オンキヨーのブックシェルフ型3ウェイスピーカー「PS-V5X」という製品が手元に届いた。内部を覗いて、音を少しチューンしてみた。その所感。

終息期のESSAYシリーズ
あまり見かけない外観のスピーカーを入手した。オンキヨーの「PS-V5X」という、やや大きめのブックシェルフ型スピーカー。

高級感が無いのは実物が届く前からわかっていて、実際そうだった。いわゆるなにかのミニコンポに付属するパッシブスピーカーだろうことも想像できたので、そこは問題とならない。
ただ、正体が判らない。中古品の流通も少なく、インターネット上にも情報らしきものが全然見あたらない。

ESSAYシリーズは、自分の知るかぎり、1980年代末に「Liverpool」シリーズから派生した、より廉価で入手しやすい小型コンポーネントとして発売されていた製品。いくつかのカタログから整理すると、このスピーカーは「ESSAY V」シリーズと呼ばれる1995年ごろに登場したもののひとつで、「E-V7X」と「E-V5X」というシステムのスピーカー部だったことがうかがえる。


この「E-V7X」と「E-V5X」はやや特殊で、シリーズ登場当初は存在せず、1995年秋ごろに中堅モデルとして新たに追加されたもののようだ。
1995年のオンキヨーのコンポは、数年前に登場した「INTEC 275」シリーズが、ひとつ上のグレードとしてESSAYと並行して販売されていた。
そして同年、より小型になった新システム「INTEC 185」シリーズが発売、ヒット商品となる。これで勢いづき、同社のミニコンポはINTECブランドが席巻することとなる。
いっぽうのESSAYシリーズは翌年1996年に「ESSAY A」シリーズにリニューアル、それも一年ほどで発売打ち止めとなり、知るかぎり以降ニューモデルは姿を現していない。小型かつ安価なINTEC 185の登場でシリーズの存在意義が薄れ、お役御免になったとみえる。
終息期に差しかかったシリーズの、しかも追加モデルということが、中古流通がかなり少ない理由とみてよさそうだ。

自分の認識としては、いわゆる「バブルコンポ」などと呼ばれるような雰囲気を引き継ぐ最後の代が、このスピーカーなんだろうと思う。
外観
ぱっと見の印象で高級感が無いことは先述したとおり。そのいちばんの要因は、各ドライバーのフランジ部のデザインだろうと個人的に思う。いわゆるプラスチック感マシマシで、野暮ったいのだ。

ミニコンポ向けのスピーカーなので多くを求めてはいけないけれど、ツイーターとスーパーツイーターのフランジの最外周が金属のリングなのに、ウーファーだけそれが無いのがちょっとみっともないので、そこだけでもどうにかしてほしかった感はある。


フロントバッフルにバスレフポートがある。開口部は樹脂製で、極短い紙製のダクトが付いている。

背面には銘板シールと、スナップイン式のコネクターユニットがあるだけ。

ドライバーユニットが3つあること以外、これといった特徴のないフツーのスピーカーという感じ。
整備前の音
音を出してみる。アンプはヤマハのAVレシーバー「RX-S602」。
音質に関してはあまり期待していなかったのだけど、中音が張った元気な音でありつつ、それなりに整っていて思いのほかちゃんと聴ける。
体積なりの低音を繰り出してくる。箱鳴りが悪さしているのかややスカスカするけど、下のほうまで伸びていて、量感もそこそこある。無理に強調させるようなものではなく、締まった音で安心して聴ける。かと思うと時たまダーティーでグリグリした表現をかましてきて、「おおっ」となったりもする。
中音は充実していて、一歩前に出ている感じ。明るく元気。見通しやヌケ感は平均的。古臭い感じはほとんど無い。定位感がややあいまいなのは、ウーファーから高い音がけっこう出ているので、ツイーターと被る音域の幅が広いためかもしれない。
高音は、ツイーターがふたつあるわりには意外と丸い。派手さもある程度まで抑えられ、ひずみ感も少なく聴きやすい代わりに伸びが控えめな印象。なお、スーパーツイーターはアンプ側のボリュームをけっこう上げた状態でないと出音が聞こえてこない。

音場は平均的。マルチウェイらしく音をつぶさに表現するわけでもない。しかし強調も不足も無く、エネルギー感も満遍なく広がっているので、自然な雰囲気で聴ける。聴感はややカマボコのバランスでありながら、再生帯域的なレンジ感は狭さをあまり感じさせない。
合う曲調は、やはり時代である90年代のポップだろう。メリハリのある楽しい音になる。


周波数特性の測定は、ツイーター正面50cmで実施。
特性を見ると、中音から高めの中音が山の頂になるイメージで、ウーファーがそれを担っているようだ。公称の再生周波数の下限が45Hzとあり、この測定でもおおむねそのとおりとなっている。いわゆる"肩"の張りかたも綺麗で、バスレフの扱いが上手いことをうかがわせる。

