パイオニアの小型同軸2ウェイスピーカー「S-X33C」を手に入れた。経年劣化した部分を手直しして、音を出してみた所感。

パイオニアの同軸スピーカー
とりわけ意識してやっていたわけではないけど、最近はパイオニア製のスピーカーが立て続けに手元に届いている。今回のものは、そのひとつだ。「S-X33C」という、筐体の小さな1ドライバーのパッシブスピーカー。

バッフルの中心に同軸型2ウェイドライバーが備えられた、1980年末期の国産スピーカーである。最近手にしたTANNOYの「XT 6」が気に入ったので、時代も国も違えど同じコアキシャルのこちらも出音を聞いてみたかった。

とはいえ、サイズも価格も全然違う、というか用途としてはこちらはサテライト的な使いかたも想定しているだろうから、比べることはできないし、あまり期待するものでもない。それでもやっぱり惹かれるんだよな。
今回も例によってフリマサイトで購入した中古品。外観が目に見えてくたびれているためか、相場よりも若干安値だった。

購入時は細かい情報まではわからなかったけれど、まあ安いし、相当酷い状態であればドライバーを別のハコに乗せ換えてしまおうかとか勘案しつつ札を入れた次第。
外観
エンクロージャー
前面バッフルの面積は、ほぼA4サイズと同等。まさにブックシェルフ型というべき小ささだけど、横幅よりも奥行きのほうが短くなっており、それがコンパクトさを際立たせている印象だ。

しかし、質量は意外と重い。一本3kgを超えており、"塊感"がある。
背面に壁掛用の穴が開いているのも併せて、これらがサラウンド用途にも使われることを予想した要素だ。

灰色の木目調のPVCシートは、同じパイオニアの「S-J7-Q」でも採用されていた。
というか、このスピーカーを整備する前にちょうどS-J7-Qを手掛けていたので、めずらしいカラーの仕上げなのにちょっと見飽きている感があったりする。

ただ、色味は似ていても、あちらとは質感が若干異なっている。こちらはシート端部の仕上げが簡略化されていたり、あしらわれた木目の模様もやや薄め。両者の発売時期は同期と捉えてもいいくらい近いけれど、使われている素材は別なのか。それともロットの違いか。

前面バッフル
仕上げか切り替えられている前面バッフルの下部には、バスレフポートとアッテネーター操作用のロータリースイッチがある。

このスイッチはおそらく高音域の調整用だろう。コアキシャル単発のスピーカーで高音の調整がユーザー側でできる仕様はめずらしい気がする。
バスレフはダクト部が短い仕様だからか、樹脂一体成形のパーツが使われている。

ドライバーは、中央のドームの前にすり鉢状のフードのようなものが付いた、同軸型2ウェイ。

その前面のグリルネットは固定式のため、内部を清掃できずに埃が溜まりに溜まりまくっている。古いスピーカーにありがちな状況だ。

背面
背面のコネクターユニットは、S-J7-Qに搭載されていたものと同じもののように見える。

細めのケーブルの末端を所定の位置で直に突っこむことしかできないこのバインディングポストはハチャメチャに使いづらいので、たとえ異常がなくても交換対象。

そのコネクターユニットは、片方のスピーカーのみなぜか少し傾いた位置で固定されており、しかも板材から抜けかかっている状態である。

過去にいちどすっぽ抜けて嵌め直したことがあるのだろうか。なんであれ交換だ。
整備前の音
音を出してみる。アンプはTEACのUSBDACプリメイン「A-H01」。パソコンとUSB接続。
また、最近はUSBスタビライザーを使ってみたりしている。PCとDACのあいだに挟むヤツ。
前面のスイッチは、やはりツイーターの出力調整用であった。「ATT」状態で高音域が少し落ちる。

音は出るけど、なんかおかしい。片方のスピーカーから低音があまり聞こえてこない。もともと低音はあまり出ないもののようだけど、それに輪をかけて出ていない感じ。
低めの周波数のサイン波を流してみると、「ゴーーーー」というノイズが盛大に出てくる。しかし、これはある程度予想できていて、先に見たコネクターユニットの隙間から空気が漏れ出てくることによる風切音であることがすぐに判明するのだった。

再生周波数測定でもインピーダンス測定でも、当該品が明らかにおかしいことがわかる。


さすがにこの状態の音を聴き続けることに意味は無いので、さっさと整備に移ることにする。


内部
ドライバーユニットの取外し
見たところ、前面バッフルにドライバーユニットを固定するようなネジ頭らしきものは無い。しかし、S-J7-Qの構成を知っていれば、まずは確認しなければならない。メーカーは「ミッドシップマウント」と称している、ユニットをエンクロージャー内部で固定する方法の採用だ。
側面を叩くと硬そうな雰囲気があり、十中八九それだろう。そうでなくても、とりあえず背面のコネクターユニットを取り外すところから始めるのが順当。

