JBLの小型ブックシェルフスピーカー「A520」が手元に届いたので、整備してみた。その所感。
"ヴェッキオ"の末弟
先日整備した「J520M」に続いて、またモダンJBLの小型ブックシェルフスピーカーを入手した。J520Mを含む「Jシリーズ」と同じく、1990年代に発売した民生機JBLスピーカーで、「ヴェッキオ(Vecchio)」シリーズの最小型、A520である。
1995年に「A620」と「A820」が発売され、A520は2年後の1997年登場。ヴェッキオはエントリークラスのJシリーズよりもひとつ上のグレードとなるようだ。ペアで5万円。
横幅198mm、奥行き180mm、さらにフロントバスレフ型で、デスクトップに置きやすいサイズとなっている。
小型といえど兄貴たちと同じく、エンクロージャーは全面突板仕上げとなっている。前面バッフルのデザインがミラーリングとなっているほか、A520独自の仕様として、明るいバーズアイメープルのような独特の模様のあるものに切り替えられている。
スピーカーターミナルの位置がエンクロージャーの底面スレスレにあるのが妙だなと思うも、入手時点では理由がわからず。
手元にある「別冊ステレオサウンド JBLモニタースピーカー研究」には「防磁対応:なし」となっていて、その情報を信じていたのだけど、発売当時の雑誌や広告などを見てみると防磁設計であることを明確に謳っているので、防磁型スピーカーなのだろう。
今回手に入ったのは使用感の少ない美品であるものの、ウーファーのラバーエッジがボロボロである。定期的に手を入れていないとこうなるらしい。
また、突板の表層はニスのような加工が成されているものの、経年劣化でクラックがいくつか見られる。このあたりは致し方なし。目立つものでもないので問題ない。
いずれにしても、このままではまともな音は出ないので、復旧に取り掛かる。
分解
ウーファーユニットとスピーカーターミナルはネジ頭が見えるので、とりあえずそこから。いずれもプラスネジ。
背面のスピーカーターミナルを外すと、ユニット背面にフィルムコンデンサーがひとつ接着されている。
コンデンサーの静電容量は2.2μF。
ウーファーユニットを外す。前面の4つのネジを取っ払ってみるも、ユニットが外れる気配はない。
背面から押し出そうとスピーカーターミナルの埋込孔を覗くと、ウーファー中央からボルトらしきものが一本背面に伸びているのを発見。
エンクロージャー背面からもユニットを固定している構造らしい。
シリアルナンバーの打たれたラベルの下に六角穴が隠れている。
スピーカーターミナルの位置が妙に下がっているのは、このボルトがあるためだった。
ラベルは綺麗に剥がし保管。再利用する。
ボルトを引き抜けば、晴れてユニットを取り外せる。
重いユニットを前面バッフルだけでなく複数面で支えるというのは、音質の面はともかく、ドライブ時の安定感では優位だと思うのでアリだ。
ユニットのフレームはブラックでコートされた金属製。マグネットはカバーで覆われているものの、標準的な大きさっぽい。
最後にツイーター。
ツイーターユニットは、前面の樹脂製の化粧カバーを外すと固定しているネジが表れる。
カッターの刃先のようなものをバッフルとカバーの隙間に挿し入れて、ゆっくり持ち上げる。カバーの側面には3か所ガイドが無い部分があるので、そこに挿し込むと得物を深く挿し入れずに済む。
カバーの固定は少量の接着剤なので、小さな力で比較的容易に外せる。
(後日追記)カバーを固定している接着剤は、個体によって使われている種類と量が異なるようだ。上記の写真のように比較的容易に外せるものもあれば、ガッチリ接着されているものもある。なかなか外れない場合、工具を深く挿し入れるためにバッフルを少し削る必要がある。そのあとの対処を、記事の最後に追記しておく。
ツイーターユニット本体に関しては、バッフルとの間に挟まっているパッキンのシートが半ば接着剤と化しており、ネジを外しても強固に留まっている。筐体内部に手を突っ込み、内側から押し出すようにして剥がす。
ツイーターはネオジウム磁石製で、小さい。
なんとなく内部に磁性流体が使われているような気がしないでもないけど、今回は異常ないので、これ以上の分解はしないため未確認。
吸音材は、よく見るカサカサの化繊ウール。
前面以外のすべての面に張りめぐらされている。ただし、背面のスピーカーターミナルの重なる部分については、そこだけ上にめくるようにして接着剤で固定している。ウーファーを固定するボルトの干渉を避けるためのようだ。
整備
ウーファーエッジ
いちばん時間のかかる、ラバー製のエッジを張り替えることから始める。
既存のエッジを剥がしてゆく。オリジナルはラバーエッジの最外周に紙製のガスケットのようなものが貼られている。
これを綺麗に剥がして再利用してもいいけど、手間というかあまり必要性を感じないので、適当に剥がしてしまうことにする。
