アイワの古いスピーカー「SC-47」を入手した。バッフルに調整を施して、音を聴いてみた。

70年代アイワ
前回に引き続きフルレンジスピーカー。アイワの「SC-47」という。


また古いアイワ製フルレンジスピーカーである。といっても前回の「SC-45」と比べるために狙って購入したわけではなく、たまたま入手時期が近かっただけ。仕入先もまったく異なる。

SC-45と同じく、前々から気になっていた製品ではある。SC-45発売の二年後、1978年に登場。どちらも12cmコーン型ドライバー単基ということで、おそらくドライバーは同じだろう。エンクロージャーの体積もほぼ一緒だし、両者とも前面バッフルにバスレフポートがある。

音はどちらも似たりよったりで、ドライバーのサラウンドは張替えかな、という予想のもと、SC-45と被る箇所は省略しつつサラリと見ていく。
外観
仕上げ
合板製のキャビネット部で、ネジ固定されたバックパネルを外して背面から内部にアクセスするタイプ。

仕上げもシルバーカラーのPVCシートで同じだけど、こっちらのほうがよりガンメタルに近い暗めの色味で、表面がザラザラした梨地である。


キャビネットの構成材
両側面と天面、底面のそれぞれの接続する辺にR加工が施されている。これ、板材を削ってカーブさせたのではなく、板材を突き合わせて角(かど)になる辺を丸棒とすることで成している。


なかなかにユニークではあるけど、スゲーことやってんなーとも。丸棒を4本あてがうにあたって突き合わせる板材の断面部も孤を描かく必要があるし、一般的な木製キャビネットと比べると加工の工数がだいぶ増えるように思える。切削の自由がある程度効くMDFは、当時はまだ汎用的な素材ではなかったのだろうか。
この特殊な設計により、おそらくキャビネットを組み立てる工程上で必要だったのだろう、底面の板材のみ二枚を繋ぎ合わせたものになっている。

前面ネット
SC-45の仕様から大きく変更された部位が、前面バッフルである。バッフルは一面樹脂製となっているほか、固定式だった前面ネットは着脱できるようになっている。

面ファスナーで固定された前面ネットを外せば当然ながらドライバーが表出するわけだけど、このスピーカーには前面ネットとは別に、ドライバーの振動板スレスレにも薄いネットが張られているのが特徴。

前面ネットがあるのならこちらのネットは無くてもいい気もするけど、意図は不明。意匠を潰さずに振動板の保護を、ということだろうか。そのおかげなのかはわからないけど、この個体のコーンは破損することなく綺麗に残されている。
開口部のデザイン
この樹脂製バッフルは開口に意匠が施されており、ドライバーの開口はジェットエンジンの噴射口のような出っ張ったものとなっている。バスレフは紙製ダクトで、バッフルにはテーパーが施されたうえにこちらにもネットがある。

当時でも安価なスピーカーの部類であるので、質感はそれなり。今見ればオモチャみたいなデザインである。それでも、ミニコンポに組み入れるものであればこんなもんかも。

背面
背面はコネクターとラベルシールのみ。

スナップイン式のコネクターユニットは、面積に対して不釣り合いに見えたSC-45から小型化され、相応のものになっている。

整備前の音
どうせドライバーのサラウンドを張り替えるからということで、音は測定だけして分解に入る。
アンプはTEACのA-H01。このアンプも最近調子がよろしくないから、そろそろ買い替えたい。
なにげなく音を出してみると、それなりに低音が出ていることに気づく。SC-45ではあまり機能していなかったバスレフによる増幅が、こちらではサラウンドを張り替える前であってもそこそこ効いている。ややもすればSC-45搭載のドライバーより状態が良かったりするのかもしれない。
ちょっと聴いたかぎりでは、SC-45と比べると中音の解像度が高い代わりに音が軽い印象を受ける。

周波数特性を見る。今回も3回収音の平均値。ドライバー軸上50cmの収音。


やはり、整備前のSC-45と比べれば明らかに低い音域が出ている。全体のバランスとして低音の不足感があることは否めないとしても、この程度であれば違和感は小さい。

ただし、ある程度の音量を突っこむと、特定の周波数で背面のパネルがビビりだす。この不思議な設計をしたエンクロージャーが、どの程度の精度で作られているのかも気になってくる。
内部
筐体内部
バックパネルを外す前に、コネクターユニットを外してみる。SC-45と同じく、ケーブルの接続ははんだ付け。

SC-45にはあったバックパネルの内面側の吸音材は無し。

シート状のニードルフェルトを吸音材とし、天面の一点でステープル固定。
筐体底面の吸音材をめくると、二枚の合板を継ぎ合わせる中継材の板材を見ることができる。

バックパネル固定用のネジを打ちこむための木材は、SC-45と比べると簡易的になっている。

ドライバーユニット固定用のネジも、フランジ付きではなくよく見るなべ頭。

スペーサー
ドライバーユニットを外すと、矢紙が残る。

これはドライバー側に貼られているものとは別物で、ネットをステープルで固定したスペーサーである。ドライバーのフランジ部とバッフルのあいだに挟まれるかたちで固定されている。

フルレンジドライバー
ドライバーは、外観はSC-45と同じもののように見える。しかし、ヨークに印字されているパーツの識別番号らしき数字の羅列が、SC-45搭載のものとは若干異なるため、見つけられないだけでなんらかの差異があるのかもしれない。



