いつか消える文章

本当は、ペンとノートを持ち歩くことにあこがれている。

YAMAHA NS-BP200 をチューンアップする

ヤマハの2WAYブックシェルフスピーカー「NS-BP200」を手に入れたので、整備してみる。

 

ロングヒット製品?

Amazonでパッシブスピーカーと検索すると、いつも検索結果の上位に食い込んでくるブックシェルフスピーカーNS-BP200。
 
2011年発売。実は結構前に生産を終了していて、ややもすれば新品を入手するのは難しそうな製品。しかし、なぜかAmazonは未だに新品購入が可能という、不思議なスピーカー。

YAMAHA NS-BP200
単調な四角い筐体に、「ピアノブラック調仕上げ」という艶のある見た目で、ぱっと見はモダンな印象。
しっかり2WAY、2Speaker。それでいて2019年あたりではペア7,000円を切っていた。コストパフォーマンスの良さそうな、手を出しやすい製品であるのは間違いない。
その後価格は徐々に上がっていき、この記事執筆中の値段は11,000円となっているものの、国内有名メーカーの単品スピーカーペアセットであることを鑑みれば、未だ破格である。

ひょうたん型サランネットが特徴的
以前、同じヤマハの少し古いスピーカー「NS-M325」を鳴らしてみたことがある。
低価格ながら、内部パーツに良いものが使われていて好印象だった。
NS-BP200はあちらと実売価格が近く、気になっていたスピーカーだったので、中古で品質が良さそうなものを吟味して入手してみた。
 

改修前の音

いつものように、AVレシーバー「RX-S602」にバナナプラグで接続。パソコンから「DIRECT」再生。

余裕のスペース
低価格ながらバナナソケットが設けられているほか、底面にそれなりの大きさのゴム製の脚が備わっていて、至れり尽くせりである。

前2、後1の3点支持
今回はこのゴム脚をそのまま利用。
 
音のほうはというと、意外にも低音寄りのバランス。
ヤマハなので中高音重視かなと思っていたけど、むしろそちらは控えめ。長くとられた奥行きと、その背面に設けられたバスレフポートの機能を存分に発揮して、割と深めの低音を出してくる。
 
中高音は、平坦で特徴が無い感じ。歪みっぽくはなく綺麗な音だけど、ちょっと物足りない。
 
メーカー曰く、
バッフル面の横幅と高さをコンパクトに抑えて奥行を長く取った独特の深型スタイルのプロポーションにより、キャビネット容量を確保し、サイズを超えた豊かな低音再生を実現。
とあり、これについては嘘偽りない印象だ。
 
しかし、個人的にバスレフのボンボン鳴る低音は好みではないし、中高音側にもう少し主張が欲しいところ。今回はここの改良をチューンの目標としたい。
 
そのほか、音場は標準的。立体感、定位感はやや曖昧で、このあたりは価格なりといったところか。
 

分解

中身を見るためバラしていく。
 
エンクロージャーの見た目は、遠くから見るとそれなりに見えるけど、触れてみるとミニコンポに付属のスピーカーとさほど変わらないことがわかる。
光沢のある「ピアノブラック仕上げ」は、前面と背面以外の4面。ウレタンを吹き付けているわけではなく、テーブルの天板に使われるようなメラミン化粧板である。

ビニールっぽい触覚がある
艶のある平滑なボードであって、キラキラの鏡面仕上げとなっているわけではない。
ウレタン仕上げよりも指紋は目立たないものの、それなりに付く。対して、埃は目立つけど、ウレタンほど付きやすいものではない。埃に関しては後述する前面バッフルのほうがやっかい。
 
前面バッフルは、艶消しの樹脂製で、ほかの面と仕上がりが異なる。筐体に接着剤でくっつけているようだ。
加工品質はあまり良いとはいえず、よく見ると切削の跡が残っていたりする。

