いつか消える文章

本当は、ペンとノートを持ち歩くことにあこがれている。

YAMAHA NS-U50 をメンテナンスする

ヤマハのブックシェルフ型スピーカー「NS-U50」を入手し、補修と音質の調整をしてみた。その備忘録。

 

ちょっと気になっていたスピーカー

ヤマハのスピーカーに手をつける。「NS-U50」という、細身のブックシェルフ型スピーカー。

YAMAHA NS-U50
1999年に発売の安価なパッシブスピーカーである。同時発売のマルチメディアアンプ「RP-U100」とセットで使用する想定だったようだ。
パソコンとUSB接続することのできる小型アンプと、ディスプレイ横に置いても邪魔になりにくい細身の2chスピーカーという、今ではありふれた構成のデスクトップオーディオがWindows98の時代に存在した事実は、なんとなくほろ苦い思いがする。かつてのソーテックの「AFiNA AV」よりも前に登場しているあたり、このテの製品の嚆矢だったのではないか。

まあ、特段流行ったわけではないけど
このスピーカーは、以前からいくつかの点で興味を引かれていた。ひとつは積んでいるドライバーユニット。同じヤマハの「NS-10MM」と姿が似ていることから、ドライバーを別の筐体に載せ替えたのかまったくの別物なのか。いまひとつは、前面のネット。見た目にはバッフルに固定されて外すことができないようだけど、はたして着脱可能なのか。

はたまた、バスレフ化したら面白そうだ、とか
 

外観

専用スタンドによって、筐体全体がやや上方向を向く仰角となるのが特徴。

スタンドの有無で、印象がだいぶ変わるんだよな
横幅が11cm程度しかない縦に長い直方体のエンクロージャーとスタンドによって、だいぶスッキリした印象の外観だ。

背面と側面
外装は明るいブラウンの木目調シート。この仕上げは、NS-10MMなどにある「MC(チェリー)」とは別物で、あちらよりも色味が淡く、エンボスが控えめ。表層の触感もサラサラしている。

高級感は低いけど、インテリアとして置きやすい色味
背面のコネクターユニットはスナップイン式で、NS-10MMと同じものが採用されている。

交換予定
スタンドは樹脂製。ただし、底面に金属製のプレートが設けられていて、それが床面との接触面となる。

ズレまくったゴム足
エンクロージャー底面の埋込ナットにネジ固定されており、ネジ二本を外すだけで容易に分離可能。

プレートの奥にある
 

備前の音

音を聴いてみる。アンプはヤマハのAVレシーバー「RX-S602」。花崗岩プレートの上にスタンドを直置き。
低音が出ないなァ、というのはなんとなく予想できていたからいいとして、中高音がどもるのはなんだろう。
 
早々にリスニングを切り上げ、周波数特性を見てみる。ツイーター軸上50cmの収音。5回収音の平均値。

周波数特性。1/6スムージング処理

上図の元波形
クロスオーバー周波数付近で明確にディップ。けだし、ネットワーク回路がNS-10MMと同じ設計とみる。ヤマハのスピーカーの音は好きだし、コストパフォーマンスが良好な製品も多いと感じているけれど、かえすがえすこのチューンの意図はよくわからない。
 

スタンド

作業の前に、スタンドは筐体から外しておく。

こうしてみると、意外と傾斜があるな

底面のネジ孔は、ブラケット固定用も兼ねているのだろうか
金属製のプレートもネジを外せば分離できる。内外ともに汚れているので、整備前にここだけ洗浄しておく。
 

バッフル

 

ネットを外す

なにをするにも前面ネットを外さないことには始まらない。伸縮性のある化繊のネットなので破けにくいとは思うけど、角(すみ)からおもむろにフレームを持ち上げる。

接着が甘いところを見つけて持ち上げる
ダボは8点。一応、引き抜くことはできるものの、ダボに接着剤が使われているあたり、やはりユーザー側で取り外すことを想定していないようだ。

バッフルお目見え
これまでほとんど見えなかったウーファーは、センターキャップが潰れている。

購入時にこの説明はなかった……
たしかに伸縮性のあるネットではあるから、ネット越しに振動板に触れることができてしまう。そうだとしても、雑に扱わないかぎりはここまでにはならないと思う。

グイっと押すとドライバーに届いてしまう
また、潰れているかどうか、ネットを外さなければわからないというのも嫌らしい。
 

バッフル正面

ネットの無いバッフルを正面から見る。

キャップはどちらも潰れていた
だいぶ埃っぽいものの、清掃すれば問題ないだろう。

ネットの下だったからか、ホワイトコーンの黄ばみもほとんど無い
じつは、前回制作したウッドルーバーを、このスピーカー用にも作るつもりでいた。縦に長いバッフルだと格子が映えそうだと思っていたから。しかし、取り外したネットを洗浄してみると、思いのほか綺麗によみがえったので、今回はオリジナルのネットを再利用することにする。

