BOSEの小型パッシブスピーカー「MODEL 100J」を手に入れたので、整備してみる。
あまり状態が良くないため、あれやこれやとしていたら、ドライバー以外はほぼフルリメイクとなった。

スタードライバーの音
導入の動機
某フリマサイトでいわゆる"ジャンク品"扱いで放出されていた100J。

出品者によれば、外装の状態は悪いものの音はちゃんと出るとのことだったので、それならばと札を入れてみた。
スピーカーに限らず、基本、ジャンク品には手を出さない。ただ今回は、よしんば外観がボロボロでも、内蔵されている特徴的なドライバーユニットだけ正常なものが確保できればいいかな、と思ったのだ。

購入後、出品者からコメントで、ジャンクである旨をやたら強調されたので、事故物件にでも当たったのかなとおっかなかったけど、手元に届いた実物は、ごく一般的なコンディションの中古品。音も出る。

スタードライバー
興味があったのは、このスピーカーに搭載されているドライバー「スタードライバー」である。
接着剤で固定されている前面パネルと無理やり剥がすと、独特の紋様が現れる。
音は、同じ11.5cm径フルレンジドライバーを備える「101MM」と比べると低歪だという。
聴いてみると、低音域は同じような感じだけど、たしかに中高音域に分解力があり、スッキリして見通しが良い感じだ。実直な音。
よく見ると、星を模った部分はラバー製。コーン紙の面積の半分くらいをラバーエッジが覆っているような造形。2種の素材が貼り合わさっているのだ。

発売当時のカタログを入手して、この特徴的なドライバーのウンチクを確認してみる。
そして生まれたのが、このスタードライバーということらしい。
ということらしい。
コーン紙を巨大なラバーで抑えて、余計な振動を発生させないようにしているということだろうか? ただ、これだと感覚的に、コーンがほとんど動かなくてロクな音が出ない気もするのだけど、こういう構造でも振動板として機能するらしい。不思議なもんだ。
分解
中身を見ていく。まずはドライバーユニットから。

ユニットの固定に使われているネジは、プラス穴の一般的なタッピングネジ。それが3点。
ヘックスローブとか特殊なネジではないのは、通常手を入れられない箇所だからだろうか。
取り外すと、なにやら怪しい雰囲気のケーブルが出てくる。


どうやら、前オーナーはペアの片方を一度分解しているらしい。思えば、この変な結線をしているスピーカーの前面パネルは、接着が甘かったな。
これが"ジャンク品"である真の理由か。
緑色の2本のケーブルの先も、見慣れないものが見え隠れしている。


これは前オーナーの仕業ではなく、製品の仕様なのだろう。アメリカだとこういうのが一般的なのかな。


しかし、両者間はかなりの短距離なので、わざわざコネクターを使う意図がつかめない。うーん。
このスピーカーは、正面に0.5mm厚のアルミプレートが貼られている。

これを剥がすと、下にネジが2本現れる。

やたらボロボロで埃の付きまくった両面テープでくっついていた。
これは前オーナーの仕事だろう。粘着面を下にしてカーペットかなにかの上に置いたのではないか。


ネジを外すと、前後の樹脂製バッフルとMDF製の胴体部がバラバラになる。
ドライバーユニットを留めていた3本を含め、計5本のネジで函の形状を維持していたことになる。荒業に思えるけど、パーツ点数削減の面からすれば合理的ではある。
エンクロージャー内は吸音材が一切無く、ガラガラ。


ブラケットを取り付ける金具は、ボルトナット式。内側のナットに接着剤が盛られているけど、それが経年劣化で剥がれ落ち、その破片がスピーカー内部でカラカラと音を立てていた。

ダブルナットにしたくても、ボルト部が短すぎて一般的なナットでは固定不可。
適当な鬼目ナットに替えてもいいけど、ブラケット周りの改修に時間を割きたくないので、今回は原状復旧とする。

前面バッフルに設けられたバスレフポートは、細長いスリット型のヤツ。

この仕様は「BOSE 121」みたいだけど、あちらのような分離はできない。
整備
内部の整備はできることが少ない。外装の整備を中心に行っていく。
前面ネット
樹脂製のバッフルの黄ばみが、漂白剤に浸けてもあまり綺麗にならなかったので、塗装してしまうことにする。
前面のサランネットが一部剥がれかけていたので、筐体を塗装するついでに別のものに張り替えて、デザインに統一感を持たせたい。
既存のダークグレーのサランネットは、樹脂製のパンチングネットの全面に接着されている。これを、パンチングパネルを割らないよう慎重に剥がしていく。
シール剥がしを吹き付けてから行うと、多少ラク。

東急ハンズで買ってきた、薄手の綿100%生地をネット代わりにする。
布地の固定には、以前ネットの張り替えに大活躍した布用両面テープを、今回も使用していく。

両面テープを貼る位置は、パンチングパネルの縁の裏側にする。生地とテープの厚みでバッフルに物理的に嵌らなくなることを避けたかったからだけど、結果としては表側に貼っても問題なかった。
基本は両面テープだけど、四隅だけは瞬間接着剤を垂らして固めておく。

