フォステクスのスピーカー「G850」が手に入ったので、音を聴いてみた。オーディオ雑誌掲載の情報を挟みながら、外観、特性を見ていく。

完全限定生産
ずっとコンポ向けスピーカーばかりだったので、ここいらで単売の高級機(当社比)を。フォステクス謹製「G850」という、ブックシェルフ型フルレンジスピーカー。


これも某オークションサイトでたまたま競り落とせたもの。まあこんなもんだろ、と適当に札を入れていたら、落札したあとになって相場より高かったことを知った。
製品情報に関する資料が手元にまったく無い。インターネット上にも取扱いが少ない。ということで、この製品が掲載されていた当時のオーディオ雑誌を探し紐解いて、引用しながら見ていく。
『ステレオ』2006年7月号に、このスピーカーについて関係者にインタビューされている記事があるので、情報は主にそこを参照する。以下、この記事の引用部はすべてこの雑誌記事から。
実物の外観と出音をひととおり確認してから図書館で資料を探す、という順序。
本機は、2006年秋口に発売された、300台のみ製造という限定生産品。「限定〇〇台販売」はフォステクスではわりとやりがちのイメージがある。今回はその理由として、振動板の大量生産が難しいことを挙げている。
外観
マグネシウム

そういえば、以前なにかの資料で、振動板にマグネシウムを使いたいけど加工が難しいから、アルミとの合金にして採用している、というのを読んだことがある。マグネシウムは金属製振動板として理想の音響的特性を持っているものの、箔状に伸ばすことが難しかったり、イオン化しやすく腐食対策が必要だったりと、うまいこと取り入れることができなかった。
強度が高くて伝搬速度が速く、減衰時間が短い。(中略)測定してみてもほかの金属振動板と3倍も5倍も違うので、測定の誤差とは違いますね。
フォステクスは世界で初めてマグネシウム製コーンの量産化を達成、MG850はその結晶ということになる。しかし、技術上は製造可能にはなっても、ほかの素材で加工するのと比べて一枚あたりとんでもない時間を要する。そのためその当時は継続した販売をせず、300台単売の限定生産という判断になったようだ。
といっても、このスピーカーシステムとは別にMG850単体でも発売されていたらしいから、ドライバー自体はもう少し製造、販売されていたのかもしれない。
振動板
その振動板に目をやると、表層になにやら青緑色の埃のようなものが付着しているように見える。これはマグネシウムの酸化によるもののようだ。


マグネシウムの腐食対策として、表層に樹脂コーティングがなされているようだけど、それでも完全には防ぎきれないらしい。製造から約20年でこの程度であればボロボロになることはないだろうけど、今後時間経過でどのようになるかはわからない。

サラウンドは、「UDR(アップダウンロール)タンジェンシャルエッジ」と呼ばれている、近代のフォステクス製ドライバーによく用いられるもの。自分の手元にやってきたなかでは「GX100」がそれだった。GX100では素材がソリッドなゴムだったけれど、こちらはフォーム材で成型されており、比較的柔らかい。
ドライバーのフランジ部は金属製に見える。フレームはアルミ鋳造製らしい。
ドライバーの仕様
今回入手した個体は異常が無いので分解することはしない。よってスピーカー内部の様子は見ないけれど、使用されているパーツや構成なども対話のなかで語られているので確認しておく。
磁気回路は、85mm口径のシングルフェライトマグネットとショートボイスコイルの組み合わせ。
主に高音域のひずみを低減させることを目的にチョイスされたものらしい。ボイスコイルの内側にあるセンターポールに銅製キャップを被せてあるとのことで、小径ドライバーながらフォステクスブランドの上位機種の仕様に準ずるものとなっている。
センターキャップもマグネシウム製。「リッジドーム」と呼ばれる、縦にひと筋の折り目がある、銀杏の種のような独特の形状。
コイルからセンターキャップ中心までの距離を変えようという考え方です。
これも現行のフォステクスでは「FF」シリーズで採用がみられる。
エンクロージャー


