いつか消える文章

本当は、ペンとノートを持ち歩くことにあこがれている。

DIATONE DS-A7 をメンテナンスする (後編)

ダイヤトーンのブックシェルフ型スピーカー「DS-A7」を入手した。その所感。

この記事は、前後編の後編にあたるものです。
前編は下記より↓
 
 
 
 

整備

ウーファーのエッジの復旧を済ませたらそれで終わりとしたかったのだけど、コンデンサーの容量がだいぶ増えているので、そちらの換装も行う。また、ツイーターのエッジもウーファー同様の処置を施しておくことにする。
 

エッジの復旧

個人的に、古いダンプ材の除去作業がハチャメチャに手間がかかって嫌いなので、新しいエッジに張り替えてしまいたいところ。だけど、今回はまず、原来の性能すなわち出音に近づけるようにすることを目的とするため、既存のエッジを生かすための処置を行う。
その手順は、先日手に入れたものが同じ状況だったDS-500と一緒。
シンナーを少量垂らして伸ばし、数分置く。個体が柔らかくなったら、先の細いもので掬い出すようにして除去していく。その繰り返しとなる。

除去途中のクロスエッジの図

溶けだした古いダンプ材
クロス製エッジはそれなりに頑丈ではあるものの、ここで使用する道具は、鋭利なものは避けたい。溶けたダンプ材を掬い上げやすいものはなにか、いろいろ試したところ、木製の使い捨てのマドラーが、程よい柔らかさとしなやかさを備えていて、先端の形状が丸みを帯びていて扱いやすいことが判った。
除去後のエッジは、見違えるほど柔らかくなる。

除去後のエッジ
そこから数時間放置して、ある程度シンナーが揮発したのを確認したら、新たにアクリルエマルジョンを塗る。
薄く3回塗り重ねる。こうすることでエッジは、固すぎず柔らかすぎずの状態になる。

この作業はだいぶ気楽に行える
じつのところ、ここはなにも塗らずに柔らかいままでも、実用上は問題ない気もする。だけど、オリジナルはなにかしら塗布が必要だと判断しているところから察するに、取りも直さず単に柔らかいエッジではダメなんだろうという予想のもと、塗布することにしている。
 
そして今回は、ツイーターのエッジにも同じような処置を施す。
こちらは、塗布されているエッジのロールがかなり小さいため、一般的な綿棒よりも細いマイクロアプリケーターを使って薬剤を塗りこんでいく。

これがまた、ウーファーに負けず劣らず時間がかかる
ツイーターの振動板は、ウーファーほど目に見えて振動するものではない。しかしそれでも、整備後ではほんのわずかながらストロークが柔らかくなっている。多少なりとも出音に影響があるだろう。
 
作業を終えたら、フェルトのリングは元に戻しておく。
固定は、接着剤の「E6000」を使う。付属の極細のノズルが、今回のような細かい部分の塗布に好都合で、最近出番が多い。

もともと両面テープが貼ってあった箇所に塗る

エッジのロール部が覆われるけど、接着はされていない点に注意
 

コンデンサーの交換

既存の電解コンデンサーは、規定値の二割増し程度になっているので、すべて新しくしてしまう。ただ、このスピーカーにおいては、整備後も「ソルダーレス」を維持しておきたい。
よって、まずは新たに設けるコンデンサーを、上手い具合に既存のスペースに割りこませて既存のケーブルやパーツ類と圧着させることができるか確認する必要がある。

繊維板の裏にあるフォームシートをビリビリ
オリジナルは、繊維板の上に乗っているすべてのパーツのリード線をいったん繊維板の下に潜りこませてから圧着している。そのため、圧着端子を切断して残ったリード線を引き出せば、幸いにもある程度の余長を確保できることが判った。
 
というわけで、新しいコンデンサーを確保。オリジナル同様、両極性アルミ電解コンデンサーとする。
ParcAudio製のオーディオ向けコンデンサー。

実質これしか選択肢が無い
ツイーター側にはフィルムコンデンサーを充ててもいいのだけど、今回はあくまでもオリジナル準拠としたい。
また、あえてフィルムコンデンサーを避けているような意図が感じられる。ツイーターがある程度低い周波数帯まで鳴らせるようなので、中音に張りを出させるために電解コンデンサーをチョイスしているような気がするのだった。

同じ耐圧、静電容量なんだけど、ケースの大きさが二回りくらい違う……
まずは高域側の回路から。こちらは入力側のケーブル長に余裕があり、圧着するのにある程度融通が利く。

