いつか消える文章

本当は、ペンとノートを持ち歩くことにあこがれている。

ONKYO D-N9FX をチューンアップする

オンキヨーのブックシェルフ型スピーカー「D-N9FX」が手元に届いた。内部に少し手を入れて、音をチューンしてみた。その所感。

 

FRシリーズ

フリマアプリを眺めていたら、お手頃価格で出品されているのを見かけて衝動買い。
オンキヨーのスピーカー「D-N9FX」というもの。

ONKYO D-N9FX
FRシリーズと呼ばれるミニコンポ「X-N9FX」に付属するスピーカーとなる。
以前、似たようなスピーカーを整備したことがある。「D-NFR9」という、やはりFRシリーズに属するスピーカーで、見た目も良く似ている。
あちらは2013年の製品。対してこちらは2008年登場で、先代となる。
売れ行きが好調だったのか、このころのオンキヨーはこのミニコンポをかなりの頻度でリニューアルしており、品番も形状も似たようなモデルがいくつもあってなにがなんだかわからない。
ただ、D-NFR9とD-N9FXにおいては、見るからに異なる点がある。ウーファーの振動板である。「N-OMFコーン」というフェーズプラグ付きの前者と、センターキャップレスの椀形コーン「A-OMFモノコックコーン」の後者。

真っ白のコーン
上位機種を含めて、いつの代からか椀形からフェーズプラグ付きのものに移ったのだけど、後代品の音は自分の耳ではどうにも合わず、苦手意識がある。今回、はたしてそれがウーファーの形状の影響によるものなのかを確かめられるはず、というのがある。また、ウーファー以外にもなにか変更されている点があるのかの確認もできる。

前面ネットを付けた状態
この記事では、そのあたりを中心に記載していく。
 

外観

エンクロージャーの外観は、以前見たD-NFR9との違いはわからない。たぶん同じものだ。

外観
前面、キャビネット部ともに暗い赤褐色に塗られた突板仕上げ。底部には黒色の別パーツがあり、「AERO ACOUSTIC DRIVE」と称される開口部を形成している。
一見して、後代品と異なるところはない。仕上げの色味が若干明るい気もするけど、仕様なのか個体差なのか経年変化なのか、判断がつかない。というか、勘違いなだけな気もする。
 

備前の音

中身を見ていく前に、音を出してみる。アンプはいつものヤマハのAVレシーバー「RX-S602」。パソコンとHDMIで接続し、音調回路をスルーする「DIRECT」モードで再生。
外観がほぼ一緒なので、D-NFR9のイメージに引っ張られて音についてはあまり期待していなかったのだけど、いざ聴いてみると雰囲気がけっこう異なる。一聴してわかるのは、低音が出ている。そしてなにより、聴き疲れしないことだ。
 
低音がちゃんと聞こえてくる。D-NFR9では、下限の再生周波数帯域の公称値に届いているか怪しいほど低い音が削ぎ落されていたけれど、こちらはその印象が小さく、バスレフの効能が行き届いているようだ。
ある程度のところでストンと落っこちるところは変わっていない。それでも、下半身がしっかりしていることにより、バランスやレンジ感は後代よりも優れていると思う。
 
未調整のまま数時間鳴らし続けていても耳が疲れにくいのが良い。これはちょっと意外だった。というのも、聴き疲れの要因はツイーターが支配的だろうと思っていたからだ。しかし、このぶんだと、おそらくツイーターユニットや内部のフィルター回路も後代品と一緒だろうから、D-NFR9であったヒリヒリと耳につく感じはウーファー由来だったことになるのだろう。
 
全体を俯瞰すると、音はオンキヨーにしては柔らかめに感じる。定位感は希薄で表面的になるきらいがあるものの、ある程度細かく分解しているところがある。これは、ダクトから出てくる音と共鳴させるように醸す特徴的な中音の質感から、耳にはそう感じるのだろう。
高音は綺麗だけど、もう少し主張があってもいいかなという気もする。
 
