いつか消える文章

本当は、ペンとノートを持ち歩くことにあこがれている。

FOSTEX P804-S をチューンアップする

フォステクスのスピーカー「P804-S」を入手した。出音を聴き、ディバイディングネットワークの調整で音のバランスを微修正した話。

 

デスク向けミニスピーカー

しばらく古めの製品が続いたところ、現代機が手元にやってくる。フォステクスの小型スピーカー「P804-S」。

FOSTEX P804-S
終売は数年前で、まだまだインターネット上に情報が残っている。それによれば、本機は2017年発売の「ハイレゾ対応コンパクトスピーカー第3弾」らしい。
同時発売の小型デジタルアンプ「AP20d」とセットの利用を想定している。デスクトップ向けのミニマムなオーディオシステム。
音の良し悪しを抜きにすれば、このくらいの体積のスピーカーが机上に違和感なく置ける現実的なサイズではないかと思う。個人的にも、こういったミニサイズのスピーカーは好みで、見つけるとつい手が出てしまう。

扱いやすく、邪魔にならないことがだいじ
最近は小型アンプでは中国のメーカーの台頭がすさまじく、性能も一昔前の高級機に匹敵するほど高性能化が著しい。新たにオーディオシステムを組もうと思えば、現代ではAP20dよりもそれらと組み合わせるのがマストだろう。
そこで、このスピーカーがどの程度鳴ってくれるのか気になるところ。
 

外観

 

底面部

まだ新しい製品で、専用の化粧箱で届けられたこれは、いわゆるオーディオボードが一体となったエンクロージャーが特徴的。

なんか音が良さそうに見えるよな
バスレフポートが筐体の底面部に設けられていて、スペーサーでボードから浮いた隙間から見える。

底面のバスレフポート
ボード一体+底面バスレフという組み合わせ自体は、現代ではそれほどめずらしいギミックではない。しかし設置面積がこれだけ狭いエンクロージャーに採用されている例は、他所ではほぼ無いと思う。
ボードは底面全域にフォーム製のシートが張られている。

底面
直置きを想定しているのは理解できるのだけど、ボードの下にもインシュレーターを敷きたいとなるとこのシートは邪魔である。ちなみに、ボードとスペーサーを筐体に固定するネジ頭は、このシートの下にある。
 

前面ネット

前面ネットは、フレームがMDF製で厚みがある。

個人的にはウレシイ仕様
 

バッフルデザイン

ドライバーは見てのとおり、ツイーター+ミッドバスの2ウェイ。

ツイーター正面

ミッドバス正面
おそらくMDFであろうバッフルは、黒い梨地のシート仕上げの飾り気のないもの。ただし、彫りこみによってドライバーのフランジ部が面一になるのが良い。

見た目の質感も揃えているように見える
 

キャビネット

キャビネット部は、木目調のシートが張られたシンプルなもので、これ自体は「かんすぴ」シリーズなどのほかのフォステクス製エンクロージャーと同等の質感。

ボードも黒なので、バッフル面が黒で統一される

側面と背面
しかし背面までキッチリ覆われているので、比較的チープ感は和らぐ。
背面のコネクターユニットは埋込ボックス型で、バインディングポストは金属製キャップのものを採用。

小型の矩形ボックス
 

調整前の音

音を聴いてみる。アンプはヤマハのAVレシーバー「RX-S602」。インシュレーターはひとまず無しで、花崗岩プレートの上に直置き。
能率がやや低め。ただ、公称値ほど低い感じはしない。
気になる低音域は、そこまで低い音は出ないものの、量感がかなりある。バスレフの効きがやや強調される節があり、曲調によっては低音がくどく感じる。低めの中音も一緒に持ち上げるため、ボワボワした不自然な質感。また、ある程度の音量だとバスレフダクトの風切り音が耳につくようになる。とはいえ、このスピーカーは小音量での再生を想定しているだろうから、その点ではいずれもそれほど問題とならず、聴感でのバランスが悪いわけでもない。
ハイレゾ再生を謳っているので高音が強調された特性かと思っていたけど、別段そういうわけでもない。ただ、薄くシャカシャカした安っぽい音ではある。これは価格相応といえそう。
中音は、可もなく不可もなく。クセっぽい感じはしないけど、定位感がそれほど良くなく、パース感もあまりない。これも、まあこんなもんかな、という印象。ミッドバスドライバーはさすがにフィルターレスのフルレンジ駆動というわけではなさそう。

