ビクターのフルレンジスピーカー「SX-100」を整備してみた。その備忘録。
フルレンジの名機らしい
このスピーカーは、結構前から気になっていた。
アルニコマグネットドライバーの小型フルレンジ一基という、清々しいまでの潔さ。以前同じビクターの「SX-300」を手に入れて、2WAYブックシェルフスピーカーでは個人的ベストワンに君臨しているなか、製造年代が近いのSX-100の音ははたしてどんなものか、一聴したいところだった。
今回ようやく、そこそこ状態の良いものを手に入れることができた。
フルレンジスピーカーだと思って油断していたのもあるけど、本体寸法は想像より大きい。重量も1本6.4kgと、ヤマハのテンモニと同じくらいある、重厚なもの。
この時代の国産スピーカーのエンクロージャーはかなり堅固な造りをしているものが多く、後ほど分解してみてもわかる通り、このスピーカーもそれに漏れない。とりわけビクターのスピーカーは、これでどうやって採算をとっていたのかわからないほど、贅沢な造りをしている。
とはいえ、1989年発売の製品である。金属フレームはアルミ製なのか、それなりに白サビが浮いている。
スピーカーターミナルも扱いにくいものが付いているので、この辺りも交換したいところ。
改修前の音
音を聴いてみる。
アルニコらしい自然なメリハリと実在感は、ちゃんと確認できる。バスレフ型のおかげで低音域も結構下まで聴こえてくる。しかし、高音域があまり出ていないからか、ヌケ感が今一つ。
全体の雰囲気が、思いのほか暗い。
フルレンジスピーカーをドライブさせること自体久々だから、耳が慣れていないこともあるだろうけど、どんなソースを聴いてみても物足りなさが否めない。
期待しすぎたか。
分解
パッシブネットワークは存在しないので、電気的に変化させて強制的に音質を調整することができない。というか、フルレンジスピーカーでその処置はあまりしたくない。
なのでやることといえば、構成パーツのリファインくらいしかない。
ドライバーユニットは、前面の六角穴ネジ6本を外すだけ。穴は対辺2mmと、ちょっと小さめ。
タッピングネジではなく、ミリネジ。エンクロージャーにインサートナットが仕込まれている。この辺りの造りの良さもさすが。
スピーカーターミナルユニットの固定はプラスネジ。
ケーブルのポストへの接続部を見ると、圧着した端子の中に接着剤のようなものを流し込む手の込みよう。
フロントバスレフ型のエンクロージャーは、硬い木片を挟み込んだ厚い積層板で組まれており、頑丈。
また、内部はダクトのある空間とドライバーユニットが固定されている空間を物理的に仕切っている、独特なもの。
低音をいったん筐体下部に溜め込んでからダクトに通すことで、低音域を増幅させる構造らしい。たしかに、ポートのそばに耳を持っていくと、共鳴音がしっかりと聴こえてくる。
吸音材は、天然と思しきウールのシートが、背面と天面、両側面に貼られている。
シート自体は薄め。
ちなみに、仕切り板の下部、バスレフダクトのある空間にも、吸音材が置かれている。
整備
ドライバーユニットの金属フレームの白サビを落とす。
スポンジシートに貼られた耐水やすりを使用。
600番相当と1000番、2000番まで使い、削ぎ落す。
ついでに、やや硬くなっているクロスエッジに、軟化剤としてシリコンオイルを塗っておく。
エッジを柔らかくする軟化剤は、未だに何がいいのかよくわかっていない。
クロスエッジに塗られているのが液体ゴムのようなものの場合、それを溶かすような溶剤がいいのだろうけど、コーンとの接着まで侵さないかとか、結局すぐ固まってしまうんじゃないかとか、懸念点が解消できず導入に踏み切れない。
何かいい方法はないだろうか。
ケーブルに関しては、音質面はよくわからない。採用したのは、エントリークラスのスピーカーケーブルだけど、構造が上位クラスと似ていてコストパフォーマンスが良さそうだったから。
ユニット側は既存と同様はんだ付け。
もともとはんだ付けされている既存の圧着端子からケーブルを引き離し、新しいケーブルを乗せられるように端子を少し加工。そこにはんだを流す。
スピーカーターミナル側はクワ形端子を付けて、ポストに挟み込んで付属のナットで締める。
本来はファストン端子のメスを付けるところだけど、ちょうど手持ちを切らしていたので、代替策。
スピーカーターミナルユニットの交換は、筐体の穴が小さくて汎用の埋込型ユニットがそのまま取り付けられないため、筐体側を加工する必要がある。
吸音材を追加するか迷ったけど、とりあえず今回はそのままとする。
改修後の音
たいした整備をしていないので、整備後の音の変化はほぼ無いだろうと思っていた。
現にその通りだった。しかし、若干ではあるけど暗い雰囲気は改善されたようだ。
この要因としては、エッジの軟化はあまり関係がないような気がするから、あとは引き換えたケーブルの影響くらいしか考えられない。
ケーブルの変更で音が変わるのは、以前JBLの「104-BT」で経験済み。
6NSP-1500 Meisterが、このスピーカーとたまたま相性が良かったのかもしれない。
とはいえ、印象としては整備前とさほど変わらない。ケーブル変更による音の変化は、かなりわずかなのだ。
こういうキャラクターのスピーカーということなのだろう。
まとめ
ヒット製品ということで、中古市場でも割と見かけるこのスピーカー。HiFiかといわれると決してそうではないけど、張りのある中音は「おおっ」となるし、変なクセもないから安心して聴き続けられる。
アナログレコード再生に向いているスピーカーだと思う。
ゴム脚を取り外して、硬めのインシュレーターに履き替えると印象が変わるかもしれない。
終。
(参考資料) 発売当時のレビュー
本機発売当初の雑誌より、音に関するレビューの部分を以下に抜粋している。
ステレオ 1989.9.
集中試聴 スピーカーシステム14機種の試聴
入江順一郎人間の声の帯域を大切にしたスピーカーで、ソプラノは朗々とした感じで歌ってくる。弦は少々中域から上が明るめであるが中域が充実しているためか音のヤセは感じられない。ピアノについては響きの感じが良く、わりと当りの良い音を聴かせる。オケについては、音場感はかなりあるもののやや高域が低下したバランスで聴こえ、欲をいえば、もう少し高域方向の伸びやかさが欲しいところだ。低域に関しては、小口径のユニットとしてはよく出る方で、歯切れの良さももっている。全体的にはフルレンジであるためレンジはそんなに広くはないが、ボイス帯域である中域はかなり充実しているといっていい。(後略)
藤岡誠(前略)まったく意外なのは低域である。実は本機はエンクロージュア内部を特殊構造として低域方向ののびを狙っているが、その効果は相当にあって外観やユニットから想像する低域以上の低域が再生される。フルレンジユニット1個だからfレンジは広くない。特に高域方向は欲張って聴いてはいけないが、逆に自然さが大きな魅力となる。(中略)帯域内の固有音は皆無ではなく独自の響きを聴かせる部分もあるが、むしろそれは個性として認めて聴きたい。(後略)