ダイヤトーンの古いブックシェルフ型スピーカー「DS-10B」が手に入った。気になるところに少しだけ手を入れて、音をチューンしてみた。その所感。
これでも小型
昭和50年代のスピーカーが手元に届いた。ダイヤトーン「DS-10B」という、2ウェイシステム。
日本ではまだまだダイヤトーンというブランドが健在だったころの、ホームユース向けの製品だ。いわゆるエントリークラスで、価格もリーズナブル。
一応"ブックシェルフ型"になるのだけど、よほど巨大なブックシェルフを想定しているのか、現代の一般のご家庭にあるような本棚に乗せるには少々無理がある体積だ。
しかしこのスピーカー、サテライトな用途を想定しているのか、背面に壁掛け用のパーツが搭載されている。
重量もそれなりにあるので、これひとつで支えられるのかいささか不安ではあるものの、やっぱり
「スピーカーでこの大きさは小型の部類だよ!」
「小型だから壁にも掛けられちゃうよ!」
ということなんだろうと思う。
外観
某中古量販店でたまたま見つけたこのスピーカー、製造から40年以上経過しているわりには、外観に著しい損傷が見受けられず非常に綺麗だ。
前面はシンプルなブラックのバッフル、側面4面は木目調のシート仕上げ、背面は黒の塗装となっている。
キャビネット部はパーティクルボードのようで、板厚は平均的。箱鳴りがそこそこある。
樹脂製の銘板と一体になったバスレフポートが、フロントに設けられている。
開口部はフレア型になっている。内部のダクトまで一体成形だけれど、ダクト長はかなり短い。
ウーファー、ツイーターともにコーン型で、コートされていない紙製振動板。このあたりは時代を感じる。
エッジもまるで新品のようなかなり綺麗な状態だけど、張り替えられた形跡はない。朽ちずにしっかり残っているのは、耐湿性に優れたエーテル系ウレタンが使われているためかもしれない。
ツイーターは、キャップが金属のようだ。
アルミにしてはやや硬質な感じなので、ジュラルミンのような合金なのかもしれない。エッジはプリーツ付きのクロス製。
背面のスナップイン式コネクターも、内部のスプリングが軋むことなくキッチリ動く。良い環境に置かれていたようだ。
整備前の音
ダイヤトーンらしい、中音の張った音。コーン型ツイーターなのでクロスオーバー周波数がそこそこ下げられる影響だろう、ツイーターの担う周波数帯域幅が広く、ツイーター主導の音となっている。ウーファーからは低めの音しか出ておらず、まさに低音専用という感じ。
能率感が高く元気で、聴いていて気持ちがいい。反面、上下方向のレンジ感は抑えられているところが、現代のスピーカーの趣きとは異なるといえる。
低音の量感は申し分ない。コーンの径にしては最低音がやや高めで、紙製コーン特有のややカサカサする質感はあるものの、鳴らせる範囲内でゆったりと包みこむような余裕を感じさせる。
特徴となる中高音は、自然かつ前面に出ていて聞き取りやすい。明瞭かつ繊細だけど過渡特性はそこまで優れるわけではなさそうで、現代的な曲調のプログラムを鳴らすと潰れたり若干くどい感じがあれど、未調整ではすぐに聴き疲れする「DS-11XL」のような喧しさは抑えられており、綺麗なカマボコのバランスとして長時間リスニングを継続できる。
直前まで鳴らしていたのが先日整備したJBLの「J216A」で、そちらと比較してもまた性格が違っていて面白い。マッシブな音を骨肉で味わうのがJ216Aとするならば、再生帯域から旨味を中心にしたたかに聴かせようとするのがDS-10Bとなる。
両者は体積が同じくらいで、どちらも前進してくる音だけど印象は正反対。楽しみかたも異なる。
内部
内部を見ていく。前面に見える。六角タッピングネジを外すだけ。
前面バッフル
内部のケーブルは、余長が最低限しかなく、しかもやたら細い。端子は平形端子なので着脱はできるけれど、ケーブルを切らずに再利用する場合はやや作業しづらい。
