テクニクスのヴィンテージブックシェルフ型スピーカー「SB-F2」を入手した。簡単な修繕と、直列型ネットワークの試験を兼ねて、音の調整をしてみた。

70年代のミニスピーカー
国産の古いスピーカーが手に入った。テクニクス「SB-F2」という、小さな2ウェイシステム。

似たような見た目のモデルは、以前いくつか手に入れている。しかし、今回入手したものはそれらより少し古く、1978年登場。

バッフルのデザインが現代的で、知らなければぱっと見で1970年代の国内ブランドが手掛けたと見抜くのは難しい。そこが気に入っていて、外観が綺麗な個体が手ごろな価格で流通しているとつい手が出てしまうシリーズだったりする。

今回もそんな感じで何気なくオークションサイトで札を入れて落ちたものだけど、"SB-F○○"シリーズでは今まで手に入れた中でいちばん小型のはずなのに、けっこうズッシリと重たい。インターネットにお尋ねすると、エンクロージャーがアルミダイカスト製なのだという。

メタリックな塗装がされた樹脂製筐体は、このころのモデルを引き継いでいるのか。たしかに、後続の製品は筐体が貧弱で、ドライバーをもっとしっかりしたハコに載せ替えてみたいな、とたびたび思っていた。
外観
ツイーター部
なるほどなーと思いながら、本体を眺める。

「リニアフェイズ設計」なる、ツイーターの振動板が後方にセットバックしたバッフルは、当時のテクニクスの十八番。

表層仕上げ
全体をシルバーで塗装されている。さすがに経年で少し黄ばんでいたり、素材自体の劣化か天面の表層が荒れていたりするけど、樹脂製に見られるクラックは当然ながら皆無。



ただ、鋳造製といえど、キャビネット部を叩いてみるとそれほど肉厚な雰囲気がない。金属製特有の堅固さという面では少々存在感が薄く感じられるのは、後続品と同じく板厚が薄いからだろう。とはいえ、量産するのだからそうならざるを得ない。


意匠
今まで見てきたモデルはフロントに開口のあるバスレフ式ばかりだったけど、この機種は密閉型。それ以外は、基本的に後続モデルと同じ。信号入力部となるネジ式のポストの上部には、サーマルリレーの手動復帰用ボタンも付いている。

個人的には、前面のエンブレムがラベルシールではなく、エンボス加工されたバッジ風になっているのが嬉しい。

整備前の音
さっそく音を出してみる。すると、片方のスピーカーはある程度の音量になるとリレーが働いて、無音となってしまう。
一気に雲行きが怪しくなってきた。もしかして、ドライバー本体になにか問題があるのか? よくわからないので、試聴はせずに分解作業に入る。

一応、問題ないほうのスピーカーの特性を載せておく。ツイーター軸上50cmの収音。5回収音の平均値。スムージング処理は平均化後に実施。
内部
分解
開腹の方法はシンプルで、背面からアクセスできるふたつのネジ頭を回すだけ。


見た目から想像がつくとおり、バッフルとキャビネット部が分離する構造。この嵌合部は、硬めのゴム質のガスケットが挟まるかたちで連なる。

予想のとおり、キャビネット部の板厚は薄い。
筐体内部は、パサパサのフォームの吸音材が、2枚折りたたまれて詰めこまれている。



各ドライバーのマイナス側端子が緑色の線で結ばれている。


ユニットの固定はすべてネジ留めで、それを取り除くだけで分離できる。ツイーターのバッフル開口部にリング状のパーツがある。

また、ウーファーユニットの固定には、フランジ部のネジ孔にスペーサーのような金具を設けてネジで押さえるようにしているのが特徴的。

ちなみに、バッフルにあるエンブレムも、裏面から接着を剥がせば分離できるようだ。


材質
このシリーズ特有の仕様として、キャビネットやバッフルとユニットとのガスケットをウレタンフォーム製のシートで製作しているというのがあって、そのガスケットは加水分解でことごとく朽ちているのが通例である。本機種においてもそれに倣っている。

アルミダイカストだという筐体は、そのとおり金属っぽいのだけど、メタル系のほかになにか混ぜ物をされているようにも見える。軟く、どことなく樹脂っぽさもあるのである。

今だとアルミがベースの金属基複合材料(MMC)かな? とか考えられるけど、この製品発売当時にその技術はあったのだろうか。

ディバイディングネットワーク
保護回路の動作
今回は真っ先にディバイディングネットワークの基板を取り外す。そこに付いているサーマルリレーの故障を疑っているからである。


このリレーを正常に動作するほうのスピーカーに付け替えてみたところ、同じように動作する。すなわち、ドライバーの故障ではなく、このリレーがおかしいということだ。正直、ジャンク品をつかまされたかと半ば諦めていたところだったけど、ひとまず安心。引き続き分解。
分波回路側

