけたことはあるけど、各々を別のスペースに固定していた。オンキヨーの「D-102AXLTD」なんかがそうだ。
二階建て、ちょっと感動しちゃったな。

左:ツイーター回路 右:ウーファー回路
回路の構成としては、定数が異なるものの、SC-F102SGと同じ。ツイーターのフィルターは18dB/oct。ウーファーはディッピングフィルターと共振回路搭載。
 

ネットワーク回路(コイルは実測値)
ウーファー側の基板は、巨大な空芯コイルと12μFのフィルムコンデンサーの実装でスペースがほぼ埋まっているような状態。物理的にもっと小さいパーツもあるところ、どうしてもこれを乗せたかったものとみえる。
ツイーター側のアキシャルのコンデンサーは、BENNICのメタライズドポリプロピレンフィルムコンデンサー「XPP」シリーズ。ウーファー側の黄色いものはメーカー不明だけど、ポリエステルフィルムコンデンサーっぽい。
そのほか、SC-F102SGと異なる点として、コンデンサーの一部にスチロールコンデンサーみたいな小さなコンデンサーが並列で付されていたりもする。
 
気になるのは、スピーカーターミナルのケーブルバインドに刺さっている平形端子が腐食し始めていること。
よく見ると、圧着されている部分のケーブルの導線部も緑色になっている。

カバーしてあるけど意味がないようだ
ケーブルを引っ張ると、いくつかのケーブルはこの部分でプツンと切れてしまう。スピーカーターミナルユニットに貼られているゴムシートが悪さしているような気がするけど、化学変化に明るくないのでよくわからない。
 

整備

各部の清掃以外で、手を入れる部分は少ない。経年劣化している部分を新しくするくらい。

今回用意したパーツたち

底部のコルクシールは、ボロボロだったので剥がした
 

コンデンサ

電解コンデンサーを新しくしておく。
ツイーター側にあるメタリックブルーのコンデンサーは、ELYTONE製。音色的にあまり好みではないので、PARC Audio製に交換する。ただし、30μFという静電容量は無いため、33μFで代用する。

デカい
また、ウーファー回路のSu'sconのコンデンサーも交換する。
実はここのコンデンサーは、経年による静電容量の変化が発生しておらず、そのまま再利用するつもりでいたのだけど、計測のため基板から取り除く際に誤ってシースを剥がしてしまったので、交換することに。
ここは、ケチって日本ケミコンの「KME」をチョイス。6.8μFという容量も存在しないので、4.7μFと2.2μFを組み合わせる。

これも、いつまで手に入るんだろう……
ただ、ここのコンデンサーは共振回路を構成するものなので、電解コンデンサーとするなら値のブレが小さいPARC Audioのものにしておくほうが無難だろうとは思う。
 

ケーブル

既存のケーブルの状態が良くないので、すべて新しくする。
今回は、ZONOTONEの「SP-330Meister」で引き換える。

最近よく使用するケーブル
ワイドレンジな性格のスピーカーではないため、レンジ感よりも音の密度感が上がることを狙ったということもあるけど、なにより引回しがしやすいのが良い。基板のホールに入る太さであるという条件もクリアする。
これで、ネットワーク基板からウーファー、ツイーター、スピーカーターミナルまでの各配線を行う。

配線し、基板を組み上げた図
また、今回はバイワイヤリング接続用の端子をショートするケーブルも新たに用意しなくてはならない。
こちらは、同じくZONOTONEの「6NSP-1500Meister」で制作する。
どうせ作るならと、いわゆるYラグ端子も併せて用意。

初めて使うケーブルだ
このケーブルは、秋葉原のコイズミ無線に行ったとき、たまたま端材がジャンク品として安く売られていたのでゲットしたもの。あまり細いケーブルだとYラグが圧着できないため、ある程度の線径が必要で探していたところ、タイミングよくZONOTONE製が手に入った形。

一応、圧着部にはんだも流してある
これにより、このスピーカーに搭載のケーブル類はZONOTONEで統一されたことになる。
 

まとめ

整備後、音質的な向上はほぼ感じられない。やや音像がハッキリした感じもするけど、大差はない。

整備後の姿
それにしても、現代の、それも国内メーカーのスピーカーで、ここまで物量を投入しているものがあるとは知らなかった。この製品はペアで7万円。なかなかの値段だけど、ここまでコストをかけて作り込まれているのなら納得できる。というか、採算取れていたのかな。

しばらく鳴らし続けよう
このスピーカーの音を初めて聴いたときのような感動は無かったし、特段好みの音というわけでもないけど、メーカーの"熱"を感じさせる逸品であるのは間違いない。こういう製品が、もっと増えてほしいな。
 
終。