いつか消える文章

本当は、ペンとノートを持ち歩くことにあこがれている。

Pioneer S-A3-LR の音の変化を確かめる

イオニアの2ウェイスピーカー「S-A3-LR」を手に入れた。そのままでは聴きづらかったので、音を調整してみた。その覚書。

 

イオニア「Aシリーズ」

前回に引き続きパイオニア製スピーカーの整備となる。しかしこちらは時代が下って、2001年に登場した製品だ。

Pioneer S-A3-LR
とはいえ、2000年といえばすでに20年以上前のことを指すのであり、そろそろモダンと言いづらくなってくるけれど、現物の佇まいからしてやはり近代化している印象を受ける。

プレートが傾いて固定されているのはご愛敬
このスピーカーは「Aシリーズ」と称するホームシアターシステムの一部で、メインとなるフロア型を補完するサテライトスピーカーを担うもののようだ。
前年に初代が発売され好評だったのを受けて、次モデルとして登場したのが本機となるらしい。

前面ネット装着時
スリムなサテライトとはいえ質量が確保されており、一本あたり6kg以上もある。いわゆる高級ミニコンポのスピーカー部だと言われても違和感が無い。
しかし、2000年ごろといえば、個人的にスピーカーは"暗黒期"真っ只中だと思っていて、コスト削減を推し進めた結果の粗製品が国内外問わず跋扈していたという認識。
はたしてこのスピーカーはどんなもんなのか……。
 

外観

 

仕上げ

エンクロージャーはすべての面が突板仕上げとなっている。背面までキッチリと染色された天然木としてるのは好印象。手で叩いてみると硬そうな音が返ってくるので、板材はおそらくMDF製だろう。

側面と背面

サラサラの触覚
反面、形状はシンプルな縦長の直方体で、潔いほど角張っている。化粧MDFであればいかなる加工も手間だろうし、妥当といえる。突板の木目の模様も、左右でバラバラだ。

天面

ラッカー仕上げかな
このあたりの質感は、以前整備したJBLの「XTi20」と似ている。そういえばあちらもホームシアター向けで、2000年ごろの発売だったな。
 

前面バッフル

フロントバスレフのバッフルもシンプルながら、バスレフポートまでザグリ加工された凹凸の少ないもの。こちらも無難なれど、どこか安心する印象だ。

ここでウーファーのセンターキャップが潰れていることに気づく
ツイーターは化繊のソフトドーム。周囲のプレートは塗装のようだけど、指先で撫でるとゴムのような強い摩擦を感じる。

ツイーター正面
車で使うようなゴム系のコート剤を滑らかにしたような感じ。こういう塗膜を張る塗料があるのだろうか。
ウーファーは黄色い化繊を編んだコーン。ケブラーかな? と思いインターネットにお尋ねすると、やはりケブラーらしい。

ウーファー。どうせなら潰れていないほうを写真に収めればよかったのに……
「パラアラミド繊維」とか呼ばれるものだ。自分のこれまでの傾向として、このナイロン系の振動板は、好みの音を出す機種が少なかったりする。
小径ながらも6点留めのネジが頼もしいフランジ部にも、ツイーターと同じようなゴム質の塗装がある。
 
バッフル下部にあるバスレフポートは、ダクト部が紙製。ダクトの内部にはフェルト片が二枚貼られている。

自分の整備でもたまにマネする
イオニア製スピーカーでは、このようなダクトにフェルトを設ける手法をたまに見かける。
ただ、こちらはポート側の天面と内部側の底面に一枚ずつという、やや変則的な貼りかたをしている。
 
前面ネットのフレームが樹脂製ではなく、MDFをくり貫いて作られた厚みのあるものなのも、個人的に好感が持てる。

ペラペラの樹脂だと経年でゆがんだり、簡単に折れたりするからね
 

備前の音

ひととおり眺めたので音の確認。アンプはヤマハのAVレシーバー「RX-S602」。
先月導入を見送ったプリメインアンプ「A-S801」は、さらに予定外の出費が重なり金欠につき、少なくとも今年中の導入は断念せざるを得ないのが現状。

どんなもんかな
一聴して、特徴の挙げづらい「普通」の音。ここもXTi20と同じ印象を受けたのだった。ホームシアター向けのチューンみたいなものが、やっぱりあるのかな。
 
バランスは高音寄り、というかツイーター主導みたいなところがある。
低音は程よい量感で、制動が効いている締まった音を繰り出す。ただし最低音はそれほど低くはなく、軽い印象もある。もうひとつ深みが欲しい。
中音は、輪郭をなぞるような淡々とした質感。化繊のコーンなのでナヨナヨしているのかなと先入観を持っていたけど、その印象は薄い。ややゴチャつくところがあるものの、音としては張っていて聞き取りやすい。
しかし、それ以上に高音がとにかく主張してくる。相対的に低音不足にすら感じる。ひずみ感は無く現代的な滑らかさなのに、耳についてしまうのがもったいない。ソースによってはヒリヒリすることもある。
 
