いつか消える文章

本当は、ペンとノートを持ち歩くことにあこがれている。

wharfedale DIAMOND 210 を鳴らしてみる

ワーフェデールの小さなブックシェルフ型スピーカー「DIAMOND 210」を手に入れた。出音を聴いたり中身を見てみたりした所感。

 

人生初のワーフェデール

卓上に無理なく置けるスピーカーをとっかえひっかえする生活していればいずれ手元に来ることになるだろうと思っていたワーフェデール製のスピーカーに、このたびご縁があった。

wharfedale DIAMOND 210 ブラック
このブランドのスピーカーは、かなり前に大手家電量販店のオーディオコーナーで軽く試聴したことがある程度で、音についての印象が薄いどころか全然無い。なんなら、最近まで"wharfedale"の日本語のカタカナ表記すら知らなかったくらいの"にわか"。
とはいえ、イギリスの高級オーディオメーカーであり、しかもスピーカーの製造がほぼ専業となっているらしく、小型のスピーカーを多く輩出しているとなれば、デスクトップオーディオファンとしてはいちどは鳴らしてみたくなるというもの。

エントリークラスらしい
今回は、この記事の掲載時点ではすでに製造を終了しているものの、比較的モダンな「DIAMOND 200」シリーズのブックシェルフ型を、某オークションサイトで競り落としてみた。
 

外観

 

エンクロージャ

カラーは「ブラック」とのことだけど、実物のキャビネット部の仕上げはかなり黒に寄った木目調の化粧シートで、わずかに金属のような鈍い光沢がある。

天面

側面と背面
高級感がそこまで高いわけではないものの、落ち着いた風合いで良き。

バスレフポートとコネクターユニットも面一になっていてていねい
 

前面ネット

前面の円形のネットは固定式で原則取外し不可かと思ったら、意外と簡単に外れることが判明。ドライバーユニットを固定するネジのキャップ部にフレームのダボを刺し入れて固定するタイプ。

指先に力をこめて縁に引っ掛けるようにすれば簡単に外れる

ネット無しの前面
 

バッフル

前面バッフルは、グロッシーな塗装仕上げの化粧パネルで覆われている。

いろいろ反射して、写真撮影がたいへん……

凝った切り替えしが美しい
前面ネットが有っても無くても、インテリアとオーディオ機器をうまいこと融合させた、バランスよくまとまった意匠だと思う。

モノトーンだけどコントラストが高めで引き締まった前面デザイン
 

ドライバー類

ウーファーは、ややホーン状にテーパーの掛かった化粧リングの内側に載せられている。

これもまたユニークな見た目のウーファー
いっぽうのツイーターにはテーパーは無いものの、ウーファー側と同質で作られたプレートがある。

ツイーター正面。グレーの部分は少しザラザラする触覚
 

出音を聴いてみる。アンプはヤマハのAVレシーバー「RX-S602」。スピーカーの置き場は真ちゅう製の脚を生やしたエクステリア用花こう岩プレートの上に黒檀サイコロによる三点支持という、要はいつもの設置環境。
つい先日までソニーの「SS-G22」をしばらく聴きこんでいたためか、一聴ではだいぶ落ち着いている印象を受ける。尖ったところがなく、フラットに淡々と鳴らしてくる。それが逆に無個性とも捉えられ、小型スピーカーにしては中音域に物足りなさを感じなくもない。
 
さらにいろいろ聴いていく。低音はバスレフの量感を抑えてあるけど、空気量はしっかりとある。セオリーよりは低めの共振にしてあるものと推測。中音域の邪魔をしにくいので、自分としては好みのチューンではある。
高音は、伸びや透明感よりも瑞々しさが前面に出ている。ツイーターはひずみ感を抑えているような適度に丸まった音で、主張はするけれども耳をつんざくこともない。
クロスオーバーの影響か、歌モノはボーカルがやや後ろで構える傾向がある。とはいえほかの音に埋もれる感じはほとんどしないので、よほどの小音量で鳴らすような用途以外ではさほど問題とならないだろう。
 
音場感、再生周波数帯域のレンジ感ともに現代機としては平均的。カッチリとした俗にいうハイファイサウンドとはやや趣きが異なる性格が、好みの分かれそうなところ。どちらかというとアナログに近い質感があり、クールな見た目とは対照的にスムースで有機的な温暖さがある。それでいて古臭くもない。いつまでも鳴らしていられる親しみやすさがウリだろう。
 
周波数特性を見る。

周波数特性。1/6スムージング処理

上図の元波形
聴感のとおりとなる。とりわけ中高音域のフラットさと位相の乱れの小ささには目を見張る。今どきの小型2ウェイシステムのお手本のような特性。しっかりとチューンされた賜物だろう。低音も意外と下のほうまで出ていることが窺える。
 
インピーダンス特性については、定格8Ωにしては最低値が低めに出ている。
極端に低いのは低めの中音のみのようなので、ウーファー側になんらかの理由で調整を施した結果と推測する。
それと関連するかわからないけど、全体的に稜線に少しガタツキが顕れているのは若干気になる。劣化するににはまだ新しすぎる機体だし、ドライバーの特性か?
 