ウーファーのネジ孔には、紙製のスペーサーが二段重ねでくっついている。
ウーファー
低音の出方からして、それなりのものを背負っているものと想像していた。セレッションの「Celestion3」でもそうだったように、低音の量感を稼ぐことに関しては必ずしもフェライトマグネットを大きくせずとも実現できるようだ。
センターキャップが貼られている周辺の振動板は、色味が濃くなっている。
コーンの中心部のみ、割と大雑把になにかを塗っているようなのだけど、これがなんなのかはわからない。
ツイーター
ツイーターは、モールドで内部は見えないものの、無難な造りをしている。
前面の振動板周辺はヘアライン仕上げのアルミプレートで、ここを剥がすとさらに分解できそう。例によって、今回はやらない。
ちなみに、金属質のセンターキャップは、インターネットによるとチタニウム合金製とのこと。
吸音材
筐体内部は、下半分に吸音材が置かれている。
ウールのような質感の薄い不織布でできた袋状のもののなかに、グラスウールのシートが入っている。グラスウールが飛散しにくいのはいいのだけど、素手で掴むとやっぱりチクチクするので、触るなら手袋は必須。
向かって右側の板にタッカーで固定されている。
ディバイディングネットワーク
グラスウールを剥がすと、底面と背面の角部に括りつけられたディバイディングネットワークに触れられる。
コネクターユニットのそばに設けずに、あえてケーブルを取りまわしてまで底板に付くくらいの低い位置に固定しているのは、コイルの重量を底板に支えてもらうよう考慮しているのだろうか。
いかにもヴィンテージらしい造りのディバイディングネットワークを眺める。
ラグ板を中心に配線されている。ただ、立てられた端子のハトメの部分にケーブルやリードを突っこんではんだ付けしている、謎の施工となっている。
有芯コイルに、電解コンデンサー、セメント抵抗の組み合わせで、シンプルかつ無難な印象。
HPFはツイーター直列に10μFと大きめのもの。分解前に音を聞いたとおり、中音域まで余裕でカバーさせる雰囲気だ。またLPFのコイルについても2.5mHと大きく、中音より上をガッツリ削ぐ。こちらも聴感と合う。
整備
今回は外観が綺麗に保たれて、かつ原音のままでもストレスとなることが無い。せっかく現状問題ないものを大々的に弄って原形から離れるのは無粋な気がするので、直接的な音のチューンは最低限度に留め、それ以外の気になる部分の調整のみに留める。
コネクターユニットの換装
コネクターユニットは、バナナプラグ対応の埋込ボックス型のものに換装する。
ノコギリで既存の孔を広げて、そこに新しいユニットをあてがうだけなのだけど、今回は新たに設けるネジ用の孔の位置が既存の孔とかなり近く、ドリルで開けようとするとそちらに呼ばれてしまってうまくいかない。
結局ここは、既存の孔に細いやすりを突っこみ、地道に削って所定の位置まで拡張していくことになる。
タッピングネジは使えないので、M4の六角穴キャップボルトで板を貫通できるくらいの長めのものを用意して、筐体内部からナットで固定する方法を採る。
バッフルの補強
補強がほとんど成されていないエンクロージャーは、コーラルの「EX-101」よろしく内張りしてしまおうかとも思ったけれど、とりあえず今回は既存のままにして様子見。その代わりに、前面バッフルの脆弱な部分の補強を行う。
たまたま余っていた棒状の松材を適当な長さに切り落とし、ウーファーとツイーターのあいだの部分に固定する。
固定は接着で、2液性エポキシ接着剤を使用する。
本当ならビス穴もつめ付きナットを仕込んでしまいたいのだけど、前面のデザインに違和感のないボルトがすぐに用意できなかったので、今回はおあずけ。
コンデンサーの交換
ただ、アキシャルのものは用意できなかったので、既存と同じ位置に設けることが難しい。幸い既存の繊維板上で空いているスペースにイイ感じに収まることがわかったので、ベースとなる繊維板を拡張することなく、ラジアルリードのParcAudio製電解コンデンサーを固定してしまう。