色味はほぼ朱色と言ってよいほど赤みの強い茶色。合板製の筐体に塗装されて仕上げとしている。



板材は天然木であることはわかるけど、化粧合板だろうと思っていた。合板どうしを90度で突き合せた部分の仕上がりがじつにシームレスで、あとからなにかを張っているようには見えなかったからだ。しかし、これはブナ合板の上にブナの柾目の突板を張っているという。しかも、ブナ合板は国産品らしい。

外観をきれいに見せるためにブナのきれいなところを選んだ突き板を貼っています。これをつくる職人さんは、かなり難しい仕事をしていますね。
合板の断面、木場がむき出しのラフな構造なのに、そう感じさせない上質な仕上げなのがスゴイ。どうやって仕上げてるんだろう……。


バスレフポート
前面にあるバスレフダクトは、フォステクスでは「トラック型」と呼ばれる、ダクト断面が真円を上下から潰したような楕円に近い形状となっている。

空気には粘性がありますから、丸が一番空気が動きやすいのですが、丸をつぶしてスリットダクトにしていくと抵抗が増えてきて、細くしすぎると低音が出なくなります。面積を一定にしながら、わざと効率を悪くしているというか、バランスをとった形状です。(中略)低音感を出すためには、丸いポートしか使えない場合は小さめのポートがいいのですが、今度はエアノイズが出てしまいますので、そのバランスでこの形状のポートを使いました。
ブナ合板のしっかりした質量を感じるけれど、背面はシナ合板に切り替えられている。


背面のみ杢目の表情がほかの面と異なることがわかる。

ここの素材のチョイスも音質面で相当吟味されたとある。
強い板も良いですが、何かカンカンしたところがあり、これをどうやって落とすかということで、制振材料をかなり使って無理やり抑えたこともありました。(中略)小型スピーカーでは締め過ぎるとボリューム感がなくなって聴いていて疲れますね。響きのバランスをとるため、G850の背板はすべてシナ材を使ったシナ合板になっています。
バインディングポスト