これは予想外。なかなかどうして、ちゃんと聴けるぞ。

悪くないぞ
 
周波数特性を見てみる。

周波数特性

スムージング処理後
低音域は、やはりD-NFR9よりも下のほうまで出ているようだ。インピーダンス特性を見るに、共振周波数も少し下がっている。
高音のほうでは、3kHzから7kHzくらいまで、D-NFR9には見られなかった山がある。ウーファーの特性なのだろう。突出するものではないけど、ツイーターとの接続を考えるとなんとなく抑えたくなる印象もある。
このあたりをフィルターレスで整える役を担っているのがフェーズプラグなんだろうな。ただ、聴き疲れするのもあっちのほうなんだけど。
 

内部

未調整のままでも普通に聴けてしまうので、本来であれば取り立てて開腹する必要はないのだけど、初見なので一応見ておく。
分解の仕方はD-NFR9とまったく同じなので省略。

ドライバーユニット
ツイーターは予想どおり、D-NFR9と同じものが使われているようだ。型番が一緒。

ツイーター。TW3230A
あちらでは、プレートの共振対策かな? と思っていた謎の黒い粘着物は、こちらでも同じ位置にあるものの、なんだか中途半端な付けかたをしている。

なんなんだろうこれ。
ウーファーは、振動板の表層は繊維が編みこまれたような質感のもの。

振動板拡大
椀形と呼称してきたけど、こうして近づいてみると、わりと円錐に近い形状をしていることに気づく。裏側を見るとそれがよくわかる。

振動板裏側
繊維質のシートのほかに、別種の素材がいくつか貼り合わせてあるようだ。
ちなみに、ダブルマグネットにはカバーが付いている。あちらには無い。

ウーファー。W1372A
筐体内の仕様は同じ。吸音材として貼りつけられているパサパサのウールの量がやや多いくらい。

俯瞰
底部に開けられた大きな孔の面積もまったく一緒。一見無造作に貼られているようなファブリックテープなども同じ位置にある。

孔は長辺131mm、短辺124mm
ダクトの背面側に置かれたいわゆるモルトフィルターは、今のところ朽ちることなく原形を保っている。

このオープンセルフィルターは、どのみち撤去する
信号回路の設計もほぼ一緒。

必要最低限
ウーファーは直結配線。ツイーターはホット側にWIMAの2.2μFのコンデンサーが繋がれている。

個人的に、あまり好きではない音のコンデンサ

ネットワーク回路図
ただし、D-NFR9にはウーファーに並列で0.01μFの小さめのコンデンサーが設けられていたけれど、こちらには見あたらない。
オンキヨー製のスピーカーにたまに見られる0.01μFのコンデンサーは、意図は定かではないけど、なんとなくユニットの駆動系の素材に金属が使われている場合に設けられているような気がする。なんらかの要因で高調波が発生して、それが接続されているほかの要素に影響を与えるのを抑止するため、とかだろうか。
 

整備

またD-NFR9と同じように、ダクトを調整して低音域を伸長する改修をしてもいいのだけど、今回はそこまで低音に不満があるわけではない。それに、同じことをしても面白くないので、別のアプローチをしてみようと思う。
 

インナーダクトの新設(不採用)

今回は、筐体底面の孔を完全に塞いで、そこにダクトを設けてみたらどうなるか、というのを思いついた。
そのへんに転がっていたバスレフダクトと、MDFの切れ端を用意。

MDFは9mm厚。一辺140mmの正方形
MDFに孔を開けてバスレフダクトを固定。

ダクトは口径33mm、全長約70mm
それを底部の孔に蓋をするように仮固定して、どんな感じになるか試してみる。

底部の孔に突っこめる

とりあえずマスキングテープで隙間なく固定
予想としては、共鳴する周波数を中心に、低音域全体がゆったりと持ち上がるのでは、と思っていた。結果はそうではなく、単に共振周波数が動いただけとなった。

周波数特性比較(500Hz以下。整備前後の特性を重ねて表示)
ポート開口の風切り音が、元からある矩形のダクトで増幅されるような現象になってしまい、大きな変化がないわりに音としてはやや汚らしい。これだったら、ダクトを設けず孔の開口面積の調整でも実現可能なので、デメリットばかり目立つ無意味な所作となった。
当然ながら不採用。でもまあ、ダメなことがわかったので良し。
 