既存のエッジを剥がす方法は、以前整備した「Control 1」などと同じ。シンナーを使わず、ライターオイルを垂らすのみでキリキリ剥がしてゆく。
作業しながら、某オークションサイトでA520に対応することを謳っているラバーエッジを購入し、到着を待つ。しかし、到着した現物をためしに合わせてみるも、エッジの最外径が若干大きく、ウーファーのフレーム内にピッタリ収まらない。
どうやら、某所で出品されているものは、最外径が5インチ(=127mm)の汎用品をA520対応品として販売しているようだ。A520のエッジが収まる最外径の直径は126mmで、ほんのわずかに小さい。5インチでも無理やりフレーム内に詰め込めば付けられないこともないけど、シワが寄ることでコーン側に余計な負荷をかけることになる。
簡便な対処としては、エッジを切断して、切断した付近を数ミリ重ねることで外周を少し縮める方法がある。でも、せっかく新品に張り替えるのに切込みが見えるのはみっともないので却下。
AliExpressあたりで安い汎用品を探してもいいけど、届くまでの時間が惜しいので今回はファンテックで対応品を購入する。
届いたものは、さすがにピッタリ。接着はいつもの「スーパーX」。
翌日、接着剤が固着した後、ついでにゴム保護剤の「ラバープロテクタント」も含浸させておく。
スピーカーターミナル
スピーカーターミナルを金めっき製のものに交換する。
樹脂製のフレームは再利用し、ポスト部を汎用品に換装するだけだ。
配線、コンデンサー
オリジナルはネットワーク基板が存在せず、ツイーター用のコンデンサーがひとつ、スピーカーターミナルのユニットに接着されている形だった。今回は未改造の音を確認したいので、ネットワークは弄らず、既存の構成をそのまま真似ることにする。
オリジナルに倣い、スピーカーターミナルユニットに接着して結線する。ウーファーはもちろん直結。
内部配線に使用するケーブルは、JBLの「JSC450」。
ここ最近ケーブルの選択に拘らなくなってきたのは、少なくとも同価格帯の製品であれば、どのメーカーであろうと音質が大きく変わることはないことがわかってきたからだ。
エンクロージャー
贅沢なリアルウッドの筐体。せっかくなら美麗にしてやりたいところだけど、いつも行うオイル塗布は既存のコーティングを全面にわたり削り落とす必要があるため、やりたくない。
ここは、既存の仕上げをさらに磨いてみることにする。
サンディングしてから、コンパウンドで擦る。
やすり掛けは、今回は表層に大きな傷が無いため、2000番と3000番のやすりで水研ぎする程度の軽いものにしておく。
コンパウンドは、手持ちのプラスチック用のもの。これだけでもかなりのツヤが出る。
所有感がまったく異なるものとなる。手触りも「サラサラ」から「しっとり」となる。
細かな部分で音質追及するよりも、こちらをていねいに仕上げたほうが満足度が高いと思う。
とはいえ、整備内容の中では想像以上にウェイトの高いものとなってしまった。気力のある時にしかできない作業だ。全工程ひたすら手で擦っていたけど、せっかく手元に電動ポリッシャーがあるのだから、最後の仕上げくらいはそれを使えばよかったな。
背面の密閉
すべて組み終わり音を出してみる。
すると、低音の再生時にエンクロージャーから「ババババババ」という物々しいノイズを放出してくる。あまり聴いたことのない音だったのでビックリしたけど、ウーファーのビビりではなさそうだということはなんとなくわかった。
サイン波を流してみると、120Hzから180Hzまでの間で、背面のスピーカーターミナルユニットの樹脂フレームとエンクロージャーの隙間から空気が漏れ、樹脂フレームが振動して筐体を叩いていることがわかった。
この振動した樹脂フレームが筐体を高速でペチペチ叩いた音が盛大に「ババババババ」と聴こえてきたのだった。人間で例えれば、唇を閉じた状態で口を尖らせて体内の空気を出すと、唇が震えて「ブブブブブブ」となる現象に近い。
当然スピーカーターミナルユニットはネジ留めしてある。しかし、樹脂フレーム自体が薄くたわみやすいことと、隙間を埋めるパッキンとなるクッションシートがあるもののかなり薄手でほとんど機能していないことが重なって起きた現象のようだ。こんなこともあるのか。
ユニットを固定しているタッピングネジをさらに締めても意味がないうえ、樹脂フレーム側に負荷がかかってしまうのでやりたくない。予備として手元にある厚手のクッションシートを挟んでみて、様子を見る。
一応効果があったようで、振動は収まった。このシート、正直今まで真価を認めていなかったけど、意味のあるものなんだな。
それにしても、密閉型のスピーカーならともかく、バスレフ型でこんな現象が起きるものなのか。初めての経験である。
整備後の音
とりあえず、オリジナルに近い状態に復元できたところで、音を聴いてみる。
アンプはいつものように、ヤマハのAVレシーバー「RX-S602」。
