Technicsのコアキシャルスピーカー「SB-RX30」を入手した。ウーファーエッジの復旧を主な作業として、まともに音が出るように調整した。その所感。
※ この記事は、前後編の後編にあたるものです。
※ 前編は下記より↓
整備
スピーカーエッジの張替え
エッジの径がやや特殊で、入手先を探し出すのに多少時間を取られたけど、良さそうなものを見つけて発注。約3週間で手元に到着。
内周は4インチの普及品が適合しそうな雰囲気で、アマゾンで手に入るようなもので問題なさそう。ただし約8インチの外周に関しては、ロールが小さめのやや特殊なものを選択しなければならず、アリエクの奥地へ踏みこむこととなった。少々めずらしいタイプなのでそのぶん高価になる。
振動板自体は軽いけどストロークが重めなのを鑑みて、その動きをなるべく邪魔しないように軽量なウレタン製をチョイス。というか、今回は先述の理由から、既製品を買おうとすると外周のエッジはウレタン製以外の選択肢が無いのだった。
ここはどうせなら、ドーナツ状に切り出した布や鹿革をエッジのあった部分に被せて、エッジ部もフラットにすることで"真・平面振動板"と名乗ってしまうのがいいかな、とも思う。まあ、それは次回以降の課題だな。
とりあえず、内周のエッジから作業を始める。内側に残っている古いウレタンは、細めの綿棒やピンセットの先などを使って掻き出す。
ボイスコイル側に滓が落ちるのがイヤなので、ユニット本体を傾けながら作業する。
外周側も同じ。こちらは、最外周には紙製のベースが残る。
今回はこれをそのままにして、上から新しいエッジを接着する。
古いウレタンを撤去したら、試しに新しいエッジをあてがってみる。
内周は問題なし。ツイーターの樹脂フレームへの接着は、最後に行うこととする。
ただし外周のほうは、ロールの内側、つまり振動板の最外周にあたる直径が若干小さいようだ。振動板の直径は165mm(6.5インチ)で、エッジも同じものを選んだけど、エッジ側がほんの少し小さいため、振動板に接着する"耳"の部分がたわんで、うまいこと振動板の裏面に接触してくれない。
そこで、振動板の裏側の外周をやすりで若干削ることで事なきを得る。
また、表面の凹凸が大きい素材に接着する前の下処理として、あらかじめ接着剤を薄く塗りつけ、均している。それを時間をおいて硬化させたうえであらためて接着剤を塗り、エッジを貼りつけることをしている。
接着剤は、例のごとくB7000。
粘度や初期接着性の発現の速さがちょうどよく、なにより付属のニードルノズルが便利。貼り合わせたあとの貼り残した箇所の修正が容易になるので、スピーカーエッジの張替え作業では自分のなかでマストアイテムとなっている。
ちなみに、振動板の下地用として使ったのは、最近試用しはじめているボンドのSU。
清掃
黒い仕上げにより目立ちにくいだけで、エンクロージャーの表層はだいぶ汚れている。臭いは無いものの、シルバーの部分が黄ばんでいるのでヤニ汚れだろう。
黒い木目調の仕上げにハヤトールを吹きつけて泡をすぐに拭き取ると、それだけでウエス代わりのタオルが黄ばんでしまう。
最近のスピーカーではあまり見かけないけど、1980年代の製品となるとまだこういった状態のものがかなりある。
中性洗剤とハヤトールを交互に使って、ひたすらゴシゴシ。ただ、PVCシート仕上げだと擦りすぎるとシートの表層が剥がれてしまうことがあるので、程々までに抑えておく。
当然ながら樹脂製の前面プレートについても汚れているのだけど、こちらはいくら擦っても洗剤に浸け置いてもまったくといっていいほど落ちてくれない。
仕方がないのでシンナーを使ってみる。これで多少はマシになるものの、それでも完全に落としきることができない。
仕方がないので、ある程度で終了。あまり強い溶剤を使っても樹脂を傷めかねないし、ほかになにか良い方法が見つかるまではこのままだろう。
塗装
その前面プレートにある円形のグリルネットは、片方が擦れて塗装が剥げているので、同じような色で塗装しなおすことにする。
プラサフとアクリルラッカー、クリア上塗りの塗料を用意する。ちょうど、前回の整備で使用した塗料が余っているので、それを流用する。
ネットは樹脂フレームから簡単に分離できるものと思っていたけど、プレート裏面にある爪を起こしてもどういうわけか外れない。力を加えすぎてネットを変形させるのもイヤなので、ここはフレーム部をマスキングする方法に切り替える。
今回は、曲線用のマスキングテープというものを初めて使ってみる。
存在は知っていたものの妙に高価なうえに出番が少ないので、今まで手が出ずにいた。しかし、一般的な塗装用のマスキングテープを細長く切り出しても代用できそうになく、どうにも面倒くさくなりお金で解決するに至った。使い勝手が良さそうな幅12mmというものがあることを知ったのも背中を押したのだった。
そして結局、このアイテムの導入は正解だった。作業性がまったく違う。
慣れてくると面白いくらいスイスイ貼れてしまう。シワを気にしながらチマチマ貼っていたあの時間はなんだったのか……。
質感としては、粘着力の低い絶縁テープだ。まあ、だったら絶縁テープで代用できちゃうんじゃない? という気もしなくもないけど、それはそれ。マステなので簡単に剥がせる。
やっぱり、高いだけのことはあるんだな。
ディバイディングネットワークの刷新
ディバイディングネットワークは、背面のコネクターユニットの換装とともにほぼ一新してしまう。
コンデンサーと抵抗器を交換。コアコイルは基板から切り離して再利用する。ブレーカーは撤廃。
