いつか消える文章

本当は、ペンとノートを持ち歩くことにあこがれている。

JBL XTi20 をメンテナンスする (後編)

JBLの2ウェイスピーカー「XTi20」が手元に届いた。ウーファーのエッジを復旧するなどして音を出せるようにしてみた。その所感。

※ この記事は、前後編の後編にあたるものです。
※ 前編は下記より↓
 

整備

ここまで見てきて、「久しぶりのJBLだ!」と浮足立っていた当時の気分はとっくのとうに萎えてしまっている。
この印象、以前整備したデノンの「SC-A77XG」と一緒だ。ひたすら上っ面だけ良く見せようとする感じ。
 
それでも、まあ、まだ音を聞いていない。音が良ければそれでよし。
音を聞いてみないことにはな……ということで、復旧作業に勤しむ。
 

ウーファーエッジの張替え

じつのところ、ウーファー用の新しいエッジを取り寄せるため、今回は分解する前から事前に
ウーファーの諸々の寸法だけ図っている。それを基に発注し、手元にはすでに新しいエッジが届いていたりする。

古いエッジをチマチマ除去している図
今回も前回同様、アリエクで入手。6.5インチ相当のコーンだけど、やはり寸法がやや特殊であり、合致するものをなるべくなら安価に欲しいとなると、どうしても個人輸入に頼るしかないのだった。

エッジ購入先の探索も、もう少しラクにできるといいんだけどな
エッジは合成ゴム製。接着は、最近出番引っ切り無しのB7000で行う。

エッジの内周の接着を終えた直後の図
今回は特になにも考えずに、オリジナルと同じようにコーンの背面側でエッジを接着したけど、前面から貼りつけたほうが元のエッジの接着の跡を隠せるから、そのほうが仕上がりがより綺麗になるはずだ。

エッジ張替え後
フレームのフランジ部にエッジを接着するさい、エッジの最外周の所々に接着剤がはみ出てくる。それが、見る角度によっては光を反射して存在を主張することがある。

ある程度こうなることは予想していたけど
これは、フランジ部の内周の径よりもエッジの最外周の径が若干小さいことによるもの。接着自体はしっかりできているのだし、気にしなければいいのだけど、やっぱりみっともないのでなんとかしたくなる。
今回は、このはみ出た部分をあとから除去することができる。千枚通しなどの先の細いもので、ゆっくり静かに掻き出すだけ。

手間はかかるけど、スッキリする
これは、今回使用している接着剤B7000の便利なところで、完全に硬化する前であれば、擦ると消しゴムの滓のように丸まって剥がれてくれる特性を利用している。
これが難しいのであれば、無理に取り除かず、以前「DS-155AV」の整備で行ったように、適当な厚紙をリング状に切り出して、紙製のガスケットとして上から貼りつけて隠してしまう手もある。
 

ネクターユニットの洗浄

比較的綺麗なエンクロージャーのわりには、バインディングポスト周りがひどく汚れているようなので、これを分解して綺麗にしておく。

ヤニ汚れかな

ヤニ汚れだな
触ってみると全体的に少しベタベタしており、外観も黄ばんでいる。どうやらヤニ汚れのようだ。

ちょっと拭くだけですぐ茶色くなる
ポストはできる限り分解し、ハヤトールと中性洗剤を混ぜたものにしばらく浸けて拭き取ってから、薄めた酸性洗剤に曝す。
まだ比較的新しい機種ということもあって、樹脂やめっきの劣化が進んでおらず、これだけでも新品同様に綺麗になってくれる。

水揚げ直後の様子
今回初めて気づいたけど、付属のショートバーって、所定の"向き"があるんだな。

左右で形が微妙に異なる

やっぱり新しいパーツは気持ちいいね
 

ケーブルの引換え

ネットワーク基板に適当にはんだ付けされたケーブルは、いったんすべて取り外すことになるので、ケーブル自体も新しくしてしまうことにする。

はんだが溶けると同時に自然に外れるケーブル
新たに付け直すといったところで、なにも改造せずに既存よりも堅固にケーブルを固定できる方法が思い浮かばない。今回の整備ではネットワーク回路を弄らないつもりなので、基板に手を入れたくないというのがある。ドリルを使って通線用のスルーホールを設けるのがベターかな、とも思ったけれど、これもいろんな素子が乗っかったままの状態でやりたくない。
結局はオリジナルと同じように、基板の銅箔に直接はんだ付けすることに決定。

まあ、これでいいかな、と
ただ、ケーブルの荷重を基板の銅箔だけで保持することは、どうしても避けたい。基板をエンクロージャー内に固定する直前に、ケーブルと基板をはんだ諸共2液性エポキシ接着剤で固めて補強することにする。
 
ネクターユニットとの結線のさいに、ここでケーブルを着脱することはないのだからケーブルの末端は平形端子でなくてもよいことに気づき、丸形端子を圧着。コネクターユニット側も再度ポストを分離し、タブを取っ払っておく。

