いつか消える文章

本当は、ペンとノートを持ち歩くことにあこがれている。

ONKYO OM-OF101 を鳴らしてみる

オンキヨーのフルレンジドライバー「OM-OF101」用に、手ごろで良さそうなエンクロージャーを探していたところ見つかった。少し改装してからドライバーを搭載して音を聴いてみた所感。

 

ようやく出番が来た

けっこう前に入手してそのまま放置しているスピーカーユニットがいくつかある。オンキヨー「OM-OF101」はそのひとつ。

ONKYO OM-OF101
オンキヨーブランドのDIY向けドライバーユニット? というのが自分には物めずらしく、興味を持ったので某オークションサイトで見かけては札を入れていた。いつだったか新品同然の綺麗なものを競り落とし、それを機に今度はドライバーを載せられるイイカンジのエンクロージャーを拵えねばならなくなった。
 
とはいえ、DIYの趣味は無いし、技術も設備も無い。できれば既製のオンキヨー製スピーカーの筐体のみ入手して載せたいけど、フルレンジドライバー単発をポンと載せられる製品はかなり少ない、というか全然見あたらない。ブランドを揃えることに拘っていたらいつまでも組み上げられないし、このさいエンクロージャーはオリジナルでいいか、となり、同じく某所で出品されていた質の良さそうな手製のエンクロージャーに狙いを定めたのだった。
自作スピーカーの筐体としては定番のMDFではなく、集成材で組まれたエンクロージャーを入手。

OM-OF101のサイズに合わせて開口していただいた
 

ドライバーユニット

いったんエンクロージャーは措いておいて、ようやく音出しがかなうこととなったドライバーのほうをちゃんと見てみる。

不思議な柄のコーン
なかなかインパクトのある見た目の本機は、雑誌『これならできる特選スピーカーユニット 2021年版 オンキヨー編』の付録のドライバー……2021年発売らしい。
この年のオンキヨーは、ウェブページにある会社沿革によればホームオーディオ事業を米国企業に売却していた。

www.asahi.com

その翌年に事実上の倒産、オーディオの分野を越えて世間に激震が走った、という流れ。
雑誌の発売が8月19日。時期からして、この製品は旧体制(オーディオ機器メーカーとしての元祖会社)時のオンキヨーブランドとして最終モデルのスピーカー、ということになるのだろうか。OEM販売もするとあるけど、以降で同じようなモデルってあったっけ?

相場が下がらず人気なのはそういった理由もあるのかも
インターネット上や雑誌にいろいろ情報が載っている。しかし、それらの参照はなるべく後回しにして見物する。

フルレンジドライバー。OM-OF101
なんといっても、細かくリブが張り巡らされたコーンが特徴的。「バイオミメティクス振動板」なるもので、トンボの翅を範としているらしい。
 
不勉強の自分は「バイオミメティクス」という言葉を初めて知った。「生物模倣」と訳されるらしい。ただ、概念はなんとなくどこかで聞いたことがあるものだった。
 
また、これは特許技術となっていて、その説明によると、
昆虫が飛行するのに必要な強度と軽さを両立した構造物
を模すことで、いわゆる分割振動モードによる周波数特性のピーク/ディップを抑制できるとある。要はコーンの剛性を上げる工夫らしい。

虫が苦手なので、あまりマジマジと見ていたくないな……
さらに、樹脂製フェーズプラグをつまんで右にグリッと回したような渦状のゆがみのあるテーパーも、上述と同じ効能を有するものだという。こちらは貝殻を模しているというが、これについては昨今フォステクス製のドライバーでも似たようなことをしている。
ちなみに、フェーズプラグは振動系とは接続されておらず駆動しない。
コーンの素材は紙。放射側にはコーティングなどの加工は特段されていないようで、翅脈の模様を除けば昔ながらのパルプ製コーンと質感が似ている。
見ると、コーンの内部側は翅脈の部分が凹んでいる。この模様はプレスでエンボス加工されたものであった。

