いつか消える文章

本当は、ペンとノートを持ち歩くことにあこがれている。

AIWA SC-E60 を鳴らしてみる

アイワの「SC-E60」という古いスピーカーを手に入れた。しかし、どうも様子がおかしい。その確認のために、出音を聴いたり中身を見てみたりした所感。

 

懐かしのアイワ

某オークションサイトでなにげなく入札していたら、落札できてしまったスピーカー。アイワの「SC-E60」という製品。

AIWA SC-E60
ちょっと気になって札を入れていたところ、自分以外に誰も入札せず、開始価格のまま落ちてしまった。

前面のパンチングメタルが外れる。けっこう固かった
中学生にあがるくらいだったか、それくらいのころの自室のミニコンポがアイワだったはず。当時から音楽をよく聴いていたけど、オーディオ機器にはさほど興味を示さなかった。ただ、それまで使っていたラジカセでは物足りなくなって、親にねだってようやく買ってもらったものだった気がする。だから、ブランド自体にそれほど拘りのない自分でもアイワは思い入れのあるメーカーだったりする。

懐かしいな、とか思いながら、ひと月ほど作業中に鳴らしていた
そのころの記憶からカジュアルなイメージのあるアイワでも、今回入手したものはそれよりも古く、おそらく1980年代のものだろう。例によって資料が無いのでわからない。これもまたそのうち調べなければ。
型番でインターネットで検索をかけると、「マイペース」と名づけられたシリーズのミニコンポが引っ掛かる。どうやら1982年ごろに発売された「my Pace 60」という製品のスピーカー部だったらしい。
 

外観

 

デザイン

とはいえ、中学生の自分が使っていたものは、たぶんマイペースではなかったと思う。輪郭にもっと曲線が使われて、黒い樹脂のエンクロージャーでチープだった記憶がある。いっぽうでこちらは、木質繊維板の角張ったオーソドックスなデザイン。ミニコンポのスピーカーにしては質量がかなりあって、時代を感じさせる。

個人的に"刺さる"デザイン
前面バッフルも木質繊維板だと思うけど、上部にあるパネルは樹脂製。そこにツイーターユニットとそのボリュームコントローラー、バスレフダクトがまとまっている。

流行りだったのか、こういうデザインのパネルは他所のメーカーにもけっこうあった
背面を除いて全体をシルバーカラーでまとめられていて、前面のパンチングメタルも銀色に塗装。各々のパーツの質感はそれなり。

ツイーター正面
とはいえ着脱可能なパンチングメタルをウーファー部だけに被せる構造は他所でも意外と見かけない気がするのと、パネル上のレイアウトがやや独特で、その垢抜けなさなどが不思議な魅力として感じる。当時の流行りでスピーカー本体に高音の出力調整を持たせてあったりするのも、コンポ向けにしてはガンバっている。

なんとなく業務用っぽい雰囲気
 

ウーファーの違和

ただ、全体的にくたびれているのに、ウーファーだけは妙に綺麗。エッジはウレタンフォーム製のようだけど、かなり新しめに見える。
オリジナルがどこかで朽ちて張り替えられたのだろうか。そのさらに外周にあるフォーム製のパッキンも、少なくとも80年代前半の国産スピーカーでは見かけたことがない現代的なものだ。

拡大。さすがに綺麗すぎるでしょ……
 

材質

背面はコネクターユニットと銘板のシールがあるのみ。板材の断面を見るに、エンクロージャーはパーティクルボードのようだ。

側面と背面
 

ボリュームコントローラー

バスレフポートには目の細かいパンチングメタル。そのすぐ隣にあるボリュームコントローラーのツマミは、左右2台ともになぜかプレートに印字されている目盛りの位置とズレて固定されており、目盛りが役に立たない状態。

これが"MAX"

これが"MIN"
機能としては、ノイズもまったく出ずにちゃんと動作しているのだけど。
 

音を聴いてみる。アンプはTEACのプリメイン「A-H01」。パソコンから再生。ツイーターは自分の聴感で聴きやすい状態までボリュームコントローラーを絞った状態とする。
ウーファーとツイーターの出力のバランスがおかしい。ボリュームコントローラーを"MAX"に振り切ると、ツイーターの音が喧しすぎる。自分の耳では"NORMAL"でも厳しくて、かなり最小に近い位置までツマミを回転させなければならない。
 
