いつか消える文章

本当は、ペンとノートを持ち歩くことにあこがれている。

JBL J216A をメンテナンスする

JBLのパッシブスピーカー「J216A」が手に入った。延命処置と音の調整をしてみた。その所感。

 

木目調の初代J216PRO

以前フリマサイトだったかで入手して、しばらく放置していたスピーカーを引っ張り出してきた。JBLの「J216A」という製品。

JBL J216A
2年ほど前に整備した「J216PRO」と同時期に発売されたものらしい。しかし、翌年には「mk2」にモデルチェンジしてロングセラーとなったJ216PROとは異なり、このスピーカーはすぐに姿を消してしまったようだ。

前面ネットを付けた状態
発売期間が非常に短かったようで、当時のフライヤーやカタログにほとんど載っておらず、インターネット上にも全然情報が見あたらない。
不遇だった理由はわからない。同時期に発売されていたControlシリーズと基調を合わせるため、J216PRO一本に絞ったのかな、とは思う。
原基となる「J216」と姿が似ていて、品番末尾の「A」も"analogue"か"advance"あたりだろうことも想像できるから、J216のリニューアル機の位置付けなのだろう。

サイドパネルが木目調だ
しかし、デジタル音声が普及する新時代に突入するなか、メーカーとしては古い民生機のイメージを早急に払拭したい事情があったのかもしれない。まあ、妄想の域を出ないけど。
 
とはいえ、発売からそろそろ40年を迎える今となっては、PA機材に寄せた単色一辺倒の無味乾燥な外装よりも、あくまでホームユースの家具としてデザインされたもののほうが、かえって所有感が高いと思うのは自分だけだろうか。
 

外観

性能はJ216PROと同じらしいので、概要はそちらの記事に譲るとして、今回はサラリと見ていく。

側面と背面
背面にブラケット用の埋込ナットが無いのは、初代の特徴のひとつ。
また、J216PROmk2では前面ネットに付くバッジが大きなJBLロゴに変更されるけれど、こちらと初代J216PROは、控えめで落ち着いた四角形のロゴ。

こちらのほうが断然好み
ツイーターの樹脂製パネルは、なんとふたつとも落っこちずにバッフルにしがみついている。

配送中に落下することが多いのに
しかし、やはりネジ孔周りにクラックはあり、いつ落下しても不思議ではない。

mk2になっても改善されないツイーターパネル
 

備前の音

一応、音は出るようなので、聴いてみる。アンプはTEACのプリメインアンプ「A-H01」。
先日整備した「J316PRO」ほどではないにしろ、肉厚でアグレッシブな音。グッと前に押し出してくる。
初代のJ216PRO/J216Aの出音を聴くのは、今回は初めて。mk2となにか違うのかなと思っていたけど、聴感ではおおむね同じように聞こえる。2ウェイの両ユニットの繋がりが滑らかで、バランスがより無難な感じはする。
 
周波数特性は、もっとガチャガチャしているかと思っていたけど、意外と平坦な稜線をしている。

周波数特性

1/6スムージング処理
低音域のレンジが広い。後代品は、もう少し丸かったはず。
以前整備したmk2の波形とは全然異なるもので、印象が変わりそう。とはいえ、2年前とは測定環境がだいぶ異なるので比較できないから、ここでなにも言えることはない。もしかすると、整備前のmk2も同じような特性だったかもしれないから。今はあいにく現品が無いのでわからない。
いっぽう、2kHz付近が周辺と比べてやや落ち気味なのは、後代品でも同じ傾向だ。以前は位相の特性でこの帯域が引っこむのかと思ったけれど、これを見るとそういうわけでもない気がする。このスピーカーの特徴なのかもしれない。聴感上ではあまり気にならない。
また、スイープ音では、ツイーターの出音が中音域でひずんでしまうのも一緒。以前の整備ではこれをスルーしたけど、今回はフィルターを調整して軽減させてみることにする。
 

内部

エンクロージャー内部も、以前見たものと同じ。紙製のバスレフダクトに、おからのようなパサパサのスポンジシートの吸音材もある。

平形端子も、腐食せずに残っていた
なんとしてもコネクターユニット上にすべて収めて工程を少しでも簡略化してやるぞという意気込みをひしと感じるディバイディングネットワークも、一見して同じように見える。

