アルミ製のエンクロージャーを持つパッシブスピーカー「HORIZON 110」を入手した。外装がちょっと汚れていたのと、中身を見てみたかったので、整備してみる。
経緯
オール金属製の筐体を持つスピーカーには、以前から興味があった。音の再生に必要となる密閉性や、本体重量の確保にはうってつけだろうと思いつつ、メーカーのラインナップの少なさゆえ、中古流通品から状態の良いものを入手するのが難儀だった。
今回、某通販サイトで付属品付きのものを見つけたので、入手してみた次第。
改修前の音
ドイツのメーカー「HECO」は、初めて取り扱う。それまで存在すら知らなかったけど、設立は1949年で、スピーカー製造メーカーとしては老舗らしい。
HORIZON 110は2003年発売で、割と近代の製品。いつものようにAVレシーバー「YAMAHA RX-S602」にバナナプラグで繋ぐ。
ステンレス製のスパイクが8つ付属する。
ただ、精度があまり良くなく、そのまま取り付けるとガタついてしまう。一応高さの微調整ができるようにはなっているものの、面倒くさいのでいつも使っている黒檀サイコロ3点支持にした。
全身銀色のボディから、金属っぽいキンキンした音が出るのかなと想像していた。ところが、いざ鳴らしてみると量感のある低音が響く。高音域はむしろ控えめだった。
音場はやや広め。元気ではなく硬くもない。定位感や能率もそこそこ。
低音は若干ボンつくものの、パースを感じられて鬱陶しくはない。これは、1本あたり4kg以上ある重量と、筐体の長い奥行きが影響しているように思う。
分解
中身を見ていく。
とはいえ、比較的新しい製品なので、パーツ類の劣化の進行もそれほどではないことは想定済み。今回メインで手を入れるのは、外装の美麗化のほうだ。
このスピーカー、エンクロージャーがアルミダイキャストではあるけど、前面と背面のパネルはシルバーに塗装された樹脂製だ。おそらくABS。
なんだか騙された気もするけど、「オール金属製」を謳っているわけではないので、これはこれでいいのだろう。それでも、スピーカーユニットを固定する前面だけでも金属製にしてほしかった。
前面のパンチングネットは、樹脂製パネルに嵌っているだけ。細い棒状のものをネットに突き刺して、ゆっくり持ち上げていくと外れる。ネット自体は例のごとくあまり頑丈ではないので、慎重に。
所定の向きで置くとツイーターが下部になる2WAYスピーカー。断面が樽型のノッペリとした印象の顔ではあるものの、不思議な形のバスレフポートが二つあって、それが工業製品っぽい立体感を醸している。
ネジ類はステンレス製。表面にやや腐食が見られたので、これらもすべて磨き上げる。
樹脂製パネルは、前面背面共に六角穴のネジ6点でそれぞれ留まっている。それらを外すと、アルミ部と分離できる。
ウーファーユニット、ツイーターユニット、そしてネットワーク基板も、すべて樹脂製パネルにネジ留めされている。今回はユニット類は弄らないので、ネットワーク基板だけパネルから取り外す。
基板はプラスネジ4点で留まっているだけ。
アルミは、パネル類を外すと筒状になる。モノコック構造で、厚さ5.7mm。さすがにしっかりしている。
そのアルミの内部には、ウール状の吸音材が空間を埋めるようにミッチリ仕込まれている。特徴的なエンクロージャーが持つ響きを前面に生かしたい設計なのかもしれない。
クロスオーバーネットワークのパーツ配置は、接着剤の類を最低限に留めた、整然としたもの。気持ちが良い。こういうところがドイツっぽいなと思う。
回路構成で特徴的なのは、ウーファー側にディッピングフィルターが仕込まれていること。実際に使用している回路は初めて見た。
整備
回路を構成するパーツ類は、基本的にそのままにしておきたい。ただ、ツイーター回路側のセメント抵抗だけメタルクラッド巻線抵抗器に交換しておく。
メタルクラッド巻線抵抗器は図体がデカい。基板上にそのまま乗せることは物理的に干渉してできない。
そこで、既存のセメント抵抗のリードを切断し残置。それを架台代わりにして、上に新しい抵抗器を乗せる。エンクロージャー内部の空間に余裕がある場合にできる荒業。
アルミの表層についた汚れと細かい傷の除去をしたい。ただ、アノダイズ処理された表面の正しい清掃方法を知らない。そのままウエスで擦っていいのだろうか。
樹脂部の塗装剥げは、アクリル塗料で埋める。
そのほか、ネジとスピーカーターミナル、スパイク類も表層の腐食を除去する。
いつもは専用の錆取り液を使うところだけど、試しにトイレ用洗剤のサンポールで代用してみる。錆び落とし、高いんだもの。
無造作に一晩浸け置いたら、いずれも綺麗に落ちた。
ただし、乾燥後サンポールの独特の臭いが残ってしまった。
放っておけばそのうち消えるだろうと、錆止めを施したあとそのまま組み上げたけど、三日経つ今も甘ったるい臭いを放っている。
ネジやナットの固定の補助として使われている黄色い接着剤は、固まっていてもゴムみたいに伸びて剥がしやすかったので、今回こちらでもそれっぽいものを用意してみた。
コニシの「ボンド G17」
金属は接着できないので本来の用途ではないけど、ネジ類の緩み防止くらいにはなってくれるだろう。硬化時間もそこそこ早く、使いやすい。
改修後の音
今回は外装のメンテナンスが主だったので、入手時の音と比較しても違いがわからない。
以前もそうだったように、やはり抵抗器ひとつ程度では、聴感上得られる音の変化はほとんど無いのかもしれない。
まとめ
研磨作業は、思いの外時間を取られることを思い知らされた。
もっとちゃんと磨いて傷の除去までしようとなると、手作業では時間と体力ばかり奪われてやっていられないかもしれない。かといって、電動のハンドサンダーまで導入するかというと、そこまで出番も無いからできないんだよな。
また、音の面では、丁寧に作り込まれているなという印象。ウーファーのディッピングフィルターは組み込んだユニットの鳴りを聴き込んで設けられてものだろうし、なかなか弄れない。
欲を言えば、高音域がもう少し前に出てくれるとバランスが良い気がする。とはいえ、ツイーター直列のフィルムコンデンサーは3.9μFと値的にはちょうどいい感じだし、ここもほかに弄れる箇所が見当たらない。抵抗の値を下げるくらいか?
なんにせよ、現代ソースを心地よく聴かせてくれるスピーカーだ。しばらく聴き込んでみよう。
終。
(以下資料)