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YAMAHA NS-1000MM をメンテナンスしてみる(失敗)

YAMAHAのスピーカー「NS-1000MM」をメンテナンスしてみたところ、失敗したのでその内容を残しておく。

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経緯

特に経緯と呼べるようなものはなく、以前入手したまま物置に放置されていたスピーカーだけど、気が向いたので整備してみることにしたという、ただそれだけ。
入手時に各ユニットをエンクロージャーに留めておく六角のネジが錆で真っ赤っかで、新しくしたかったのだけど、代替となるネジを探して用意するのが面倒でそのままにしてあった。今回、その入手の目途が立ったので手を入れてみるのだった。
 

改修前の音

名機「NS-1000M」のミニチュア版という位置づけらしいけど、1000Mの音をしっかり聴いたことがない。以前どこかで少し試聴しただけだ。よって、1000Mとの比較はできない。

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YAMAHA NS-1000MM
3WAYなのでワイドレンジなのだろうと思っていたけど、出音はそれほどでもない。ただこれは、所有しているテンモニこと「NS-10MX」の音を知っているので、そこまで驚くことでもない。ヤマハの密閉型スピーカーが持つキャラクターなのだと思っている。

morning-sneeze.hatenablog.com

問題は、低域を担うウーファーの音がショボい点。
ハッキリキラキラした中高音と比べて、音が出ていない。曇っているとか遠くで鳴っているとか、そういう表現には該当しない、明らかに「出ていない」聴感。
低音域だけアッテネーターで絞っているのか? それとも不良品か? と勘繰るほど、鳴っていない。
 

分解

「そういえば、以前試聴したときにも同じ感想を持って、仕舞いこんだんだったな」と思い出しつつ、分解していく。
 

ドライバーユニット

各ユニットはすべて同サイズの六角穴のネジで留まっている。それらをすべて外すだけで内部にアクセスできる。

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赤錆で真っ赤っか
背面のスピーカーターミナルもプラスネジを外すだけ。
 
ただし、ウーファーのみ、グリルカバーとドライバーユニットが別々に固定されている。六角穴ネジで留めているのは、カバーのみだ。
シルバーで見た目がアルミっぽいフレームは、ABS製。チープ。

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せめて金属製にしてほしかった

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ウーファー
ユニットへのケーブルの接続は、スピーカーでは一般的なファストン端子。ところが、中間にあるミッドレンジ「だと思っていたもの」の端子を引き抜こうとしたところ、ドライバーユニットからオス側端子ごと剥がれてしまった。

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コイル線を引きちぎった瞬間
この端子、受け側は約1cm角の小さな紙製の台座に付いているけど、その台座とユニットの固定は、なんと接着剤のみ。接着面積が小さすぎて、簡単に剥がれてしまうようだ。

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これはさすがにNGじゃないのか?
お粗末が過ぎる。
接着剤なんて経年劣化で徐々にボロボロになっていくものだし、なにもせずともいずれ外れて断線していたのかもしれない。単純に構造の欠陥だろう。
なんにしても、配線の着脱を前提としたものではない。

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ミッドレンジだと思っていたもの。「JA-05T4」
これで一気に萎え、また放置したくなってきた。
とりあえず、まだ分解できそうなので、断線部はひとまず置いておいて、グリルの撤去をしてみることに。
 
グリルは、接着剤で固定されている。
とはいえこの部分も、接着剤なのかブチルゴムみたいなもので嵌合されているのか、よくわからない。
ライターオイルを流し込み、溶かしながら少しずつ上部に持ち上げていく。

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いつも思うけど、この構造は整備を前提としていないよな
ドーム型ツイーターとマグネットは、分離できる。ネジで3点固定されているだけ。
ドームを保護する樹脂製のアーチ状のものもネジ留めかと思いきや、プラスの頭を模した、ただの飾り。

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意図はなんだ? と思ったら、1000Mはここがビス留めなのか
同じ面にある小さな黒いゴムも、ネジの目隠しかと思えば、下に何も無い。ただ張り付いているだけ。これも飾りか?
 
この段階で完全に萎え、その日は作業を止めてしまった。
 
ドロドロの飴を引き伸ばしたような、縫い糸より細いコイル線を修復する技術は持ち合わせていない。
ダメ元で、はんだごてで断線部の樹脂を溶かし、はんだを流し込むためのプールを作ったうえで、コイル線の切れ端をプールに入れ、勘ではんだを植え付けたところ、通電はした。

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直らないだろうと思っていたので、かなり適当
ただ、ドームの隅に補修したはんだがはみ出てしまい、見た目が悪い。出音にも影響が出そうだ。
 
しかも、このユニット、コイル線とマグネットがかなり接近した構造となっており、このままマグネットを戻すと盛ったはんだや端子と接触し、ショートしてしまう。
既存は接触部に小さな絶縁シートを挟んで対処していたので、それを再利用。

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灰色のものが絶縁シート
でも、こんなことをしなければならないなんて、明らかに設計ミスなんだよな。
 
ツイーターはかなり小さく、薄っぺらい。

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ツイーター
こちらのファストン端子オス側は多少しっかりしているものの、上記の件があるので慎重に引き離す。
 

クロスオーバーネットワーク

内部にあるネットワークは、数ミリ厚の脚を設けて浮かせた合板に乗せたもの。これをエンクロージャー背面にタッカー留めしてある。
適当な細い金属棒を浮いている合板の下に潜り込ませ、てこの原理で筐体から引き離す。