中空の筋ではないんだ……
サラウンドはゴム製で、俗にいうタンジェンシャルエッジ。アップロールとダウンロールが交互に、こちらも渦を巻くように配置されている。振動板の形状と相まって、不要な共振をとにかく抑えたいといった面目である。ロール部ひとつひとつが小さく細いため、一見して硬そうだけど、存外振動板に追随してしなやかに動く。
マグネットは径が80mmあり、それなりの大きさ。
フレームは金属プレスであるものの、全体的に薄くペラペラでやや頼りない。しかし、それ以外の仕様や当時の定価を踏まえれば穏当といえる。
 

エンクロージャ

エンクロージャーを構成する集成材は、両側面がパインで、それ以外の4面がアカシアだという。

10cmフルレンジ用エンクロージャ

天面
板材の厚みは約15mm。
アカシアを使った筐体は初めて見る。芯材の色味が緑がかった茶色で、かつ濃淡の幅が広い。さらに辺材になるとかなり明るい色味となり、それらが混在するために賑やかな木目をしている。

硬そうな板材

背面と側面
前面バッフルの天面部と、スリット型バスレフの開口部を構成する板材は、角(かど)が大きく丸められており、機能面はもちろん意匠的にも垢抜けているのが良き。

開口部が綺麗だと、洗練された印象になる
バスレフダクトを構成する板材が補強を兼ねている以外に、内部にもいくつか木片による補強材が配備されている。吸音材は硬めのニードルフェルトで、天面と背面、正面向かって左側の側面の計3面に張られている。

ケーブルはBELDENの8470
 

加工

すでに背面のコネクターユニットからケーブルが伸びていて、あとはそれに平形端子を圧着してドライバーユニットをバッフルにネジ留めすればいいだけなのだけど、その前に筐体をちょっとだけ改修しておく。
 

底面の面取り

側面のパイン材には、木材をせん断したさいに生じるであろうバリから、欠けがわずかに始まっている。

アカシアと比べたら柔らかい木材だし、仕方がないか
この筐体、大きくR加工された部分以外はわりと角(かど)が立っていて、そのままだとそのうちさらに欠けてきそう。それを予防するため、底面の各辺を軽く削いでおく。

トリマーなんてものは無いので、やすりで地道に
 

ウレタン保護

今回、仕上げはオイルフィニッシュとするけれど、底面だけはウレタン塗膜を張る。アセトンを混ぜて少しシャバくした2液性エポキシ系接着剤を、底面の外周部に塗っていく。

塗布は木口の部分、つまりは外周部のみ
 

ボードの新設

この部分はさらに、筐体自体を物理的に浮かせて設置面との接触部を別に設けることで、底面と側面下部が汚れにくくなるようにする。9mm厚のMDFを適当な大きさに切り出し、底部に貼りつけてオーディオボード風の下敷きとする。

渋谷のハンズでカットを依頼した
MDFのような高密度の木材に使える簡単なハンドトリマーは所持しているので、こちらの面取りは一瞬。
ボードの断面には木工用ボンドを指で擦りこんで、乾いたら紙やすりで均す。これを2回繰り返す。

ちょっと手間だけど、仕上がりは良くなる
ボードは、目立たないように黒で塗装。

前面と側面は少しだけセットバックしている
適当な接着剤で筐体底面と貼り合わせて、丸二日静置する。

こんな感じ
通常、2液性の接着剤は24時間待てばたいていカチカチになっている。ただ、今回使用したようなアセトンで溶かしたエポキシ系接着剤は、プレーンよりも硬化が遅い印象がある。しかもこの作業は真冬にやっている。本当なら三日欲しいくらいだ。
 

オイル塗布

ひとまずボードがくっついたら、残りの面の仕上げに取りかかる。亜麻仁油とウレタンスポンジ、スポンジやすりの3点を用意して、いわゆる油研ぎをしてオイルフィニッシュとする。