そのバインディングポストは、なんとシャフト部が銅製だ。

キャップのみ一般的な真ちゅう製で、バナナプラグが挿さる部分から筐体内部の通電部までが、めっきがされていないむき出しの純銅らしい。

しかも、ケーブルを繋げるターミナルも金めっきされた銅製という拘りよう。
銅のままがいいのですが、錆びやすいので薄く金メッキをしています。
ポストは本当に純銅製であれば柔らかいだろうから、キャップでケーブルを挟みこんで固定する場合はキャップをあまり強く締めないほうがいいかもしれない。
内部配線
で、あとはエンクロージャー内部の仕様。
内部配線は銀と銅の合金で、単線だという。スピーカー内部の配線として採用されるのはめずらしい単線は、ほかに採用しているのは自分が見てきたなかだとBOSEの一部のスピーカーくらいか。
自分はよく知らないのだけど、この時代のフォステクスはオーディオ向けの高級ケーブルも開発していた。「WAGC」シリーズという、グレードによっては1m何十万円という製品まで輩出していた。銀と銅の合金線を重たいレアメタルのタングステンにより制振するというやや突飛とも思える発想は、そこから来ているようだ。
信号経路に逐一拘っているのもスピーカーメーカーらしくて良き。
ファストン端子は銀メッキの上に保護のため薄く金メッキが施された本機のための特別製
それにユニット端子からボイスコイルまでの錦糸線も銀銅合金線です。いずれも純マグネシウムの良さを阻害しないためにこだわった部品です。
他所ではなかなかこうはいかない。とはいえ、おそらく本機が完全限定品であるから仕様の制約が緩かった内幕もあったのではなかろうか、とも想像できる。
吸音材
吸音材は、バスレフポートを覗いてチラリと確認できるのが背面にある白っぽいウールのようなもの。それ以外にはフェルトも使われているらしい。
底板の部分に厚目のフェルトを入れて低域の重心とバランスをとり、サイドと背板の部分に羊毛を使うことで反射と高域のバランスをとるという仕組みです。
音
如何せん気になる出音。アンプはいつものヤマハ「RX-S602」。音調回路を回避した「DIRECT」再生。
いわゆる"金属臭"が無い。金属製振動板特有の応答性の高さや、高めの中音から上の高い音の華やかさとエネルギー感がありつつ、耳を疲れさせる音がほぼしないため、ずっと聴いていられる。
純マグネシウムは物性的に内部損失が高いため、金属臭いといった部分がなく、自然な音色を得られます。開発時のコンセプトはこの音色を損なわないようにできるだけ歪みを下げることでした。
とにもかくにも高音の伸びが良い。小径の振動板ということもあれど、高音方向にクセが無く綺麗に伸びている。一聴してツイーター+ミッドバスの2ウェイシステムだと言われても違和感が無いくらいに、高音域の処理が自然で巧い。圧縮音源では音域の収束がそのまま出音に反映されて気になってしまうので、なるべく高音質のソースを選びたくなる。
低音もこの体積では申し分ないくらい出てくる。こちらは再生帯域的なレンジ感としては平均的で、どちらかというと量感を稼ぐようなチューンとみる。低い音は出ないけれど、沈みこむような雰囲気を醸すため、聴感上で不足感はまったく無い。
インシュレーターをオーディオテクニカの「AT6099」3点支持としたところ、低音がやや悪目立ちすることがあるため、背面側のひとつを硬質のものに変えたところちょうどよくなった。
中音が前に出てくるものと予想していたけど、特段その様子はない。暴れず、フラットに寄っている。それがかえって、どこか硬さが抜けきらないような部分ともとれる。パッシブフィルターでも噛ましているのかな? みたいな。とはいえ些末なことではある。

周波数特性を見る。軸上50cmでの収音。5回収音の平均値。スムージング処理は平均化後に実施。


おおむね聴感のとおり。綺麗な特性。
ひとつ、個人的な印象として、高音はこの稜線ほどには出ていない気もする。しかしこの疑問はのちに資料を読んで解消する。
帯域的には40kHzまで伸びています。軸上の特性では10kHz以上、20kHzぐらいに平均レベルと比べて若干高い山がありますが、斜め15度特性で10kHz以上がフラットになる特性です。この特性は狙ってつくりました。85mmの口径では、高域の指向性が悪くなってきます。それを加味して軸上での高域を少し上げたのです。
"斜め15度特性"。自分は、普段のリスニングではこのくらいの角度で2chスピーカーを置くことが多く、今回もそうしていたために、たまたま高音の量感が気にならなかったわけだ。たしかに、振動板を耳の正面にまっすぐ向けると、輪郭が際立って派手に聴こえる。
インピーダンス特性を見ても、また驚愕する。

高音方向に右肩上がりとはならず、真っ平。これが磁気回路に備えられた銅キャップによる補正の賜物なのだろうか。ひずみ特性も、中高音がかなり抑えられているように見える。
整備
外装のみ少しだけ清掃して、今回は仕舞いとする。
サラウンド最外周のゴム製パッキンが汚れているので、拭き掃除とラバープロテクタントを含侵。

振動板の外周になにやら白い「おでき」のようなものが浮いているので、コーティングが剥がれない程度に除去。

最後に、金属パーツを含めた外装を、ラッカー用ポリッシュで拭き掃除。
まとめ
先述のとおりワイドレンジであり、いわゆる"音離れ"の良さ、ドライバー単機の定位感も相まって、総じて高機能といえる。この音色を、フルレンジスピーカーとしては少々異質とするべきか、あるいは、細かい音を拾う現代的な音質のひとつの到達点だと捉えるべきか。

終。
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