「ピュアモルトスピーカー」ことPioneerのブックシェルフスピーカー「S-A4SPT-VP」のグレードアップをしたくなったので、その内容をまとめておく。
経緯
もともとピュアモルトスピーカーに興味があり、ほぼ新品同様の中古品を入手、一時期メインスピーカーとして稼働していた。
ただ、音が暗い。当時は漠然と、あえてそのようなチューンをしているのだと思っていたけど、もう少しオーディオ機器っぽい鳴り方をしてほしいとの思いは消えず、すぐに別のスピーカーに移ってしまった。
しばらく物置で眠っていたところ、スピーカーネットワークの知識もそこそこ身に付いてきたので、音質の改善をすべくチューンアップしたくなった。
いつも行っているメンテナンスはコストパフォーマンスを多少なりとも意識したパーツ構成に組み替えることが多いけど、今回は度外視し、高級部材を盛り込んだものにしていく。
改修前の音
Gloomy
元々の音は、中低音に量感を持たせた"響き"に重きを置くもの。モニタースピーカーの対極にいる鳴り方。
しかし前述のとおり、全体的に暗い印象の音。
定位がやや曖昧なのもあるけど、線の細い高音が野太い低音と合っていない気がする。古オークのウイスキー樽をエンクロージャーに使用したスペシャルな製品ということで、イメージに合わせた音作りをしていると思えば納得できないこともないけど、長時間聴いているとなるとつらいものがあった。
スピーカーであるからには良い音を聴きたいわけで。
コンセプト
主として目指したい音の傾向は、
- もう少し芯を持たせたい
- 低音の量感とシルキーな質感は消したくない
定位感が乏しいのはユニットの性能だろうから弄ることは難しい。
中音域の"濡れ感"や意外と下まで出ている低音もそのまま残しておきたい。
高音域はもうちょっと出ていてもいい。でも、単にツイーターの受け持つ周波数帯域を拡大して付加するだけではキャラが崩れる気がした。
音が暗いからといって、明るくしたいわけではない。
詳細は内部の状況を確認してから定めるとして、モルトスピーカーのキャラクターを維持したチューンアップを目指すのは一貫したいのだった。
分解
さて、分解していく。
エンクロージャー
ぱっと見で外せそうなものは、前面にあるウーファーユニットの4つのネジとツイーターユニットの3つのネジ。それぞれ同サイズの六角穴。
ただし、ウーファーはネジをすべて取り除けばそのまま外せるけど、ツイーターは隠しネジを外す必要がある。
EVA製の小さな目隠しがあるので、それを慎重に剥がすとプラスネジが現れる。目隠しは両面テープで貼り付いている。
ツイーター側の3つの六角穴ネジは、円形の金属プレートと前面パネルを緊結しているものだ。ユニットを外すだけならこのネジは弄らなくていいけど、バインディングポストがツイーターの真後ろにあり、そちらを弄る場合はプレートまで外すことになる。
吸音材は前面以外の5面にウールが置かれている。
ツイーターユニットのキャンセルマグネットやネットワークのパーツの隙間など、細かなところまでウールの切れ端が詰められている。
接着剤は使われていないので、ウーファーの孔から手を突っ込み簡単に引き抜ける。
エンクロージャー内部は、未塗装のオーク材を見ることができる。新品当初はウイスキーの香りが残っていたらしいけど、さすがに今は消えている。
一部には何やら印字らしきものもあり、ウイスキー樽だったころの面影を残しているのが良い。
ネットワーク
ネットワーク回路を取り出す。ネジ4つでエンクロージャーに直に留められている。
粗目のファイバーボードの上に各パーツが乗せられ、ケーブル含めすべて接着剤でギトギトに固められている。
真ん中にある電解コンデンサーは、ウーファーLPF用。「ELYTONE」というメーカーの5.6μF。
ツイーターHPF用にBENNIC社製メタライズドポリプロピレンフィルムコンデンサー「PMT」シリーズが使われている。静電容量が2.0μFというややめずらしいもの。
ウーファー用のコアコイルは0.85mH。ツイーター用の空芯コイルは0.36mH。
セメント抵抗器は4.7Ω。
接着剤で覆われて回路が追えないので、はんだごてで少しずつジクジク溶かしていく。
この工程にかなりの時間を費やした。
搭載されているネットワーク回路は、一見は一般的な2WAYスピーカーのそれ。
しかし、よく見るとツイーター回路の直列のフィルムコンデンサーがマイナス側に配されている。既製品の2WAYスピーカーでは初めて見たな。
なお、使用されているケーブルは、ウーファー用に正体不明のスピーカーケーブル、その他は一般的なPVCケーブル。
改修
ネットワーク回路の新規製作
まずはネットワーク回路の再構築から。
既存のコイルは再使用するため、ファイバーボードから外す。
ここでもやはり、接着剤の除去が大変な手間。
ネットワーク回路は、現行から少し弄ることにした。
違和感のある高音域の改善として、直列のコンデンサーの接続をプラス側に持っていく。
元はクロスオーバー周波数が4.5kHzの設計で、ウーファーにある程度音数を担わせているようなので、その意を汲んで、既存のパーツの数値と近い容量で回路を構成する。