量産の効率化のためとはいえ、これはいつ見てもスゴイ……
しかし、ウーファー直列のコイルのインダクタンスだけは、以前調べたものよりもやや大きく、0.76mHと出る。

左右ともにこのくらいだった

ネットワーク回路図
以前見たmk2では、左右でバラついていて断定できなかったものの、およそ0.6mHくらいだろうと見立てた。ここはmk2で調整された可能性がある。ただし、これについても以前と測定器が異なるので、なんとも言えないところ。
 

整備

ツイーターのパネルの新規製作と、ネットワーク回路の調整を主に行っていく。
 

ツイーターパネルの制作

今回用意するパネルの基材は、無垢のチークとする。木目の縞模様はJ216PROだと意匠的に浮いてしまうけれど、J216Aであればスピーカーの側面の木目調と似た色味となり、統一感が出ると見込んだのだった。

ハンズにて「木のはがき」を購入。大枠を加工していただく
また、別のスピーカーイコライザーの重要性を知ったので、今回はそれもオリジナルのパネルから移植する。
透明のイコライザーは、パネルに接着剤で固定されているだけなので、適当な溶剤を少量垂らしてグリグリしてやれば簡単に外れる。

ラッカーうすめ液を数滴垂らす

ダボは邪魔なので切り落とす
外れたイコライザーは樹脂の劣化と汚れが目立つので、ある程度清掃したのち黒色で塗装する。
下穴とやすり掛けを施したチーク板は、クリアラッカー仕上げとする。

ラッカー4度塗りで色に深みが増す

木目調シートとの比較
ツイーターユニットの接着は、例によって2液性エポキシ接着剤を使用。
リード線を保護するためにチーク板とはスペーサーを挟んで若干浮かせたのち、スペーサー周りに接着剤を塗りチーク板を仮固定。イコライザーもこのとき接着する。

とにかく時間がかかるけど、仕方がない
半日ほど時間をおいて接着剤がある程度硬化したら、浮かせたぶんの隙間を埋めるように再度接着剤を塗布し、本固定とする。

JBLステッカーは自作
 

ディバイディングネットワークの再構成

フィルター回路は、ツイーター由来のひずみを軽減したいので、それを中心に構成する。また、2kHzの軽いディップもなんとかできないか試してみる。

ストックや余剰パーツだけで組んでみる
とりあえず、HPFは18dB/octに変更して、中音を削ぐようにしてみる。直列のコンデンサーは既存と同じく電解コンデンサーを中心に組みたいけれど、今回はあまり試行錯誤したくないので、ここは無難に一段目をフィルムコンデンサーとしておく。並列のコイルは本当は0.45mHくらいが欲しいところなのだけど、手持ちに0.3mHの空芯コイルがあるので、これを使う。
ウーファー用のLPFは、こちらもちょうど手持ちに0.8mHの有芯コイルが余っているので、これをそのまま採用。並列のコンデンサーは既存の倍くらいになるように増やすところ、インピーダンスを調整するために抵抗器を挿し入れてみる。

整備後のネットワーク回路図
シミュレーションでざっくりとした設計をしているけれど、ここの抵抗値に関してはほぼカンで設定している。
パーツは10cm角のMDFに乗せる。
インナーケーブルは、LF側のみ、昨年に価格が信じられないほど値上がりして高級ケーブルとなってしまったJBLの「JSC450」とする。

ま、なんとかなるやろ、と適当に組み始めている図
いつもは事前にパーツの配置と固定用のネジ孔の位置をすべて決めてから組むのだけど、今回はなにを思ったのかパーツどうしの接続から取り掛かったため、積載が行き当たりばったりとなり完成までやたら時間がかかってしまった。

小さなフィルムコンデンサーは、容量の微調整用
 

そのほか微細のチューン

先の作業と並行して、細かい調整を済ませておく。

右が洗浄後のウーファー
バスレフダクト
バスレフダクトの上半分に、薄いフェルトシートを貼っておく。

100均ショップのフェルトを適当な大きさに切り出す
これは最近、試験的に実施しているもので、パイオニアの「S-UK3」やダイヤトーンの「DS-A7」などで見かけたことのある手法。内部からダクトを通過してくる中高音の抑制を期待するのだけど、今回のような紙製のダクトの場合は効果が薄い気がしている。