吸音材の変更

既存のダクトにある吸音材を撤去して、新たに5mm厚のフェルトシートとチップフォームのブロックを置く。

ここは要研究箇所
チップフォームは、ポートから出てくる中音をある程度吸収してほしくて置いたもの。意外と音を殺してしまう素材のようなので普段はあまり出番がないけれど、このスピーカーにおいては逆にちょうどよかったりする。
 

ネットワーク回路の調整

いろいろ聴くかぎり、ツイーターの音はもう少し出ていてもいいかもしれない。ということで、ディバイディングネットワークを弄る。
D-NFR9と同様、コイルを新たに設けて-12dB/octにする。そのついでに、コンデンサーの静電容量を4.7μFに増補。さらにアッテネーターを適当に設けて、様子を見る。

新しいHPF
コイルは在庫の都合で有芯になってしまう代わりに、コンデンサーはパナソニックのメタライズドポリプロピレンフィルムコンデンサー「ECWF」とする。
エンクロージャー背面側の、コネクターユニットのすぐ上に括りつける。

ネジと接着剤で固定
大きくなったコンデンサーを抑えるつもりで設けたアッテネーターは、当初は入力部に2.2Ωの抵抗器があったけれど、音を出してみると静電容量の増加ほど出力が増えておらず、逆に必要以上に抑える結果となったため、最終的にはスルーしている。

ネットワーク回路図(整備後)
面倒くさがって搭載する前に検証せずに、感覚で適当に組むとこうなるのだ。
ともかくこれで、バランスはオリジナルとほぼほぼ同等となっているのを確認する。

ケーブルの末端は、いつものように丸形端子
 

側板の補強

ここで、前回は実施しなかった、エンクロージャーの補強を行っておく。
ホームセンターで手に入れた120mmの六角ボルトとナット、適当な金属製のプレート、そのサイズに合わせて切り出した0.5mm厚のゴムシート。

正直、本来の用途はなんなのかわからないパーツたち
筐体の板材と金属プレートでゴムシートをサンドイッチして、仮固定。

手持ちに飾り鋲があったのでそれを打ちこむ
そこをベースとするように、ボルトを渡らせてナットで突っ張る。要するに"突っ張り棒"。

あまり強く突っ張らないよう適度に
筐体の響きかたが変わるというだけなので音に大きな変化があるケースは少ないけれど、特に素の構造が頑丈でないエンクロージャーの場合では意外と効果があったりする。ただ、材料の選定も含めて完全に感覚でやっていて、目的意識的なものはあまりない。
 

整備後の音

ダクトの調整とボルト新設が効いたのか、低音に締りが出ている。
高音はフィルターを更新したわりには、オリジナルからかけ離れることなくうまいこと主張できている。

整備後の姿
反面、中音の抑制は、あまりできていないように感じる。今回はキャビネット側の吸音材はいっさい弄っていないし、D-NFR9で実施した金属製ワッシャーへの交換も材料不足でできていないので、さもありなんというべきところなのだけれど、あまり抑えすぎてもそれはそれで特徴が消えてしまい、平々凡々なスピーカーになってしまってもつまらないから難しいところ。
まあ、これはこれでいいのではないだろうか、ということにしておく。

周波数特性(整備後)

スムージング処理後
550Hz付近にあるディップは、再度組み上げれば消えるかなと思っていたけれど、そのまま残っている。どうもエンクロージャー内の空気圧の影響のようだけど、今回は追いきれなかった。

備前後の周波数特性比較(平滑化処理後)
 

まとめ

今回の整備とD-NFR9の仕様で見てきたことから想像するに、おそらくメーカーは、フェーズプラグ付きのウーファーにリニューアルするさい、その特性に合うようエンクロージャーも見直さなければいけなかったのではないか。この筐体は、椀形コーン用として設計され、それに適したものとなっている。そんなことを思った。

ちょっと癖があるけど、楽しく聴ける音だ
寂寥感というか、こういうことがあっての今のオンキヨーがあるのかな、とか、なんだかちょっと複雑な気持ちになってくる。
でもまあ、苦手としていたものの原因もある程度判ってきたし、今後同じような製品が手に入るようなことがあれば、ほかにも調整を施してみて自分なりの最適解を見つけてみるのも面白そうだ。

しばらくメインに据え置いてみる
 
終。