取り外したネット
 

内部

とりあえず分解していく。
見えているプラスネジを外していくだけ。
 

平形端子

ただ、ドライバーのケーブル接続部である平形端子に接着剤が併用されていて、引き抜けない。それも、なぜか片方のスピーカーのみ。

こういうの、たまにあるんだよな
このままでは接着剤の除去が手間なので、ケーブルを切ってから平形端子のほうを破壊して取り除く。

刃こぼれしたニッパーの先で端子を潰す
 

ドライバーユニット

ウーファーはホワイトパルプの9cmコーン。ツイーターは2.5cmの俗に言うバランスドーム。

ドライバーユニット
ふたつのドライバーは、一見ではNS-10MMなどに採用されているものと同一にしか見えない。ウーファーはフランジ部に樹脂製のカバーが無い、ツイーターは金属製のグリルネットが無いという違いはあるものの、それ以外の構成パーツは共通に見える。

グリルを固定する溝がある
ただし、型番はいずれも異なっている。一応、このスピーカー専用のユニットということだろうか。

一応、写真に収めておくか……
音質面でなにかしらのチューンが成されているのかなどは、わからない。
 

ディバイディングネットワーク

ディバイディングネットワークはNS-10MMと同じものであり、予想は的中。

ディバイディングネットワーク

ネットワーク回路図
合板の架台、ラグ板、パーツの定数、配置など、すべて一緒。異なるところといえば、コアコイルにラベルシールが貼ってあることくらいか。

NS-10MMなどには、このラベルは無い
ドライバーを含め、NS-10MMをベースに設計している認識でよさそう。
 

エンクロージャ

封入されている吸音材はゼロ。筐体は総MDFで特筆すべきことはない。

俯瞰

底面側
ただ、前面ネットが付く部分は角面となっており、ネットを取り付けたさいに外縁が細くなって見栄えが良くなる工夫がなされている。
 

整備

方針

まずやりたいのは、エンクロージャーのバスレフ化。とにかく低音域をなんとかしたい。ウーファーの下部にちょうどいい具合にスペースがあるので、そこを利用してフロントバスレフとしたい。

ダクト設置におあつらえ向き
また、信号回路については、NS-10MMでやっているようにウーファーをフィルターレスにしてもいいけど、今回はもう少しちゃんと組んでみることにする。
前面のネットは、当初はマグネット着脱式に改装しようかと手法をいくつか模索したものの、手間をかけてまでする必要もない気がするので、やめる。
 

バスレフダクトの新設

パイプを新たに設ける場合、いつもは見栄えを気にして専用品を使っているけど、今回は基本的に目視できないものになるので、自作スピーカーでは定番の塩ビ管を使った簡素なものにしてみる。
ホームセンターに行くと、塩ビの継手がちょうどよさそうだったので入手。

呼び径25

油性塗料の黒で塗装
バッフルに40mm径の孔を開け、そこに継手を挿入する。接着の前に、継手の内側に薄いフェルトを張る。

ノイズ低減用だけど、今回は無くてもよかったかも
また、パイプを補助的に支持するための木片を、エンクロージャー内の底面に接着する。

フェルトを重ねて貼って高さを調整
継手の接着は2液性エポキシ接着剤を使用。
ひと晩置いて接着剤が固まったら、継手とバッフルに隙間が無いか確認。

硬化中に接着剤が垂れてこないようにマスキングテープを貼っている
 

ディバイディングネットワークの再構築

この状態でいったん組み上げ、信号回路の調整をする。

これがまた時間がかかるんだ……
設計
ミッドバス側、直列の0.8mHのコイルは0.5mHに変更。このうしろに4.7μFのコンデンサを並列で付してシンプルな2次フィルターとするだけでも、周波数特性上は見た目のうえでは整ってしまうことがわかった。しかし反面、抑えられていた中音が出てきたことで、ややガヤガヤした音になる。ここはRLC直列回路をスピーカーに並列で設けて、中音の一帯を抑える。

この回路に用いられる0.8mHのコイルは、先に取り外した既存の流用。本当ならこの倍以上の大きいインダクタンスが欲しいのだけど、わざわざ購入したくないのでひとまずこれで。

今回はなんとなくソルダーレスで組んでみる
ハイ側は、コンデンサーを1μFから2.2μFに増補。12dB/octや18dB/octにはせず、ここにドライバー並列で抵抗器を設けて、クロスオーバー周波数付近から下の出力を調節するのみとする。
チョイスするコンデンサーは、聴感で決定する。電解コンデンサー単発の音もアリだけど、やはり高音に透明感が欲しいので、ポリエステルフィルムコンデンサーを採用する。
なお、位相は正相接続に変更する。

