いつか消える文章

本当は、ペンとノートを持ち歩くことにあこがれている。

安価なアクティブスピーカーのコンデンサーを交換してみる

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横向きに置いたら思いがけず好みの音質だったサンワサプライのUSBバスパワー2WAYアクティブスピーカー「400-SP091」。
安価なスピーカーでもコンデンサーの交換で音に変化があるのか試してみた。その所感。
 
なお、作業内容と音色の比較を動画で確認できる。この記事の内容は、動画の補足的な意味合いもある。


www.youtube.com

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ローサイズのスタンドの上に寝かせて置いている

動機

練習台

このスピーカーとは別にメインで使用しているパッシブスピーカーがあって、そちらが年代物なので、いずれは分解していわゆる「容量抜け」しているであろうネットワークのコンデンサーを付け替えなければならないと思っていた。
ただ、電子工作が趣味ではない自分にとって、いきなり手を出すのは怖い。何か練習できるものがあればと考えていたところ、最近入手した400-SP091が、どうやら内部に簡単にアクセスできそうだとわかったので、生贄になってもらうことにしたのだった。

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横置きスピーカーってだけで、見た目がカッコよくなる
たとえ改造に失敗して故障しても、そこまでお財布が痛まないし。
 
もちろん、壊す前提で作業するつもりはない。400-SP091は製造を終えて手に入りにくくなってしまったお気に入りのスピーカー「JBL Pebbles」の代替として試しに購入してみたのだけど、音の傾向がPebblesとは異なるものの、割と気に入っているのだ。
 
また、「スピーカーネットワークのアルミ電解コンデンサーをフィルムコンデンサーに交換すると音が大きく変わる」ことを、いつかは実験して確認したいとは思っていた。どうせ分解するなら、たとえ安価なスピーカーでも改造後に音の変化があってほしい。良い機会だったのだ。

マルチウェイ?

分解ついでに確認しておきたかったことがある。
そもそもとしてこのスピーカー、見た目がツイーター付きの2WAYなのに、メーカーは「フルレンジスピーカー」と称していることに疑念を持っていた。そのあたりは以前の記事参照。
なんで「2WAY」と呼ばないのか不思議だった。その点も、実際のところ内部配線でどのように組まれているのか確認できるから、ヒントが見つかるかもしれない。
 

分解

右スピーカー

まずは右スピーカーから開封
エンクロージャーは前面のプレートとその他で分離できる。
背面からプラスネジ6点で留まっている。長尺のプラスドライバーがあれば簡単。

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前面プレート分離状態
基板
右スピーカーの内部にアンプとDAC、それとBluetoothが乗った基板がセットされている。
真ん中付近にあるICがアンプだろう。デジタルアンプだと、こんなに省スペースで済むことに驚く。
そのすぐ隣にBluetoothのICとアンテナがある。この距離だと両者影響がありそうだけど、問題ないのかな。

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実質のメイン基板表裏
コンデンサ
ここに乗っているコンデンサーは、アンプ周りに470μFが3つと100μFが1つ。ツイーターHPF用の無極性が1つ。
計5つ。いずれもすべて交換する。
 
使われているコンデンサーは、すべてDECONというメーカーのもの。
詳しくないので検索してみると、DECONは中国にあるキャパシター専門メーカーのようだ。

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いずれもオーディオグレードは謳われていない
HPFの緑色のコンデンサーの周辺に、コイルらしきものが見当たらない。
ユニット
フルレンジとツイーターそれぞれのユニットには、謎の番号の羅列とオーム数、製造年月日のような数字が印字されている。謎の番号が何を示しているのかは不明。

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フルレンジユニット

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ツイーター。EVA製のフォームに包まれていた
ユニットの製造メーカーが判るかもと期待していたので、ここはちょっと残念。
 
ちなみに、基板のはんだ面の隅に「PS3300」の文字が確認できる。

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やはり……
どうやら、一部で話題になっていた通り、このスピーカーは「JBL PS3300」と全くの同型といって差し支え無さそう。

左スピーカー

次に、左スピーカーも同様に開ける。

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右と同様
こちらは、非常に小型かつシンプルな基板がちょこんと居座っているだけ。そこにあるのはやはり、HPFコンデンサーひとつのみ。

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必要最低限だ
このコンデンサーは3.3μFなので、スロープ特性-6dB/octのクロスオーバー周波数6kHzと読み取れるけど、ここでの用途としては、あくまでユニットの仕様に合った保護用として設けられているだけな気がする。

マルチウェイ!