これでいいんだった
これから各ユニットを筐体に載せていこうという段になって、補修したとはいえやはり分解時に折れたウーファーのフレームのことが気がかりとなり、急きょケーブルの接続点を別に設けることにする。
既存のタブからケーブルを延伸させて、マグネットの付近でケーブルを着脱できるように平形端子のオスを設けておく。

適当なケーブルを切り出して

ウーファーのマグネットに固定し

スペーサー代わりの結束バンドを付けて完成
接点が増えるけど、なにかの衝撃で破損するよりはマシというもの。素材が柔らかいのでフレームのどこかに穴を開けてそこに通線することも考えたけど、それは邪道な気がして控えた。

最後、ここの接着剤塗布を忘れずに
 

とりあえず整備を終えたので、音を聞いてみる。

整備後の姿
アンプはヤマハのAVレシーバー「RX-S602」。音調回路をスルーする「DIRECT」モードによる再生で、YouTubeやらCDやらいろいろ流す。
特別悪くはないが、格別に良くもないぞ、というのが一聴した感想。もっと端的に言えば、「ザ・普通」だ。
 
外観から低音がモリモリ出てくるものと思っていたけど、節度ある分量に収まっている。音としてはけっこう下のほうまで出ていて、伸び伸びと聞かせるものの、適度に締まっていて煩わしくない。バスレフポートからのエネルギーも程々で、いわゆる"バスレフ臭さ"も意外と気にならない。
これは現状、ウーファーが勢いよくストロークするような感じにはなっていないのが、音にうまいこと反映されているような気がする。これがウレタン製のエッジだと、また違う印象になるのかもしれない。
 
中音は、意外にもマジメ。どこかに飛び出していくような感じはなく、淡々と輪郭をなぞって、無難に処理して聞かせる。
ただ、雰囲気は寒色に寄ってはいるものの、エネルギーが一か所にまとまるようなところもあって、それが時たまグッと前面に出てくることがある。どこかいまひとつクールになりきれていない感じのする、「なにか裏があるんじゃないか」みたいな性格の音。
あと、もうひとつヌケ感が欲しいと思うのは、自分のJBLに抱く印象から来ているのかもしれない。
 
高音については、フィルター回路に高価なフィルムコンデンサーを積んでいることで、その音色が遺憾無く発揮されている印象を受ける。クリアで伸びも良く、適度に華やか。
曲調によってはやや線が細いと感じることがある。個人的には電解コンデンサーを併用して中高音を厚くしてみたくなってくるけど、たぶんこれは音色の好みの問題だろうな。
 
音場はやや狭め。定位感は平均的で、奥行き感も平たい。小ぢんまりと展開する感じ。
ボーカルに対してその周辺が後ろに下がり過ぎるきらいもあって、デスクトップで小音量にしているとそれを特に感じやすい。これはホームシアター向け特有のチューンなのだろうか。
 
JBLといえばジャズのイメージがあるけど、このスピーカーについて言えばオールラウンダーのようだ。クラシカルなジャズもいいけど、ファンキーな雰囲気やR&Bのリズムの明白なものも雰囲気よく鳴らす。
オーケストラもそれなりに分解してくれるけど、先述のとおりでスケール感が不足する印象だ。
どちらかというとメリハリの効いたポップな曲調が合うように思う。
 
悪くはない。悪くはないが……常に奥歯に物が挟まっているというか、こんなもんなのか? という疑念を拭えない。
 
周波数特性を見てみる。

周波数特性(整備後)

スムージング処理後
低めの中音に谷があるのは、おそらく新たに張ったゴム製エッジと既存のコーンの組み合わせによるものと思われる。下記の記事では「逆共振」と称している現象だ。
低音域は、机の上に(一応)置けるサイズのスピーカーとしては十分な特性ではないだろうか。そのほかについても、おおむねバランスよく出ているように見受けられる。
 

まとめ

そもそも所有した総数が少ないので断言はできないけど、けだしホームシアター向けを謳うスピーカーシステムのなかには、"ハズレ"が紛れているように思われる。見てくれ重視で、音を伴わないもの。そしてそういったものは得てして、やたら高額なわりに造りが平均未満の粗悪品だったりするのだ。

残念だ
この製品が当時どのくらいの価格で流通していたのか知らないけれど、振るわずに消えていったようで、この内容なら、まあ、さもありなんといったところ。
ただ、自分としては、当時の中国製ならいざ知らず、欧州製でこういったものが作られていたという事実のほうが残念でならない。あまり野卑なことは口にしたくないけど、陸続しなかったのはユーザーとしても業界としてもむしろ良かったのではないか。

早々に手放すこととなった
 

(追記) リーフレット

発売当時のリーフレットが、手元に届いた。
まず、値段にビックリする。ペア85,000円。見たところせいぜい5万円くらいだろうと予想していたので、強気な価格設定に思える。突板が、写真にあるくらいに実物も綺麗に張られていたらあるいは、という感じ。
 
