いつか消える文章

本当は、ペンとノートを持ち歩くことにあこがれている。

POLK AUDIO Monitor 6 をメンテナンスする

ポークオーディオの古い小型2ウェイスピーカー「Monitor 6」を手に入れた。経年劣化した部分を補完し、音を出してみた所感。

 

オールドのポークオーディオ

先日、「XT6」の音に充足してしまって以降、スピーカーに向けていた熱量がすっかり霧散してしまい、ただただリスニングを続けるだけの状態になっていた。そんななか、ちょっと趣の異なるものを手に入れて気分を入れ替えてみようと思い立ち、フリマサイトで手ごろな価格で譲ってもらったのが、このポークオーディオの小さなブックシェルフ型スピーカーである。

Polk Audio Monitor 6
このスピーカー、背面のラベルシールは剥がれてしまったようで、なにぶん古い製品であること以外は謎に包まれている。

糊の跡みたいなものがある
古いというのは、前面ネットにあるエンブレムのブランドロゴが、現代では見かけない初期のデザインであることから推測できる。

前面ネットを付けた状態

「i」にハートマーク
前オーナーは音が出ることを確認しているらしいけれど、現状は型番も入力のインピーダンスも判らない。なるべく先入観を持たないよう、初見の製品について音を聴く前にあれこれ調べるのは御法度としているのだけど、今回は致しかたない。アンプに繋ぐ前にインターネットにお尋ねしよう。
 
といっても、なかなかそれっぽい情報に当たらない。
国外のフォーラムで、遅くとも1980年代中ごろには発売していたらしい「Monitor 6」という製品であることを、ようやく突きとめる。
どうやらこの製品は、これとは別に専用のサブウーファーが存在し、そちらと組んで鳴らすことが前提のものらしい。詳しいことはわからないままだけど、つまるところいわゆる2.1chシステムか、という理解でひとまず落ち着く。
低音再生機がセパレートで用意されているのは当時としてもめずらしいものだったようで、ホームシアターシステムのはしりだという書きこみもある。
 
日本における現在のポークオーディオといえば、2020年のサウンドバーの発売を皮切りに、ハイコストパフォーマンスのスピーカーを展開するアメリカの大手ブランドのイメージがある。
しかしじつは、1980年代と90年代にもかなり限定的ながら国内で取り扱いがあったらしい。アメリカでは当時からメジャーでも、日本においてはオーディオマニアでないかぎりは知られない存在だった。
このスピーカーはおそらくそのころに入手されたもので、日本国内ではなかなかお目にかかれないものだろう。

前オーナーは、なにに惹かれて入手したのだろうか
 

外観

たいていは四隅にダボで固定する前面ネットだけど、このスピーカーは腰のあたりにふたつある樹脂製のチャックとなっているのがユニーク。

ネットのフレームは樹脂製

リング部が折れやすそうだ……
エンクロージャーは密閉型で、外観は特筆するような特徴が見受けられないものの、重量が意外とあって手に持ってみるとズッシリとする。

側面と背面

しかしこれ、かなり状態がいいな
2ウェイシステムであり、前面バッフルにはコーン型ウーファーディフューザー付きのドーム型ツイーターを備える。どちらのユニットもバッフル板にそのままネジ留めしたような、簡単なもの。

ウーファー正面

ツイーター正面

ドームはフィルムかな
ツイーターのプレートは樹脂製で、ネジ孔付近にクラックがある。

もう見飽きた故障
これは同じアメリカのブランドであるJBLの製品でもよく見られ、長らく改善されることのなかった欠陥だ。
背面のコネクターユニットは、よく見かけるスナップイン式。

「スプリングキャッチ式」とか呼ばれたりもする
その上には壁掛用の穴がひとつ設けられているけど、これにそのまま金具を挿し入れて荷重をかけ続けるのは、ちょっと心許ない。

底面。ブラケット用のナットなどはいっさい無い
 

備前の音

音を聴いてみる。アンプはTEACの「A-H01」。念のため、サブ的に使っているアンプに繋いで様子を見てみる。
中高音がポンポン勢いよく鳴っている。対して、低音はほとんど聞こえてこない。
イメージとしてはJBLの「Control 1」みたいな感じかな、と思っていたけれど、近いところがあるものの能率感は平均的だ。高めの中音がジャキジャキしているのはコンデンサーの音だろうか。
 
高音に寄ったバランス、というよりも低音が鳴っていないのでそう感じる。サイン波を流すと、低めの音になるにつれコーンのピストン運動の幅が小さくなってくる。これが40Hzくらいになると、目視ではほぼ止まった状態になる。当然、音もほとんど聞こえてこない。
ストロークできないわけではないから、サブウーファーとの被りを考慮してあえて濾波しているのか?