バランスとしてはカマボコ。しかし中音の張りがイマイチで、もう少し前に出てきてほしい感もある。
音は、意外と質感がある。もっとチープなガチャガチャした雰囲気かと予想していたけど、クセが小さく聴きやすい。ウーファーの鳴りがだいぶ落ち着いているのか?
再生周波数帯域としてのレンジ感はわりと広め。ただし低音の量はこの体積にしては控えめとなっている。バスレフポートからの風量が少なく、密閉型のような丸い鳴りかた。
高音は、音自体はやや金属的な硬い音。音量が上がると若干ひずむものの、自然に伸びていく。ザラザラした感じは薄い。
 
パースや横方向の音場感などは平均的、ここはある意味で想像どおりというか、馴染み深い音。へぇー、昔のアイワのスピーカーって、意外としっかりした音を出していたんだな、という感想。けっこう好み。

このころのアイワ、やるなぁ
周波数特性を見る。ツイーター軸上50cmの収音。ボリュームコントローラーはひとまず上記のまま変えていない。

周波数特性。1/6スムージング処理

上図の元波形
ちなみに、前面のボリュームコントローラーは"MIN"にするとツイーターがOFF状態になる。

ATT"MIN"状態
逆の"MAX"だと喧しかったのは、ビジュアライズでも明かされている。

ATT"MAX"状態
バスレフの設定が上手いのか、低音域の伸びが良い。
対して、1.5kHz近辺に見られる谷は、上の図からしウーファーの影響のようだ。これがフィルターの濾波のせいか、それともドライバー固有の性能なのか。
 

分解

古いのもそうだけど、今回はウーファーの素性が怪しいケースなので、その調査のために内部を見てみなければならない。
 

ネジ

前面にある六角穴のキャップボルトは、なんとすべてミリネジ。

かなり地味ながら嬉しい仕様
 

樹脂製パネルの取外し

ウーファーはネジが外れてもビクともしないので、とりあえず樹脂製パネルのほうを外してみる。こちらは、パネルの内側に発泡ポリエチレンのようなシートが挟まり、バッフル面とのあいだに生じる空間を埋めている。

申し訳程度に両面テープでくっついている
ツイーター用のケーブルの接続は平形端子だけど、ポテンショメーターのそれははんだ付けのため、ポテンショメーター本体を取り外さないとパネルを分離できない。

パネル裏側

ポテンショメーターの取外しは、ツマミを抜き取ると現れるナットを外す
 

ウーファーの取外し

ツイーター孔に手を突っこんで、エンクロージャーの内側からウーファーのマグネットを押してみるも、やはり動かず。ほかに固定用のネジは見あたらないし、フランジが固着しているのか、接着剤が使われているのか。
前面の化粧リングとフォーム製パッキンの隙間にある、黒いウレタン系の接着剤と思しきものが塗られている部分から、マイナスドライバーなどの細いものを挿し入れて、ゆっくりと化粧リングを浮かせる。

ココ
すると、フランジ部のネジ孔の部分に、黒い樹脂製のスペーサーのようなものが4つ現れる。

化粧リングを外した状態
しかし、それはフランジの上ではなく、外側に配備されており、単純に先のキャップボルトが貫通しているだけの構造。つまり、ウーファーユニット本体はネジ留めされていないことになる。

どういうことだ?
これでなんでユニットが落っこちないんだ? と訝しむも、フランジ部の外周に先ほども見た黒い接着剤が塗られていることと、化粧リングの内周の縁がフランジの最外周にちょうど引っかかるようになっており、リングによってもバッフルに抑えつけられる構造になっていることに気づく。
なんでこんなトリッキーなことをしているのだろう。このあたりから自分のなかで、もしかしてこのウーファー、オリジナルではないのでは? という予感が擡頭してくる。もしもそうだとしたら、このスピーカーの過去の所有者は、うまいこと合うドライバーユニットを見つけたなぁ、と思う。とはいえ結論を出すのはひとまず先送り。

であるとすれば、個人が整備したものではない気もする
フランジの接着剤を皮スキを挿し入れるようにして切ると、ようやくウーファードライバーがバッフルから外れる。

これは素手で取り外すのは厳しかったわけだ
バッフルの孔の縁にギリギリ引っかかる感じで固定されていた。

あと10mmでも孔の径が小さければ、と思ってしまう
通常はこんなことしない、これは交換しているだろ、と思う気も当然あるけど、いくつかスピーカーを分解してきた自分の経験からして、絶対にそうだと言い切れないのだった。
ケーブルの接続部を見ると、205型のタブを削り落として110型の平形端子を無理やり挿しているところも、……まあ、こういうことしているスピーカー、あるしな、となる。