特にコンデンサーは、自分の整備ではあまり使わない静電容量のもので構成されているので、同じようなものを用意するのが難儀。
オリジナル同様、ツイーター用のケーブルがネットワーク側で着脱できるようにする。また、今回は別件で偶然BELDENの9497が安く手に入ったので、それが無理なく使えるようなかたちにもしておきたい。
9mm厚のMDFにいくつか爪付きナットを設けて、そこに平形端子用のタブと丸形端子をミリネジで固定する。
ツイーター用のケーブルはそのままにしておくつもりなので、オリジナルと同じようにネットワークに110型のタブを設ける必要がある。ついでに、新しく引きなおすウーファー用のケーブルもツイーターと同じように、ドライバー側をはんだで固定してネットワーク側で着脱する仕様にする。タブが引っこ抜けないよう堅固にしておきたいがためのナットというわけだ。
新ケーブル
ベルデンでは定番といわれる9497は、そこそこ良い金額がするわりにスピーカーのインナーワイヤーとしては扱いにくい印象で、使用を避けている。とはいえ、手に入るのであればやってみたいこともある。贅沢にも、2芯をほどかずにそのまま配線するのである。
昔、9497は本来こうやって使うもんだと、まことしやかにささやかれていた記憶があるのだけど、現在でもそうなのだろうか。
そもそもオーディオのケーブルに関しては、自分は音質よりも信頼性や施工性を重視するので、こうすることで音が良くなるのか云々に関してはあまり興味が無い。自分の中で9497の扱いはこうなんだ、ということでやっている。そして、これが手間だから普段はこのケーブルを使わないのだった。
コネクターユニットの換装
新しいコネクターユニットは、バナナプラグに対応するポスト付きの、埋込ボックス型の汎用品。
既存の埋込孔を拡張して、そこに固定するだけ。
孔はそのまま利用できればよかったのだけど、うまいこと合うコネクターユニットを見つけられなかったので、素直に加工する。
今回は、ネットワークをこの貫通孔のすぐそばに固定する。
コネクターユニットの結線は、すべて丸形端子で行う。
エンクロージャー内部の吸音
オリジナルの吸音材は、ニードルフェルトがドライバーとバスレフダクトのあいだに挟まるように固定されているのみ。
とりあえず今回はそれを弄らず、フェルトシートとゴムシートをドライバーユニットの周りに貼るに留める。
フェルトは椅子や机の脚に付けて床を保護するシートタイプのもので、それなりに強力な両面テープがあらかじめ装着されていたりする。
両面テープ付きのものは、小型スピーカーにおけるちょっとした吸音材の追加に便利で重宝している。
いっぽうゴムシートは、先日別のスピーカーを整備したときの余剰分。こちらは先のフェルトと同じ大きさに切り出し、側面にG17で接着する。
あとは組み上げて、新たに張り直したエッジの最終調整。たいていは低音再生時にバタバタとノイズが出てくるので、その原因を見つけて解消するまで微調整を続ける。
そして、音に問題が無くなれば晴れて整備完了となる。
音
無事音がちゃんと出るようになったので、しばらく鳴らしてみる。アンプはTEACのA-H01。
平面振動板のスピーカーの音をそれなりの時間聴き続けるのは、これが3種目。大まかな音の質感については過去の2種と同様で、ハキハキとした応答性の良さとクセの小ささ、ブライトな印象だけど直進的な性格にも聞こえるという特徴が似通っている。
これは、やはり平面振動板スピーカーの傾向なんだろうな、と思う。
それでも、同軸型ユニットならではのレンジ感と定位感の両立はちゃんとこなしている。細分化はソニーの「SS-X300」が勝るし、アコースティックな雰囲気はダイヤトーンの「DS-22S」に譲るものの、言ってしまえばこのスピーカーはそれらの中間に位置している感じだ。その意味でもバランスの良い音である。
低音は当初の見込みどおりで、量感がほどほどに抑えられている。密閉型のような雰囲気だ。壁面にベタ付けでようやく、といった感じ。
これはエッジをラバー製にすると多少変わる気もするけど、そもそもこのスピーカーはあまり低音を響かせる設計にはなっていない印象もある。それはコンセプトなのか、平面振動板では盛りにくいのか、事情は自分にはよくわからない。
それでも、先に挙げた2機よりは出る。適度にふくよかで、質感も悪くない。
周波数特性を見てみる。
傾向としてはおよそ聴感のとおりではあるものの、低音に関してはここまで出ていないような感じもする。
サイン波を流すと、40Hz付近でバスレフダクトからの風量が最大になる。インピーダンス特性を見てみても、やはりそのあたりに共振周波数を設定しているようだ。量感よりも自然なレンジ感重視のチューンということだろうか。
まとめ
音が良いかはともかく、やりたいことをきちんとやっているスピーカーだな、という印象だ。
シリーズではエントリークラスであり、エンクロージャーの作りはなんの変哲もないものだったりするけれど、他者では上級機にラインナップされる同軸平面構造のドライバーをよくここまで落としこんで製品化したものだと感心する。
そこは当時の松下電産の技術力の賜物なのだろうと思う。
とはいえ、やはりコストに見合わないのか、現代ではほとんど見なくなってしまった平面振動板。どうも独特のフラットな見た目に引っ張られるのか、音も抑揚のないフラットな感じに聞こえてしまうのは自分だけだろうか。昔ながらのコーン型振動板よりも性能面で諸々有利だと謳われているはずなのに、そこまで普及しているように見えない要因は、コスト面だけなのだろうか。
上位モデルの音も聞いてみたくなってくるな。
終。