この仕様から察するに、どうやらこのスピーカーは、フルレンジスピーカーユニットをスルーで搭載し、高音域の補助としてツイーターを設けているだけの原始的なシステムのようだ。
インターネット上での言説を見る限り、こういう形でも一応、マルチウェイと呼ばれるらしい。つまりこれは、2WAYスピーカーである。
ではなぜ、メーカーは「フルレンジスピーカー」としているのか。何か別に規定でもあるのだろうか。結局よくわからない。
 

はんだ作業

既存コンデンサー取り外し

ここからはんだ作業。既存のコンデンサーを取り外す。
取り外すこと自体は比較的簡単。はんだを溶かしてコンデンサーを引き抜くだけ。
問題は、スルーホールに残ったはんだの除去である。内部のはんだにそのまま吸取線を当てただけでは、なかなか取れない。

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大抵はんだが残っている
呼びはんだとして新しいはんだを盛り、一緒に吸い取ればいいのだけど、一部の箇所はどうしてもうまくいかない。
これには相当手こずらされた。基板上のダメージを考慮すれば、吸取線を長時間当てたくない。専用の吸入器が欲しくなってくる。

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吸取線を大量消費

竹串作戦

そこで、竹串を使った。
実装面から竹串を当てながらはんだを溶かし、溶けた瞬間串の先端が穴を貫通する作戦。

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竹串は短くカット
ちょっと邪道な気もするけどこれが功を奏し、吸取線なしで簡単に除去できたのだった。

はんだ付け

今回用意したコンデンサーは二種類。
アンプ
アンプ周りで使うのは、導電性高分子アルミ固体電解コンデンサー。ニチコンのLFシリーズ。

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ニチコン 導電性高分子アルミ固体電解コンデンサ
アクティブスピーカーなのだから定番のFWシリーズあたりでもいいのだけど、この製品はオーディオというよりパソコン周辺機器のイメージが強くて、パソコンパーツでよく見かける固体電解コンデンサーが似合う気がしてこちらにしたのだった。
 
はんだ付けは、特に問題もなくクリア。

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ギチギチ
ただ、基板上のはんだ除去の跡が汚らしくなってしまった。はたしてこの状態で正常に動くのか。

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ギトギト
試しに稼働させてみると、異常なさそう。一安心。
ただ、無音時に耳を近づけると聞こえるホワイトノイズは、依然消えていない。コンデンサーの交換くらいでは変化ないか。
HPF
最後に、HPFのコンデンサーを換装する。
こちらに用意したのは、日精電機の積層型メタライズドポリエステルフィルムコンデンサー。
スピーカーネットワークに使用するフィルムコンデンサーの誘電体には、ポリエステルよりポリプロピレンやポリフェニレンサルファイドのほうが音が良いとされているみたいだけど、前者は体積が巨大になるし、後者は非常に高価。手に入りやすく、エンクロージャーを無改造のまま物理的に収まるフィルムコンデンサーは、探した限り積層構造のメタライズドポリエステルしか候補がなかった。

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水色のスリーブが積層型メタライズドポリエステルフィルムコンデンサ
それでも電解コンデンサーよりは音の変化が大きいらしいということで、今回は妥協。
それに、ペア6,000円のスピーカーだ。あまり高価なものを積んでもバランスが悪い。
 

音色の比較

以上の作業を終えたところで、音出し。
換装前後での設置条件は同一。
結果は動画のとおり。
全体の雰囲気が、少し明るくなった。
コンデンサー換装後の変化は劇的なものではなく、見通しが良くなったとまではいえないけど、巷でよく言われるような「幕が一枚取れた」感じは、動画でも聴感上でもわかる。「つっかえていたものが取れた」というべきか。
音として分かりやすいのは、スネアドラムの響き方と女性ボーカルだろう。換装後のスネアは華やかになり、生っぽさが増した。ボーカルは「まるで別人!」とまではいかないけど、「収録場所が変わったか?」くらいの変化は出た。
 
ちなみに、HPFは既存のままで、アンプ周りのコンデンサーだけ変えた状態でも比較してみたけど、こちらの場合は換装前とほぼ変化がなかった。
予想していた通り、ネットワーク上のパーツ変更のほうが音に多大な変化を与えるみたい。
 
パソコンからUSBケーブル一本で接続。適当なメディアプレイヤーで圧縮音源を流した。オーディオとしてはかなり雑な環境。
しかしそれでも、スピーカーのツイーターのコンデンサーひとつ交換するだけで、ここまで音が変わることがわかった。
 

まとめ

このスピーカーについて

フィルムコンデンサーは、2つで約500円で手に入れた。この製品は接着剤を使わずに組み立てられているので、分解も容易。手元に道具があるならば、割と手軽に500円分の音を積み増すことができると思う。
ただ、さすがにこれ以上の音の変化は望めないだろうとも思っている。なんとなくこのスピーカーの限界が見えたし、する意義もない。
それでも、6,500円でこの音なら十分だ。
あとはもう、エンクロージャーの体積アップとかユニットの大口径化とか、大型化する方向にしか改良の道筋がないように思う。スピーカーユニットの仕様が不明なため、コイルを挿し込んでみたり静電容量を上下させてみたりするのは憚られる。
 
その後、エンクロージャー内に100均ショップで手に入れた手芸用のフェルトを仕込んで、中低域の響きをほんの少しだけ抑えて使用している。

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フルレンジユニットの真後ろ

はんだ作業について

竹串に救われた感はある。あの曲芸が頭に降りてこなければ、たぶん故障していただろう。
とはいえ、コンデンサーの取り外しには、やっぱり吸入器があるとスピーディーだなと痛感した。電動の吸入器があれば便利なのだろうけど、そもそもはんだ付けが必要になるようなことをしたくないし、今後頻繁にする予定もないから、購入に踏み切れないでいる。
そもそも工作が主目的ではないので、あまり手を広げたくないんだよな。
 
 
(以下資料)

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