いつか消える文章

本当は、ペンとノートを持ち歩くことにあこがれている。

INAX QX-100 に別のドライバーを載せてみる (前編)

INAXのスピーカー「QX-100」に、なんとかして別のドライバーを載せられないかと整備してみた所感。

※ この記事は、前後編の前編にあたるものです。
 

いろんな意味でレアなスピーカー

「QX-100」という、かつて株式会社イナックス(INAX。現:株式会社LIXIL)が発売していたセラミック製卵型スピーカー。某大手中古ショップで見かけて衝動買いした。

INAX QX-100 ブラック
INAX謹製、陶製のエンクロージャー、そしてなにより、人間の頭部にも似た卵型をしたラウンドシェイプという、どこをとってみてもめずらしい、インパクトしかないパッシブスピーカーである。

口をあけた一つ目小僧みたいで、ちょっと不気味ですらある
ただし、片方のドライバーは音が出ないらしく、いわゆるジャンク品として売られていたもの。ドライバーユニットの取り付けている向きが上下逆になっていることから、前オーナーによって手を入れられているのが明白なのだけど、それでも不鳴動とはどういうことだろうか。

コーンのハトメのひとつが、なぜか黒い
ドライバーだけ単独で手に入れば交換してしまえばいいし、修理して直れば万々歳。たとえそれが叶わなくても、なにか別のドライバーに載せ替えてしまえばいいやと確保した。ただ、中古のドライバーがなかなか手に入らず、入手後しばらくはそれこそ陶製の置物同然で放置されたままだった。このまま待っていたらいつになるかわからん、ということでオリジナルのドライバーの入手は諦めて分解してみることにする。
 

INAX製スピーカーについて

ここで、そもそもなんでINAXがスピーカーを製造していたのか、という疑問を、まずは解消しておきたい。そのあたりのいきさつについて、今回は作業に入る前にある程度調べてまとめておく。
 

衛生陶器のINAX

当時の様々なオーディオ雑誌に挟まれるQX-100の広告を見てみると、
エンクロージャーの最適素材には、剛性、密度、電気絶縁性が高く、帯磁性がないことが要求されますが、セラミックスは、それらの条件をすべて満たした理想の素材と言えます。
とあり、陶製であることのメリットを大きく打ち出している。
しかるに、自分がINAXのブランドで連想するのは、同じ陶製でもトイレの便器がまず思い浮かぶ。このスピーカーが登場した1980年代は温水洗浄型のトイレが日本で本格的に普及してきた時期であり、ライバルである東陶機器株式会社(現:TOTO株式会社)が開発した「ウォシュレット」の大ヒットを受け、INAXも先行して開発していた「シャワートイレ」の普及を進め、両社でしのぎを削りながら好景気に乗っかって会社が成長していくノリノリの時代であった。自分もやはり、そのころのイメージが今も残っているのだと思う。
 

企業イメージの一新

とはいっても、コーポレートアイデンティティ(CI)の名のもとに"企業変身"を掲げた当時のINAXは、「便器製造メーカー」という世間の持つ企業イメージを一新したいところがあったらしい(月刊『宝石』 1988年2月)。
1985年(昭和60年)4月に旧商号の伊奈製陶株式会社から株式会社イナックスに変更。翌年1月に東京本部を新設。六本木のアークヒルズ森ビル最上階にワンフロアすべてを使ったショールームを開設するなど飛ぶ鳥を落とす勢いのなか、トイレや洗面器などの衛生陶器や業界トップシェアの住宅用内外装タイル以外にも裾野を広げようとする気運を盛り上げた。また、陶器工場が母体であるものの、FRPや金属加工など陶器以外も取り扱うようになってきた事情もそれを後押ししたようだ。
 

得意分野×音響

社名変更後、衛星通信用の巨大なパラボラアンテナや石油給湯器のバーナーなど大小問わずさまざまな製造を手掛けるようになったINAXは、しかし音響の分野にはかねてより関わりがあった。タイルである。スタジオやホールなどの内壁に用いられる音響調整用のタイルを日本大学の建築音響研究室との共同で開発し、実用まで漕ぎつけていた。この「音響タイル」と呼ばれるものから派生して、陶製エンクロージャー開発のプロジェクトチーム発足へ繋がったようである(『別冊 FM fan』 No.55 1987秋)。
建築音響学とセラミックス加工のノウハウを掛け合わせた製品がQX-100であった。
 

