この前スピーカーを入手したばかりなのに、また新たなスピーカーが届いた。
「YAMAHA NS-10MX」。
かの有名な"テンモニ"こと「NS-10M」の最終マイナーチェンジ版。
導入動機
かなり前にこの設計を継承したパワードスピーカーを所持していた記憶がある。ただ、どうしてか思い出せないけどすぐに手放してしまった。それ以来、自宅環境にヤマハのスピーカーは置かれたことがなかったけれど、ヴィンテージスピーカーをいろいろ物色していくうちに、生産終了後も未だに需要があるというパッシブスピーカーのテンモニが気になりだしたのだった。
音をちゃんと聴いたことがないし値段も手ごろなので、状態の良さそうなのが見つかれば入手してみるか、くらいの軽い気持ちだった。
なぜ「10MX」
テンモニシリーズの中で「10MX」を選んだのはいくつか理由がある。
高音のクセ
まずは、初代は「高音が刺さる感じることがある」という情報が多数あること。再生ソースや製造年代にも寄るのだろうけど、後にヤマハ自身がツイーターを改良していることもあり、どうやら真実っぽい。最近までJBLの4312Mを聴いていて高音がキツいと感じていた自分には、ちょっと手を出しにくかった。
扱いやすさ
それと、初代が1977年発売で、10MXが1993年。ヤマハのホームページには、「デジタル&AV時代に誕生した防磁対応10M」と謳われていることから、デジタル開発環境に向けたチューンが行われているであろうことと、初代特有だという「ノイズの乗りやすさ」も対策されていることを期待した。このあたりは、しっかり聴き比べたことがないからどの程度なのかわからないのだけど。
「初代テンモニの音を聴いてみたい」という拘りが無いわけではないけど、用途が単なるリスニングなら扱いやすいほうがいいよね、というわけで10MXにした。
経年劣化
そのほかには、良好な状態の製品を比較的入手しやすいこと。10MXは後年のリニューアル機であり、それ以前のものと比べれば単純に経年劣化が進んでいない。状態の良い中古品が流通している可能性が高いと考えた。
とはいえ、今手に入れるとなると、製造がどんなに新しい機体でも四半世紀経過している代物なので、オンライン上の中古市場で入手するにもどうしてもリスクがあるし、よく目を凝らさなければならない。
外観
到着したのは、エンクロージャーはそれなりに傷があるけど、ユニット自体は正常な機体。
意外と大きい
第一印象は「想定よりかなりデカい」。デスクトップに縦置きで使う予定で、パソコンディスプレイの両脇に収まることを意識してはいたけど、物理的に置ければいいやということで設置面のワイドの寸法しか確認していなかった。そのため、実物を見て意外と高さがあることに驚いた。
ただ、バスレフポートを備えない密閉型で、奥行きは短めなので置きやすいスピーカーだとは思う。
結構重い
さらに、重い。ウェアーハウザー社製の程よく密なパーティクルボードに樺のリアルウッド仕上げのエンクロージャーは、机の上に持ち上げるのが億劫なほど重量がある。Micro-ATXサイズのデスクトップパソコン本体くらいのイメージだ。
バランスを考慮して、インシュレーターを10mm角のアルミサイコロから15mm角の黒檀サイコロに変更した。
ホワイトコーン
往年は真っ白で美しかったであろう特徴のホワイトコーンは、見事に黄ばんでいた。剥き出しの紙製なので、経年でこうなるのは宿命なのだ。もちろん想定済みである。
これは漂白したり塗装で白さを取り戻すメンテナンスが定番らしいけど、どちらも行わないつもり。漂白は劣化を急激に進める要因になり得るし、せっかく軽量なコーンなのに、塗装すると塗膜が乗って重くなるのが嫌なのでしない。特に気にならないからいいだろう。
音
肝心の音。環境は大まかに以下の通り。
