数か月前にKBDFANSにてグループバイで注文していたメカニカルキーボードキット「KBD67 Lite R2」が届いたので、組み立ててみた。その所感。
また、組み上がた本製品の打鍵音に関する印象についても記載する。
[IN PRODUCTION] R2 KBD67 Lite Mechanical Keyboard DIY KITkbdfans.com
作業風景を動画にしてあるので、ここではその補足として書き記す。
入手の動機
3万5万するのが当たり前だったメカニカルキーボードDIYキット界隈に、様々なトレンドを盛り込みながらわずか$100強という破格のキット、初代「KBD67 Lite」が発売されて大いに盛り上がっていた。そのときはまだDIYキットにそこまで興味がなかったので手を出さなかったけれど、改良版「KBD67 Lite R2」が開発され、旧作で気になっていた仕様がほぼ解消されたようだったので、入手してみたくなった。
PC製プレートによる打鍵音も聴いてみたかったところだしちょうど良いか、ということで数か月前注文していたものが、先日届いたのだ。
[Coming Soon] Excess Stock R2 KBD67 Lite Mechanical Keyboard DIY KITkbdfans.com
キットパーツ
キャリングケース
注文したのは、ワイヤード版のフルセット。パーツ点数は結構あるけど、意外と小さめの段ボール箱で配送されてきた。
ケースを除く細かいパーツ類は、すべてキャリングケースの中に収められていた。
キーボードを持ち運ぶ環境にはいないため、実は注文時にキャリングケースだけ省いておこうかとも考えたけど、振り返ってみるとキーボード専用のキャリングケースなんて持ったことないし、どうせならフルセット手にしてみるかと思い直し、購入に至った。
キャリングケースの内部は起毛素材でさらさらした触り心地。外装はおそらくナイロン地で、軽量な分耐衝撃性が低そうだけど、内容物を傷と埃から守る役目は果たせそう。
小物類
USBケーブル
一番上にあったのは小袋3つ。
USBケーブルは真っ黒いコイルコードのType-C。クラシカルなデザインでいいけど、今回は元々使っているケーブルを流用するので使わない。
スタビライザー
スタビライザーは「KBDfans PC screw-in stabilizers」が付いていた。
PCBマウントタイプ。全体的に角が削がれていて、従来より小さく見える。KBDFANS独自設計らしい。
カラーはクリアー。これも単体販売では見あたらないカラーなので、このキット用の別注なのかな?
PCBに貼り付ける消音ステッカーまで付いていて豪勢。このセット単品だけでも結構な値段するんじゃないかな。
ゴム脚、ネジ類
ケース底部に貼るタイプのゴム脚と、ケースの固定に用いるネジ。ネジはいわゆる六角穴だけど、ミニドライバーも付属するので、専用工具を用意する必要はない。ただし、スタビライザーの取り付け用にプラスドライバーは別途必要。
プレート
プレートは、擦りガラスのような半透明のポリカーボネート製。
射出成形のKBD67専用仕様。金属製と比べると、さすがに軽量。
ただし、成形後のバリや擦り傷が至る所に見受けられ、質はあまり良くない印象。目立たないからいいけど。
PCB
PCBは「KBD67 MKII RGB-V3」というもの。
65%サイズのホットスワップ対応。USBはType-C。QMKベースで扱いやすい。
VIAもサポートする。ただ、新しいモデルのためか、今回組み立てた時点では事前にファームウェアをダウンロードしてVIAに読み込ませておかなければならなかった。
なお、今回入手したのはワイヤード版。Bluetooth対応版の場合は仕様が全くの別モノである点に注意。
ケースフォーム
ウレタンフォーム製のボトムフォーム。PCBとケースの間に挟む。
ミュートシリコン
PCBとプレートの間に挟むシリコンシート。
こちらもこのキーボード専用品で、外周の縁部をケースに挟み込むことでガスケットとなり静粛性を上げる役割も果たす。
ケース
そして、合成樹脂製のケース。
カラーは「Transparent Tiffany」。初代にはないR2モデルからの新色。