あくまで小音量で鳴らすバランスなのかも
周波数特性を見る。ツイーター軸上50cmの収音。5回収音の平均値。

周波数特性。1/6スムージング処理

上図の元波形
おおむね聴感のイメージと差異はない。ただ、ツイーターの出力はもう少し出ているような気もしなくもない。
うーん。聴けなくはないけど、あまり好みの音ではないな、というのが率直な感想。全体的にサッパリしすぎというか、音が軽いんだよな。
 

内部

状態が良いし、このまま手放そうかとも思ったけれど、特性上見受けられる中音と高音のレベル差を縮めたら印象が変わるか気になったので、ネットワークのチューンくらいはしてみようか、となった。

最近はあまり分解もしなくなってきた
内部へのアクセスは見ているネジを取り払えばいいだけ。
 

ミッドバス

ミッドバスは、ペラペラではあるけれど鋳造製フレームだった。

ミッドバス。品番不明
てっきり同社の「P1000K」あたりと同等かと思っていたけど、別物のようだ。
品番らしき表記は見あたらない。とはいえ、フェライトマグネットがやや小振りなのは一緒。

マグネットに小さなラベルシールがあるのみ
コーンの振幅を大きくして低音を稼ぐタイプかもしれず、それが自分の鳴らしかたでは裏目に出ているのかな、という気がする。大きめのマグネットで低音をある程度制動させるとちょうどいいのかもしれない。

昨今のフォステクス製らしく、ハトメが振動板に設けられていないタイプ
振動板は紙製。サラウンドはゴム製。コーンのストロークはしやすいもののサラウンドがやや硬めで、柔らかめのそれを採用したドライバーと比べると動きのしなやかさに欠ける。

振動板拡大
このゴム製サラウンドもフォーム製にしてみたくもある。
 

ツイーター

ツイーターは、樹脂製のプレート。

ツイーター。品番不明
このプレート、最外周のエッジがやたら鋭く作られていて刃物のようになっているので、素手でつかむさいには要注意。
こちらも品番は判らないけど、見た目もそのまま「PT20K」がベースかな、という気がする。
異なるのは、ドームのシートが透明であること。あちらは、たしか黒かったはず。

ドーム内の吸音(拡散?)材が透けて見える
再生周波数特性はPT20Kが上端32kHzであるのに対し、こちらは40kHzとなっている。材質は「UFLC」なるもので同じではあるけれど、こちらのほうがより軽量に作られているのかもしれない。
 

エンクロージャー内部

筐体内部は、底面にダクトが刺さっていること以外は、いたってシンプルな箱である。

紙製ダクトが鎮座
吸音材はカサカサのエステルウールで、天面に一枚、背面と正面向かって左面にかけて一枚が配されている。
背面上部にはディバイディングネットワークの基板がネジ留めされている。

基板を固定する架台となる木片の固定方法に工夫がみられる
一般的な仕様であれば、このサイズの基板ならばコネクターユニットに背負わせるところだけど、本機ではバスレフダクトと干渉してしまうので、別置きにせざるを得ないのだろう。

ミッドバスのマグネットともギリギリぶつからない
いっぽうで、バッフル板のツイーターとミッドバスの中間にあたる部分には、棒状の木材が接着されて補強されている。この措置をやっているスピーカーは意外と見かけないので、ちょっと驚くなど。

この面積のバッフルでも効果あるのかな
 

ディバイディングネットワーク

分波回路は、シンプルな-12dB/octのクロス。

ネットワーク基板表裏

ネットワーク回路図
ピアノ線みたいな細さのコアコイルはさておき、ELYTONE製の電解コンデンサーは個人的に音色が好みでないので、交換してしまいたい。

原則的に新しいものは交換しないけど、コレはそのかぎりではない
それ以前に、ハイレゾの周波数帯域を再生するツイーターには、アルミ電解ではなくフィルムコンデンサーを据えておきたいのが性分。
 

整備

 

ネットワーク調整の方針

シミュレーションでの予想を踏まえて、結論としては既存のフィルター回路は原則そのままとし、LPFに新たにLCR共振回路を付加して中音域を均すことにする。直近だとヤマハの「NS-BP182」で行ったのと同じ所作。
ツイーターをもう少し中音域のほうに引っ張りたかったのだけど、PT20Kの推奨クロスオーバー周波数が3kHz以上であり、かつ現状がほぼ3kHzあたりを目がけた設計となっているため、弄る余地が無いと判断。