- アンプはヤマハのAVレシーバー「RX-S602」
- 再生は音場効果を付加させない「ダイレクト再生」
- 手持ちのCDとサブスクリプションサービスの圧縮音源を使用
- 自分の耳の高さはウーファーとツイーターの間くらい
- 木製のダイニングテーブルの上に花こう岩タイルを敷き、その上に配置
- インシュレーターは15mm黒檀サイコロによる3点支持
今年の初めにスピーカーが故障してから新旧製品をとっかえひっかえしてきたけど、
「初めからこれにしておけばよかった」
と思わざるを得ない、かなり好みの音を鳴らしてくれた。
そつがない中音域
中音域の奥行きが深い。たしかにモニターライクで分析的な音だけど、決して硬くなく、程よく柔らかい。どの楽器が前に出てくるでもなく同列にある。音場はやや狭めだけど、楽器ごとの響きが聴こえやすく前後の立体感があることから、狭さを感じさせない。
最低限の低音域
昨今のスピーカーと比べれば、当然レンジは狭い。高域は高くなるにつれ緩やかに丸くなる感じだし、低域は最下層がバッサリ切れている。ただ、低音に関しては、ウーファーの特性でかなりキレのある鳴り方のためか、最低音域が鳴っているような雰囲気はある。音は無いけど、生ドラムのバスドラが鳴っている「空気感」というか。そういうものを感じ取れる。それ以上が欲しいのなら別途ウーファーを用意しましょう、ということなのだろう。
丸い高音域
再生周波数帯域の上は20kHzと公称されている。実音もその通りで、高域がガンガンなる感じでもなく、どちらかといえば円やかで聴きやすい。華やかな高音だという初代テンモニをよく知っていると、この音でも「不足」とか「控えめ」と評価するのかもしれないけれど、聴いた限りそういう印象は無い。
変に広げようとするより、無難な範囲をキッチリ鳴らしてくれたほうが安定するし、聴いているほうも安心する。
不得手
気になるところといえば、やはり低域だろうか。ブックシェルフ型なので致し方ない部分はあれど、アコースティックベースなどを聴いていると、明らかに量が足りず聴き取りにくい音域が存在する。ウーファーを机上面に近づくように配置して、反射音を利用しても改善は難しい。
インターネット上の情報によれば、スピーカー内部の吸音材として使用されているグラスウールが、必要以上に音を吸ってしまっているのが一因のようだ。対策してもいいけど、自分の場合はこれも気にならないし、アパートの一室に置いている今の環境では低音が出ないのはむしろメリットだったりするので、しばらく様子見とする。
また、音量を小さくしていくと、ある閾で解像度がガクっと下がる。住まいの近代化に伴い小型化したとはいえ、主流は依然フロア型スピーカーだった時代。当時の設計ではデスクトップで小音量で音楽を楽しむようにはなっていないはず。ある程度のボリュームで鳴らすことが前提のユニットなのかもしれない。
あとは、左右方向の定位に関してはそれほど良くないことか。昨今のモニタースピーカーと比べたら、やや聴き取りづらいかもしれない。
まとめ
明るく、乾いた音。それはJBLのモニターシリーズも傾向としては同じだけど、あちらは高域までカラリと晴れ渡った鮮烈さがあるのに対して、こちらは中域に特化していて、味付けなく粛々と鳴らす感じ。性格が似ていてもキャラクターは違う。
ワイドレンジでさらに定位が良いスピーカーはほかにある。今ニアフィールドモニタースピーカーが欲しいとなったらわざわざこのスピーカーを選ぶことはしないだろう。ただ、可聴域の音をここまで粒立ち良くスッキリと聴かせるスピーカーもあまりないんじゃないか。
このシリーズの製造中止の理由が「原材料の確保が事実上不可能になったから」だけど、もしそれが無ければ現代まで定番機として君臨し続けたんじゃないの?
復刻機が登場したのも必然な気がする。
終。