新ディバイディングネットワーク回路図
固定
今回は、既存の架台も利用しながら、各パーツを筐体内に直接接着するかたちで回路を固定する。

元の架台には、HF側の回路を載せる
ここも2液性エポキシ接着剤の出番。

硬化に時間がかかるのが難点だけど
 

ネクターの交換

NS-10MMの整備でもやっているように、背面のコネクターユニットはバナナプラグに対応するバインディングポストに換装する。

桂の板材

こんな加工ばかり手慣れていく……
ポストを固定するベースは、以前はオリジナルと同じようにネジ留めしていたけれど、ネジ孔部が割れないように厚めの板が必要なのと、見た目が野暮ったくなるので、最近はここでも接着剤を使って、完全に塞いでしまうようにしている。

最近購入した真ちゅうのワイドワッシャーを採用
 

吸音材の新設

手元にニードルフェルトが余っているので、筐体内の吸音材として利用する。

シート状のニードルフェルトは扱いやすくて便利
片方の側面に、やや撓ませるようにして固定。ただ、これは最後の音調時に、量を減らすことになる。
 

試聴

ひとまずここまでの進捗で組み上げて、しばらくリスニングをしてみる。すると、位相のズレの問題なのか、どうにもケロケロしている。聴けないこともないけど、あからさまなのはみっともないので、なんとかしたい。
 

センターキャップの交換

潰れた紙製センターキャップも交換。

磁気回路側のギャップに切りくずが落ちていかないように
同じようなものがリペアパーツとして売られていない。そもそも、白いキャップというものが全然見あたらない。和紙とエマルジョンで自作しようかと考えるも、ちょっと試してみたいことがあるので、既製品のキャップをアリエクで個人輸入

二週間ほどで手元に到着
一般的なドーム型と、先端がとがっている砲弾型を購入。試しに砲弾型を付けてみて、ケロケロした音が解消されないかと期待。ちなみに樹脂製。色が真っ黒だけど、バッフルすべてがネットの下に隠れるこのスピーカーに限っては問題とならない。
既存のキャップは、可能な限り撤去。その上に新しいキャップを被せるようにして接着する。

乗せるだけ
ここで使用する接着剤は、「T7000」というもの。
自分がよく使うB7000の仲間で、色が黒く、B7000よりも粘度が低い。個人的にはB7000の粘度が扱いやすいので、こちらはあまり出番が無い。今回は既存のキャップも黒い接着剤を使っていて、周辺に多少はみ出しても目立たないという理由でこちらを採用。

接着漏れが無いかだけは、入念にチェック
アンプから音を出してみて、キャップ由来のビビりが無いことを確認して、完成。
 

バッフルの微調整

この砲弾型センターキャップの設置が、意外にも音に変調をもたらし、妙な音質がだいぶ改善された。こんなものでも聴感で変化がわかるものなんだな。
あとは、ツイーターの左右にフェルトシートを設けたりして、高音側の微調整を行う。

本当はもう少し貼りたいけど、ネットと干渉するのでこの程度で
 

整備後の音

時間をかけただけあって、出音はおおむね満足。

整備後の姿
ただ、バスレフ化のあとも低音があまり出てくれない。このコーン型スピーカーはあまりストロークしないタイプで、バスレフ向きではないのかもしれない。

周波数特性(整備後)

上図の元波形

備前後の周波数特性比較

インピーダンス特性(整備後)
聴感と相違なく、バスレフ化しても低音域の増量はこの程度となった。
1kHz付近のふくらみは、RLC直列回路のコイルを流用品で妥協した結果。あるいは、コンデンサーを15μFにしてもよかったかも。
 

まとめ

既存のディバイディングネットワークは、おそらくなにも検討されず単にNS-10MMのものを置いているだけのように思える。

そうでないと信じたいけど
NS-10MMは、中音を抑えるのにコイルひとつで担ったがために、不要な部分まで削られて音がこもっている。同じようなドライバーを有する新製品にもそのまま採用してしまったということは、要するに、音質に関する評価をされていないのではなかろうか。およそ1年半後に登場することになるNS-10MMTでは改善されているものの、残念でならない。

設計の意図が知りたいけど、叶わぬこと
整備では、砲弾型のキャップの音への影響が、それなりにある可能性を見た。今後別の機種でも採用する機会があれば確認しておきたい。

ある程度高音域を担うドライバーに効果的なのかな
このスピーカーでやりたいことはやったな、という感じ。妙に気に入ってしまったので、しばらく据えていることにする。
 
終。