動機
スルーのフルレンジスピーカーにツイーターを被せているだけの構成から、クロスオーバー周波数を設定して、筐体内部にちょっとしたネットワークを設けて切り分けてみたくなったのだ。
要は実験台、お遊びなんだけど、自分の意図する方向に音が変化するのかを確認したかったのもある。
改造方針
目標は、
「オーソドックスな2WAYスピーカーにしてみよう」
である。
そのための具体的な変更は、大まかに以下の二つ
改修後の性能は、以下の通り
- ツイーターのクロス周波数 現行6kHz → 改修後 3kHz (6dB/oct、8Ω)
- フルレンジのクロス周波数の新規設定 改修後 2kHz (12dB/oct、4Ω)
元々ツイーターからの出音が弱いのが気になっていたので、受け持つ周波数帯を広げてみることにした。また、それに伴ってフルレンジユニット側も高音域をバッサリカットさせてみる。
先日秋葉原に行った際に購入してきたネットワーク用の部材は以下の通り
エンクロージャーが小さくスペースがないので、チョイスするパーツ類もサイズ優先とする。
コイルは、設定したクロス周波数にしてはインダクタンスがやや大きいけど、欲しかったものが売り切れで、手に入るものの中で近しい数値のものにした。電解コンデンサーの静電容量ももう少し大きいものが欲しかったけど、同じ理由でちょっと小さい。
分解
R側
まずはメインの基板がある右側スピーカーから作業。筐体背面のネジを外し、開封。
ツイーター側
水色でひと際目立つのが、以前設置したツイーターHPF用フィルムコンデンサー。
今回合成させるセラミックコンデンサーは、脚を短く切り詰め、基板の実装面ではなくはんだ面に取り付ける。
フルレンジ側
続いて、フルレンジユニット。
こちらには、コイルとコンデンサーを新規に設けることになるけど、コイルに関しては直列接続になるので、基板からユニットまでのケーブルをいったん切断しなければならない。
0.75sqの赤黒ケーブルが使われている。手で割いて分離してからプラス側のケーブルをニッパーでちょん切る。
0.75sqの赤黒ケーブルが使われている。手で割いて分離してからプラス側のケーブルをニッパーでちょん切る。
ケーブルとコイルの接続は、はんだ付けとした。圧着したかったのだけど、合うサイズの部材が手元に無かったため、諦めた。
コイルを接続するのは容易いのだけど、とにかく配置するスペースがない。
あまりやりたくないけど、ツイーターを収めている樹脂製の蓋の真後ろに置くことにした。
ここだと、切断した既存ケーブルがコイルまでギリギリ届く。この配置を避けるとなると、ケーブル自体の引き直しになる。面倒なので止めた。
ちなみに、ツイーターとフルレンジの間にあるスペースには、前面バスレフポートのダクトが収まるため空けておかなければならない。
このスピーカーは、各スピーカーユニットと基板が内部でセパレートされている構造。
今回基板とコイルを結ぶケーブルが設けられたため、仕切りの一部を切除して配線できるようにする必要がある。
幸いにも、セパレーションにはおそらく通線用として用意されたであろうスリットがあったので、そこに切り込みを入れるだけで解決できた。
並列接続する電解コンデンサーについても、スペース確保がやや難儀。
収まりそうな位置からスピーカー端子まで、コンデンサーの脚をフォーミングする。
脚の形が決まったら、ユニットを前面パネルから外しはんだ付け。はんだがファストン端子まで流れ込まないよう注意。
たまたま設計よりワンサイズ下の容量のコンデンサーを用意したから端子にそのまま取り付けられたけど、設計通りのものだとケースが大きすぎて、さらに頭を悩ませていたことだろう。
フルレンジユニットをパネルに戻し、筐体がどこにも干渉せず収まることを確認し、復旧。
L側
エクステンションスピーカーである左側も、同様に改造していく。
ツイーター側
右側と比べて基板が小さいので、スペースの確保は容易。
ただ、その基板が筐体の内壁ギリギリに設けられているため、ツイーター用のコンデンサーをはんだ面に実装するとなると、付けられるコンデンサーはかなり限られる。
今回はかなり小型のコンデンサーを選んだので問題にならなかったけど、フィルムコンデンサーや電解コンデンサーの場合は基板自体を別のスペースに移設する必要がありそう。
フルレンジ側
フルレンジユニットも同様に、コイルとコンデンサーを付加していく。
コイル本体は右側スピーカーと違って、本来ツイーターの後ろに置く必要はない。だけど、一応右側と合わせる意味で、同じような位置に配した。
音の変化
筐体を元に戻して、早速鳴らしてみる。
まず、全体的に音圧が下がった。改修前はもう少しエネルギッシュだったけど、大人しくなった。ネットワークを組むと素の状態より能率が下がるのは定説みたいなので、その影響だろう。一応は想定内。
低音がハッキリ聴こえるようになった。原音でもサイズにしては結構出ているほうだったけど、改修後は量感はそのままでボヤつきが無くなり締まった印象。高音域を落としたことで余裕ができたのだろうか。
中音域は、ボーカルがややスッキリした。附帯音が抑えられてクリアになった印象。
そして高音は、狙い通り量感が上がった。とくにシンバル系の音で実感できる。
ただ、やや粗さも目立つようになった。音が出きっていないような、詰まった音になることがある。鳴らし込みが足りていない可能性もあるけど、クロス周波数を下げ過ぎたのが要因である気がする。4kHzあたりにするとよいかもしれない。
設計を詰める余地はあるけれど、音のまとまりとしてはだいぶ変わったことはわかる。横方向の広がりが拡張され、低音がよく沈むようになった。なんというか、「オーディオっぽい」鳴り方に近づいた感じ。
まとめ
なんかもう、「これでいいんじゃないか?」という気になってしまった。
試聴は、別件の作業であるアンプの改造に着手しながら、そのリファレンスとして使っているスピーカー「JBL Control 3 Pro」の上に400-SP091置いて相互に切り替えて行った。
だけど、いざ鳴らしてみると、Control 3より小さいのに低音が出ているし、音が広がるし、透明感は高いしで、全然遜色ない。Control 3が勝っているのは張りのある高音とエネルギーの塊のような跳躍感くらいなもので、たぶん、大抵の人は400-SP091のほうが音が良いと判断するんじゃないかな。
一生懸命アンプの改良で高音質化を図ろうとしていたのに、一気にトーンダウン。馬鹿らしくなってしまった。
まだ難点が無いわけではないけど、400-SP091の改造に関しては、ここで一区切り。自分の意図したとおりの音に近づいていく試みは、成功と言えるだろう。
これでようやく、ネットワーク設計の一歩を踏んだと言えるようになったのではないか。
終。
(以下資料)