なんでソファの両脇にフロア型のスピーカーが並んで立っているんだ? という疑問もさることながら、紹介文もなかなか面白い。
 

ワンピース構造

フロントとフロント側・両サイド、リアとリア側・両サイドは、それぞれシームレスで一体化された強固なワンピース構造バッフルとなっており、全体はトップ、ボトムを含めて4ピースのみで構成されています。
これはつまり、側面の前側半分は前面バッフルと、後ろ半分は背面パネルと、それぞれ一体の部材として捉え、上から見るとコの字型になっているかたち。それを「ワンピース構造」と説明しているのだと思う。
言いたいことはなんとなくわかるけど、「シームレス」という単語が引っ掛かる。言葉のとおりに受け取れば、はたしてそんな構造が可能なのか? となる。たしかに、外観では側面のゴム以外に継ぎ目らしい継ぎ目は無いけど……。
樹脂や金属ならいざ知らず、ファイバーボードでコの字型に折れた一枚板なんて存在するのだろうか。まあ、MDFやハードボードであれば、繊維を成形する過程でそれも可能な気もする。ただ、もしファイバーボードが自由な形状で成形可能なのだとしたら、こんな角張った六角形にせず、丸みを持たせたものにするだろう。そのほうが「ファニチュアーライク」だろうし。
それに、製造のコストがとんでもないことになりそう。そこまでするか? それが85,000円の理由か?
接着剤か組み手か、その両方かはわからないけど、3枚の板を接合させてコの字を形成していると考えるのが、まあ、自然だろう。とすれば、一般的な構造のスピーカーと差は無い。4ピースどころか8ピースになるけど。
物は言いよう、というところか。エンクロージャーにノコギリでも入れないことには断定できない。
 

ベンチレーション

表面がツルツルして樹脂製のフィルムっぽい触覚だったツイーターのドームは、やはりJBLが得意とするチタンドームらしい。
2.5cmリブレス・ピュアチタンドーム・ツィーター
とある。
ただ、
ユニット一体型リアベンチレーション・チャンバー
というものがなにを指しているのかがイマイチわからない。
「ベンチレーション」と呼ぶからには、風の吹き出し口のようなものを言うのだろう。たしかにウーファーには、中心部に背面まで貫通する通気孔があるのは確認している。しかし、ツイーターユニットにはそれらしきものが見あたらない。センターポールの内側がえぐれたように空洞になってはいたものの、ヨークを貫通するまでにはなっていない。ほかに空気の逃げ道のようなものが設けられているようにも見えなかった。ごく一般的なツイーターの構造であった。
「チャンバー(=小さな空間)」とあるので、この空洞のことを指すのだとしても、「ユニット一体型」とは? となるし、これがベンチレーションと言えるのか? というのもある。
ちょっと腑に落ちない。
 

ピンポイントスパイク

いっぽう、腑に落ちたこともある。
筐体内部を覗いたとき、底部に開いていた穴がちょっと不自然に思えたのが、このリーフレットの内容で整理がついた。今回自分の手元には無かったけど、このスピーカーには「ピンポイントスパイク」なるものが付属するものだったらしい。
また、底面にスパイク取り付け用のビス受けを装備(XTi10Cを除く)。床面が絨毯敷きなどのため、安定した設置がしづらい場合には、付属のピンポイントスパイクを装着できます。
隅にある小さな写真では、スパイクは金属製のようで、両端の一方は円錐形に尖り、他方は丸まっているように見える。
ピンポイントとラウンドチップの両端仕上げスパイク
今回手に入れたものは、底部の穴はゴム脚で塞がれて隠れていた。しかし、ここは本来、設置する環境に応じて、スパイクの端部のどちらか一方をスピーカーの底部に挿し入れることを想定しているようだ。そのための孔なのだろう。
そのゴム脚も付属品のひとつだったのだろうか。今回はそこまでは確認できない。
また、「XTi Stand」なる専用のスタンドに乗せる場合は孔の扱いはどうするのか、という新たな疑問も出てくる。
そして、リーフレットに写るどのスピーカーもこのスパイクを履いていない、というツッコミどころもあったりする。
 

(追記) 再度まとめ

整備中も、なんだか残念なスピーカーだなと思ったものだけれど、発売当時のリーフレットを眺めて、それが確信となった。少なくともペア9万円のスピーカーではない。
 
だけど、腐してばかりもいられない。ブランドの後光効果で買い手に付け入るような売りかたをしないとやっていけないくらい、オーディオ機器の売れ行きは芳しくなかったのだろうとも思う。
特にスピーカーシステムなんて、空間をやたら占有するわりに、できることといえば音を出すことだけだ。繰り出す音そのものに価値があるのだとしても、時間とお金と敷地面積を差し出すには、それはすでに"コスパが悪い"時代となっている。それは知る限り、JBLだけではないし、発売から20年が経った今でも変わっていない。
良いか悪いかはともかく、製品をどうにかして捌かすのに必死だったことがリーフレットからうかがえるのだった。
 
今のところ、置きやすいからといってホームシアター向けが謳われているシステムにうかつに手を出してはいけないというのが、デスクトップオーディオを楽しむ自分の意見となっている。音以外の面でよほど気に入る仕様があれば別だけど。
 
終。