小型かつ密閉型なので、低音が弱いのはある程度仕方がないけれど
また、左右で若干ながら音圧に差があるように感じる。コーンを指で押してみると、指先に伝わるストロークの反発力が左右で異なっている。内部で故障しているのか?
 
周波数特性を測ってみる。ツイーター正面軸上50cm。

周波数特性

元波形
ビジュアライズでも、やっぱり低音を意図的に削ぎ落しているように見える。いくら小径コーンであっても、さすがにもうちょっとゆるやかなロールオフになっているのが自然なはずだ。
インピーダンス特性を見ても、それを明証するようなグラフとなっている。
ということは、このスピーカーにおけるコーン型スピーカーユニットは、ウーファーではなく「ミッドレンジ」となる。本来セットとなるウーファーも、「サブ」ウーファーではないのだろう。
そして、このグラフからしインピーダンスは8Ωで見ておけばよさそうだな。
 
それと、左右で音の出方に差があるのも、自分の勘違いではなさそうだ。

周波数特性比較(左右の特性を重ねて表示)

スペクトログラム
あるいは経年劣化でどこか故障したのか。
最近、別のスピーカーで新古品の初期不良品をつかまされたばかりで、追い打ちに萎える。自分に直せるものであればいいのだけど。
 
うーん。
聴けないことはないけれど気になる点も多いので、早々にリスニングを切り上げて分解してみることにする。
 

内部

分解は見えているネジを外すだけだけど、ヒビ割れているツイーターの樹脂プレートはそのまま再利用するつもりなので、バッフルから取り外すさいに完全に割れないよう慎重に行う。

すべてプラスネジ
ウーファー改めミッドレンジユニットを取り外す。背負っているフェライトマグネットがかなり薄いもので、やはり彼に低音を任せるつもりは端からなさそうな雰囲気だ。

径はそれなりにある
 

エンクロージャ

エンクロージャーは、すべての面が16mm厚の木質のボードで組まれている。基本的にMDFだけど、背面のみやや繊維が粗めのパーティクルボード風のものが使われている。

俯瞰
吸音材は、エステルウールのカサカサのシートが一枚詰められているだけ。

キャビネット内部。ブレーシングなどは無し
 

ミッドレンジ

ミッドレンジユニットは、「MW 4000」という型番のもの。

ミッドレンジ。1994年9月5日製?
「W」の字があることからウーファーとしても使えるドライバーなのかもしれないけれど、今回は試験しない。
金属プレス製のフレームに、フォーム製のエッジ。エッジは朽ちることなく残っている。振動板は紙製で、なにかを塗ってコートしてあるもの。

振動板拡大
センターキャップもフォーム製だけど、見た目に反して触れてみると硬めで、エッジとは別の素材のようだ。
片方のダンパーが、一部だけ剥がれている。

剥がれたダンパー

正常な状態
接着が切れたようだ。これが左右の音の差の原因だろう。幸いにも一部だけなので、このまま再接着すればなんとかなりそうだ。
 

ツイーター

ツイーターは「SL 1500」というもの。

ツイーター
樹脂製のプレートは3つのネジを取り外すと分離できるけど、メンブレンにあるボイスコイルのリード部が接着剤で覆われており、引き剥がすとその接着剤がリードごと持っていってしまうため、むやみやたらにやるもんじゃないと判断し作業を取りやめた。
平形端子を接続するタブは、一般的にマイナス側になるいわゆる110型の細いほうに赤いマーキングがあり、実際の配線もこちらがプラス極になる。

細いほうがプラス
スピーカーの磁気回路における極性は、なにをもって決まるのか知らない。一応ここでは正相接続ということにしておく。
樹脂製のプレートは、そのうち完全に崩れてドライバーユニットごと落下する未来が見える。

ここの補修はどうするのが最適か、未だによくわからない
かといって以前のような新プレートを起こすこともしたくない。今回はなるべく現物を再利用して、改修の痕跡が見えない方向で整備したい。ここは対症療法的になんとかする。
 