このくらいであれば余裕
既存のコンデンサーは立てているけれど、新しいものは寝かせて、結束バンドで固定する。

リングスリーブは、一応熱収縮チューブを被せておく
低域側のほうは、既存のケーブルを固定している結束バンドや接着剤をいったん撤去し、圧着ぶんの余長を確保する。

こちらも問題なさそう
結線を終えてから、ケーブルを再度結束バンドで固定しなおす。

ある程度フォーミングは必要だけど、リード長に余裕はある

接着剤塗布前
 

バインディングポストの研磨

バインディングポストは、分解して磨いておく。

中国製の汎用品と違って、めっきがしっかりしている
変色して汚れてはいるものの、金めっき自体には異常が無さそうなので、薄めた酸性洗剤とポリマールで軽く磨くだけでかなり綺麗になる。

研磨後
 

バッフルプレート用台紙の新調

あとはそれぞれ元の位置に戻していくだけなのだけど、ひとつだけそうもいかないものがある。スエードの生地でできているツイーター用のバッフルプレートである。紙製の台紙を破いてしまっているので、新たに作らなくてはならない。
 
既存の台紙は可能な限り剥がしてから、起毛を傷めない程度に軽くドライアイロンを当てて伸ばしておく。
厚さ1mm弱の厚紙を用意。100均ショップでも手に入る、いわゆる工作用ボール紙である。
これをコンパスカッターでドーナツ状に切り出して、既存と同じような円形の紙を作る。スエード生地は、これに両面テープで固定する。

スエード生地よりもわずかに小さめに作るのがポイント
ツイーターユニットを前面バッフルにネジ留めする。
台紙とツイーターユニットとの固定にも、やはりE6000を使ってサラリと固着。

一度すべて剥がしたようには見えない
 

改修後の音

整備後の音を聴いてみる。アンプは、作業場でのテストに使用しているTEACのプリメインアンプ「A-H01」。
スペースの都合で、ニアフィールドでの試聴となる。
さすがにこのサイズだと、いつも聴いているような小型ブックシェルフスピーカーとはスケールも雰囲気も異なる。音の厚みや響きかた、低音の深さなど、随所に余裕を感じられる。

整備後の姿
低音が豊か。バスレフがよく効いていて、下のほうまでキッチリ鳴らす。言うまでもなく、整備前とは比較にならない。
 
中音の印象は、整備前とはまったく異なるものとなっている。音自体が静かで目立たないのだけど、中心にエネルギーの塊があるような鳴りかたで、不足感はない。
スピーカー側である程度咀嚼されて、スピーカーそのものの解釈として整理されたものを耳に届けるような印象。だけどそこまで色を付けているわけでもなく、自然。
この雰囲気の言語化は、なかなか難しい。もう少し聴きこんでみたい。
 
高音域の印象は、中音とは逆に整備前とさほど変わらない。なにかを際立たせるようなものではなく、自然な伸びと丸みを持つ。
 
ウーファーから出てくる音はそれなりなのだけど、フロントバスレフから中音域もある程度出てくるためか、全体のなかに独特の共鳴音みたいなものも聴こえてくる。それが上手いことアコースティックな雰囲気を醸している。
 
基本的には「静寂」で、落ち着いた音。主張するものはなにも無いけれど、有機的で低重心、温暖な空間に仕立て上げるのが得意。そんな感じ。
 
周波数特性を見てみる。

周波数特性(整備後)
備前とは、もはや別モノといっていいのではないだろうか。
備前のものと重ねてみる。

改修前後の周波数特性比較
低音域は言わずもがな、そのほかの帯域についても全体的に音圧が上がっている。おそらくツイーターのエッジの軟化の影響だろうけど、ここまで如実に変化があるとは思っていなかったので、驚嘆を禁じ得ない。
他方、200Hzから300Hzにかけては、逆に整備後に下がっている。これは、整備前ウーファーの特性によるものだろう。エッジの硬化した状態の振動板の揺れかたでは、このあたりの振幅が増大するようだ。この比較的低い特定の周波数帯が増幅する現象、なんて言ったっけな。
 

まとめ

良い製品かつ良い音なのは間違いない。自分の貧弱なリスニング環境でも、それなりの音を聴かせてくれる。

恐れ入った
ただ、中身を見てみると、ドライバーユニットは意外と普通だな、という印象だった。特にウーファーは、アルミダイキャスト製フレームで組まれたDS-500のほうがドライブ感があるように感じる。
このスピーカーは、エンクロージャーの物量にコストを割いたものと思われる。これは、しっかりしたハコを作ることは良音の出力にかなり寄与することの証左ではないだろうか。

エンクロージャーの質って重要なんだな
あと、やっぱりこのスピーカーは自分の環境では役不足となってしまい、かわいそうだ。もっと相応しい居場所があるだろうとも思うのだった。
 
終。