内部
たぶんスッカラカンなんだろうな、と思いながら中身を見ていく。
ドライバーユニット
ウーファーフランジ部の樹脂製のリングは、接着されておらず別パーツ。


スーパーツイーターユニットのみ、前面バッフル側にネジの頭が見えない。十中八九、プレートの裏に隠れているだろうとスクレーパーを挿しこんで引き剥がしてみると、なんと4か所の樹脂製の突起がバッフルのダボ穴に刺さっているだけだった。


つまり嵌めているだけ。ドライバーユニットの質量がかなり軽いので、ネジを締めるまでもない、嵌合で十分ということか。
エンクロージャー内
筐体は前面バッフルのみMDFで、厚みは18mm強。それ以外の面はパーティクルボードで、約12mmとなっている。
吸音材はすべてウールで、天面に一枚、背面と底面にくの字に折り曲げるようにして一枚、バスレフダクトの無いほうの側面上部にやや弛ませるようにして一枚、そして底面と背面パネル中間付近を結ぶように細い帯状のものが空中を渡っている。


帯状のものを空中に飛ばすやりかたは、過去に見てきた「Liverpool」シリーズでも採用されていた。当時のメーカーは、この方法になんらかの拘りがあったのだろうか。

接着剤とタッカーを使い、意外と手間をかけて固定している。しかし、片方のスピーカーは帯状のウールが裂けていたりして、経年による剥離は免れないようだ。

ディバイディングネットワークは、背面パネルの中央に括りつけられている。こちらは、有芯コイルのみ繊維板に結束バンドで固定したうえで、それ以外のパーツやケーブルの結線部も含めて接着剤で固めている。

繊維板は接着剤とタッカーで打ちこんだような針で固定されており、繊維板ごと剥がすのが難しい。コイルの結束バンドを切り落としたら、パーツをプライヤーで掴んで無理矢理剥がす。


ウーファー
ネットワークはいったん除けておいて、ドライバー類へ。
ウーファーユニットは防磁設計で、カバーの付いたもの。



一見して汎用的なドライバーといった感じ。でも、金属プレス製のフレームに平均的な大きさのマグネットと、仕様上で極端に手を抜いているような箇所は見あたらない。
コーンはおそらく紙製で、表層にコーティングされている。つい先日見たばかりのタンノイ「Mercury F1」のコーンとそっくりの質感。

ダンパーとコーンの接合部付近にスリット状の通気口があるのが、唯一の特徴か。

ツイーター
ツイーターはキャンセルマグネット付きのソフトドーム型。



グリルネットで覆われているため、溶剤を使って外してみる。ここは用事が無ければなにもしないのだけど、前面プレートの裏側に、過去に磁性流体が漏れたような液体の跡が薄っすらと見受けられるため、その有無の確認のためだ。


ドームのあるメンブレン部と前面プレートは3点のネジで緊結されているけれど、ケーブルのターミナル付近とリード部にそれぞれ少量の接着剤が使われている。

今回はだいぶ慎重だったこともあってギリギリ問題とならなかったけれど、接着剤の付きかたによっては剥ぐときにリードを一緒に持っていかれることも十分ありうると思う。


ということは、前面プレートの裏にあったものは掃除したさいの洗剤か残っていたか、またワックスかなにかか?
スーパーツイーター
ちょっと不可解なのがスーパーツイーターである。



ユニット本体がやたら軽いのはいいとして、ドーム型の振動板の位置がグリルネットからけっこう奥まったところにあるのに、目視ではその位置にはブチルゴムのシートがあるだけに見えるためだ。


こんなものでも音が出るのか……いやまあ、実際鳴ってるしな……。
たぶんネオジウムマグネットが使われているのだと思うけど、ブチルゴムを剥がしたくないので、確認せずにおく。
ディバイディングネットワーク
最後にフィルター回路。

ツイーターとスーパーツイーターが同一のフィルターで並列に繋がれている。どちらもウーファーとは逆相。
ウーファー直列のコイルが小さめで、あまり濾波せず広い帯域を担わせている。中音が張っているのは、これが効いているのだろう。
整備
フィルターを調整して、少しフラットに持っていく調整をしておきたい。ツイーターとの繋がりを改善する。
また、箱鳴りが気になるので、容積を多少犠牲にしてでも筐体の制振を施したい。音が整理されて見通しが改善されることを狙う。

ディバイディングネットワークの再構成
といっても、既存のディバイディングネットワークは筐体内から取り外すさいに一部を破壊しているので、そのまま元に戻すことはできない。新たに作り上げて挿げ替えるよりほかないのである。

例によってあまり予算をかけたくないので、有芯コイルは再利用。ただし、LPF用の0.27mHコイルをHPFに、HPF用の0.4mHをLPFに使用する。これは分解しているさいに決めていたことで、これを中心に設計していく。