スクレーパーを挿し入れて持ち上げるだけで、板から抜ける。接着剤は使われていないようだ。

ディバイディングネットワークは回路がシンプルだろうから、コネクターユニットの裏に括られているだろうと思っていたのだけど、そうではなかった。

しかし、六角穴のボルトの頭が見えるのは予想どおり。ただしS-J7-Qと異なる点もあり、ボルトから1本ケーブルが伸びており、グランドに繋がっているのを確認できる。

対辺6mmの六角穴キャップボルトを抜き取ると、ドライバーユニットは簡単に外れる。
ユニットはズッシリくる重さなので、取扱いに注意が必要。

ツイーターに繋がる2本のケーブルは、110型平形端子で接続されている。ドライバーから生えているケーブルは、片方がオスの端子。


ディバイディングネットワークの取外し
ネットワークが組まれたパーツ一式が背面側に固定されていて、取り外そうにもミッドシップマウントの合板が作業の邪魔をして、なかなかアクセスできない。

製造時は、おそらく前面バッフルを固定する前にタッカーを打ちこんだのだろうか。それとも狭所空間専用の工具が存在したりするのだろうか。
どうするかといっても、力業しかない。柄の部分が短めのマイナスドライバーを用意。

それをネットワーク回路の乗っかっている紙製のベースと背面の板材のあいだに無理やり滑りこませ、てこの原理で少しずつベースを引き剥がす作戦に出る。根気強く続けて、タッカーの針が一か所でも抜ければしめたもの。

吸音材
吸音材は、細い帯状のニードルフェルトが一枚、キャビネット部の前側半分の位置に、天地と両側面の4面にわたってグルリと固定されている。


ミッドシップマウント構造特有なのか、なかなか見られないめずらしい配置をしている。

内部補強
特徴的な合板製のブレースのほか、隅のいたるところにある補強材も大きめなものが採用されている筐体内部は、小型エンクロージャーながらだいぶ堅固。

いっぽう、ブレース以外の板材はすべてパーティクルボードで組まれており、前面こそ厚みが15mm確保されているものの、それ以外は9mm程度となっていて、やや頼りない印象もある。

グリルネットの取外し
同軸型ドライバーはコーンの清掃をしたいので、前面のグリルネットを外すところから。

フランジ部はアルミの上に黒いゴム質の塗装がなされているため、なるべくなら溶剤は使いたくないのだけど、これを溶剤を使わずに外す方法を未だ知らない。塗装が剥げたら再塗装するつもりで、ラッカーうすめ液を少しずつ垂らして接着剤をブヨブヨに溶かす。

幸いにも塗装が溶け出すことはなかった。今まではグリルネットのおかげで目立たなかったけれど、堆積した埃以上にエッジのカビがスゴイ。さっさと清掃してしまいたい。
ドライバーユニット

6本のアーム部が細いわりにフランジ部が分厚く、10mm以上もある。

贅沢な設計だけど、いささかアンバランスな気もする。S-J7-Qでもここまで厚くはなかったと記憶する。これもコアキシャルであることとなにか関係あるのか?
ツイーターのドーム周りのフードは、なんとなく柔らかそうだと指でつまんでみると、やはり少し弾性があるのを確認できる。できればこのツイーター部も分離しておきたいのだけど、磁気回路側の中心部にそれらしいネジが一本あるものの、取り外してみてもツイーターユニットはビクともしない。

これは諦めるしかないか。
ディバイディングネットワーク
作業中は気付かなかったけれど、ディバイディングネットワークについては、同じくブックシェルフ型で2ウェイの「S-X11」と似ている構成となっている。



前面バッフルのロータリースイッチを操作することで、HF回路の頭にある抵抗器をスルーするか否かの選択をする仕組みも一緒だ。
整備
さて、整備といっても、今回はとにかくあからさまに汚れているドライバーユニットを綺麗にしたかったので、清掃ついでに調整するみたいなノリだ。音の調整も現状するつもりはない。
清掃
ドライバー
ここに「ハイター」みたいな漂白剤の類は使いたくないとなると、弱アルカリ性の洗剤で地道にこそぎ落としていくしかない。コーンは樹脂製なので、ある程度の時間なら塗らしても大丈夫だろうけど、今回は中心にソフトドームがある。ツイーターユニットとの境目のギャップには洗剤やゴミが落ちないよう、慎重になる面もある。
とはいえ、作業としてはもう慣れてしまっているので、おもむろに洗剤を吹きつけ、適当なブラシでザクザク擦っていくのだった。