設計ミスでこうなっていたりするスピーカー、実際にあるからね……
 

エンクロージャー内部

エンクロージャーを見る。

俯瞰
筐体はやはりパーティクルボードで、前面のみ厚みは20mm、ほかは15mm。背面にはバッフルをくり抜いたさいにできたであろう円形の端材を貼りつけて、その上にディバイディングネットワークの基板をネジ留めしている。

固定は2本のタッピンネジのみ
吸音材はフェルトで、前面側以外の面をすべて覆うように配備されている。

底面側

天面側
日本のメーカー製だと外国製と比べて吸音材の量は少なめにする傾向があると認識しているけど、1970年代や80年代前半くらいまでだとそこそこ入れていて外国製との差が小さい印象がある。このスピーカーも傾向に倣っているように見える。

筐体内に残っていた、朽ちたウレタンエッジの破片
 

ウーファー

さて、件のウーファー。背面の磁気回路にあるヨークに、印字がなにも無い。

無名のドライバー
これ、外国製の聞いたことのないメーカーのスピーカーに載っているドライバーと、雰囲気がそっくり。また、金属プレスのフレームに黒い塗装をしているのが年代と照らし合わせるとめずらしいこと、劣化したエッジを張り替えたにしては綺麗すぎること、さらにこれまで見てきた不自然な点から察して、さすがにこれは近代に交換されたものだろうと結論づけるしかなさそう。

フェライトマグネットはけっこう大きめ
ドライバーが故障したために交換したのだろうか。それにしても、よく見つけてきたもんだなと。

振動板内側
 

ディバイディングネットワーク

ディバイディングネットワークは弄られていない様子。

ネットワーク基板表裏

ネットワーク回路図
先に見た1.5kHzあたりの谷は、ウーファーは交換したものの、新しいドライバー向けにネットワークを調整せずにそのまま付けたために起きている可能性が出てきた。
 

ツイーター

ツイーターも見る。こちらには"AIWA"の印字がある。こちらはおそらくオリジナルだろうけど、品番らしきものは見あたらない。

ツイーター。品番不明
こちらのフェライトマグネットもけっこう大きく、なかなか良いものが使われていそう。樹脂製パネルとは前面からネジ留めされているようだけど、前面のネジ頭を綺麗に露出させる方法が思いつかなかったので、弄らない。
振動板のドームはおそらくセミハードで、金属のようにも見えるし、樹脂フィルムのようにも見える。
 

バスレフダクト

バスレフダクトは紙製。よく見ると、パネルに固定されている部分の固定にも、例の黒い接着剤が使われている。

内側の開口部にもカバーが設けられたバスレフダクト
16cmほどある紙のダクトは、おそらくオリジナル。なんらかの都合でダクトを固定しなおしたものと推測する。
 

整備

分解の合間にディバイディングネットワークの調整を考えていたけれど、社外のドライバーに載せ替えられたものに対してそれを施すことにはあまり意味を見いだせない。
ほかにも痛んでいるエンクロージャーの全面的な補修、少し錆の浮いているパンチングメタルの再塗装など、外観のリファインもするつもりでいた。しかし萎えたので、今回はボリュームコントローラーのツマミの位置を目盛りに合わせるだけにして、あとは弄らず元に戻すことにする。

最小がこの位置になるように
 

まとめ

まあ、現段階でとりわけ思うところは無い。
音は決して悪くない。ただ、自分は、修理されたスピーカーを手にすることに抵抗は薄いけれど、やはりオリジナルのドライバーユニットが載っていることには拘るのだな、という確認ができた。今思えば、自分以外に誰も入札しなかったのは、ウーファーの仕様の違いに気づいていたからだろうか、とか勘ぐってしまう。

別種のドライバーが載ったら、それはもう別のスピーカーだろう、という考えかた
今回はそのまま手放す。しかし、ツイーターの仕様を含めスピーカーの造りはけっこう良さそうな印象だし、そのうち買い直すことだろう。エッジは朽ちているだろうから張り替えることが前提となるけど。
 
終。