Keychron K7 Ultra-slim Wireless Mechanical Keyboardwww.keychron.com
今回はこれを分解し、スタビライザーの潤滑を行うとともに、2種のキースイッチもすべてグリスアップして、キーボード全体の静粛性を上げる試みをした。その所感。
打鍵音の変化は、動画で聴き比べることができる。
キーボードの仕様
Keychron K7には、内部のPCBにいくつかの種類がある。
今回選定したのは、
である。
キースイッチはほかにGateron製ロープロファイルメカニカルスイッチも選べるけど、あえてKeychronオリジナルのオプティカルスイッチを選んだのは、そのほうが机上からキートップまでが一番薄くなるからである。
本体開封時のファーストインプレッションは以下の別記事にまとめてある。
本体の分解
K7のスタビライザーにアクセスするには、キーボード本体をほとんど分解しなければならない。
キーキャップをキースイッチをすべて取り外し、アルミプレートとボディ底部の樹脂を緊結しているプラスネジを外していく。
なお、K7に使われているネジは、すべてプラスネジだ。
底部はプレートに嵌っているだけ。プレート上のネジを外し終えたら、PCBのキースイッチ配置部上下にある細長い穴にマイナスドライバーなどの棒状のものを突っ込み、押し込んで外す。
この際、内蔵のバッテリーがある位置を突っつかないように。
バッテリー本体は底部側に張り付けられている。PCBはプレート側に留められており、赤黒のアセンブルケーブルで繋がっている。
PCB側のコネクタから赤黒ケーブルを引き抜く。
次に、PCBをプレートから切り離す。
大量のプラスネジで留められている。やはりここも電動ドライバーが便利。
PCBを取り外したところで、やっとスタビライザーにアクセスできる。
スタビライザーの潤滑
K7のスタビライザーはいわゆるプレートマウント式だけど、プレート裏面から着脱するオリジナル仕様で、しかも2種類使われている。
ひとつはCherryMXオリジナル風の大型のもの。構造もほぼ同じでかつステムが十字型なので、安価で種類が豊富なCherryMX互換キーキャップをそのまま被せられる優れもの。
もうひとつは、ワイヤーをキーキャップに直接緊結するスリムタイプ。K7ではCapsLockキーと右シフトキー用として備えられている。
ただ、こちらのスタビライザー、あまり機能しているとは思えない。打鍵時のキーキャップのぐらつきを抑えるためなのだろうけど、ワイヤーが細すぎて撓るのか、このスタビライザーの有無で変化が見られなかった。
よって、このスリムタイプのものは、取り除いてしまうことにした。ノイズ発生源の除去になるだろう。
スタビライザーには、すでに謎の乳白色のグリスがたっぷりと盛られていた。これらはすべて洗浄する。
超音波洗浄機を使えば確実なんだろうけど、用意が面倒なのでウエスとマイクロアプリケーターで可能な範囲を拭き取る程度にした。
潤滑剤には、いつも使っている「Krytox GPL 205G0」と「Permatex PTX22058」とした。スタビライザーの構造が一緒だからだ。
ステムの収まるボックス部の内面に205G0を、金属ワイヤーの接触する部分に22058を塗る。
塗り方も、いつもと一緒。ただ今回は、ステム内部の孔には竹串を使用してみた。塗布量を最小限にして、粘度の高い22058をなるべくボックス内にはみ出させたくないためだ。
ワイヤーの受けの部分にも22058を塗り、潤滑は完了。
スリムタイプのスタビライザーを撤去しているため、キースイッチの両脇のプレートに大きな穴が開いた状態となり不格好だけど、キーキャップが被さればほとんど気にならなくなる。
キースイッチの潤滑
続いて、キースイッチの潤滑化を施していく。
今回取り扱うキースイッチは、非接触型スイッチである。電気信号を物理的にON/OFFするのではなく、PCB上に走る赤外線を遮るための機構が備わっている。
一見は一般的なメカニカルキースイッチと似た構造だけど、構成するパーツ点数が異なる。
赤軸
まずはリニアスイッチであるおなじみ「赤軸」から。
当然ながら手持ちのスイッチオープナーが合わないため、ハウジングの開封はすべて手動となる。手間ではあるけれど、慣れれば指先の爪でも開けられるようになる。
分解してみる。
ボトムハウジングから金属の接点が伸びていない代わりに、赤外線を遮るための小さな可動パーツが組み込まれている。
