いつか消える文章

本当は、ペンとノートを持ち歩くことにあこがれている。

JBL J213 PRO をメンテナンスする

JBLの「J213 PRO」というスピーカーを入手した。諸々整備して、音を出してみた所感。

 

J216 PRO の弟分

以前、「J216 PRO」というスピーカーを整備したことがある。
実は当時、J213 PROと勘違いしてオークションサイトで札を入れてしまったものがたまたま落札できた経緯がある。J216 PROだと自分のデスクトップ環境では大きすぎて、物理的に置くことができない。ワンサイズ小さいJ213 PROのほうが欲しかったのだ。
 
このJ213 PROというスピーカー、1986年にJ216 PRO MarkIIの弟分として登場したものの、発売期間が短かったようだ。1990年代まで手に入った兄とは対照的に、約1年程度で終売となった模様。
そのため、中古で手に入れようとしても良い状態のものはなかなかお目にかかれないのが現状。今回手に入ったものも、オークションサイトでジャンク品扱いで放出されていたものだ。
 
手元に届いたものは、片方のスピーカーのツイーターが脱落していた。

JBL J213 PRO
札を入れたときは、エンクロージャーに固定された状態の写真が掲載されていた。おそらく輸送中に落っこちたのだろう。

ネジを残して綺麗に脱落している
ただ、あまり驚くことでもなかった。J216 PROを弄る際、ツイーターユニットを固定している樹脂パネルが脆いことは確認している。それと同じような構造なら、ちょっとした振動や衝撃で落下したとしてもおかしくない。

もう片方も危なかった
こちらもJ216 PROと同様、新しくパネルを製作するほかない。
 
無事なほうのスピーカーだけ素の出音を聴いておいてから、さっさと分解に入る。
 

分解

分解の手順自体は、J216 PROと同じ。よって、特筆すべきところは少ない。
 
チタンコーティングされたドーム型ツイーターは兄貴と同じ。

2.5cmドーム型ツイーター
ウーファーはJ216 PROとは別物。径が小さいものが搭載されている。

10cmコーン型ウーファー
このウーファーのエッジはクロス製。しかし、それにしてはけっこう硬め。

何か塗られているのだろうか
固着しているような感じではなく、硬いながらもコーンはダンプする。こういうものなのだろうか。
 
筐体内部も、J216 PROと同じ。

俯瞰
おから風のフェルト製吸音材が前面以外の面に張られ、背面の中央にクロスオーバー用のパーツ類を背負ったスピーカーターミナルユニットがある。
吸音材は非常に脆く、ホコリっぽい。作業する際は屋外で行ったほうがいい。

別の素材に替えてしまいたい
スピーカーターミナルは、内部で接着剤により固定されている。
プッシュスナップ式。一部破損していた。

しかも、なんかちょっと斜めに付いている……
前面から長い棒を突っ込んで、ユニットを押し出す。
クロスオーバー用のパーツがユニットに接着剤で直付けされている。コイルとコンデンサーがひとつずつ。

けっこう雑な施工をしている
ツイーター用に2.2μFの電解コンデンサー。
ウーファー用の有芯コイルは、インダクタンスが不明。測定では0.42mHから0.45mHを示した。0.5mHくらいが定数だろうか。もう少し信頼のおけるテスターで見てみると、0.5mHであった。

このテスターはあまりあてにしていない

ネットワーク回路(インダクタンスは実測値)
 

整備

手を入れる箇所や作業内容も、J216 PROをほぼ踏襲している。
 

ネットワーク

オリジナルの音の周波数特性を確認していないので、クロスオーバーネットワークの設計はあまり大きくは弄らないつもりでいたけど、ツイーターが脱落していないほうのスピーカーの出音を聴いてみて少し気が変わった。

材料はこれだけ
ツイーター用のコンデンサーは、同容量で指月電機製ポリエステルフィルムコンデンサーに換装する。
ウーファーは、0.6mHのコイルと4.7μFのコンデンサーで-12dB/octのフィルターにする。少し煩雑だった中音域を整理し、張りを出させる狙い。

ネットワーク回路(改修後)
ついでに、ケーブルもJBL製にする。各ユニットまでを「JSC450」に引き換える。

スピーカーターミナルからのケーブルは、エーモン製OFCケーブル
5cm×10cmに切り出したMDFにすべて載せて、エンクロージャー背面の適当な位置にネジで固定する。
 

スピーカーターミナル

スピーカーターミナルユニットは、バナナプラグ対応品に換装する。

丸形だと既存の撤去跡もそのまま隠せる
既存の角型から丸形に変更。もちろんネジ留めする。
今回は、埋込用の孔をそのまま利用できた。
 

ツイーターパネル

例によって、同形のツイーター用パネルを木板で作り、そこにツイーターユニットを移植する。
 
今回使用した基材は、5mm厚のエンジュ。
寸法はオリジナルよりもほんのわずかに大きく、短辺8.4cm、長辺11.1cmで切り出す。短辺から4.5cmの位置に3.6cm径の孔を開ける。四隅のRは適当に。