PT20Kの特性(取扱説明書より)
 

ディバイディングネットワークの改修

HPFは既存の基板を再利用し、コンデンサーを交換するのみ。
LPFは基板から除去、LCR共振回路とともにエンクロージャー底部に新設する。
ついでに、0.68mHのコイルは手持ちの余っているコアコイルを調節したものに挿げ替える。

今回使うパーツたち

0.5mHコイルのみ残す
小型のユニバーサル基板にパーツを並べて配線するところは、NS-BP182とまるで同じ。
そして今回も、二次フィルターの10μFコンデンサーを付加するかしないかで最後まで迷うのも同じ。
コンデンサーが無いほうが、ドライバー単独で音を聴くかぎり良さそう。位相特性をオリジナルに寄せるつもりで、小さめのコンデンサーを付けることにする。

ネットワーク回路図(当初案)

HPF
 

静音対策

新たに組んだLPFは筐体内の底面に接着する。すると、スピーカー内部で渡るケーブルが増えて煩雑になってしまう。

2液性エポキシ接着剤で固定
撓んだケーブルがなにかと接触することでノイズが発しないよう、筐体内にフェルトやフォーム材を切り張りして対策する。

これがけっこう気を遣う工程だったりする
 

ネクターユニットの微調整

ネクターユニットはケーブル結線用のタブを新たに設ける。

ここにもフェルトを貼る
いつもは平形端子ではなく丸形端子にして、既存のタブをワッシャーとして残しながら丸形端子をバインディングポストのシャフトにとおすのだけど、このポストはシャフト部が短く、端子を複数重ねるとナットの固定が難しそうだったので、平形端子用のタブを増やすほうが手っ取り早いだろうという判断。

HPF用のケーブル長が意外と短く、けっこうギリギリ
 

吸音材の位置変更

新設したLPFにより、エステルウールの吸音材はそのまま元の位置に戻すことができなくなっている。背面側に張られていたぶんを正面向かって右面に移して対処。

要は天面と両サイドのコの字になる
 

フィルターの再調整

組み上げて鳴らしてみる。

備前後の周波数特性比較
狙った900Hzから2kHzあたりまでの抑制は成されているものの、それより上の帯域まで影響が出てしまっている。音を聴いてみると違和感が無いし、このくらいなら許容できるかとも思ったけれど、やっぱり気持ち悪いので修正することに。
HPF側を弄っていない現状、ここからなにをすればいいのかは解っていて、さんざん迷って付けるのをやめたミッドバス並列のコンデンサーの付与である。とはいえ再度中身を取り出してそれを再接着するのも手間なので、横着する。

最終手段

ミッドバスの周波数特性比較
そのあと、弄らないつもりだったHPF側も、ついには若干の調整を施すなどして、ようやく完成となる。

小容量のフィルムコンデンサーを追加

ネットワーク回路図(整備後)
 

調整後の音

欧州メーカー製のスピーカーで見られるような調整を施したことによる音の変化は、シャラシャラした軽さは残るものの、ややお淑やかな雰囲気になった。

整備後の姿。ワッシャーを追加した
雑味が抑えられ、相対的に高音が綺麗に聞こえるようになった。といっても大きく変わるわけではないので、聴き比べないと判らない程度の違いだ。

周波数特性(整備後)

上図の元波形

備前後の周波数特性比較

インピーダンス特性(整備後)
 

まとめ

安価なスピーカーなりの音ではある。悪くもなければ特段良くもない。如何とも評価しにくい。少なくとも、なんの調整なしにドライブしても良い結果を得るのは難しいのではないだろうか。

バスレフの調整までする気になれなかった……
底面バスレフも背面ポートよりは低音の量感を得やすいと思う反面、これはこれで均整に鳴らそうとすれば細かい加工やチューニングが必要になりそう。

小音量でも音に厚みが欲しい場合は良いかも
このサイズ感のブックシェルフ型スピーカーが欲しいのなら、自分ならエントリークラスの国外ブランド品のほうを選んでしまうかな。ファーストインプレッションに引きずられているところもあるかもしれないけど。
 
終。