ダイヤトーンのスピーカーは、信号回路の構築にははんだを使わず圧着で結線されるイメージがあるのだけど、この時代はそうではなかったのかガンガンはんだ付けされているので、そこは気に掛けず、新しいパーツも既存のラグ端子にはんだで固定していく。
ケーブルの引換え
針金みたいな細さのケーブルも引き換える。
ウーファー用はZonotoneの新製品「SP-440Meister」を使ってみる。以前愛用していた「SP-330Meister」のリニューアル品。
ツイーター用は、オーディオテクニカの「AT567S」。"チタン配合シース"なるものが使っているらしい。
どちらも自分の整備では今回のチョイスが初。
SP-440Meisterを手に取ってみた感じ、 前モデルのSP-330Meisterと比べてシースの質感が変わっている。若干硬質になり、表面がパサパサしている。ブルーのシースも、色味の彩度が高い気がする。材質は同じPVCで変わっていないはずだけど、スペックとして表に出さない部分で異なるのかもしれない。個人的には、前モデルのほうがしなやかかつ高級感があって好みだな。
いっぽう、オーテクのAT567Sは以前からラインナップされているメジャーなもの。チタン配合シースなるものを使っているらしい。ツイーターのドーム部がチタニウム合金らしいのでそれに合わせてみようか、と思い立った以外の特別な選定理由は無い。
そのシースは、熱してブヨブヨになったゴムみたいにかなり柔らかいもので、手持ちのワイヤーストリッパーでは上手く引きちぎれないことがある。それを除けば、いたって普通のケーブルだ。
ネットワーク回路を固定した繊維板は、既存の底面側には戻さず、コネクターユニットの下部に固定する。
ポストとネットワーク回路との配線は、手持ちの余っているケーブルの端材を使う。
整備後の音
整備後も、音の聴感上の大まかな雰囲気は変わっていない。しかし、マイクで収音したデータ上では、意外にも変化が出ている。
最低音と最高音を除いた大体の帯域の出力が上がっている。
分解前から時間が空いて、測定環境もいったんリセットして再構築しているので、この比較はあてにならない。それでも、ここまで違ってくるのはちょっと想定外だ。
ただ、要因としてはおおかたの予想はできていて、ここまで見てきた整備以外のちょっとした調整によるものだと思う。それは、ドライバーの固定だ。
ウーファー、ツイーターの両ドライバーユニットのフランジ部とバッフルのあいだには、隙間を埋めるフォームシートがいっさいな使われていないのが気になった。そこで、代用として曲線用マスキングテープをフランジに一周巻いたのだけど、これがおそらく制振と密閉度の向上をもたらして、ドライブにも変化がもたらされたのだ。
ためしにテープを剥がしてみると、グラフの峰も整備前のものに近づくのだった。
おそらく前面バッフルの補強との相乗効果だったのだろう。密閉、地味だけどだいじなんだな、と改めて思うしだい。
まとめ
しばらくは作業スペースのBGMを流すスピーカーとして据えておくことにする。でも、個人的な好みでいえばJ216Aの音のほうが楽しめるので、そのうち戻すかもしれない。
遊び甲斐のあるスピーカーだと思う。吸音材もほかに最適解がありそうだし、筐体の強化で響きかたを変えればさらに良くなりそう。とはいえ、このヴィンテージスピーカーに今さらあえて手を施す必要性も低い。これはこれでいい。
アナログが煮詰まって、デジタル音源の一般化が胎動を始めた、昭和50年代。古き良き時代の日本のオーディオを感じられる。現代のクリアかつワイドレンジとは趣向が異なる、鳴らせる範囲をキッチリ響かせる音も、また良いものだ。
これでエントリークラスなのだから感服するよりほかない。
アナログが復権してきた今、むしろスピーカーの選択肢として挙がってしまうのではないか。
終。