レンジ感や音場感は平均的。パース感は狭め。悪くはないが特別良くもない。
長時間鳴らすことができないので、リスニングは早々に切り上げる。

むしろナローレンジの音源のほうが合う感じ
周波数特性を見る。ツイーター軸上50cmの収音。

周波数特性

元波形
緩やかな右肩上がりに見える。ここは聴感と一致するものの、高音のどこかが突出しているわけではないので、聴き疲れは単にツイーターの出力が大きいことによるものなのか。
低音はバスレフにより50Hzくらいまでなら余裕がありそうに見えるけど、こちらは逆に聴感と乖離している。
 

内部

まあ、こんなもんか、という印象のまま内部を見ていく。
 

ドライバーユニットの取外し

ウーファー、ツイーターともにバッフル板にガッチリ固着していて、どちらもネジを外すだけでは剥がれてくれない。背面のコネクターユニットを外し、その孔に棒を挿し入れてツイーターを押し出すようにして剥がす。

おお、アルミ製か
さらに分離できたツイーターの孔から手を突っこんで、こちらも同様に引き剥がす。

勢い余ってフランジ部が突板を傷つけないよう注意
 

エンクロージャー内部

エンクロージャーは、予想どおりMDF製。背面を含めてすべての面がMDFだ。

俯瞰
前面バッフルは厚みが19mm、それ以外は16mmと平均的。ただし、前面にはツイーターとウーファー間、ウーファーとバスレフダクト間の各々に太めの補強材が流されており、かなり堅牢になっている。

一部が剥がれてしまっているけど、補強材にはフェルトが貼られている
吸音材はエステルウールが基本で、天面とコネクターユニット下部に折り畳まれたものが、向かって左側面と底面、そして背面下部にそれぞれシート状のものが貼りつけられている。

天面側

底面側
また、底面と背面に跨る部分には、ウールの下にニードルフェルトが敷かれ、二重になっているのが特徴的。

異種材を重ねるのは、意外とめずらしい手法
なんとなく、吸音の整理に苦労している様子がうかがえる。

天面には、くり貫かれた前面バッフルの端材が隠れている
 

ディバイディングネットワーク

ディバイディングネットワークは背面側に4本のネジで固定されている。接着はされておらず、ロングシャフトのドライバーがあれば簡単に取り外せる。
ネットワーク回路はELYTONE製のようだ。銅箔は使わず、各パーツを直付けし繊維板に接着している。

ディバイディングネットワーク

ネットワーク回路図
回路はアッテネーターの無い12dB/octの単純なものなれど、HF回路にポリプロピレンフィルムコンデンサーと空芯コイル、LF回路のコイルに導体の太いものを採用するなど、それなりにコストをかけた"オーディオしぐさ"みたいなものは取り入れられている。

この電解コンデンサーは個人的に好みでないので、交換するけど
使われているケーブルはほとんどが16AWGとなっており、日本製ではないようだけど質感はなかなか良さそう。
 

ウーファーユニット

続いてドライバー類。
ウーファーは、ややタッパのある鋼製フレームに組まれている。

ウーファー。T12LR82-51D
防磁カバーの外周と背面の通気孔付近に、薄いフォームシートを貼りつけてある。

これはツイーターにもある

リング状のもの。風切音の低減?
どちらも薄くかつ面積も小さいので、これらにどんな効能があるのかは想像つかない。
繊維を平織りしたコーンは、よく見るとそれだけではなく、透明の樹脂のようなものでコーティングされているのがわかる。ダイヤトーンの「DS-A7」で採用されていたものに近い。

振動板拡大

妙にテカテカしているからなんだろうと思ったら、そういうわけか
なるほど、この措置を施しているから繊維特有のあやふやな印象が小さい、張った音だったわけか。しかし、これなら射出成形の樹脂シートのコーンでいいのでは? と思ってしまうのは自分だけだろうか。
そのコーンの裏面には、外周付近の一か所に小さなフォームシートが貼られている。

貼られているのはこの一か所のみ
しかし、オンキヨーの「D-200II」などのようなガッツリとした仕掛けではなく、これも先に見た以上に薄く小さいものであり、この有無によってはたしてどの程度の変化があるのかは不明。
 

ツイーターユニット

ツイーターは、プレートがアルミダイカストなのが特徴。

ツイーター。FDDE65-51D
言ってみれば手を抜かれがちなツイータープレートに高剛性の素材をあえて使っているのは、メーカー側の拘りなのか。

それとも汎用的なパーツなのだろうか
プレート自体はネジを外すと分離できるけれど、メンブレン部とマグネット側は接着されているようなので、用事が無ければそっとしておくべきだろう。

