やや状態の悪いJBLのブックシェルフスピーカー「A640」を入手した。
なんとなく自身の手で修理できそうなコンディションだったので、分解整備してみた。
経緯
某所で「難有り品」として扱われていたスピーカーを、たまたま入手できた。
前主によると、片方のスピーカーのツイーターのドームが潰れているものの、音は出るという。たしかに、ご自慢のピュアチタンドームの半分が凹んでいる。ただ、破れてはいないようなので、なんとなく復旧できそうな気がした。
分解も容易そうなので、弄ってみることにしたのだった。
改修前の音
難があるとはいえ、一応動作品である。試しに素の状態で鳴らしてみる。すると、違和感なく出音した。
このスピーカー、外観に傷があるだけで、音は問題ないらしい。
高音から低音まで満遍なく、クリアに、包み込むような鳴らし方をする。
JBLの特色に漏れず明るく前に出る音ではあるものの、どことなく控えめで大人しい印象。音場は広めだけどカッチリとした定位感はあまりなく、面で鳴らす感じ。しかし低音の粒感やボーカルなどの中心に来てほしいものはちゃんと居る。
ここしばらく古いスピーカーばかり鳴らしていたので、現代機のワイドレンジな音に少し驚く。まさにHiFi。
ただ、気になる点も無いわけではない。透明感が高い故、低音の量感が物足りない。
透き通った低音域がキャラクターなのかもしれないけど、筐体の重量がしっかりあって、バスレフポートも付いている。もうちょっと響いてくれてもいい気がする。
それと、片方のウーファーに若干のビビりがある。ユニットの故障でなければ、なんとかしたいところ。
分解
中身を見てみる。
ウーファー8本、ツイーター4本の六角穴のネジを外すだけ。
ウーファーは、大きい割に比較的軽め。フレームは金属みたいだけど、アルミ鋳造かな。
ツイーターは、マグネットとボイスコイル部を樹脂製のフレームと接着剤で固定している。必要がなければ弄らないところだけど、今回は潰れたドームの修復があるので、デザインナイフで接着剤を切断しつつ慎重に剥がす。
吸音材はウール系で、背面以外をグルリと一周囲うように配している。これは、4312Mと同じやり方。
スピーカーターミナルユニットを背面のプラスネジを外して引き抜くと、クロスオーバーネットワーク基板も一緒にくっついてくる。
基板を留めている銀色のネジは一般的なプラスネジかと思ったら、なぜか手持ちのドライバーすべてが合わない。ポジドライブ用ドライバー(PZ0)を試したところ、なんとなく一番合致しているようなので、これでネジを回すことに。
この構造、メンテしやすくていいのだけど、基板とターミナルユニットを結ぶケーブルが干渉して、スムーズには出てこなかった。
ネットワーク回路自体は、2WAYスピーカーに見られる一般的なそれ。
ケーブル類は一般的なビニールケーブルみたいだけど、ウーファー用とスピーカーターミナルの渡りには径がやや太いものが使われている。
整備
メーカーはJantzenAudioで揃える。フィルムコンデンサーに「Standard Z-Cap」の1.5μF、電解コンデンサーに「EleCap」の6.8μF。以前の反省から、フィルムコンデンサー側の容量を極力小さめに。
ネットワーク構築では定番の「CrossCap」ではなく一段上のグレードの「Z-Cap」を選んだのは、たまたまセールで安かったから。
ツイーター側は、抵抗器をセメントから同容量の酸化金属皮膜抵抗に交換するのみ。こちらもJantzenAudio製。
スピーカーターミナルのケーブルバインド部と回路基板を結ぶケーブルの接続方法を変更。
はんだ付けのケーブルを一度取り外し、エンクロージャーへの着脱時に干渉しない方向に配線し直す。
内部の改造はこの程度。吸音材も弄らずそのままとする。
ビビっているウーファーは、原因がよくわからない。とりあえずエッジを揉んで柔らかくした後、上下逆さまにして前面に取り付ける。
なんとなく軽微な不具合だと思ったからこうしたけれど、これで直らなければコーン紙の微調整やらマグネットの着脱にかからなければならない。なんとか収まってくれ。
ユニットを取り付けるときに気が付いたけど、よく見るとウーファーとツイーターでネジが異なる。
ツイーター側のネジは頭がやや薄く、若干短い。ネジ山も少し異なる。
異なるネジを回して、エンクロージャー側のネジ穴を傷めないよう注意。
改修後の音
組み上げた後、試しに鳴らしてみると、ビビりは消えた。いくつか適当な音楽を流したり、単調なノイズ音も試したけど、問題は無さそう。良かった。
スカスカだった低音域に芯が出た。以前の状態と聴き比べるまでもなく、バランス的にはこちらのほうが断然良い。量がある程度増え、浮つかずに下支えしている印象を持てる。低音がズンズン響くような電子音だと、違いが如実だ。
高音域のほうは、聴感上の違いは感じない。簡便な測定器でも、有意な差は無さそう。
今回初めてネットワークのパーツに酸化金属皮膜抵抗を採用してみたけど、材質変更による音への影響はコンデンサーと比べたら微小である可能性が高い。どのメーカーもセメント抵抗を採用し続けているのは、そのあたりの理由もあるのかもしれない。
まとめ
このまましばらく鳴らし続けて、ビビりが再発しないことを確認する。
それにしても、音作りの上手いスピーカーだと感心しきりである。ワイドレンジ化を進めてきた成果が表れているのだろう。
A640はエントリーモデルの位置付けだけど、ステレオサウンドでこれ以上の音を求めることは、あまりしないのではないか。
改めて、自分はJBLの音が好きなんだなと思う次第。
終。
(以下資料)