ディバイディングネットワークは、高音側は12dB/oct、低音側が18dB/oct。

LPF後段の0.1mHという小さなコイルは、無くても大きな変化がなさそうというか悪影響のほうが大きそうな気もする。しかしあえて設けているということは、高音の共振をどうしても抑えたかった、とかだろうか。

パンチングメタル
ドライバーのほうは、時代の風合いを感じるものの状態は比較的良好で、ヘンなノイズも無く良く鳴ってくれる。ただし、前面にあるパンチングメタルは、裏面が錆で真っ赤だ。


ウーファー
ウーファーは、紙製コーンと薄い金属か樹脂シートのセンターキャップの、スタンダードな組み合わせ。




ひとつ、サラウンドが見たところフォーム製ながら朽ちずにしなやかさをしっかり残している。これがもしウレタンフォームであれば、加水分解しにくいというエーテル系ウレタンなのか。おそらく張り替えられてはいないだろうから、少なくとも40年以上もの長期にわたって日本の過酷な気候に耐えてきたことになる。



ツイーター
ツイーターのほうは、前面にホーンの付いたドーム型振動板。




後続品のモールド筐体は、ホーンの部分をバッフル側で一体で成形して、そこにドーム型ツイーターユニットを押しつけるように固定していたのに対し、こちらはドライバー側にホーン状のプレートが一体となった、一般的なもの。

メンブレン部とホーン部の結合は接着剤なのか、分離を想定していない構造のようだ。今回は用事が無いのでそのままにしておく。
整備
方針
このスピーカー、入手当初はエンクロージャーの研磨と再塗装による外観のリファインを中心に整備するつもりで準備していた。しかし、分解したあとで別のスピーカーの整備にかまけていたら、そのまま一か月ほど放置され、当初の意気込みが失せてしまった。
今回は、筐体は最低限の清掃をするに留め、ネットワークの調整をすることにする。

発錆除去
とはいうものの、見事に真っ赤になったパンチングメタルを見たあとでは、まったくなにもしないというわけにもいかない。パンチングメタルはちゃんと補修する。
ちょうどいい大きさの樹脂製のトレーがあったので、そこにパンチングメタルを入れて、風呂場へ。

多少の発錆には酸性の液体を適当に作って漬け洗いしているけど、今回はガンコそうなので、リン酸が主成分の専用の除去剤を使用する。

今回はジェルタイプのものを買ってみた。錆に水を含ませてから、ジェルを塗り広げて10分ほど放置したのち洗い流す。
ツイーター用の小さいほうはすぐにピカピカに。

水気を入念に拭き取ったら、すぐさまあらかじめ用意しておいた塗装ブースに運び、錆止め用の塗料を吹きつけて下塗りとする。
いっぽうで、ウーファー用の大きいほうは、2回繰り返してもフランジ部に錆が残り、ブラシで擦ってもなかなか落ちない。再度塗って、今度は長めに一時間ほど漬けおき、除去剤を洗い流したところで仕舞いとする。

錆止め塗装後は、丸一日放置。仕上げは油性塗料のつや消しの黒で上塗り。

作業中、風呂場は強烈な硫黄臭が漂う。この臭いは翌々日まで抜けなかった。
ガスケットの制作
上述のように時間がかかるパンチングメタルの塗装と並行して、分波回路の構築も進める。ただし、ドライバーユニットの固定には朽ちたガスケットの交換が必要で、それを省くとバッフルに固定してもガタガタしてしまう。まずは新しいガスケットを作らなくてはならない。
ウーファー用とツイーター用の両方を作る。片面粘着付きのフェルトがたいへん便利。

厚み1mmほどの薄手のものを、ユニットの形状に合わせて切り出す。


粘着の保護シートは、仮組する今の段階ではまだ剥がさない。最終段で組み上げるさいに剥がしてユニットに貼りつける。
ディバイディングネットワークの調整
ここでようやく分波回路の構築に進める。
バランス調整
シミュレーションによると、LPFの0.1mHのコイルは、10kHzから上の帯域を落とすような動作をするらしい。ただ、導体が細い小さなコイルを直列で二つ並べるのは、抵抗成分の増加による音の張りの低下が、そうでないときと比べて聴感でも差がわかってしまうほどに如実に出てしまうことがある。かといって、このためだけに太い導体を使用した高価な新しいコイルを仕入れるのももったいない。ここまでの理由から、0.1mHのコイルを撤廃する代替として別のアプローチを探り、濾波のベースはオーソドックスな12dB/octとしたい。
また、ツイーターの出音はホーン型プレートの影響か、コンデンサーの静電容量を規定まで下げてもやや喧しく感じるため、こちらも調整する。
位相特性の維持
さらに、本機はドライバーどうしの位相特性に拘っている設計のため、新設計のネットワーク回路の搭載でオリジナルの特性からガラリ変わることもしたくない。どうしたものかと考えるうちに、良好な位相特性といえば、ということで直列型ネットワークを思い立ち、試しにいくつかシミュレートしてみると、そのひとつは偶然にも同じような特性になることが判った。
よって、普段はあまり気にしない位相特性の現状維持を目的に、直列型ネットワークを採用してみる。
新回路設計
コイルは既存を流用という条件のもと、組みあがったのが下図。