この極小のパーツはステムと緊結しており、キーの上下と連動する。普段はハウジングの中に収まっているけど、キーが押されることで迫り出されるように飛び出し、PCB上の赤外線を遮る仕組み。この辺りの動作は動画のほうが分かりやすい。
パーツそのものが上下する上にステムのものよりもさらに小さいスプリングまで搭載されており、静音目的ならこの箇所もぜひ潤滑しておきたいところ。
しかし、ステムとの緊結はキノコの嵩のような部分で引っ掛かっているだけなのでかなり緩く、簡単に抜けてしまう。ここにオイルが付いていると不意にすっぽ抜けてしまう可能性を鑑みて、あえてこのパーツには潤滑しないことにした。
これは、後のバナナ軸でも同様である。
ステムは四隅にある凸部がハウジングと接触するようなので、その部分に塗布する。
ハウジング側はボトム中央の穴以外一切塗らないのも定石を踏んでいる。
バナナ軸
タクタイルスイッチであるバナナ軸は、分解してみると赤軸よりもさらに構成パーツが多いことが判明した。
ボトムハウジングにコイルばねが仕込まれている。
リニアスイッチの赤軸とステムを比べてみると、バナナ軸には北側に突起がある。
ここにコイルばねの片足が引っ掛かることで、タクタイルの特徴であるキー押下時の"バンプ"を作り出している。
なお、キースイッチは未潤滑のはずだけど、この突起のみグリスが塗られていた。
CherryMXオリジナル互換スイッチでいうところのいわゆる「脚」の部分に相当するのだろう。
タクタイルスイッチの潤滑は、脚の部分に潤滑剤を塗布する派閥としない派閥があるらしいけど、このスイッチは潤滑がデフォルトのようなので、それに倣って新しく塗っておくことにする。
極小コイルばねは、片方の足が長く、途中で「く」の字型に曲げられている。
ボトムハウジングでは特段の固定は成されず、隅にピッタリ収まるスペースがあり、そこに嵌っているだけ。
ステムのスプリングと同様、GPL 105に浸す。
ステムの潤滑は、「Krytox GPL 205G2」を使用した。205G0よりも硬めだけど、リニアスイッチと比べるとスプリングがある程度重いので、動作的に支障ないはず。
コイルばねの収納と、ステムの突起に脚を引っ掛ける作業が挟まるため、すべてのキースイッチを潤滑し終えるには通常の倍近い作業時間を要した。
手間がかかるのは想像に難くないと思う。
音の変化
さて、赤軸とバナナ軸、両者の潤滑を終えたところで、潤滑前後で打鍵音がどの程度変化したのか確認してみる。
結果は、動画にある通り。
スタビライザー
これは、当然ながら効果覿面だった。
Permatex 22058の消音性能が高いのもあるけど、ロープロファイルスイッチ故そもそもキーストロークが浅く、スタビライザーの動作自体もCherryMXオリジナルよりも小さいことがよりグリスの効能を上げている気がする。
なんとか工夫してスタビライザー用の消音シートを併用できれば、さらに静かになるだろう。
赤軸
たしかに静かにはなった。だけど、劇的かというとそうでもない。
潤滑前にあった高音のカチャカチャする感じは抑えられている。ただ、ある程度強めのキータッチだとそこそこ音が出る。
これは、グリスアップしなかった件の極小パーツから発している音ではない気がする。ハウジング自体が薄いから、打鍵時の衝撃がプレートに響きやすいのだろうか。
フィルムを挟んでみたい気持ちもある。
バナナ軸
こちらは赤軸と異なり、静粛性に明確な差が出た。
潤滑前のクリッキーな音はほぼ消え、かつ布を一枚噛んでいるかのような柔らかい打鍵音に変化した。
潤滑剤に205G0ではなく205G2を使用したこともあるだろうけど、内蔵のコイルばねがステムに常時テンションをかけていることで、余計な振動を抑えられているのが大きい気がする。
まとめ
しかし、ただでさえ手間のかかる潤滑化改造なのに、CherryMX用のルブステーションが使えないし、パーツ点数が多いため、多量の時間を消費するのがネックである。コーヒーを飲みながらチマチマ進めたけど、正直、もう二度とやりたくない作業だった。
また、タクタイルスイッチではバンプを作り出すためだけに別途専用パーツを組み込んでいるのもモヤっとする。「文字を打ち込む」という、キーボード本来の用途とは関係ない点にコストをかけられている。さらに、それがあることで起こるのは「キー押下時の抵抗増加」なのだから、タクタイルが苦手な自分にとっては腑に落ちないのである。
意味のないスリムタイムのスタビライザーも含め、まだブラッシュアップできる点はある。
今のところKeychron本家からは、K7のオプション品は発表されていないみたいだけど、静音パーツやキーキャップなどをぜひとも開発してもらいたい製品である。
終。
(以下資料)