左:塗布後 右:塗布前
底面以外の5面を、オイル塗布 → 拭き取り → オイル塗布 → #800相当研磨 → 拭き取り → オイル塗布 → #2000相当研磨 → 拭き取り。
パイン集成材をオイル仕上げにするのは、記憶するかぎり今回が初めて。オイル塗布後の色味について、自然光だと大差ないけど、LEDの昼白色相当の光源下では特有の赤味が抑えられて黄色味のほうが強く出るようだ。

昼間の自然光のみの状態。左が塗布済みだけど、差はあまりないように見える
いっぽうのアカシアに関しては、濃度とコントラストが上がって引き締まる。

ツヤも出て良き
 

ゴム足

新設したボードの四隅には、タカチ電機工業の角型ゴム足を付ける。

わりと気に入っている、ポリウレタン製の足
 

ユニット類の取付け

ネクターとドライバーをエンクロージャーに固定する。
 

ネクター

納品物に初めから固定されていたものを、筐体仕上げの変更のためにいったん取り外していた。それをもとの位置に戻す。
フォーム製パッキンは使われていなかったので、細く裂いたアセテートテープを巻きつけて代用する。

なるべく空隙を埋めるイメージ
 

ドライバー

ドライバーユニットの固定には、ドライバーに付属のネジを使わず、別途用意する。M3.5相当の六角穴の皿タッピンネジ。

近所で手に入らないから、個人輸入した
キャップボルトでもバインド頭でもなく皿ネジを採用したのは、フランジのネジ孔の形状に合わせてのこと。六角穴なのは、単純に趣味。

黒塗りのネジ、意外と入手しづらいんだよな
フランジとネジ頭がほぼ面一になって、デザイン上まったく主張しないし、いいんじゃないかな。

あとは劣悪なロットでないことを祈るのみ……
 

完成図

なんだかんだ時間がかかったけど、ひとまず完成。

完成後の姿

やはりオイル仕上げの質感は好いな
 

さっそく音を聴いてみよう。アンプはヤマハのAVレシーバー「RX-S602」。花崗岩のプレートの上に置いて試聴。
ファーストインプレッションは、スッキリとした物静かな音。ドライバーからの音自体は、濁りの少ない淡々とした音という印象。ただ、バスレフから出る音と交じるためか、回折の影響か、ヌケ感や見通しの良さなどは期待していたほどでもないのかな、という感じ。
 
コーン型スピーカー単発ということで高音の鳴りかたは組み上げる前から気になっていたのだけど、バランスとしては落ち着いていて、かつちゃんと伸びている。ありがちな10kHzから上がキンキン鳴るようなこともなさそうで、聴き疲れすることなく長時間鳴らしていられる。
しかし、指向性が強いのか、耳がドライバー軸上から少しでも外れると途端に高音域が著しく減少、ツイーターを足したくなってくるレンジ感になる。スピーカーの設置環境やリスニング位置がそこそこ制限されてしまうのがもったいない。
 
中音は、冷たすぎず温かすぎずの塩梅で、クセっぽくもない。余計な音が聴こえてこない、わりと細かな音が聴こえてくるあたり、過渡特性や分解能が高いいわゆる「音離れの良さ」を感じなくもないけど、とりわけ情報量が多いというわけでも、奥行きが広いわけでもない。このあたりもバッフルの形状や筐体によって印象が変わるだろう。
 
低音は、必要な量感が確保されたチューン。スケール感はそれほどでもなく、特定の周波数から下はバスンと削がれているような感じがあるものの、このサイズのスピーカーでは申し分ない再生能力だと思う。ひずんだ感じも無く、鳴らせる範囲をしっかり出力するタイプ。これはスリット型バスレフのエンクロージャーの性能によるところが大きいだろう。
 
音場感は、横方向には広がらず、わりと中心に集まるイメージ。小ぢんまりとしたなかでの定位感はそれなりに良好。一応は筐体背面方向に音がそこそこ回っている。
派手さはなく、無臭で、なにかを主張することもない。そういう意味での「平坦」な音。