1.5Ωの抵抗器は、無いほうが位相特性はよりオリジナルに近づくのだけど、インピーダンス特性が平坦になるのと、周波数応答の全体のバランスを見てツイーターの出力を抑えることを優先するため、挿し入れた。
また、0.82mHのコイルに並列で付いている小さなコンデンサーは共振用で、12kHzから18kHzあたりまでの帯域を落としている。撤廃した0.1mHのコイルの代替として機能することを狙ったのだけど、聴感上では変化が無いように感じるから、無くてもいいかも。

特性
周波数特性上では2kHzの山が若干気になる。これはツイーター側の回路では調整が効かず、おそらく0.82mHのコイルを1mH程度にしないと抑えるのが難しく、今回は詰めきれていない。インピーダンス特性の稜線からも、この帯域になにかあるのかな、と思わなくもない。
全体としてはツイーターの出力が抑えられてバランスが整っているけれど、自分の耳にはこれでもやや大きく聴こえる。
回路の制作
いつものようにMDFを必要な大きさに切り出し、ベースとする。


せっかくエンクロージャー内にスタッドが有るので、今回は既存の基板が固定されていたそれを利用して括りつけたい。よって各パーツは適当には並べられず、4つのネジ孔を避けて配置するという条件が付く。


回路の積載
筐体内のいくつかに薄いフェルトシートを貼り、ディバイディングネットワーク全体を囲うようにニードルフェルトを内壁に這わせる。これらはケーブルのタッチノイズ予防である。


バインディングポストの換装
既存のバインディングポストはひたすらに扱いづらいので、現代化する。
既存の樹脂製のベースを、新しいポストでも利用する。今回用意したポストはシャフト部がM4のネジなので、ベースにそのまま捩じこめる。しかしシャフトの根本付近がやや太くなっていてそのままで収まりが悪いため、ネジ孔を直径5mmに拡張する必要がある。


結線は、既存のタブは使わず、丸形端子を使用する。


整備後の音
ようやくじっくりリスニング。
アンプはいつものヤマハのAVレシーバー「RX-S602」。インシュレーターとして、もともと底部に貼ってあったフェルト製のシートをそのまま使わせてもらう。


分解前の出音をあまり聴いていないので原音となにも比較できないけれど、位相とバランス配分にいつも以上に気を遣っているので、おおよその雰囲気は保てているのではないかと思う。HPFは電解コンデンサーからフィルムコンデンサーに変えたことで、幾分ひずみ感が減っている。それでも中高音の存在感があるのは、ホーン型プレートの性能だろうか。
低音は、さすがに量感は乏しいものの、レンジとしては下のほうまで出ている印象がある。金属筐体は同じ体積の木製筐体よりも容積をひと回り大きくできることや、それに付帯してコーン型振動板も径が大きいものを搭載可能になることが、低音再生能力を引き上げていると考える。エアサスの効いた歯切れの良い音を聴かせる。汚らしい感じもほとんど無い。
中音は、定位をある程度感じられるなかに、けっこう前のめりで聴こえてくる。特にラッパ系の音はエネルギーが塊となって出てくる感じ。弦楽器ものびのびとしている。今のままでもそれほど気にならないけれど、ひずみ感をもう少し抑えられるとさらに良くなると思う。やはりクロスオーバー付近の調整は要検討だろう。

高音は、よく伸びている。電解コンデンサーだとザラザラした質感が目立ってしまうところ、フィルムコンデンサー化でだいぶ和らいだ。それでいて音が細くなり過ぎず、ニュアンスを伝えてくる。金属音の実在感も好い。
たぶん、シリーズではいちばん好きな音だ。
まとめ
フィルター回路に自作の直列型ネットワークを組みこむのは、今回が初の試みだ。一般的な並列型とはだいぶ勝手が異なり、どれを変更するとなにがどう変化するのか、少しずつ確認しながらの作業だった。

しかしながら、それが可能となったのは、積まれているドライバーユニットが堅牢なのが大きい。直列型ネットワークは、フィルターで濾波していたとしても、ツイーター側からも若干ながら中音以下の帯域の音が出てくることがある。それに耐えうる、多少無茶しても壊れない頑強さが備わっているからこそ、実機を使って調整することができた。

製造からそろそろ半世紀が経とうする今なお現存し、小童のお遊びに付き合ってくれる国産スピーカーに感謝。
終。