面取り時の刃物の跡だろうか
バッフル自体は取り外せるようになっているみたいだけど、真っ二つに割ってしまう未来が見えたので、今回はそのままにしておく。

下部にツメを入れられそうな溝がある

真ん中のこの部分が、絶対に割れる自信がある
このダークグレーのバッフルは、埃が付くと指ではなかなか落とせない。不織布などで払う必要がある。
 
サランネットは磁石式で、各ユニットをエンクロージャーに留めている六角穴のネジ頭3か所にあてがうようになっている。

ネット裏面。なんでひょうたん型なんだろう
磁石による固定は、従来品に見られるスタッドがダボ穴内で折れてしまう現象を回避できるし、筐体内に埋めてしまえば前面意匠の自由度が増すので良いと思う反面、エンクロージャーの仕上げによっては長時間磁石が当たっていた部分に変質が生じてしまったりするので、使いどころが難しい印象。
このスピーカーについても、磁石がくっついていたネジ頭だけ、黒色塗装が剥げてきている。

アイディアとしては良いと思うけど
ツイーター、ウーファーの各ユニットは、前述のネジで固定されているだけ。
ウーファーのゴム製エッジがむき出しで、それ自体が前面のデザインとして機能しているようだ。コーンも含めダークグレーで統一されていて、見た目の違和感は皆無。

センターキャップは、かなり薄そうなゴム膜

ドームになにかコーティングされているツイーター
どちらのユニットにもフレームに金属は使われておらず、オール樹脂製。このあたりも価格を踏まえれば順当だろう。
なお、マグネットはどちらもなかなか大きなものが使われている。

ABSではないと思うけど、材質は何だろう……
ツイーターの前面パネルは、3点のネジを取り除けば外れる。

接着剤がほんの少し使われている
コイル線は銀色をしている。アルミ製だろうか。

切れたら修理が大変そうだ
筐体内の吸音材は2か所。ウーファーの背面下部に化繊ウールシートと、背面上部のバスレフダクトと天面に挟まるようにフェルトが置かれている。

俯瞰
吸音材少なめな印象のヤマハのスピーカーにしては、これでもそこそこ入っているほう。
 
エンクロージャーは、背面を除き厚さ12mm程度のMDF。それなりの厚みのものが使われていて、さらに側面には補強用とみられる棒状の板材が斜めに渡っている。
この加工、意外と手間だと思うのだけど、見えないところにコストをかけられるのはさすがヤマハだなと思う。

どの程度の効果があるのだろうか
天面には、円盤状に切り出されたMDFがくっついている。

天面の裏側
この作法は、パイオニアのピュアモルトスピーカーでもなされていた。
わざわざ円形にしているのは、音質面でなんらかのチューンを施しているのだろうか。
いずれにしても、エンクロージャーの内面をここまで加工しているとは思っていなかったので、少し驚いた。
 
クロスオーバーネットワークは、スピーカーターミナルユニットの裏側に基板を括りつける、近代のスピーカーでよく見かけるタイプ。
スピーカーターミナルユニット自体が大きいので、アクセスは上々。

取り外しても、ケーブル長に少し余裕がある
フィルター回路としては、シンプルな12dB/octの設計。

ネットワーク基板表裏

ネットワーク回路(既存)
まず目を引くのは、澄んだ群青色のシースの電解コンデンサーだ。

これ欲しい!
金字で「SNX」とある。これ、ニッケミのスピーカーネットワーク用の電解コンデンサーらしい。初めて見た。
SNXというものは2010年代のカタログには掲載を確認できるけど、現行のラインナップからは姿を消している。
ツイーターのHPFに使われていても音は悪くない感じだったので、今後の整備用としてかなり欲しい品なのだけど、売られているところを実店舗でもECサイトでも見たことがない。
今度、秋葉原に行ったときラジオデパートでも覗いてみようかな。
 