HPFは18dB/octに変更。製造が終了して今や貴重になってしまった4.7μFのニチコン「UES」を、ここで使ってしまうことにする。フィルムコンデンサーも併設するけれど、今回は電解コンデンサー主体の音にしたいので、一次側三次側の両方に小さいものを添えるだけとなっている。位相変更もオリジナルから変更なし。
LPF側は、コンデンサーを追加して12dB/octにするだけ。

パーツのベースは既存の繊維板を使わず、手元に余っていた合板の切れ端に乗せる。コイルと抵抗器を中心に2液性エポキシ接着剤で固めて、コンデンサーはG17を併用する。

エンクロージャーの補強
新しいディバイディングネットワークを筐体内に括りつける前に、筐体側の作業を済ませておく。
どの程度補強するか迷うところだけど、とりあえず今回は側板と底面の補強を施して様子を見る。
筐体内に残った既存の接着剤やタッカーを取り除く。


ホームセンターで12mm厚のMDFを入手。長辺300mm、短辺110mmで切り出してもう。

底面用には、手元に9mm厚のMDFが余っていたので、それを適当に切り出しておく。
木工用ボンドを片面全体に塗り、筐体側面に貼り合わせたら鋲を打って固定する。

バスレフダクトが短いため、ポートから内部の様子が簡単に覗けてしまう。設けたMDFがモロに見えてしまうのもみっともないので、ポートから見渡せる範囲程度は黒のペンキで塗装して、光を反射しにくくして見えづらくしておく。

コネクターユニット固定用の加工
ヤスリでゴリゴリ、孔を拡張する。

ディバイディングネットワークの固定
エンクロージャー内部の削り滓を掃除機で吸い取ったら、ディバイディングネットワークを背面に接着する。

接着は木工用ボンドではなく、G17を使用する。また、元の位置ではなく、その上部の空いているスペースに括りつける。
吸音材の再配置
剥がして保管しておいた吸音材のウールを固定していく。
オリジナルと似たような位置に設けるけれど、側面は弛ませず平坦に接着。底面側も底一面に敷く。


天面のウールは弄らずそのまま。
空中を渡る帯状のウールは撤廃。その代わり、もともとディバイディングネットワークのパーツが括りつけられていた繊維板にフェルトシートを貼っておく。

エンクロージャーの清掃
一見綺麗に見えるエンクロージャーの表層は、じつのところかなり汚れている。色味的に目立たないだけで、ヤニ汚れがけっこうある。

おそらく、以前の所有者のもとでは、喫煙環境に置かれていたけどどこかのタイミングで禁煙されたか仕舞われたかして、そのまま時間が経ったものと思われる。
整備後の音
ちょこちょこと調整したあとの音を聞いてみる。


だいたいの部分で、当初の思惑どおりの結果となっている。いちばんの懸念だったのは中音の減衰による能率感の減退だけど、まったく気にならないのでとりあえず一安心。
整備前よりも奥行き感が増し、細かい音が聞こえてくる。フィルターの調整が上手く効いているようだ。さらにひずみ感を低減させるために、HPFの一次側の電解コンデンサーをフィルムコンデンサーにしてしまってもいいかもしれない。ただ、今の状態でも違和感は無く、これはこれで良い。
低音域はさらにスッキリして、逆にメリハリと量感が増している気さえする。その副作用か、低音方向のレンジ感は少し狭まった感じもある。
特に女性ボーカルは整備前よりもハッキリと声が届くようになっている。主にウーファーが担っていたはずの1kHzから2kHzが、インダクタンスの上昇によって少し落ち着いているはずなので影響が出そうだと思っていたけど、周辺の音が整理されたことのほうが大きかったようだ。
特性上は、プレゼンス帯が思いのほか持ち上がっているのがちょっと意外だ。いちおうドライバーどうしの接続の改善は狙っていたけれど、想定ではウーファー側のレベルが下がりツイーター側はオリジナルとそれほど変わらないものとしていた。
結果オーライか。でも、如何せんこのあたりは実際に組み上げてみないとどうなるかわからないのが気持ち悪いな。
ちなみに、低めの中音から下がゆったり持ち上がっているのは、ウーファーユニットの固定にパッキンを新設した影響だろう。最近試している、曲線用マスキングテープをフランジ部に貼ってパッキンの代用とするワザだ。
たいしたことをしていないのに明確に音に反映されてしまうのも、これはこれで気持ち悪い。まあ、いいのだけど。
まとめ
なんか、普通に気に入ってしまった。とりあえず中音域の見通しがよければ良い音に聴こえるという、なんともチープな耳を持っているもんだとつくづく思う。

それはそれとして、今回は音を出す前にカタログが届いて、事前にどんなものなのかある程度知っていたので、正直高を括っていた部分があった。しかし、決して高次ではなく、むしろ地面スレスレではあるけれど、オーディオメーカーの矜持みたいなものを製品から感じ取れたのがよかった。

でも、今日日流行ることはないんだろうし、その価値はどこにあるのかと言われると、どう答えたらいいのかわからないな。
終。