外観からなんとなく予想していた通り、中音域が飛び出してくる元気な音だ。バランスとしては低音そこそこ、高音そこそこのカマボコ型。
高音は2.2μFのフィルムコンデンサー単発らしい、細くクリアな音。そんなに伸びはしないけど、あくまで軽やかに華を添える無難な鳴り。
低音は最低音が80Hzということもあり、底を打つような響きは期待できない。しかしフロントバスレフということもあってか、量感で寂しいと思う場面は少なく、アタックの瞬発力とのバランスがちょうどよく聴いていて気持ちが良い。
そしてなにより、中音域の異様なまでの明瞭さと押し出し感がキャラクターだ。明瞭といっても細かなニュアンスは得意ではなく、これでもかと音の塊を投げつけて聴いている者を物量で納得させようとしてくる印象。
個人的には好きな音なのだけど、80年代シティポップあたりをしばらく聴いているとくどくなってきて疲れてしまう。また、高めの音にクセがあるのか、曲調によっては一定の音が耳をつんざくことがある。そういう意味では、曲を選ぶのかもしれない。ウーファーが直結であり、ツイーターと被さる高音域の整理が成されていないせいもあるだろう。
周波数特性を見てみる。
こうしてみると、ツイーターの司る音域は意外と出力が低めである。聴感上はもっと出ている感じがする。これは先述のとおり、ウーファー側の高めの中音域の主張が激しいためそう聴こえるのだろう。
まとめ
J520Mや「J213PRO」がよりホームユース寄りに調整されたものだとすれば、A520は現代機として、またインテリアとしての佇まいを意識したデザインとしつつ、音はJBLの明るく開放的なイメージを継承している、ユニークなスピーカーだと思う。
A520はしばらくメインで置いたあと、やはり聴き疲れしてしまうので、今は退いてもらっている。しかしおそらく、しばらくすればまたA520のエネルギッシュな音を聴きたくなってくるに違いないと思っている。中毒性のあるスピーカーである。
(追記)バッフルの化粧
ツイーターユニットを固定しているネジにアクセスするさい、個体によっては化粧プレートがなかなか外れず、やむを得ずバッフルの一部を切り崩さなければならないことがある。
内部を整備したところで、せっかくの突板がこのままではみっともないので、なんとか誤魔化してみる。
いわゆるファンシーペーパーを使った化粧シールを制作する。
素材は、日本の伝統織物「八丈袖」の風合いをエンボス加工で再現したという「レザック80つむぎ」の黒。世界堂で購入。
これに両面テープを貼り、リング状に切り出してシールにする。
リングの内円の直径は75mm。外円については、切り崩した部分が隠れる程度の大きさに合わせて調整する。
あとは、慎重に貼り付けるだけ。
ツイーターなので、紙ではなく薄めのフェルトで作れば音の反射対策にもなるからいいのだけど、このスピーカーの場合、前面ネットを取り付けるとバッフル面にピッタリくっつく仕様のため、バッフルからたとえ数ミリ程度の出っ張りでもネットと干渉してしまう。よって、紙製にせざるを得ない事情がある。
終。
(参考)発売当時の雑誌レビューなど
以下は製品発売当時のメーカーの売り文句や、雑誌のレビューの音に関する部分を抜粋しています。
メーカー広告 (ステレオ 1997年10月)
ステレオ 1997年11月
97主要新製品試聴レポート スピーカー 福田雅光/藤岡誠
(前略)特徴としては、非常に能率が高く設計されてあるようで鳴りっぷりがいい。明るく明快に前に飛び出してくるという、非常に元気のある音が特色になっていますね。(福田)(後略)
(前略)
JBLに開放感がなくなったらだめなわけで、JBLじゃないと僕は思っていますけれども、これはあります。やや中域あたり、例えばピアノの右手方向やストリングスはある種の固有音を伴っていますけれども、それはそれほど嫌味じゃない。何となくふんわりとした柔らかい、温かい音場をつかさどる部分もありますから、それをキャラクターとする人もいるだろうし、いや、そうじゃない、これが好きだという人もいるでしょう。(藤岡)(後略)
(前略)
このキャラクターは、明るい色調に少し引っ張れれてくるところがあるんですけれども、歪みっぽさとか、汚れた感じが少ないんですね。(福田)
スイングジャーナル 1999年3月
海外コンポ確聞83 高津修
(前略)孤峰アーチー・シェップの最新CDと、古株の代表選手として1963年のジョー・スタッフォードを聴いた。(中略)(中略)A520は、日本のスピーカーだったらまずあり得ない大胆な遊び心を感じさせる実に面白いスピーカーだ。シェップの、野太いあのブロウが、今にもマイクが破れるんじゃないかと思うくらいなワイルドさでバリバリ吹っ飛んでくる。だからといって高域が粗っぽいわけでもなく、ピアノやシンバルには芯があり、ベースも適度に引き締まっている。ジョーのボーカルはブレスが誇張気味だが、声の質そのものはなめらか。あまりこまかな音は解像しきれないのだが、全体にフレンドリーな活気があって、とても楽しい。