それにしても、このドライバーはサラウンドが綺麗だ。見た目は汚れているものの、ダンプ材らしきものが塗られたクロス製のプリーツはしなやかに動くし、あとから溶剤のようなものを塗られた跡もない。さすがに製造から45年経っているので新品同等とはいかないまでも、往年の性能に近い状態にあるのではないだろうか。

さて、これは予想外だ。サラウンドは張り替えるつもりでいたけど、ここまで綺麗だとそれももったいない気もする。どうしようか。
整備
方針
サラウンドを新調して低音再生能力を復活させてバランスの安定を採るか、オリジナルの素材を活かしたままそれ以外の部位の調整に留めるか。
まあ、サラウンドの張替えは、エンクロージャーの気になる部位を修繕してみて、それでも物足りなければやってみればいいか。今のところ、新しいサラウンドによって中音の特性が微妙に変化する事象を解決できていないし、しないで済むならそれに越したことはない。
エンクロージャーの清掃
先日のSC-45以上に汚れが目立つエンクロージャー表層を掃除する。見た目以上に汚れている。現状タバコのヤニ臭さはないものの、おそらく紫煙のなかに置かれていた時期もあったのだろう。ウエスで拭くたびに黄土色の染料のような汚れが付着する。ここはハヤトールを使用する。

コネクター部の改修
バインディングポストはバナナプラグ対応のものを付けておきたい。SC-45では既存のポストを交換すれば済んだけど、今回はポストを固定するベース部を新設する。
埋込型ユニットの場合、自分がよくやる手法のひとつとして、既存の貫通孔を適当な板材で塞いで、そこにポストを直付けする。ただ、今回は孔がやや小さめで、そこにポストを設けるだけでは扱いづらい。よって、汎用品の直付型のコネクターユニットを固定する。

MDFを切り出して、コネクターユニットを括りつけられるように加工する。MDFは長辺90mm、短編70mmとする。

MDFには薄いフェルトシートを貼って化粧する。貼るものはカッティングシートでも突板でもなんでもいいけど、片面粘着のものであると施工が楽。

固定はミリネジとナット。既存のネジ穴をそのまま活用することで穴を埋める目的もある。ワッシャーももちろん必要なのだけど、今回固定するバックパネルは比較的柔らかい繊維板であるため、いわゆるワイドワッシャーを用いないとワッシャーごと陥没してしまう点に注意。


前面バッフルの補修
これでひとまずいいかなと組み上げて音を出してみると、前面バッフルがビビってしまっている。バックパネルの外周にファブリックテープを貼って気密性を上げたところ、今度はバッフル側から空気が漏れるようになったらしい。
というわけで、前面の樹脂製バッフルのほうも手を入れる。


バックパネルと似たような方法で前面バッフルも固定されている。筐体内部から計10本のネジを外すだけ。



こちらはバッフル板材とキャビネット部との接合部にファブリックテープを貼るほか、無用の孔や空隙はアクリルエマルジョンのコーキング剤を打ちこんで埋めておく。
思いのほか空気の通り道が多い。背面よりも、むしろ前面側を重点的に目詰めするべきだと感じる。

整備後の音
バッフルがビリビリしなくなったところでリスニング。

最近はずっとSC-45を鳴らし続けていたので、高音のレンジ感の狭さは耳が慣れてあまり気にならない。低音が抑えめなぶん、中音特化のナローレンジスピーカーみたいになっている。これはこれで中音域を堪能できると取ることもできる。
その中音はツヤっぽく骨太。ちゃんと分解して空気感を再生するから、音が古臭いと感じにくい。ともするとモニターライクにも聴こえるかもしれないけど、つまらない音ではない。

今回のようなオリジナルのサラウンドがわりとしっかり生きているSC-47と、前回のサラウンドを張り替えたSC-45とどちらが好みかと訊かれると、個人的には後者。より古い音源、または人声をメインに聴くなら前者、オールマイティに聴くなら後者だろうか。とは言いつつこの点は煮え切らないところで、改めて先日整備したSC-45を鳴らしてみると、やっぱりこっちのほうが"愉しい"。『Ra Mu』あたりを聴きなおすと、やっぱいいわー、となる。
インピーダンス特性を見るとおり、バスレフによる共振の位置が整備前後で変わっている。バッフルの調整だけでもこのくらいまで下がるもんなんだな。ただ、聴感ではそれほど低音域の増幅がなされているようには感じない。それよりも、音がまばらで煩雑だったチープな雰囲気が薄まり引き締まったと感じるほうが大きい。
なお、参考として前回のSC-45の特性を並べてみても判るとおり、ドライバーが同等とみるこのSC-47においても、サラウンドを張り替えればSC-45くらいの低音再生は可能なのだろうと思う。けだし今回入手したものに関しては、その必要はないかな。これはこれでそのまま残しておこう。
まとめ
1970年代の日本製ヴィンテージスピーカーなんてニッチなものを積極的に保持しようとする人間は、おそらく近いうちにいなくなるものと思われる。音が出るだけのスピーカーを欲する人間が、そもそもレアな個体になっている。完全に消え去ることはしばらくないにしても、スピーカー本体はどんどん破棄されていくだろうし、高度成長期の終わりごろの時代を生きた人間もこの世を去れば、価値ある性能を知る者がいないのだから、時間の問題だろう。

ただいま手元で音楽を奏でている彼らも、まあ、半世紀近くも生き存えたうえにどこの馬の骨かわからない若造の余暇に駆り出されるなんて思ってもみなかったことだろう。
とはいえこれもなにかの縁。別の新しいオーナーが現れるまでは、ここで自分の知らない70年代の音を醸していてもらうことになる。

終。





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