いつか消える文章

本当は、ペンとノートを持ち歩くことにあこがれている。

YAMAHA NS-10MX 発売当時のレビュー記事抜粋

ヤマハのスピーカー「NS-10MX」発売当時の各オーディオ雑誌に掲載されたレビューから、音に関する部分を抜粋し以下にまとめる。
 
 
 

広告 (ステレオ 1993.11.)

17年目の10Mシリーズに、デジタル&AV時代のNS-10MX誕生。
1977年以来、世界中の音楽ファンに、レコーディングエンジニアに愛され信頼され、小型スピーカのスタンダードなデザインを作り上げたNS-10Mシリーズに、デジタル&AV時代に対応した新しい音と機能を備えたNS-10MXが誕生します。モニタースピーカとして時代を築いた基本思想を受け継ぎながら、AV対応の防磁設計と、デジタルソース対応のリニアリティを獲得。デジタル&AV時代の小型スピーカ・デザインの目標となるHiFi再生の在り方をお見せします。
18cmシートコーン・ウーファと3.5cmソフトドーム・ツイータの組み合わせで、 デジタルソースに高忠実対応するハイスピードなレスポンスを獲得し、豊かな低域から伸びやかな高域までウェルバランスな再生を実現します。
磁気回路にはヤマハ独自の新開発着磁方式を採用。磁気回路内磁束分布のバランスポイントを探し、 フェライト防磁回路でありながら、聴感上の歪感やS/Nを大幅に向上し、ぬけの良い自然な音質を実現します。
 

ステレオ 1993.10.

STEREO試聴室 話題の新製品を聴く

石田善之
NS-10Mに比べるとクロスオーバー周辺が大変スムーズになり、全く無理のないものとなったが、全体の主張や明解な音の粒立ち感は、同じような方向を意図している。密閉型特有の、低域ののびはあっても豊かさや量感などはおさえられているパターン。(中略)しかし、音の明解感は大いに評価できるところで声楽曲は実にリアリティに富んだもの。ピアノも一音一音の粒立ち、張り出しなどにすぐれ、音抜けの良さはこのクラスでも一、二を争うもの、と言えそうだ。ただ、低域の豊かさや量感がもうひとつ伴いにくいため、明解な音像定位感ははっきりとしているのだが、空気をゆるがすような音場感や厚味感は薄くすっきりとしている。オルガンとコントラバスの曲では不思議とコントラバスのサイズがきちんと感じられる。全体的な周波数バランスが整っているためで、想像できる低音を持っている、という見方ができる。(中略)セッティングに際して、低域を重視し、必要に応じてアンプの低域補強を活用すべきだ。
入江順一郎
(前略)バランス的には、ややハイエンド方向に向かって上昇した傾向になってはいるが、歪み感だとか付帯音がつく、というようなことはない。むしろ、このバランスだと、女性ボーカルなどでは、わずかにハスキーボイスになるものの、かえって爽やかさが出てくれるようにもなる。このあたりは好みの問題かもしれない。レンジ的にはそれほど広くはない。特に低域は口径18cmのウーファーだから、スタジオのサブモニターとはいっても、あまり低い低域が出るわけではないが、コントラバスの低域あたりまでは、倍音成分の関係で、違和感なく聴くことができるし、ピチカートでも、小気味のよい歯切れのいい低音を聴くことができる。ピアノも当たりのいいし響きも綺麗に出てくれる。(中略)弦では高い方がバランスの関係でわずかに薄めになるが、音そのものの感じはいい方だ。オーケストラでは、やや迫力やスケール感にかけるものの、けっこう細かい音も出て、それなりの密度感などもあり、音像の定位も良好である。また、音場感も広い方で違和感はない。

STEREO試聴室 今月の新製品を聴く

大きな改良点はウーファーの磁気回路で、独自の着磁方法により均一磁界が得られる磁気回路とし、音質を向上させている。こしのある中低域は、こうした結果生まれてきたものだ。モニタースピーカー的なバランスの良い再生音で、再生帯域内での密度が高く、解像度を重視した前に出る音の出方だ。サイズを上回る音の出方ではなく、サイズなりの音の出方だが、完成度はきわめて高く、実力も充分なものがある。

特集II:この秋の新製品はやどり情報 斎藤宏嗣

(前略)ロングランのみならず、コンパクトモニターとしてレコーディングスタジオで世界的な活躍を見せているヤマハのNS-10Mが久々にグレードアップされ、NS-10MXとしてデビューする。(中略)レンジも一段と広がり、エネルギーバランスもフラットに収められ、飛躍的に分解能も向上した。スタジオでこのニューモデルに交換が行なわれれば、ポピュラー系を中心に録音バランスも向上し、ソフトの品位向上にも大きく反映されるモデルチェンジである。(後略)
 

ステレオ 1993.11.

聴きました! 今年の新製品集中試聴 石田善之・福田雅光

福田
このモデルは、帯域表現としてはそう積極的なアプローチをされていないような印象を受ました。特に低域方向での量感という、エネルギーの確保というのはあまり重視していないようです。それで、低い帯域での奥行きとか雰囲気というと、どうもコンパクトでこじんまりした傾向を感じます。しかし、中間帯域から高域にかけての音質の素直さが特色になっていて、分厚い肉付きよりも、あっさりしたタイプの音質表現が基調になっています。 抜けのよさとか、自然な感じで流れてくる、その中域を主体にしたトーンのまとまりという素質に魅力を感じました。
石田
大変明快な鳴り方ですよね。このスピーカーも好き嫌いがかなり分かれてきてしまうのではないかなと思うのです。その評価の分かれ目は、低域の量感だと思うんです。こういうふうに引き締まって、量はあまり感じないけれども、何かエネルギッシュに感じる低域と、それから豊かさを感じさせる低域との違いがあって、これははっきり前者の方ですよね。(中略)解像力を高めて、音をストレートに聴かせるというスピーカーだと思うんです。雰囲気を感じさせるとか、想像力を高めて広い音場を連想させるというスピーカーではありません。
 