縦型のセメント抵抗も、回路を組むうえで扱いやすそう。

これも、どこか入手できるところはないかな
 

整備

外装がとても綺麗な状態で、気になる点も少ないので、整備は内部のチューンを少し施す程度に留める。
 

ネットワーク回路

実は、分解してみるまでは、ツイーターに使われているコンデンサーはフィルムコンデンサーだと思っていた。そのくらい、SNXは歪みの無い綺麗な音を出している。
なので今回は、既存の電解コンデンサーはそのまま残し、小容量のフィルムコンデンサーを付加する形にする。
 
基板上のコンデンサーを弄らず、どのように付加するか思いあぐねた結果用意したのは、ルビコンの薄膜高分子積層コンデンサー「MU」。

薄膜高分子積層コンデンサー「MU」
この米粒大のフィルムコンデンサーは、以前小型アンプの改造に使用したことがある。
これを、基板のはんだ面に無理やり盛り付ける。
以前、はんだごての熱を加え過ぎて、コンデンサー側の電極を破壊してしまったことがあるので、慎重に。

なんとか乗った

ネットワーク回路(改修後)
 

スピーカーターミナル

せっかく面積の広いスピーカーターミナルユニットを備えているので、ポスト部をさらに大きなものに変更してみる。
 
金属製の大型キャップが付いたもので、黒塗りのものがあったので、購入してみる。
Amazonで買ってみた。銅製とあるけど、実物は真ちゅう製っぽい。メッキされているならどちらでもいいけど。
 
樹脂カバー側の貫通孔を拡張する必要がある。ナイフやニッパーで適当に削る。

ルーターが欲しくなってくる
背の高いキャップのほうが、見た目のバランスが良い。また、このサイズだとバナナプラグが根元まで刺さるため、既存よりも多少安定性が上がる。
ただ、ポストを乗せるスペースがそれなりに必要なので、汎用のものにはそのままでは物理的に取り付けられない。

思いのほかいい感じ
 

ケーブル

内部の配線を引き換える。
今回使用するのは、オヤイデ電気の「EXPLORER V2」。0.75sq。
これは、今回初めて採用するケーブル。インターネット上の書き込みで中高音向けとの意見があったため、今回持っていきたい音の変質の方向として合っていると思ったから。
0.75sqという細めの芯径で、基板のホールに挿しやすいのもある。
 
スピーカーターミナルとの接続は、OFCケーブル。こちらも0.75sq。
8mm径のクワ型端子を圧着し、別途用意したワッシャーとポスト付属のナットで固定。

ファストン端子が使えない場合は、この方法で

ペア1万円のスピーカーの仕様には見えないだろう
 

改修後の音

整備後の音には、意図通りの変化が感じられた。

改修後の姿。といっても、前面は改修前と変化は無い
中高音、特にシンバル系の響き方やスネアのパツンパツンとヌケる音が、実在感を伴っている。また、定位も若干落ち着いた。
低音域は静かになった気もする。周波数測定値的には整備前と同等なので、おそらくその他の音域との相対的な変化として感じているのだろう。
 
もう少し詰めるなら、アッテネーターの定数を変更する。あとは、ゴム脚を取り外して、硬めのインシュレーターを敷いてみることくらいか。
それでも、全体のバランスとしてみれば十分改善されただろう。
 

まとめ

ネット上のいろんな書き込みを見る限り、そこまで悪い評価をされていなかったので、それなりに良い音がするのだろうと思っていたけど、いざ鳴らしてみるとやはり現代機の粋を落とし込んだような広いレンジ感には驚かされるのだった。

背面。今回の意匠でお気に入りポイント
また、筐体の構造と意匠の合理化は、安いなら安いなりの工夫が見受けられて、このあたりも進化を感じられる。今回は特に、前面のバッフルを含めたフラットな造りに感心した。
20年30年前の製品と比べれば剛性は落ちているのだろうけど、マグネットの大型化、基板のソルダーレジストなど、改善している点もちゃんとある。

しばらく聴き続けてみる
据置型スピーカーなんて邪魔くさくて、これからどんどん淘汰されていくのだろう。それでも、安くて良いものが出続けてほしいと願うばかりである。
 
終。 
 
(写真資料)