デノンのスリムなブックシェルフ型スピーカー「SC-A3L」を手に入れた。音を出したり中身を見てみたりした。その所感。

スリムでミニサイズ


しかし、ミニチュアサイズ。横幅が7cmしかない。

これだけならオモチャみたいなものだけど、筐体は金属製。手に持つと冷たく、それなりの重量を感じる。

なんとなく察するとおり、これはホームシアターシステムのセットに含まれる製品で、2003年発売の「SYS-C3L-M」、その翌年の「SYS-550SD」のそれぞれにおいて、5.1chパッケージのサテライト向けスピーカーとして登場したようだ。
後者のセットではメインスピーカーも担う。
マルチチャンネルでもだいぶコンパクトにまとめたい意図を感じる。
外観
試しに現在手持ちのほかのミニサイズスピーカーを並べてみると、そのほっそりとした様が際立つ。比較の相手はヤマハ「NS-10MMT」と最近手に入れたケンウッドの「LSF-A55」。


SC-A3Lのほうが背丈が高いといっても微々たる差だし、奥行きに関してはほか2機種とほとんど変わらない。本機のみバインディングポストが露出しているかたちのため、そのぶん出っ張ってはいる。
胴の部分は、アルミ製。


押出加工らしいので、パイプ状になっているのだろう。
それに対して、天面と底面は木目調のシートとなっている。

短いパイプの両端の口をMDFで塞いでいるかっこう。上下両面ともネジで固定されていて、ネジの頭が見えているのがまさに「蓋」という感じがする。この機種ならではの仕様だ。

デノン独自のギミックである「P.P.D.D.(Push-Pull Dual Driver)」方式で、エッジの張りかたを2基で表裏逆になっている。


この「プッシュ-プル」という表現、相変わらず違和感が拭えない。文字どおりふたつがプッシュプルで同時に鳴動するなら、逆位相になって音を打ち消しあっちゃうじゃんか、と。
ウーファーのユニットを固定するネジは、うち2個が前面ネットを固定するダボを兼ねている。

ツイーターはドーム型。径は2cm弱。

呼称は「スーパーツイーター」らしいので、見込みどおり、ウーファーはフルレンジだろう。
ウーファーもツイーターも、前面に見えるフランジ部は樹脂製のようだ。ここもバッフル面と同じく金属製に、とはいかなかった模様。

音
音を聴いてみる。アンプはヤマハのAVレシーバー「RX-S602」。
音の伸びが良い。透明感があり、高音がどこまでも遠くに伸びてゆく感じ。
音場が広めで、音を細かく分解する解析的な音。定位がわりとしっかりしていて、クセも小さい。シャリシャリした音も控えめで、質が良い。聴いていて気持ちのよい雰囲気。
反面、低音はほとんど聞こえてこず、迫力不足。密閉型エンクロージャーということもあるけど、2基といえど小径ドライバーなので限界はある。この製品は本来、ウーファーが別に用意されていてそちらに任せるものなので妥当といえる。また、中高音が綺麗というのも、低音が邪魔をしないからというのが少なからずあることだろう。とはいえ、同じ小型アルミ筐体でパッシブラジエーターの付いたLSF-A55と同じくらいの量感はある。

周波数特性を見る。ツイーター軸上50cmの測定。


聴感と一致する。低音はせいぜい130Hzあたりまでが実用で、このスピーカー単独の運用では物足りないというよりほかない。中高音はおおむね平坦で、程度よく調整されているなと思う。

内部
特段用事はないけど、かつてないほどネジが大量に見えている、しかも余所ではなかなか見られない天面がパッカリと外れる構造なので、そこは外したくなってくるのが真情。
金属筐体であればミリネジだろうと思っていたら、セルフタッピングであった。

金属といっても柔らかいから、ネジを切るよりもこちらのほうが確実なのか。単にタップを立てるコストをケチっただけか。
このネジは鉄かステンレス製だと思うのだけど、アルミに直接喰いこませても大丈夫なものなのだろうか。


エッジが凸側のウーファーからツイーター用のケーブルを分岐している。

各ドライバーユニットはすべて並列接続となっている。


いちおう、ツイーターユニットとコンデンサーのあいだに平形端子の着脱点が設けられているものの、ビニールテープとフォームシートで覆われていて、着脱させる気はないようだ……。


押出成型のアルミ筐体は、板厚が3mm強の密閉型。

各ドライバーユニットのネジもこの3mmの厚みだけで固定されているのが、小型軽量のユニットだとしてもやや不安。
また、吸音材はゼロ。叩くといかにも金属的な甲高い「カーン」という音がする。
端部のどこもかしこもバリだらけで、素手を突っこんで作業すると怪我しそうだというのは、まあ予想していたことだ。

ベースの材質はおそらくポリプロピレンあたりだろう。筐体の内側からユニットを挿し入れる手間があるものの、筐体側の開口が最小限で済むこの形状は、小型スピーカーでは省スペース化に貢献できて良い。

ウーファーユニット。
樹脂製のフレームに、化繊の平織りされたコーン型振動板。エッジはクロス製。
元からなのか経年変化なのか、使われている接着剤が黄色くて、しかもけっこうはみ出ていたりして、真っ白の綺麗なコーンなのにちょっとみっともないなと思ったりする。

ツイーターのほうは、その接着剤でプレート諸共ガッツリ固定されており、内部は見えない。


整備
今回は故障もしておらず、特段手を入れるところもないかな。強いて挙げれば、底面のMDFにバスレフダクトを固定してバスレフ化することくらいだけど、併せて底面を浮かせる構造にしなければならず、そこまで手間をかける気力はない。
というわけで、大きな調整はせず元に戻す。
吸音材として、以前の整備で余っていたフェルトシートを、適当な大きさに切り出して側面に貼っておく。

既存のコンデンサーはそのまま使い回すのは怖いので交換する。既存のインナーケーブルも、取り外すときにツイーター用を切ってしまったので、引き直すついでにすべて新しくしてしまう。

最近検証中の銅製ワッシャーを使っておく。
あとは、清掃に努めるのみ。
ネジ類、バインディングポストは希釈した酸性洗剤で洗浄。

音の変化
吸音材の新設の影響か、特性上は中音の出力が改善されている。

ただ、聴感では整備前との差異が判別できない。

また、なぜかインピーダンスが1Ω近く上昇している。

これに関しては理由がわからない。最近測定用のパソコンを更新してからというもの、計測値があまり安定しなくなっていて、今回もその影響かもしれない。パソコンのUSB端子の電圧が不安定なのか、測定環境をリセットするとバイアス電圧が都度変わってしまうような気がする。
カーブの形状は変わっていないし、公称値にも近いのでそれほど問題とはならないにしても、なんとも気持ち悪いものだ。
まとめ
当時の定価が1台9,000円であったという。その品質があるのかというと懐疑を抱かざるを得ないものの、単品で購入するとなるとそんなもんなのかな。

見てくれはインパクトがあるし、キレイ目でぐんぐん伸びる現代的な音を醸すので、ちょっと趣の異なるデスクトップオーディオを構築したいとなったときに選択肢となるのではないか。ただ、スリムな筐体に拘らないのであれば、能率そこそこ低音そこそこのNS-10MMTを推したいとも思う。
エンクロージャーが金属製のスピーカーは、ほかにも入手してある。近いうちにそちらも見てみたい。

終。