そして発売へ

当時の雑誌『Audio Accessory(季刊オーディオアクセサリー)』によると、QX-100の発売日は1986年(昭和61年)9月21日となっている。同雑誌は開発の段階からすでに特集が組まれており、愛称である「BUBBLE BOY(バブルボーイ)」もこの雑誌上で案の募集がかけられて決まったもの(1986.SPRING 40号記念特別号)。
エンクロージャーのカラーのラインナップは最終的に4色となったようだけど、発売前の雑誌の紹介では色の自由度の高さが謳われていて、原色に近いものや淡いパステルカラーなどに塗られた姿もあり、じつにカラフルでポップな印象がある。実際には標準以外のカラーの指定は特注でできたのだとか。自社生産ならではといえる。
 

その後のQX-100

INAX製スピーカー、自分はこれまで存在すら知らなかったのだけど、主に業務用として一定の需要があったようで、
放送中継車用モニターやスタジオ用スピーカーに、またホテルやレストランなどの引き合いが多くなった
(『ステレオ』 1987年7月)
として、のちにXLR型コネクターを搭載した特注仕様の「QX-100 PRO」が登場している。全体が丸みを帯びた外観と釉薬の透明感のある仕上げは音響機器っぽさがだいぶ抑えられているから、店舗のインテリアとして違和感が小さく置きやすかったのかもしれない。いっぽうでこの風貌のスピーカーが放送中継車のなかにあるのは想像するとなかなか面白い絵面だし、陶製だから単純に扱いにくいと思うのだけど、それを差し引いてもなお採用するに足る秀でた音質だったということなのか。
ただ、INAX側は
この進出は技術開発の促進やチャレンジ精神維持のためのものであって、収益拡大のために新分野を育てなければといった切羽詰まったものではない
(月刊『宝石』 1988年2月)
との言もあり、会社としてはオーディオ機器の製造に本格的に取り組もうとするものではなく、あくまで「ウチの製造班がこんなモノ作っちゃいました」くらいのノリであることが想像できる。もちろんCIの企業戦略の一環でシャワートイレ以外の独自性を打ち立てる狙いもあったのかもしれないけれど、複数の意味で余裕のある時代だったからこそ生まれた代物と見受けるべきだろう。
 

外観

さて、とりあえず現物を見ていく。ガンメタルのような釉薬が塗られたセラミックのエンクロージャーはどこを見ても弧を描いており、直線的な部分が皆無。

ホント、人の頭みたい……

茶碗の高台の切りこみのような部分は通線口
表面は石のように硬く、陶製の花瓶や壺に触れているよう。陶器独特のヒンヤリとした温度もある。向かって右側面に「BUBBLE BOY」のロゴがある。

ロゴ、付けるなら側面ではなく背面のほうがいいのでは
表面にガラス層を形成する釉薬の施釉はスプレー吹き掛けだそうで、ややマットな質感のわりに表層の触覚はツルツルしていて均一な感じ。

思わず撫でまわしたくなる丸い天面

石灰、粘土、長石、珪砂、顔料、水のブレンドだそう
このエンクロージャーは、「スラリー」と呼ばれる微細粒子状の原料と水の混合物を石こう型に流しこみ、石こうに水分を吸収させることで中空の形状を作る「鋳込み成形」という方法を用いて形成された一体構造となっている。それにより、バスレフダクトを含めて継ぎ目がいっさい存在しない高気密性の筐体となる。

少し潰れた楕円のような開口のバスレフポート
結線用のバインディングポストとラベルシールは一般的なスピーカーのような背面には無く、底部に設けられている。ただし、本機体においてはラベルシールは剥がれて無くなっている。

セラミック製であることがよくわかる底部
バインディングポストはポスト直付け。4mmバナナプラグに対応する。

ユニットを使わずに直付けなのは、ちょっと意外
ハトメが真っ黒になっているほうのドライバーは、パンチングメタルが凹んでいる。

音が出ないのはこちらのほうかな
 

一応音を出してみる。アンプはTEACのプリメイン「A-H01」。
予想どおり、パンチングメタルが凹んでいるほうは音が出ない。

音が出ないほうのドライバー
もうひとつのほうは音が出るものの、断続的にバリバリとノイズが走る。内部のボイスコイルが擦れて出る音というよりは、どこかがショートしているときに出る電気的なノイズのように聞こえる。
音の出るほうのスピーカーで、サイン波による周波数特性を測定しておく。幾度か鳴動を繰り返して奇跡的にノイズが出なかったときの測定値だけど、あまり参考にはならないだろう。