ダクト自体がもともと柔いからかな
ネクターユニット
背面のコネクターユニットは、孔をそのまま利用してバナナプラグ対応のポストが付いた汎用品に交換する。

元のユニットは内部から接着剤で固定されている
既存のコネクターユニットを内部から叩き出して、新しいものをネジで固定するだけ。

樹脂キャップにしたかったけれど、あいにく手持ちが無かった
フランジ部が円形のタイプをチョイスすると、板材側を未加工のまま汚れも一緒に隠せて便利だ。ただ、デザインとしてはやっぱり角型のフランジのほうがスマートでカッコいい気がする。
前面ネット
前面のサランネットは、古いスピーカーにしてはかなり良好な状態を保っているとは思うけれど、一部破れているので張り替えることにする。

この金具のキレイな取り外しかた、どうすればいいんだ……
新しい布地の固定は布用両面テープが基本で、四隅のみ瞬間接着剤を併用。さらに布地の端部にはアセトンで薄めた2液性エポキシ接着剤を浸みこませて盤石なものとする。

今回は青海波紋様にしてみた
 

再調整

整備後に音を出してみると、全体のバランスとしては問題ないものの、高音が若干ピリついている。長時間聴いていても不快にはならないまでも、気になるといえば気になる感じ。
また、周波数特性を見てもやはり高音がガタついている。

想定以上に乱れている
これはツイーターのパネルが変更されているためで、多少は仕方がないものの、なんとか平滑になるよう持っていきたいところ。ただ、オリジナルのイコライザーをそのまま移植してもこうなっちゃうのか……という気もしている。
 
移植したイコライザーの位置を調整するのがベストなのだけど、エポキシ接着剤でガッチリ接着されているものを剥がしたくないので、それ以外の方法で誤魔化す。
5mm厚のフェルトをドーナツ状に切り出して、ツイーターのドーム周辺に貼りつける。

コンパスカッターでさっくりと
ヤマハの「NS-10M PRO」なんかが取り入れている手法。今回はとりあえず、イコライザーがフェルトで埋まって一体化しているように見える大きさに切り出してみる。

"それっぽい"雰囲気にはなった
 

整備後の音

フェルトの追加により、再調整後は高音域のレベルが若干下がっている。ただし、ガタついた稜線の谷の部分はあまり埋まらなかった。

周波数特性(整備後)

1/6スムージング処理

備前後の周波数特性比較(1/6平滑化後)

インピーダンス特性(整備後)
オリジナルのツイーターパネルは、脆すぎるという致命的な欠陥を抱えてはいるものの、音に関しては巧みに調整させるものであることを十分に理解できるところだ。少なくとも、以前の整備のようになんの考えも無しに取っ払ってはいけない代物だといえる。
残る対策としては、イコライザーの裏面に薄いフェルトを貼って、ドームの表層とイコライザーの隙間を狭めることくらいしか、現状できることはない。ただ、聴感としては問題ないので、おそらくこのままにするだろう。
ちなみに、中音のひずみに関してはほぼ消えている。これは上手くいった。

いいかげん、しっかりしたスピーカースタンドの導入を考えないとな……
また、インピーダンス特性においては2kHzが底になって凹んでいる。これ自体は想定どおりで、そのあたりの音に変化があることを期待したのだけど、レスポンス上も聴感上もおよそ変化は感じ取れない結果となった。
フィルターを弄っても影響が顕れてこないとなると、これはウーファーとツイーターの両ユニットの物理的な位置関係によるところが支配的なのかもしれない。ここの調整は今後の課題となる。
 

まとめ

想定どおりにいったところと上手くいかなかったところ、理解できるところとできないところ、反省点はいくつかある。オーディオメーカーの技量に敬服するいっぽう、整備を仔細に進めるほど自分の付け焼刃ではどうにもならない部分が出てくる。

作業スペースにおいてメインスピーカーになっている
もうちょっと進んだ本格的なものづくり環境を整えたいけれど、それも生活の余剰で行うには、資金も覚悟も心許ない。このあたりが限界なのだろうか。

このスピーカーも、今生の別れになるのかもしれないな
 
終。