このリードの部分も、剥がすのに手間がかかった
 

整備

造りに関しては存外悪いものではなく、良い意味で拍子抜けだった。それはそれとして、音に関してはフィルターの調整不足のような印象も受けたので、最近はあまりやっていなかったネットワーク回路の調整を中心に見直していくことにする。

ここの孔、手作業で加工していたのかな……
 

ディバイディングネットワークの調整

なにはともあれ、まずはツイーター用のアッテネーターの新設。それに伴うウーファー側の微調整を行う。中高音域を抑えてフラットに持っていく調整を目標とする。

空芯コイルは個人輸入したので、手元に到着するまで時間がかかった
LF回路に関しては、一時期「ヨーロピアサウンド」を謳うデノンのスピーカーで採用されていた共振回路を組んで、中音を抑えることにする。シミュレーターを駆使して、1kHz付近を削ぐ構成を見つけたのが、下の図。

ネットワーク回路図(整備後)
本来であれば0.75mHのコイルも少し大きいものに交換するのがベストなのだけど、今回はとりあえず既存の回路はなるべくそのままにして、別途組んだ回路を後付けするかたちにしてみる。
ウーファー並列の5.6μFのコンデンサーは、JantzenAudio製に交換。そこに適当なコンデンサーを付加して6.8μF相当に増やす。

1.0μFのフィルムコンデンサーを添える
前回整備したときに余った合板に、新たに組んだ回路をすべて乗せる。

有り合わせなのでレイアウトは適当
パーツの固定が面倒になったので、すべて2液性エポキシ接着剤で済ませてしまう。既存のネットワークと接続するケーブルは、筐体内に固定後でも着脱できるように平形端子を圧着しておく。

端末処理の数が意外と多いため、それに時間を食われる
既存のネットワークをエンクロージャー内に戻したのち、そのすぐ横、つまり吸音材の無いほうの側面に、新しい回路が乗った合板を括りつける。

ウーファーのマグネットがギリギリ干渉しない位置
ここの固定はゴリラグルーと釘の併用。

本来の向きはこのとおり。配線の着脱もここで行える
 

バインディングポストの交換

配線するついでに、コネクターユニットのバインディングポストを別のものに交換しておく。

既存のポストの形状が、あまり好みではないので……
これについては必須ではなく、完全に自分の趣味である。

こんなかんじ
 

整備後の音

音を出してみると、思惑通りの変化と、それ以外のものがある。

周波数特性(整備後)

元波形

備前後の周波数特性比較
特性の稜線にも表れているとおり、課題だった高音はそこそこ削いだつもりなのだけど、聴感では意外と元の雰囲気が残っている。ヒリつくことは無くなっているものの、ツイーターが引っ張る感じはあまり変わっていない。
バランスを考えるとさらに抑えてもいい。とはいえ、これ以上落とすと無個性化がさらに進みそうだから、こんなもんかなとも思う。低音もちょうどいい具合に前に出てきてくれる。

整備後の姿。センターキャップの凹みも直した
中音に関しては、特性上はそこまで変化がないように見える。聴感でもそのとおりなのだけど、こちらは先の高音とは対照的に雰囲気が明らかに変わっていて、見通しが思いのほか良くなっている。音が整理された結果だろう。副次的効果として音場感も広がっている。
いっぽう、ビジュアライズでは挿入した共振回路による変化があまり見られない結果なのは、理由がよくわからない。既存のコンデンサーの容量を増やしているからその影響も多少はあるだろう。けだし1.5kHzくらいまでは一応少し抑えられているから、効いていないこともない。定数がシミュレートと異なるのだろうか。それにしても、稜線にここまで変化が見られないのは不思議。
また、2kHzから4kHzくらいまでを抑えることでよりフラットに持っていこうとするなら、やはりLF側の既存のコイルの交換が必要になるだろう。あるいはインピーダンス調整でなんとかなるか。まあ、ここもこのまま残しておくほうがいいような気がする。
 

まとめ

このスピーカーの小売価格をあとから知って驚いた。ペア4万円だという。現代の感覚からするとコストパフォーマンスが高いといえる。

今だと5、6万くらいするんじゃないのかな
物量を投入すれば良い音になる、というわけではないけれど、良い音になりやすいとは思う。とりわけ音がダレずにきちんと制動を効かせる、といったものは、振動系に耐えうるハコを備えないと実現が難しいと感じる。
ホームシアター向けとはいえ、このスピーカーはそのポテンシャルを具備していると思う点で、そのへんのものよりも"オーディオしている"。

なにかしらの調整が必須にはなるのだけど
品質の劣化が進んでいた時代においての良心という意味で、このスピーカーは異端であると思っている。
今後もこのシリーズを確保してみたい。

こういうのでいいんだよな
終。