同じことをもう一つのほうにも行う。ただし、柄は多少変えて。

前面ネットにあるエンブレムはピンバッチ式なので、着脱が容易。同じような位置に刺すだけ。

アルミパネル
前面のネジを隠しているアルミパネルは、粘着面を綺麗にして再利用するつもりでいたけど、剥がす際に少し反ってしまうし、ゴシゴシ擦るのも手間なので、新しいものを用意することにした。
同じアルミ製にしてもいいけど、どうせ交換するならということで、東急ハンズで材料探し。その結果、「カラーアルミ」というものを見つけた。
これを木工房に持ち込み、既存と同寸法に切り出してもらう。
長辺133.5mm、短辺34.0mm。オーダーは1ミリ刻みなので、長辺は133.0mmとする。それを2枚。30分ほどで完成。
のっぺらぼうでは味気ないかと思い、加工後のアルミ板にレーザー刻印も施してもらうことにした。これは引き渡しが24時間後となるため、お店に預けて後日取りに伺う。
それらを経た完成形が下図。

隅に小さめの文字があるとカッコイイかと思い、「ありそう」な感じの文言を入れてみた。

当初はここまでお金も時間もかけるつもりはなかったけど、思いついちゃったから仕方がない。
エンクロージャー
MDFの筒と前後の樹脂製バッフルの接合部がちょっと粗末だったので、コーキングして筐体の密閉度を上げてみる。

コーキング材は、定番の「シリコンシーラント」にしようかと思ったけど、組み立て前に塗るため硬化時間がある程度必要だったので、手持ちにある「木工用多用途」にしておく。
シリコンより気密性は劣るだろうけど、このスピーカーの組み立ては今回が初めてなので、仕方がない。あまり気にしないことにする。
MDFの断面にボンドをグルリと乗せ、組み上げに取り掛かる。

組み立て
内部のケーブルは0.75sqのOFCケーブルに変更する。

もちろん、途中にジョイントの無い直結配線。端子との接続は、はんだ付け。
その後、
- スピーカーターミナルの固定
- 前面バッフル側のMDFにボンド
- 前面バッフル乗せ
- ドライバーユニットの結線
- ドライバーユニットの固定
の順で作業を進め、音を出せる状態にする。
このスピーカーの構造からして、最後まで組み上げるとネジ穴に容易にアプローチできなくなるので、ドライバーユニットを固定できた段階で動作に異常がないか確認しておくのがベターだろう。
ネジ類は、錆止めを施しておく。


ここまで問題なければ、最後にアルミプレートと前面ネットを接着して、完成。
緑にゴールドは映えるな
完成の図


まとめ
気になっていたスタードライバーの音については、上々だった。ネットワーク回路を廃したこともあり、フレッシュで張りのある音だと思う。未だに求める人がいるのも納得である。
対して、100J本体はというと、無駄を廃しすぎてオモチャみたいな印象だ。もっとしっかりしたエンクロージャーにドライバーを乗せてみたくなる。
MDF部は、つや消しブラックに塗り替えた


スタードライバーを搭載したスピーカーはまだあるようなので、いずれ音を聴いてみたい。
終。
(参考)発売当時の雑誌レビューなど
以下は、製品発売当時の雑誌のレビューから、音に関する部分を抜粋しています。
ステレオ 1994.11.
'94 内外オーディオコンポーネント総ざらえ
金子秀男(前略)全体を見ると、明快な音のつくりで、めり張りもしっかり持っていて、ローコストの組合せにはなかなか生きるスピーカーではないでしょうか。置き方が縦と横どちらでもできるんですけれども、音を聴いてみますと、特に中高域から高域の間の反射の問題かもしれませんが、横置きの方が滑らかに聴こえるようです。
斎藤宏嗣(前略)この100Jの音ですが、121ジュニアと言えるような、すっきりとした音像表現が一つの特徴だと思います。中域から中低域が大変充実しているので、音楽の一番情報量の多いところを厚く出してきますし、フォーカスも確かですし、オーケストラを聴いてもそれなりの分解能を持っていると思います。そういった意味では、大変クリアな感じのするスピーカーだと思います。プログラムソースのえり好みもありません。どう置くかといったようなちょっとした使いこなしのテクニックはありますが、おそらくこれはセッティングに関してもあまり神経質なところを持たない使いやすいスピーカーだと思います。
金子大きさを心得てうまくつくっていますね。
斎藤そうですね。情報量をあまりfレンジ方向に散らさずに中央に集めて、むしろ音楽の持っている骨組みのようなものを忠実に伝送してくれるという印象です。
金子しかも、ボーズがいつも持っている外へ向かっての伸びやかさというのは、この機種も忘れないでいます。
ステレオ 1995.2.
集中試聴 10万円以下の最新海外スピーカーを聴きくらべる 貝山知弘/藤岡誠
貝山評
藤岡評(前略)これがなかなか自然な音調、音質を発生する。本機はシングルコーン・ユニットがたった1個の良さがいかんなく発揮され、そのユニットの優秀性を伺い知ることができる。低域方向は確かに小さいこともあって量感にとぼしいが、中、高域は自然でスムーズでくせがない。声の帯域はなかなかのもの。ストリングスにも硬質感がなく、弦の位置関係も明確。価格から言っても本機はお得。置き方は自由自在だ。 シングルコーン型の優秀機。
フライヤー

(写真資料)