半透明の青緑色。めずらしい色合いだなと思いチョイスしたのだけど、絵面的に"映え"るからか、YouTubeで見かけるKBD67 Liteは大抵このカラー。ティファニーと呼ぶには彩度が高すぎる気もするけど、綺麗な色なのは間違いない。
ただこのケース、下部の縁に破損があった。ケースのトップとボトムを正確に嵌合するための凸部が折れていた。
該当の部分の縁は細く、強度不足で歪んでいて、それを矯正する役目を担っていたけど、耐えられなかったらしい。
一応、ネジ留めすると正しい位置に収まったので事なきを得たものの、リニューアルしておいてこの不具合はいただけない。
組み立て
気を取り直して組み立てていく。
ケースを分離する
このキーボードのケースは、ケースが上部と下部で分離できる。ここを分離し、内容物を収めていく。
ケースの固定は8か所のネジだけど、工場出荷時は四隅しか留めていないらしい。付属のドライバーで外す。
ガスケット用シリコンを取り付ける
分離したケースのトップ側に、付属のシリコン片を8か所取り付ける。
ちょうど良いサイズのスリットがあるので、そこに嵌め込む。
このシリコン片、プレートの衝撃吸収用なのだろうけど、ネジでガッチリ固定されるので効果がどの程度あるのか不明。
スタビライザーの取り付け
付属のスタビライザーをPCBに取り付ける。
XHT-BDZは、未だに最適な塗り方が判らない。前回の反省から、初めはワイヤーの先端にちょっと少なめに塗ってみた。ところが、その後キーキャップを被せてみるとワイヤーの金属音が消えていないことが判明。結局再分解して追加塗布した。
加減が難しいグリスだ。とりあえず塗っておけば消音できる「Permatex PTX22058」に戻したくなってきた。
PCBに取り付ける前に、専用の消音ステッカーを貼る。これを別途用意しなくていいのは地味に嬉しい。
また、絶縁ワッシャーのようなものも付属している。これもシール式なので、ネジ穴にあらかじめ貼っておく。
あとは、ネジ留めするだけ。あまり強く締めすぎるとワッシャーが歪むので程々の力加減で。
ケースフォームを取り付ける
スタビライザーの取り付け後に、ウレタンフォームをPCBに嵌め込む。
嵌っているだけなので、PCBをケースに収める際に外れやすい。ゆっくり作業。
ミュートシリコンを乗せる
ケースに収めたPCBの上に消音シリコンシートを乗せる。
このシリコンシートの外周は、ケース内に収める構造になっている。シートを乗せたあと、ケースのトップ、ボトムそれぞれの内側にスリットがあるので、そこにシート端部を押し込んで、ケースで挟み込むように固定する。
プレートを乗せる
ミュートシリコンの上にプレートを乗せる。このプレートは、単純に乗せるだけ。
ケースを結合、ゴム脚の貼り付け
ケースの底部からボトムとトップをネジ留めする。このとき、トップ側のスリットにミュートシリコンの端部がしっかり嵌っていることを確認してから固定する。
四隅にゴム脚を貼り付けて、キットはひとまず完成。
キースイッチ
キーボードの組み立てが完了したので、キースイッチを取り付けていく。
ちなみにキースイッチとキーキャップはキットには含まれず、別途用意する必要がある。
仕様
偶然にも、いつだったか購入して保管していたキースイッチが、Transparent Tiffanyとそっくりなカラーデザインだったので、ここぞとばかりに使ってみることにした。
「Mint Linear Switches」。
68gのリニアスイッチ。ステムはUHMWPE製という、これまたトレンドを抑えた仕様。
PC製のハウジングは、美しいクリアーな青緑色。涼しげで、なによりTransparent Tiffanyと瓜二つ。まるでKBD67 Lite R2のために設計されたかのようなキースイッチである。
68gのスプリングは自分の指には重すぎるので軽量なものに交換したいところだけど、今回は手を付けず、潤滑とフィルム挿入のみとした。
潤滑化
このキースイッチは未潤滑なので、使用する前にグリスアップしておく。
分解されたハウジングも綺麗。
潤滑剤はいつものように、スプリングを「GPL 105」、ハウジング内部を「同 205 G0」とした。
フィルムシートは「KBDFans Switch films」のクリアー。PC製の0.15mm厚。
途中ジェムピッカーがバラバラに壊れるアクシデントがあったものの、キースイッチには不良品もなく2時間で完了。