内部

スピーカー本体内部を見てみる。
 

ドライバーの分離と配線

各ドライバーユニットを固定しているネジは、ネットフレームを固定する関係かやや特殊なものが採用されている。キャップの六角穴は対辺が5mmで、一般的なものよりも大きめである。

穴の深さもけっこう深め
また、ツイーター用の内部配線はケーブルがドライバーにはんだ付けされており、ツイーターユニットのみを取り外すだけでは分離できない。この構造は後述する。

ネオジウムマグネットのツイーター
ウーファーは、化粧リングとユニット本体がセパレートとなっている。

接着はされておらず、エッジ外周とリング内周がピッタリ嵌合する構造
 

エンクロージャーとバッフル

エンクロージャー内部には、吸音材がビッシリ詰めこまれている。

俯瞰。ツイーターはバッフルを傷つけないようにサイドに固定
前面バッフルはMDFで、25mm以上の厚みを確保している。

ツイーター側

ウーファー
前面バッフルは化粧部を含めて二枚の板材を貼り合わせているように見えなくもないけれど、正確なところはよくわからない。
吸音材はすべて化繊ウールで、天面と両サイドにまたがる大きいシートが一枚、ウーファーのマグネットの真後ろに丸まるようにして詰められた小さいシートが一枚となっている。
 

ツイーター結線

その中から、ツイーターとディバイディングネットワークを結ぶケーブルの中継点が発掘される。

ロック機構の無いハウジング
基板から生えているケーブルは18AWG、ツイーター側は20AWG。こういったコネクターは、複数本をまとめて着脱できて便利だし物理的に挿し間違えることもない点は有用なんだけど、どうしたってデカくなるのと、圧着する手間は平形端子のようなコンタクト型と大差ないことなどから、自分の整備では今のところ採用を見送っている。とはいえ、昔からある平形端子の接続を置き換えてしまえる近代的な接続方法はないのかなと常々思っている。

ツイーターユニットと吸音材
 

基板の取外し

さて、筐体底面には、ディバイディングネットワークが一面を陣取っている。

パーツどうしの空隙に余裕を持たせたネットワーク基板
パーツ自体がそこそこ大きく、しかも空間的に余裕を持たせた配置で、必然として基板も大きくなる。小型のエンクロージャーであるとはいえ、基板が前面バッフル付近にまで達しているのはめずらしい。
基板の四隅にホールがあり、うち三点にネジをとおして固定している。ここは手持ちのプラスドライバーでは作業しづらいため、フレキシブルシャフトを利用する。電動ドライバーは使わず、ビット交換式のハンドルに取りつけて、様子を見ながらおもむろにネジを回す。

ツイーター孔から挿入

手動でゆっくりと
そもそも、自分のスピーカーの整備において基板を配置する場面では、のちのメンテナンスを考慮して長尺ストレートシャフトのドライバーのみでネジの着脱ができるよう、どうにかして施策を講ずるわけだけども、今回のようにメーカー製のモダンな小型スピーカーを弄る場合ではそうもいかないこともある。そこで、蛇腹のシャフトが一本あるとすこぶる捗るわけだ。

背面側。ここにはネジが無いのか
基板の固定はタッピングネジ三本のみで接着剤は使われていないので、ネジさえなんとかなれば簡単に取り外せる。

むしろ再度固定するほうがたいへんだろう

もうひとつのほうは、けっこう雑に固定されていた
 

筐体の補強材

キャビネット部の板材は、背面のみ12mmで、それ以外の面は約10mmの厚み。前面バッフルと同じく、すべてMDFのようだ。

俯瞰
内部の補強材があるのはバックパネルのみで、木片が四隅に接着されているかたち。

背面側上部
 

ウーファー

ドライバーを見ていく。
ウーファーは金属プレスのフレーム。

ウーファー。D-1092
背負っているフェライトマグネットは、径は平均的なものの、厚みが確保されている。この磁石は前面バッフルのネジを外したさいにネジが化粧プレート越しに引きつけられるほどだったので、見た目以上に磁束密度が高いのかもしれない。また、これは気のせいかもしれないけど、表面の質感が余所と少し違う。他所よりも陶磁器っぽいというか、表面が滑らかな気がする。自分の扱うなかでは比較的新しいほうだからか?
 
分解前から際立っていた特徴的な振動板は、平織りされた繊維質。

振動板拡大
黒いのでカーボンかと思ったら、公式のスペック表には「100mm Woven Kevlar® Cone」とあるので、アラミド繊維であった。また、表層にはVの字を並べるように、細いワイヤー状のエンボス加工が施されているのが特徴的。

このVの字のエンボス、どうやってつけているんだろう……
コーンの基材としてはこのアラミド繊維のみのようで、紙などの別素材を貼り合わせたりはしていない。そのため、かなり軽めの振動板となっている。

内側にはなにかを塗ってあるようにも見える
さらには、ゴム製のエッジにも菱形を連続して並べたようなエンボスがある特殊仕様。コーン外端に生ずるリプルを打ち消そうとしているのだろうか。

それとも、コーン最外周の余計な共振をキャンセルしやすくしているのか?
 