「落ち着きすぎてつまらない音」に聴こえるかも
周波数特性を見る。ドライバー軸上50cmの位置で収音。5回収音の平均。

周波数特性。1/6スムージング処理

上図の元波形
およそ聴感と一致する。
中高音は2.5kHz前後がやや怪しいものの、おそらくはバスレフポートから出る筐体内部の音がなんらかの影響を及ぼしているのだろう。雑誌に掲載のオリジナルエンクロージャーの制作例のうち「WA・GON」なるスピーカーは、バッフル中央にスリット型のポートがあるタイプで、ダクト形状が異なるものの、雰囲気がこちらと似ている。周波数特性を見るとやはり同じように2.5kHz付近が隆起しているようなので、バスレフ由来の可能性はありそう。
基本は高低差の小さい稜線であり、高音方向にも綺麗に伸びる。10cmコーン単基でこの特性なら十分ではなかろうか。低音は60Hzあたりから下が崖となっているけれど、その付近までの伸びはやはりフラットに近い。
 
インピーダンス特性は、以前見たフォステクスの「G850」ほどではないにしろ、高音方向の上昇が緩やかになっている。これは磁気回路に搭載されているという銅製のショートリングによるものと推測する。
 

蛇足

前述と同じ雑誌で、ドライバーの設計者の開発インタビューを読んでいるところ、違和感を覚えた。
なぜトンボの翅脈なのかという問いに対して、
自然界のものなので翅脈で囲まれたエリアが各々異なり、この不均一性が高域共振周波数をより効率的に分散させます。また、翅脈壁で分離されるのでエリア外の振動に影響を与えにくく、振動を自然に減衰させることができ、高域のS/N改善に寄与します。
と答えている。特許文献の説明では、あくまで振動板の剛性を高めることによる共振の抑制というざっくりした説明に留まり、上記引用のような説明はない。自然界にみられるパターンをヒントにしました、くらいのものだ。
本製品のウリであるバイオミメティクスという用語が、どうにもピンと来ない。
手持ちの辞書には載っていない言葉なので、ここで勝手に定義すると、
「生物が進化の過程で得られた構造や原理を工学的に解析し、技術として応用、再構成するアプローチ」
がバイオミメティクスだとする。単に自然界にある模様だから、リブが翅脈に似ているからというだけでバイオミメティクスだとは言いきれない。
 
たとえばこれが、スピーカーではなく紙飛行機に応用したというのであれば、話としてすんなり理解できる。トンボの翅の構造を解析し、力学的な原理を紙飛行機の翼に転写してみたら、より効率よく遠くまで飛ばせるようになったぞ、みたいな。
軽量化と高剛性化の両立という面では、紙飛行機とスピーカーは課題の親和性が高いとみていいだろう。でも、トンボの翅は飛ぶためのものであって、音を出すことを目的として備えられたものではない。トンボの翅脈の模様がどのような分割振動モードになり、なかんずく音響特性上どう有利になるのか。因果関係についての技術資料、論文などによる具体的な明示が、避けられているように思う。
 
有機的なデザインを採用しました」くらいの、マーケティングの意味合いのほうが強い「バイオミメティクス振動板」なのかな、という印象になっている。
 

まとめ

清閑さゆえ、もう少しガッツが欲しいなと感じることもある音である。でもまあ、それなら別のドライバーを使えばいいとなる。おそらく、音の味付けよりもスペック上の高コスパを狙っているスピーカーだから。

それはそれで貴重な製品だ
いろいろ思うところはあっても、フルレンジスピーカーとして不足はない。すでに終売しており、人気なのか中古品でも定価より高値で取引されることが多いドライバーだけど、安価に手に入るのなら聴いてみる価値はありそう。とはいえ、わざわざプレミア価格で取引するほどか? とも思う。
今度手に入ることがあれば、INAXの「BUBBLE BOY」の筐体に載せるとどんな音になるか試してみたいところ。

聴きこまなくては
 
終。