このキースイッチ、ステムがUHMWPE製だからか、元々動作音は小さめ。それがグリスアップによりさらに静かになった。その差は動画で確認できる。
完成
キースイッチをPCBソケットに挿し込んで完成。
ケースはABS製、キースイッチはPC製。そして両者はメーカーが異なる。にもかかわらず、想像以上の色の統一感に驚かずにはいられないのだった。
目に優しいカラーコーディネート。キーキャップで見えなくなってしまうのが惜しいくらい。
これは事前情報である程度知っていたことだけど、このキーボードはよく跳ねる。
ケース内にダンパーとしてシリコンを使っていることや、PCBをケース側面で支えるシステムは、最近の高級路線のキットで見かける手法。あえてクッション性を上げることで、打感を柔らかくする狙いがあるらしい。
ただ、あちらはガチガチの金属製だけど、こちらはほぼプラスチック筐体。ボディ全体の「しなり」もある程度加わっているだろう。
さらに、キーボードの下には4mm厚のデスクマットを敷いている環境である。KBD67 Liteの脚は先で見た通り四隅の小さなゴム。面ではなく点に近い支持をしているので、荷重が集中して柔らかいデスクマットにズンズン沈み込んでいく。
意外だったのが、背が低めであること。手持ちのロープロファイルケースと比べると、KBD67 Liteには傾斜がついている分高くはあるものの、最下行は肉薄、むしろKBD67 Liteのほうが若干低いようにも見て取れる。
KBD67 Liteは脚の厚みがそこそこあるから、それを剥がしてしまってさらに低くすることもできるだろう。
音
さて、気になる打鍵音である。
今回は異なるプロファイルのキーキャップを3種用意し、それぞれの音質比較をしてみた。
使用したのは以下の通り。
- MA Profile 「Blue Cat」
- NP Profile 「Crayon Pure white」
- DSA Profile 「BlueBird」
いずれもPBT製で、行による高低差の無いすべて真っ平なプロファイル(ノンスカルプチャード)なのは、単に自分の趣味。
実際の出音は、動画のとおり。
MA
SAプロファイルに迫る高身長のMA。音量が一番大きく、低く深い音。キーキャップの質量が大きいほど深い音になるというのは情報として知っていたけど、実際その通りだった。
サウンドプロファイル的には、たぶんこの音が「良い音」とされているのかな。
NP
XDAプロファイルとよく似た形状のNPは、XDAよりも若干肉厚で重い。音自体はMAよりやや高音で浅くなったけど、筐体の反響音はあまり変わらないのかそこまで軽すぎる印象はない。あと、やっぱりキートップは広いほうが打ちやすいな。
DSA
ほかの二つと比較して、明らかに軽い音である。高さはNPとあまり変わらないのに、カタカタと小気味良い、キレのある出音だった。
ただ、スペースキーの打音だけはなぜかNPより低く聴こえたのが面白い。どういうことだろう。
以前、トータル7万円くらいの高価なカスタムキーボードのデモ機を触ってみたことがある。それから発するコトコトとした静かな打鍵音に感動した記憶があるけど、このKBD67 Liteの音も似た傾向であった。ケースがABS製なので、さすがに金属製にあるような澄んだ締まった音はなかなか出ないにしても、音量や深みは結構近いんじゃないだろうか。
なんかもう、これでいいんじゃないか?
まとめ
残念なのは、届いたケースの質があまり良くなかったところ。致命的なものではないにしろ、気持ちの良いものでもない。安いし、あまり文句は言えないのだけど。その点を抜かせば、なんというか、ANSIレイアウトのカスタムキーボードにこれ以上何を望むんだ? という内容であった。必要なものが一式揃っていて、専門的な技術も要らず、(潤滑作業をしなければ)短時間で組み上げられて、十分な性能。これが$100ちょっとで手に入るとなれば、大方は満足してしまうんじゃないの?
メカニカルキーボード、完成されちゃった感があるな。
改良するところを挙げるならば、ケース内に何か充填して静粛性を上げる試みくらいか。ただ、せっかくコストパフォーマンスの良いキーボードなのであまり改良に費用を費やしたくない気もする。リファレンスとしてこのままの状態を維持していくかもしれない。
終
(以下資料)