豚毛の筆や歯ブラシなどで大まかに、細かい部分は絵筆を使う。家にあるもので使えるものは使っていく、のスタイル。筆類はすぐに汚れるので、定期的にキッチンペーパーに汚れを移すようにして拭う。

カビの跡は完全には落ちないものの、30年分の汚れが消えて見違えるほど綺麗になるのだから、やるしかない。


エンクロージャー
エンクロージャーの表層も拭き掃除。

色味がやや黄ばんでいるのは汚れのせいだろうか、拭けば多少は白くなるかな、と思っていたけど、清掃後もほとんど変化がなかった。黄ばみはPVCシートの劣化によるもののようだ。
ディバイディングネットワークの再構築
整備前の音をちゃんと聴けていないので、今回はフィルター回路の調整は電解コンデンサーの交換くらいにしておくつもりだけど、既存の紙製のベースが取り外すさいに変形しているので、結局いったんすべてバラして作り直さなければならない。

新しいベースは12mmの合板とする。面積は8×9cmで同じにして、そこに手元に余っているコネクターユニット用のタブを立てる。やや厚い板材を使っているのは、タッピングネジをしっかり効かせたいため。
コイルと抵抗器はもちろん既存再利用。

コンデンサーはHF回路をメタライズドポリエステルフィルムコンデンサーとする。ベースをスピーカー背面に括りつけるのは接着とするつもりなので、以降は原則内部を弄らなくて済むようにオールフィルムコンデンサーとするのも考えたけど、その前にエンクロージャーのほうが崩れそうだと考え、いつもどおりLF回路は電解コンデンサーとする。

アッテネーター用のケーブルも再利用。ただし、接続は250型の平形端子なので、205型に付け替えるか250型のタブを用意する必要がある。ケーブル長に余裕があるので、今回は単純に平形端子を圧着しなおすことにする。

今回はこれをスピーカー内部に括りつけてからアッテネーター用のケーブルを接続する必要があるため、その作業ができる位置にタブを用意しなければならない点に注意。
合板製ベースの接着は、硬化の速度重視でゴリラグルーとする。

ネットワークを組み終えてから、六角穴キャップボルトに挟みこむグランド線の用意を思い出す。

適当なケーブルと端子を用意して、やはりここも圧着で済ませる。ネットワークには介さず、ボルトとコネクターユニットのマイナス側のポストとを直接渡らせる。

コネクターユニットの交換
バナナプラグに対応する汎用のコネクターユニットに交換してしまう。
S-J7-Qの整備でも使っているものと同じものを、こちらにも用意する。S-J7-Qでは背面パネルの既存の孔がほんのわずかに大きくてコネクターユニットで完全に蓋をできず、なんらかの方法でできた隙間を塞ぐ必要がある。こちらもそのつもりでいたのだけど、なぜかこちらは孔の直径が小さいらしく、単にコネクターユニットを固定するだけで済むのだった。

既存のコネクターユニットから、銘板のシールを剥がして新しいほうに移設する。シールの隅あたりを狙って背面からドリルで突き上げるようにめくりあげる方法が剥がしやすい。

といってもカンでやっているので作業が安定せず、片方はあまり綺麗に剥がせなかった。


整備後の音
組み上げたので音を出してみる。

やや高音に寄ったバランス。能率感もそこそこあり、JBLの「Control 1」のような雰囲気がある。
同軸型ドライバーらしい自然な定位感がある。音場感は平均的。いっぽうパースペクティブはやや乏しく、表面的に展開する性格もある。
中音はボーカルがよく聴こえてくるのが特徴。ちゃんと真ん中に立っているし、奥に引っこむこともない。
高音はやや主張が強いものの良く伸びている。ソフトドームのはずだけど、音は金属ドームっぽいキラキラした質感がある。アッテネーターを効かせたほうが全体がまとまる。最近は高音が耳につくようになっているので、個人的にはこちらのバランスのほうが好み。


まとめ
この時代のパイオニアは良いスピーカーを作っていたんだなということを改めて認識する。音は現行機種と比べるとどうしても古臭い部分があるのは否めないけれど、ちゃんと制動が効いてオーディオ然としているし、それを安価なグレードの製品で実現している。


整備後すぐに引き取られ、今は手元に無い。ゆえに音をじっくり聞くことはかなわなかったけれど、整備自体はやりやすかったし、また縁があれば引き取りたい。

終。