別冊ステレオサウンド '94 NEWコンポーネント

注目新製品徹底解剖 高津修

(前略)最近のコンパクトスピーカーは、フリーエアスタンディングを前提として、リアバッフルにバスレフポートを設けた製品が多くなっているが、コンソールトップモニターの本機は従来どおりの密閉型で、専用スタンドも用意されていない。そのため、今様のトールボーイスタンドにのせて使用する場合には、背後の壁に近づけるなど、低音のレベルバランスに留意する必要があると思う。 といっても、基本的にナーヴァスなスピーカーではない。明るく陽気で健やか。長い年月にわたってユーザーに支持されてきた持ち味を、なるほど素直に継承しながら、この製品の音はずっと滑らかに、格調高く洗練されている。すんなり鳴らしやすい。重箱の隅をつつくような音は出さない代わり、濃密なエネルギーの凝集力に秀で、わけてもヴォーカルの音像が気持ちよく前へ出る。細部を聴きわけるための録音用モニターというよりも、音楽の全体像を上手につかまえてリミックスバランスの勘どころをくっきりと浮かび上がらせる。そういうタイプの音づくりが、いよいよ手慣れて格段に冴えを増した印象。日本のコンパクトスピーカーに、この種の小気味よさは少なく、さすがロングセラーの蓄積技術に感嘆させられる。
言い換えればそれは、中音域の充実感が高いことである。本機はプログラムソースを選り好みせず、 デジタルを危なげなくこなす一方で、アナログディスクとの相性が近頃めずらしくよい。DSPのエフェクトチャンネルに使っても成功しやすいという事実も、肝腎な情報をしっかりと伝える卓抜な能力の証明だ。
 

ステレオサウンド 1994. Winter

'93-'94 ザ・ベストバイ・コンポーネント595選 スピーカーシステム20万円未満

上杉佳郎
(前略)コンパクトサイズのわりには低域がよくのびており、スケールの大きなサウンドを楽しませてくれる。
柳沢功力
(前略)ユニット自体は変らずだが、音質は音声帯域に一段の厚みを持つものとなった。
 

ステレオサウンド 1995. Winter

'94-'95 ザ・ベストバイ・コンポーネント663選 スピーカーシステム20万円未満

柳沢功力
(前略)従来機ゆずりのしっかりした音声帯域も、一段と厚みを増しているし、とくに小型機らしからぬパワフルな低音は、音の切れや質感をさらに高め、中でもジャズ系の曲に魅力を発揮をする。
 

MJ 無線と実験 1994.1.

MJレポート 小林貢

(前略)音質劣化がなくキャンセルマグネット着磁の際に最適な磁束分布となるような特殊加工を施すことで、むしろ音質を向上させているというのである。事実同じコーン紙ながら私が使っていたオリジナルモデルや前作より、アコースティックベースなどのピチカート音のしなやかさや女性ボーカルの滑らかさ、潤いなどを巧く引き出せるようになっている。
ヒアリングでは低域の質感が高まったと同時に中域の密度感が増し、ボーカルの音像も実在的になりバックの楽器群からスッと抜け出してくるような分解能の良さが感じられる。そして高域に関しても充分にエージングを行なった後のシステムのようにスムーズさが加わり、ストリングスなどの響きにもしなやかさが感じられ、前作がどちらかというとロック・ポップ系ミュージックにマッチしていたのに対し、本機は小編成のクラシック系ソースなどもソツなくこなすバーサタイルな性格となったという感がある。(後略)
 

HiVi 1994.1.

新AV時代への羅針盤 ワイドビジョンにベストな小型スピーカーを釣り上げろ! 佐久間輝夫

(前略)いかにもモニターらしく、キレのよい明晰な音。新開発A・MAGの恩恵だろうか、高域の細かい音まで克明に再生してくれていることがわかる。表情が豊かで、迫力もある。このスピーカーは、女性ヴォーカルを魅力的に聴かせたと記憶している。ところが、同じ声でも男優のセリフは予想外。イメージにある声よりもかん高く聴こえてしまう。これは、モニターとしてはいかがなものか。モニター機だからということで、より高次元の要求をしているのかもしれないが……。
ところが音楽では、俄然イキイキと鳴る。ギターはどちらかというとセミコア風になるけれど、映画よりも「らしく」聴こえる。リズムはシャープでタイト。キレのよさは抜群だ。この、いかにもモニターライクなサウンドは、映画よりも音楽向きといってしまっていいと思う。
 

HiVi 1994.6.

「映画の声」で聴く注目スピーカー24機種の個性

佐久間輝夫
(前略)映画のセリフも、あまりいただけない。声はそんなに悪くはないが、ちょっと重心が上がりぎみだし、急いでしゃべっているようなせわしない印象を受けてしまう。「インディ……」のSEはメッサーシュミットMe109のスピード感やサラウンド感は楽しめるものの、不時着の場面は音がいっぱい聴こえるというより、騒がしいと感じさせる。というわけで、映画を面白く、あるいは感動させてくれる音とはいいがたいのが残念。(後略)
高津修
(前略)このタイプの音は(あくまでも私見だが)、セリフを主体とするAVのメインスピーカー、あるいはセンタースピーカーには向いていない。グッド/バッドではなくて、音づくりのベクトルが違うのである。(後略)