ディバイディングネットワーク

ディバイディングネットワークは、例によってコネクターユニットの裏に基板が背負われている。

ディバイディングネットワーク
クロスは6dB/octを基本として、100μFの両極性電解コンデンサーで低音を削いでいる。

ネットワーク回路図
回路は組み直して音を整理したいところだけど、ここについても原音を残す意味で、手を入れないことにする。

100μFのほうがケースが小さいんだな
 

整備

延命措置が主な内容となる。

接着

ミッドレンジのダンパーとツイーターの樹脂プレートのクラックは、どちらも2液性エポキシ接着剤で補修する。
ツイーター
樹脂プレートのクラックには、アセトンでシャバシャバにした2液性エポキシ接着剤を含侵させてみる。

いつも使っている「Eセット」
絵筆で患部に塗る。

これだけなら極少量で済む
毛細管現象でクラック内に接着剤がスルスルと自然に引きこまれていくことを期待してアセトンで薄めたのだけど、そのまま原液を擦りこんでもよかったかなと今になって思う。

余分な接着剤を拭き取るだけ
ただ、これだけでは補強はされないかと思い、結局あとになってネジ孔周辺を接着剤で囲うように埋めて固めることにしたので、含侵させた意味はほとんど無くなったのだった。

こちらは原液を使う
この措置が功を奏するのかイマイチわからないところではあるのだけど、外面に影響を及ぼさずにできることは、このくらいしか思いつかない。

接着剤硬化後
ミッドレンジ
そういえば、既存のドライバーのダンパーだけを接着する作業って今回初めて取り組むんじゃないか。エッジが無い状態のものはやったことがあるけど。
 
ここも2液性エポキシ接着剤を使う。
既存のエッジは綺麗なので、できれば作業のためだけに剥がしたくはない。フレームのアーム部のあいだにある"窓"の部分から、マイクロアプリケーターを挿しこめられるなら、それ以外の部分を弄らずにどうにか作業できそうだ。
とりあえず、ダンパーの外周をグルリと一周塗りこんでおく。あとは接着剤が硬化するまで、適当な重石を乗せて静置する。

重石の圧迫はあまりやりたくないけど、仕方がない

接着剤硬化後
 

コンデンサーの追加

ローカットフィルターに使われている100μFの電解コンデンサーは、一方が実測97μF、他方が94μFくらいになっているので、値の小さいほうに適当なコンデンサーを加えて2台が揃うようにしておく。

1.5μFの適当なフィルムコンデンサ
 

整備後の音

ダンパーがくっついたおかげで、左右の出音の差はだいたい解消された。

周波数特性(整備後)

元波形

周波数特性比較(整備後。左右の特性を重ねて表示)
ダンパーが動かなくなってストロークがそれまでと変わったためか、音圧は整備前よりも若干鎮まっている感じがある。おそらく120Hzから180Hzあたりが抑えられたために迫力が低下したのだろう。しかし、それが本来の音に近いもののはずだ。

もともと低音域は別に任せる仕様だから、それで問題ない
手を入れるとしたら、高音域の緩和だろう。コンデンサーの容量は一回り小さくてもよさそうだし、ディフューザーの物理的な調整をしてもよい。

整備後の姿
 

まとめ

小型のブックシェルフ型スピーカーであることを鑑みれば、低音の少ないこの音でも納得できるところだけど、まあ、同等のサイズで普段使いしているJBLの「Control 3Pro」より優れるところを見つけるのは難しいかな、という気がしている。

Controlシリーズが優秀なのもある
Monitor 6の側からしてみれば、専用のウーファーを用いることができていないのに本懐を果たせないと言われたら「ちょっとまってくれ」と口を挟まれるかもしれない。しかし、インターネット上の写真で見るかぎり、そのウーファーはタワー型デスクトップパソコン並みの体積をしているようだから、それを導入するとなると小型スピーカーであることの利が薄れてしまう。
 
もしもミッドレンジドライバーがフィルターレスで動作可能なものだとして、筐体に孔を開けてバスレフ型に改装して運用するとしても、いわんやそんなスピーカーは余所にゴロゴロあるわけで。
少なくとも、この製品はそれらから外れたところにコンセプトを組もうとしたのだから、そのとおりに使うことが相応だろう。専用品でなくとも、別途サブウーファーとそれを駆動できるアンプを用意する。

低音が要らない用途なら使える
それ以外には、マルチチャンネルシステムのサテライトスピーカーとして組みこむか、姿を隠してイネーブルドスピーカーとするか、くらいだろうか。
せっかく整備しても、今の自分の環境には持て余してしまうな。

レアだから改造せずこのままにしておきたい
終。