東急ハンズで購入
オリジナルの樹脂パネルに固定してある既存のツイーターユニットは、パネル側にある四つの爪をラジオペンチなどでもぎ取れば、簡単に分離できる。

接着剤もろとも折ってしまう
少し面取りをしてから、塗装。前回はクリアーだったけど、今回はカラーを使ってみる。
手持ちの塗料でタミヤの「ジャーマングレー」があったので、それを吹き付ける。ちょうどいいかなと思っていたけど、できあがったものはエンクロージャーの仕上げよりかなり淡い色合いだった。
ツイーター側に2液混合型のエポキシ系接着剤を塗り、パネルを接着。使用した接着剤は実用強度に達するまで24時間とのことなので、丸一日放置する。

ネジは既存を再利用
 

前面ネット

既存のサランネットはフレームから剥がれかけていたので、こちらも全面張り替える。

このスピーカーのフレームは、ネットを固定しやすい
ここの所作は、J216 PROのものと全く一緒。布用両面テープが大活躍する。

布地はユザワヤで入手
今回は、紫地に金色で印刷された麻の葉文様をチョイス。柄物は左右2枚が同じパターンになるように張らないといけないので、そこが手間ではある。

一枚完成
やや不釣り合いにも思える大きなロゴエンブレムは汚れがひどく、綺麗に復元するには骨が折れそうだったので、別品を用意してみる。
両面テープで貼り付けるだけ。

車載装備用のエンブレム
 

背面ボルト

筐体背面にある四つのブラケット用のボルトは、腐食しているので新しいものに交換する。
合致するのは、W1/4の全ネジ六角ボルトとワッシャー。

自分の環境で代用できるのがこれしかない
これもJ216 PROと同じものだけど、近所のホームセンターには置いていないのが難儀。既存のボルトの状態によっては、再塗装で済ませることもできるかもしれない。

取り付けた図

改修後の背面
 

ネットワークの調整による音の変化は、良い方向に向かってくれているように感じる。中音域は密度感があり、迫り出してくるような勢いがある。

改修後、試聴中
ツイーターの直列のコンデンサーが2.2μF単発ということもあってか、高音域は割と大人しい。周波数特性上は、7kHzから14kHzまでが落ち気味。ここはなにかしらの方法で持ち上げてみたいところだけど、そうするとキャラクターが薄まる気もする。違和感は無いので、このままにしておくのがベターか。

改修後の周波数特性
低音に関しては、最低音があまり出ていない印象。これはやはり、ウーファーの硬めのエッジが影響している気がする。どうにかして軟化させるか、ラバー製に張り替えてみるのもいいかもしれない。
 

まとめ

音に関してはまだ詰められるだろう。しかし、低音の再生能力は体積の大きい兄貴分に譲るし、傾向からして同社の「Control 1」と似ているため、取り立ててこの機種を選ぶ理由を見つけにくい。その点で、早期に販売を終えた所以もなんとなく察しがつく。

前面カバーを付けたところ
とはいえ、適度にドライでかつ密度のある中音域は聴いていて気持ちがいい。小気味良さはやはりJBLといったところか。

ボーカル特化スピーカーといえる
 

(追記) ツイーターバッフルとネットワークの再調整

上記の機体を整備してから約一年後、また別の機体が手元に届いた。
やっぱり今回も、ツイーターユニットはバッフルが粉々になって落下した状態であった。

 

MDF製バッフルプレート

同じようにバッフルプレートを新調するのだけど、別の機種の経験から、ドーム前にあるイコライザーが意外にも音質に影響を及ぼすことに気づいているため、今回はそれを新しいプレートに移植する形にする。

4mm厚のMDFを黒で塗装

ついでにTLXのシンボルも切り出して移植
サンディングシーラーを敷いたうえでつや消しのブラックとしてみた。やっぱりヘンに調色するよりも、こちらのほうが落ち着いていてしっくりくる。
 

位相接続の変更

また、ネットワークのコンデンサーとコイルの交換を実施するけれど、回路の設計は既存のままとし、オリジナルに近い状態の出音を聴いてみることにする。これは前回ではできていなかったことだ。
アンプはヤマハの「RX-S602」。
横方向の音場がやけに広いな、という印象。左右2台のスピーカーよりもさらに横からも音が鳴っている。ただ、若干ケロケロしているようにも聴こえて、不自然でもある。
 
