先日組み上げた背の低いカスタムメカニカルキーボードの、作業に関する備忘録。
作業の大まかな流れは動画にしたので、ここではそこで取り上げていない細かなポイントを主に書き記す。
制作動機
普段使いのパソコンで使用するキーボードを作業スペース用のパソコンと共用していたけど、いちいちキーボードだけ持ち運んで接続し直すのが手間なのと、今後キーボード絡みの検証をする際に基準となるものがひとつ欲しかった。今回は趣味的なものではなく、どちらかといえば必要に駆られて導入した色が強い。
パーツ
ケース
一般的なメカニカルキーボードは背が高く、パームレストを別途用意しないと手が疲れてしまう。よって薄型のものが欲しかった。となると、ロープロファイルのキースイッチが挿せるプリントのPCBがベストだけど、検証機としても使いたいため一般的なMX互換とし、合わせるケースも極力シンプルなものにした。
ロープロファイル(薄型)を謳うアルミ製で、カラーはローズゴールド。ECサイトの写真にあるように、ピンクゴールドの薄めのブロンズのような色合いを期待していたのだけど、届いたものは完全にピンク。ゴールドっぽさが無くてなんだか安っぽい。これなら無難にシルバーにしておけばよかったな。
底部にパッドを付けない状態の厚みは、約14mm。現在メインで使用している薄型キーボードキット「MelGeek Z70 Ultra」と比較すると、Z70の傾斜のついた最下行よりは高いものの、最上行よりは低い、といった具合。十分だろう。
素の状態で置いて横から見てみると、打面が傾斜せず接地面と水平であることがわかる。
これも選んだ理由のひとつ。傾斜がないほうが好みなのだ。
傾斜を付けるための脚も付属していて、ケースの底面内部からネジ留めできるようになっている。それとは別に、四隅に貼り付ける樹脂製のパッドも用意されている。
PCB
必要なサイズとしては無難な60%でいいのだけど、矢印キーが欲しかったので、60ANSIではなくちょっとだけ変体したレイアウトの64キータイプのPCBを選んだ。かつ、キースイッチ交換を容易にするためホットスワップ対応の製品とした。
右下に矢印キーを無理矢理ねじ込んだようなレイアウト。これに対応するキーキャップが必要になってしまって自由度が下がるけど、致し方なし。
USBがType-Cなのは良い。ケーブルは付属しないので、別途用意が必要。
消音フォーム
PCBと同時に購入したのは、ケース内部に仕込む消音フォーム2種。
ケース底部とPCBの間の空間に挟む「ケースフォーム」と、マウントプレートとPCBの間に挟む「PCBフォーム」。
このフォーム、単品で買おうとすると、DZ60用であっても「REV3.0」用と「V2」用があってなかなか判りにくい。今回必要なのはV2用。
KBDFANSでPCBを購入する際は、上記フォームを追加で購入するかどうか選択できるので、迷わず便利。
プレート
様々な材質があるマウントプレート。今回は検証機なので、無難に金属製のプレートを選んだ。重量があり打鍵音が良いとされる真ちゅう製がいいのだけど、値が張るのでパス。半値で買えるアルミ製にした。
なぜかローズゴールドが無いので、シルバーにした。
また、以前から気になっていたカーボンファイバー製にも対応しているので、併せて購入してみた。いずれ交換して金属製プレートとの打鍵音の違いを確認してみたい。
スタビライザー
DZ60のスタビライザーはPCBにネジ留めするタイプが必要。
スタビライザーにもいろいろあるけど、未だに違いがよくわかっていない。ただ、ネジ穴部を金属製パーツにしてある製品があるので、なんとなくそれにした。
「ウルトラマリン」というちょっと珍しい色をしているけど、これについてはカラーに拘らない。基本的に、隠れてしまう部分についてはなんでもいいと思っている。
潤滑剤
スタビライザーの潤滑には、シャフト部に205 G0、金属ワイヤー接触部には「Permatex PTX22058」を使ってきた。
しかし、消音化として大量に塗ったPTX22058は、構造上シャフト部に入り込みやすく、粘度が高い故動作を鈍くしてしまう現象が起きてしまっていた。XHT-BDZは最近PTX22058の代替として使われ始めていて、その効果についてまだ情報が乏しい。それじゃあ実際に使ってみようか、と相成った。
スタビライザー用静音フォーム
PCBマウント式のスタビライザーに対応する薄いフォーム。
以前Keychronのプレートマウント式スタビライザーで同じようなことを試したことがあるけど、その時は効果を感じられなかった。PCBマウントだとまた違うのかもと思って用意したのだった。
製品自体はそれほど高いものではないけど、絆創膏で代用できそうではある。
キースイッチ
乗せるキースイッチは、最近まで使用していたスプリング変更済「Tangerine V2」があるので、それを使用。今回組み立てるキーボードは常用するものではなく、いろいろなキースイッチをとっかえひっかえしたいので、とりあえずここは適当で問題ない。
キーキャップ
キーキャップもなんでもいいのだけど、せっかくロープロファイルケースを使うのだからキーキャップも背の低いものがいいかなと、これも以前使っていた「Pitta Studio DSA Bluebird Keycaps Set」を引っ張り出してきた。DSAプロファイルである。
組み立て
必要ならケースに脚とパッドを付ける
ケースを手前に傾斜させる脚は、PCBを乗せたあとでは付けられない。今回は付けないけど、必要ならPCB固定の前に行う必要がある。付属のネジでケース内部から固定するだけである。