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ネットワーク回路(既存)
配線は、縦型のラグ板を用いたもの。NS-10MXでも採用されていた
コイルはすべて有芯だ。
 
3WAYにしてはパーツが少ない。よく見ると、巨大なMPコンデンサーの後に配されているツイーター用のケーブルが二組出ている。
つまるところ、2つのユニットが同じ音域を鳴動していたのだ。
それまでミッドレンジだと思っていた中間のユニットは、用途としてはツイーターだったということだ。

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ネットワーク回路
このような「性能の異なる2つのユニットを同一回路で鳴動させる」スピーカーは、なんと呼ばれるのか知らない。
メーカーは3WAYに区分している。
高音質でスタイリッシュなコンパクトサイズの3ウェイスピーカー
たしかにマルチウェイだし、ドライバーユニットが3つあるから3WAYなのかもしれない。でも、周波数帯域の切り分けで捉えれば2WAYで、そのうち高域側の音を2か所で鳴らしているのが現実だ。さすがに違和感がある。
イオニアJBLは「ツイン」と称している。ただこれも、「同一ユニットが2つある」ものをそう呼んでいるのであって、1000MMとは事情が異なる。
 
よくわからないので、以降はそれぞれ「小さいツイーター」「大きいツイーター」と呼ぶことにする。大きいツイーターは、少なくともそれ単体で再生周波数の中間帯域を専用で担うわけではないので、「ミッドレンジ」や「スコーカー」とは呼べないだろうという考え。
 
ちなみに小さいツイーターは、ケーブルシースの色から判断するに、逆相となっているようだ。
 

改修

なんだかなぁ、と呆れつつ、整備していく。
クロスオーバーネットワークは、せっかくユニットが3つあるのでれっきとした3WAYに再設計しようかとも思ったけど、先のユニット破壊の件があるので止めた。
 
単純な2WAY用ネットワークであれば、パーツの配置スペースは最低限で済む。既存よりかなり小さめの、5cm × 8cmのパンチングMDFを切り出して、そこに乗せていく。

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おてがるな100均ショップのMDF
この寸法ならば、筐体内部の空いているスペースに直に置ける。障害物を避けるために脚を設けて浮かせる必要がない。

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ネジ留めの箇所を考慮しても、この寸法で十分収まる
既存のコイルは再利用。配線ははんだを使わず、すべて圧着とする。
 
コンデンサーはすべて既存と同容量とし、ツイーター用にはerse製「PulseX」シリーズとする。

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erse PulseX
PP製にしては安価で、静電容量も細かくラインナップされていて扱いやすい。
ウーファー用にはいつものニチコンMUSEをあてがう。
 
回路も既存とまったく同一とし、筐体に収める。

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ノーはんだ
このスピーカー、エンクロージャー内には吸音材が一切使われていない。
NS-M325でもほぼ皆無だった。ヤマハ製のスピーカーは、近代製品になるとあまり吸音材を使わないのだろうか。
内部配線の固定に接着剤をなるべく使いたくなかったので、ウールを少しだけ配してケーブルが擦れそうな箇所の静粛性を確保。

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背面の基板がない部分のみ、少しだけウールを配備
件の大きいツイーターの配線は、ファストン端子部を残してケーブルを切断し、新しいケーブルと繋ぐ。
手持ちのリングスリーブで繋いだけど、ここはギボシ端子あたりにしたかった。

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リングスリーブにて対処
外したグリルパネルは、スーパーXで接着。
ネジの赤錆は薬品で落とした。しかし、完全には落としきれない模様。

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一晩漬けてもこの状態
いずれまた錆びが進むのだろう。ブラシなどで擦り落とすくらいなら、ここはステンレス製のネジに交換してしまいたい。
 
併せて、スピーカーターミナルもくすみを取るため薬品漬けに。
綺麗にはなったけれど、キャップの角の色が薄くなってしまった。気にならないからいいけど。

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あまり薬剤浸けは良くないのかもしれない
 

改修後の音

組み上げてみると、中高音域に張りが出て気持ち良く鳴るようになったものの、大きいツイーターの断線修理したほうのスピーカーは、出音がわずかに小さい。コイルの通電はしても、性能までは戻らなかったようだ。

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目立たないものの、はんだがドームを少しだけ圧迫しているのがわかる
そして、低域はやっぱりチープ。ケーブルをやや太めのOFCにしたり、ユニットを上下ひっくり返して取り付けたりもしたけれど、聴感上の影響はない。
ユニットの性能なのだろう。これ以上はどうしようもない。もったいないな。
 

まとめ

このスピーカーの発売は、1999年。往年の名機を小型にして発売したのだろうけど、ガワがそれっぽいだけで、中身はまったく異なるものだった。

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ぱっと見はカッコいい
意味不明なフェイクが多い、構造上の欠陥、性能不足と、ヤマハのスピーカーにしては見過ごせない要素が満載だった。ペア30,000円なら解らなくもない品質だけど、1000Mを冠するくらいなら倍の価格設定にしてでもしっかり造ってほしかった。残念なスピーカーである。

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イコライザーで低域を上げてやればあるいは
ちゃんとした3WAYに改造するにしても、ウーファーの性能が気に食わない。ネットワークをスルーにするのもひとつの手だけど、回路を弄ってどうにかなるような代物ではない気がしている。
しっかり前に出てくる音にしたければ、ユニットごと別のものに換装するほうが確実だ。でもそれをすれば「ヤマハのスピーカーではなくなる」と考えるので、実行には移さないだろう。
 
終。
 
(以下資料)

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