また、低音域を少しスッキリさせたかったので、並列のコンデンサーをフィルムと電解の併用とする。ここは、先日メンテしたCORAL EX-102AVの方法を参考にしている。
容量の振り分けはだいたい半々にしたけど、フィルムコンデンサー側はもっと小さくてもよかったかもしれない。
パーツ類は、既存と同サイズに切り出したパンチングMDFボードに乗せていく。
コンデンサーは、フィルムコンデンサーにPARCAudio製PPフィルム、無極性電解コンデンサーにデンマークJantzenAudio製の「EleCap」とした。
PARCAudioとしたのは、音色の癖が少ないというのもあるけど、ボードに接着しやすいからという理由が大きい。ケースが薄い直方体で物理的に乗せやすく、固着させやすいのだ。
寸法に制約がなければ、SOLEN製を選んでいたところ。
その代わり、ツイーター用には高級ライン「DCP-FC003」を乗せることにした。
すべてPARCAudio製に揃えたかったけれど、ここでもスペース確保がネックとなり、電解コンデンサーは小型のJantzenAudio製とした。このサイズなら、フィルムコンデンサーのラジアルリード線の間に挟める。
抵抗器は、メタルクラッド巻線抵抗器とした。
セラミック製より周波数特性的に有利であることは承知だったけれど、大変高価なので避けてきた。ただ、最近秋葉原のパーツショップで比較的安く手に入ることを知り、今回導入の流れとなった。
サイズも小さくてピッタリである。
これらを、切り出したMDFボードにバランスよく配置していく。
エンクロージャー内部にボードを固定するためのネジが、外部からドライバーでアクセスできる位置に配置しなければならないことに留意。
新規ネットワーク回路は、結線にはんだをなるべく使わない設計にしたかった。狭小住宅にもかかわらず、あえてモールド端子台を設けたのもそのため。
ケーブルの引換え
パーツ配置が決まったら、各々配線していく。
ネットワークから各ユニットとバインディングポストまでのケーブルも、すべて引き換える。
バインディングポスト間はBELDENの8470。各ドライブユニットへはOFCケーブルとした。
ケーブルによる音の色付けをなるべく抑え、エンクロージャーとドライブユニットのみによる出音を前面に出したかった。
バインディングポストを交換するか、最後まで迷った。
結論としては、既存再使用とした。もともと高価な真ちゅう削り出しのポストが使われていることに加え、このスピーカーのエンクロージャーに見合うデザインの新しいポストが見つからなかったのだ。
表面と内部を軽く磨く程度に留めた。
吸音材
ネットワークとバインディングポストの結線を済ませたら、吸音材を詰め込んでいく。
吸音材も新規に用意。今回は贅沢にも天然羊毛断熱材「サーモウール」を用意。
この吸音材の配置に試行錯誤した。
単純に各ユニットの背面に詰めると、共鳴を殺してしまう。それはそれでタイトな音でいいのだけど、せっかくウイスキー樽を使ったエンクロージャーなので、あえて共鳴音を残すような形で、ピュアモルトスピーカーらしさみたいなものを音で表現したかった。
最終的に、ウールは底面と天面、左右にやや圧縮して敷き詰め、ほぼ真ん中にあるバスレフポートのダクトとその周辺には空間がある状態にすることで一応の完成を見た。
改修後の音
いつものようにAVレシーバー「YAMAHA RX-S602」にバナナプラグ接続でシステム構築。アンプ側の再生は「DIRECT」。
まず感じるのが、高音の素直さ。やや引っ込み気味だったのが、定位感が増し聴き取りやすくなった。音自体もざらついた感じが減った。
コンデンサーは既存と同じPPフィルムコンデンサー、容量もほぼ同等であるにもかかわらず、ここまで音の変化があるのは、やはりコンデンサーの接続変更が効いているように思う。
ファンキーなエレキギターが心地よく聴こえる。
出音を下支えするシルキーな低音は、質感は損なわれていない。ただ、量感は少し減っている。ここは並列に積んだフィルムコンデンサーの影響が出ているのかもしれない。
基本的には問題ないけど、音域が上下に激しく動くベース音で違和感があるソースもある。吸音材の配置をさらに詰めなければならないのか、慣らし運転で自然と調整されるのか、現段階では判断がつかない。しばらく様子見となる。
パキパキの現代ソースより、オールドジャズ、ビッグバンドなど、演奏時の空気を収めた生音の再生が得意なスピーカーだ。
まとめ
今となっては貴重なスピーカー故、作業にはいつになく緊張感があった。パーツ類も高価なものばかりで、失敗して買い替えるにしてもお財布的にキビシイ。そんななか、一応の改善を見せてくれたのはよかった。
しかし、特別感を演出している製品の割には、内部のネットワークはお粗末と言わざるを得ないものが搭載されているのは、残念でならない。接着剤の多用はいいとしても、音質を決める各パーツには拘りを持ってほしかった。
その観点では、今回のチューンアップは意義のあるものだったのかもしれない。
このスピーカーでもうしばらく、いろんな音源を聴いてみることにしよう。
終。
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