また、ケース底面に付属の樹脂パッドを付けるのも、初めに済ませてしまうほうが気分的に楽。ただこのパッド、ケース所定の場所に貼るには少々サイズが大きい。爪で無理矢理詰め込んだけど意外と手間だったので、100均ショップやホームセンターで極小の戸当たり保護クッションを買っておいて、そちらを代用したほうが簡単だ。
PCBの動作チェック
問題ないだろうと思いつつも、一応組み立てる前にPCBの稼働を確認する。
USBケーブルでパソコンと接続。ファームウェアは書き込み済みで、パソコン側が認識するとそのままデフォルトのキーマップで操作できた。
今回はパソコンにVIAをインストールしテストした。キースイッチのソケットの短絡には、余っていたキースイッチを使った。
スタビライザーの潤滑化
PCBをケースに乗せる前に、スタビライザーとケースフォームをPCBに留めておく必要がある。まずはスタビライザーから。
スタビライザーをPCBにネジ留めする前に、グリスアップを済ませておく。
塗り方は様々だけど、最近はシャフトに「Krytox GPL 205 G0」をふんだんに塗るようにしている。GPL 205をキースイッチに用いる場合は薄く塗るのが定説だけど、スタビライザーに関してはたっぷり塗っても動作に違和感がないので、消音性を重視して多めに塗っている。
金属ワイヤーが接触する部分には、「XHT-BDZ」を塗る。ただ、ベストの塗り方がわからないので、とりあえず初めは従来の「PTX22058」と同じように溢れんばかりに塗ってみた。しかし、PTX22058より粘度が低いためか、多く置いてもそれほど効果があるようには感じられなかった。筆で塗れるほどサラリとしているので、GPL 205よりも気持ち多い程度の量をシャフトの穴とワイヤー受けに塗布しておいた。
XHT-BDZについても、やはりどうしてもシャフト部にはみ出てしまう。それでもPTX22058ほど動作に影響が出ている感覚はない。しばらくXHT-BDZを使ってみよう。
スタビライザー静音フォームを貼る
潤滑化が済んだら、PCBにネジ留めする。ただ、今回はその前に、PCBとの接触面にフォームを貼る。ステッカータイプなので、台紙から剥がして貼るだけだ。
この効果は動画にある通り。プレートマウント式のときとは異なり、かなりの静音性能を発揮した。今後常用していきたい。
スタビライザーを取り付ける
スタビライザーの取り付けは、裏面からネジで留めるだけ。何ら難しいことはない。
ただし、今回は静音フォームを挟んだので、その分固定に多少の力を要した。
ケースフォームを加工する
PCBは、ケースフォームをPCBに嵌めてからケース内に収める。
ただ、今回用意したロープロファイルケースの場合、ケースフォームがケースの一部と物理的に干渉してキッチリ収まらない。そのまま無理矢理PCBをネジで固定してしまうことも可能だけど、基板の一部にテンションがかかり続けるのも気持ちが悪い。
今回は干渉する部分のフォームをハサミで切除したけど、フォーム自体は柔らかいので、切らずに適当に押し込んでも良かったかもしれない。
PCBをケースに収める
ケース内部にある6か所のネジをあらかじめ取っておく。このネジは、PCB固定に再利用するので保管する。
ケースフォームをPCBに嵌めてから、PCBをケースに乗せる。この段階で保管しておいたネジでPCBを固定できるけど、キースイッチを嵌める直前までこのままの状態でも作業できる。固定する場合は、その前にケース傾斜用の脚を忘れずに。
PCBフォームを乗せる
PCBフォームは、PCBの上に乗せるだけである。作業自体は簡単だけど、一応キースイッチのソケットとネジ穴の位置は確認しておく。万が一規格の異なるフォームを用意してしまった場合、フォームが穴を塞いでいるはずだ。
プレートを乗せる
フォームの上にマウントプレートを乗せる。乗せるだけだ。
この段階までプレートも何かしらケースと固定するものだと思っていたので、固定方法を模索してしまった。
プレートとPCBに挟まれる形となるフォームは、変形している場合があるので、発見した場合適当な長細い棒状のものなどで矯正する。
また、PCBを固定していない場合は、この段階で固定する。プレートが乗っていても、ネジ部にはスリットがありドライバーを通すことができる。
キースイッチ&キャップを取り付ける → 完成
ホットスワッパブルなので、キースイッチはソケットに挿すだけ。
ただし、最上行の一番左とその隣の2つだけはいわゆる「北側LED」で、ほかのソケットと向きが上下逆である点に注意。
最後にキーキャップを被せて完成。
音
もともと薄型のキーボードを使用していたので、完成した新しいキーボードも特に違和感なく使えている。それよりも気になっていたのは、打鍵音である。
聴いてみた印象は「響く」である。割と共鳴している感じがする。
今まで使用してきた「MelGeek Z70 Ultra」は、同じアルミ製でも、プレートとケースが一体になったもの。ケースにおいては開口部がほぼ無く、そこから発する音は硬質な印象だった。しかし、今回のロープロファイルケースに関しては、開口部どころかプレート周囲とケースに隙間がある。
感覚的なものではあるけど、指で押されたキーキャップとキースイッチ、さらにその下プレートの打音が、ケース内で増幅されてふくよかに鳴り響いているように聴こえる。これは、金属製といえどロープロファイルであるが故軽量で、剛性が比較的低いことも影響しているだろう。
カーボンファイバー製のプレートに変更したときの音の変化が楽しみである。
まとめ
特につまづくところもなく完成できた。カラーリング以外はとりあえず満足。
今後手を入れるとすれば、
- 別素材のマウントプレートに交換
- さらなる低姿勢化
- 消音材の変更
あたりだろうか。
終
(以下資料)