音自体はザックリしていて大粒。主に中低域に能率感があり、歯切れよく聴かせる。
あまりクリアではなく、広い割に見通しはいまひとつだけど、分解はされていて、いろんな音が鳴っていることがわかる。ボーカルのニュアンスも上手く再現される。
 
ただ、そのボーカルを含めた中音域が奥のほうで展開されるのが気になる。これがファーストインプレッションで「中音に張りがない」と印象付けられた部分だと思う。なんだかもったいないなと感じる。
 
周波数特性を見てみる。なお、ツイーターのHPFは電解コンデンサーからポリエステルフィルムコンデンサーに換装しているため、同じ定数であってもオリジナルの特性とは異なる可能性があることに留意。

周波数特性(フィルターの素子の定数が原設計と同一)
3kHzから上が落ちている。前回の整備では、ウーファーのフィルターを-6dB/octから-12dB/octに変更することで、ここの落ちこみを解消したのだった。
ただ、こうしてみると、単にツイーターとウーファーの位相の繋がりの問題のようなだけの気もする。これが音がケロケロしている要因ではないだろうか。
 
試しに位相をひっくり返してみる。すると、なんのことはない、谷は埋め立てられてしまっていた。

逆相接続とした場合の周波数特性
綺麗なカマボコである。聴感もまさしくそんな感じで、明らかに自然になったのだけど、特徴的な横方向の広がりは抑えられている。というより、エネルギーが中心に寄って平滑になった印象だ。
聴きやすくなったぶん、整備前の独特な雰囲気は打ち消されてしまったのだろう。
 
結局、求めていた結果は、ネットワークの設計は弄らず、位相を逆相接続にしてやるだけでよかったのだ。
 
終。
 

(参考) 発売当時の雑誌レビューなど

以下は、製品発売当時の雑誌のレビューから、音に関する部分を抜粋しています。

ステレオ 1986.1.

STEREO試聴室
石田善之
小型ながら、バスレフでまとめているためおとにたいしてのキュークツさはあまり感じない。低域もローエンドは無理としても、結構肉厚感は出ている。全体の印象としてはひ弱で、やや中高域の張り出しがおさえこまれているために、あまりエネルギッシュな感じではない。このあたりが小型でありながら硬さをおさえて、安定度を高くした音に結びついているのである。ボーカルもmfあたりなら大丈夫なのだが、強く引っ張った状態ではもうひとつ迫ってくるような力に乏しい。トゥイーターは見たところハード系のようだが、布に金属色の塗装をほどこしていて刺激的な強さをおさえ、高域をグンとのばした良さにつながっているようだ。ピアノのタッチや輪郭感はもうひとつキチンとさせたいところ。コントラバスのツヤも充分ではない。ポピュラー系の切れ味はもっとほしい。音にきつさが全くないのは、小音量でのリスニングに合っている。セッティングはトゥイーターを内側とした横置きが良かった。
金子英男
(前略)セッティングでバランスをうまくとる必要があるが、横置きのほうがこのシステムの場合条件が良い。
音色は全体のfレンジをあまり広くとらずに高域の明るさと中低域の少し強調気味のバランスで、中域をややひかえめにした感じである。多少こもり気味になるところがあって、立ち上がりがややあまくなる。あまり細かい表情は得意ではなく、かなり大きく処理していく特徴をもっていて、やや反応のスピードが抑えられ気味で、質としても少し粗い面を出してくるが、適度な鳴りかたをするところもある。小さい部屋で接近して聴くというより、広いところでの補足用に適しているシステムといえよう。
福田雅光
(前略)中低域、中域を割合厚手に決めてくるが、帯域は山なりのカーブで小振りにしてある。一つの狙いはボーカル帯域の充実と通りのいいサウンドパターンといえそうである。キャラクターはパンチの効いた傾向であり、ハギレよくおとの腰は強めで、いかにもアメリカ的なドライな雰囲気がある。粒子はあまり細かくせず、やや大粒でセンのつよさを狙ったようで、透明度はこのため少し犠牲になっているようだ。低域はある帯域からスパッと切れのいい下降で、どこへセッティングしてもカブリが出ないように検討されている。全体にサウンドはクッキリと聴かせる傾向があり、アクセントをしっかりと結び、まとまりがある。

ステレオ 1986.2.

海外の新製品を聴く
井上良治
(前略)エンクロージュアサイズから考えるとバスレフポートはやや大きめだ。その分長さもあるのだろう。全体のサイズから見るとトゥイーターの存在感は低い。イメージとしてはトゥイーターの不足する分をウーファーがおぎなうという感じのサウンドが浮かぶ。ところが実際には、ウーファー中心のしっかりしたサウンドであり、つながりは上々。低域は多少軽くなるが、想像以上のレンジ感を持ち表現力は実に豊か。バランスの良さではJBLスピーカーの中でもトップクラスといっても過言ではない。