ツイーター

対してツイーターのほうは、割りかた簡素だ。

ツイーター。0383H
先に見たとおり、ネオジウムマグネットの磁気回路採用でユニットが小型軽量。ユニークなのは前面化粧プレートとの緊結方法で、ドライバーユニットの任意の二点をワッシャーの縁で引っ掛けるようなかたちでネジ留めしている。耐久性が如何ほどかわからないけど、合理的だ。

ここも接着剤は使われていない

軽いから、こんな簡素な固定でも問題ないのか
モノとしては最近よく見かける常並みな25mmソフトドームツイーター。

個人的には、フェライトマグネットのほうが特性が安定していて好き
 

ディバイディングネットワーク

小型スピーカーらしからぬ面積を誇るディバイディングネットワークも見る。

ディバイディングネットワーク基板
コアコイルは導体がそこそこ太いものが使われているし、8.2μFのコンデンサーもケースが大きくなるフィルムコンデンサー。それらを載せたいがために基板が大きくなるのはわかる。
ただ、基板の表裏ともにやたらヤニで汚れているのは、レジストのつもりか単なる管理の問題か。コンデンサーやセメント抵抗の向きも左右ふたつで異なっていたりと、このあたりは中国クオリティー

ネットワーク回路図
回路の特徴としては、LFにいわゆるバッフルステップ補正のような回路があり、上述のウーファーのギミックからも察せられるように、やはり不要な音による濁りを効率的に解消しようとする意図が見受けられる。
また、並列の32μFという大きいコンデンサーは、そのままだと高めの中音をガッツリとカットしてクロスオーバー付近の音が抜けてしまうように思えるけれど、再生音の特性上はそうなっていないところからして、これがメーカーの手腕であり妙技ともいえるものだろう。
インピーダンス特性の値が妙に低めに出ていたのはこのあたりが要因だろう。
 

整備

今回入手した個体は故障機ではなく、またフィルターの調整も特段必要とも思えないものなので、ネットワークのパーツの測定を終えたら分解したものをそのまま元に戻す。ただし、せっかくネットワーク回路の確認のために基板の取外しまでしたので、そこに繋がるケーブルを少し良いものに引き換えるくらいはしておく。
 

ケーブルの引換え

ヨドバシカメラまで足を運び、ケーブルを購入してくる。ヴァンデンハルのスピーカーケーブル「The Slyline Hybrid」。

アースカラーのブルーが綺麗
ハイブリッドというのは、芯材にMC(マッチドクリスタル)-OFCとLSC(Linear Structured Carbon)なる2種類を採用しているからとのこと。まあ、これら材質についてはなにが良いのかよくわからない。選んでみた理由は、今まで使ったことがなかったことと、ブランドと近しいメイドインEUなこと、なによりシースが厚めのわりには柔らかく、インナーケーブルとして取り回しがしやすそうだったから。……しかし、ケーブルも値段がだいぶ高くなったな。コレも発売当初は880円/1mだったみたいなのに、今は1,430円になっている。
オリジナルのケーブルよりも撚り線の径が二回りくらい太くなるのに合わせて、基板のスルーホールの穴径も少しだけ削り広げる。

ピンバイスでゴリゴリ
また、ウーファーのマイナス側は、基板を介さずに直接背面のバインディングポストと渡らせるかたちにルートを変更。ツイーター側は、端子の用意が面倒なのでそのままとする。

奥にあるのがウーファー用のマイナス線
エポキシ接着剤で実装面側のケーブルを固定する。

既存のケーブルにも同じように
 

ネットワーク基板の再固定

もともと基板の固定には、筐体底面と基板のあいだに薄いフェルトシートが挟まるかたちになっていた。再固定のさいにも同様にするけど、ちょっとだけ工夫する。
ひと回り小さくしたオリジナルのフェルトシートを、基板のはんだ面に両面テープであらかじめ接着。

バラけているより作業しやすいから
基板の四隅のノンスルーホールには、ネジがとおる孔のみ樹脂製のスペーサーを用意。瞬間接着剤でくっつけておく。

ネジの締め過ぎの防止に
バインディングポストへの接続は、スプリングワッシャーを撤廃し銅製ワッシャーと真ちゅう製ナットに交換。

ケーブルの材質には拘りがない代わりに、こういうところにはなるべく気を遣っておく
あとは、元どおりに組み上げるだけ。ウーファーの固定は、フランジ部に化粧リングを先に嵌めておいてからバッフルに載せるほうが作業しやすい。

ウーファーをバッフルの上に誤って落下させないよう注意

整備後の姿
 

まとめ

コストパフォーマンスの良い製品だ。本機に限らず近年の国外メーカーには当てはまることが多いけど、評判になる製品は安価であっても基礎をキッチリと設計してあるように思う。

合理化も極まっていて勉強になる
音に際立つ特徴や派手さは無い。しかし、そういったものを求めるスピーカーではない。静かでシルキーな雰囲気は、長時間のリスニングに向いていると思う。ピュアオーディオの音質を試してみたいニーズにも打ってつけではないだろうか。

上位機種の音も聴いてみたいな
終。