周波数特性

上図の元波形
インピーダンスの測定は、するのを忘れた。
 

内部

内部を見ていく。

見えているネジを外すだけ
 

固定方法

ウェルナット+α
このスピーカーにおいて確認してみたかった最たるものとして、ドライバーユニットの固定方法がある。バインド頭のネジが使われているけれど、それを陶製のエンクロージャーにどうやって打ちこんでいるのか。「ウェルナット」と呼ばれるものを使っていることは事前に知っているものの、それがどういうものなのか、どういった使われかたをしているのかは知らない。
中空にしてはけっこう重いなと思っていたのだけど、ドライバーを見て納得。アルミ鋳造フレームに大きめのフェライト磁石が備わった立派なものが採用されているのだった。

すごいなコレ
ドライバーはひとまず措いて、エンクロージャー側を見る。

俯瞰
薄い緑色のものがゴムの潰れたウェルナットなのだろうけど、どうやらそれだけで固定されているわけではないようだ。

なんかスゴイことしてるぞ……
ウェルナットの外周に金属製のスペーサーのようなものを纏わりつかせ、さらに筐体内側に「E型リング」とか「スナップリング」などと呼ばれるものを一緒に固定している。

タックシールのようなものでウェルナット自体を接着している
採用する理由の考察
なんでこんな手の込んだことをしているのか。
鋳込み成形において、石こう型に吸水させてスラリーの厚みが約1cmになるまで硬化する過程は、
石こう型の乾燥度合いや使用回数、温度や湿度、原料の状態などによって変わるため、鋳込み時間は職人が勘と経験で適宜コントロールする
(『別冊 FM fan』 No.55 1987秋)
らしい。しかもひとつの石こう型の使いまわせる回数は数十回だという。よって、少なくとも精製ロット単位ではエンクロージャーの厚みが微妙に異なってくる。現に、ウェルナットが収まっている部分のセラミックの厚みは、箇所によってわりとまちまちだ。ここは脱型後の乾燥時と焼成時にセラミック自体が収縮する性質が影響することもあるのだろう。この理由から、既製品の採用や専用に設計された留め具の製作が難しいと判断されたのかもしれない。

ウェルナットのゴムとEリングでセラミックを挟むようにして固定する
また、このスピーカーにとって唯一といっていいほど「なるべく平面であってほしい」部分であり、成形時に生まれる多少の歪みや寸法の狂いを、"遊び"のある金具によって半ば強制的に呑みこんでしまおうとする意図もあると予想する。各々の形状にある程度対応できる、言ってみれば現物合わせに近い措置として考えられたものだろう。

ちなみに、この開口はひとつずつ手作業で行っていたらしい
 

筐体内部

エンクロージャーの内部は内部配線のダブルコードがあるだけで、吸音材はゼロ。卵型筐体が定在波の対処を不要にしてくれているという。

ケーブルは丸形端子、ナットで固定
 

ドライバーユニット

X-103
ドライバーユニットは、「INAX X-103」という10cmコーン型フルレンジドライバー。

INAX X-103
仕様は先に見たとおりで、見るからに堅固な造り。磁気回路も強力そう。これで音がまともに出ないのだからもったいない。

フェライトマグネットは直径90mm

リードを修理している?
正体は?
このドライバー、インターネット上にはフォステクスの「UPシリーズ」であるとの情報もあるけど、当時の資料を眺めたかぎりでは確証を得られず。しかし、ラベルにある仕様の数値はそれっぽいし、マグネット側面の小さな印字はフォステクス製ドライバーでよく見かけるヤツなので、おそらくはそうなのだろう。

ちなみに、音が出るほうにはちゃんとフォーム製パッキンが挟まっていた
ユニット分解
パンチングメタルは比較的簡単に外せそうなので剥がしてみる。

サッシ用ヘラ一本だけで外せた
パンチングを外して気づいたけど、エッジが張り替えられている。新しいものはクロス製で、おそらく手製だろう。

ロールの幅が一定でないので、サイズが合っていないのか?
どうせ故障しているので、とりあえずできるところまでバラしてしまおう……。

紙製ベース
ダンパーはラッカーうすめ液で剥がす。

古いからか、これも簡単に剥がせた
補修跡
ターミナルから渡っているリード線は、別のコードで引き直している跡がある。しかし、これがボイスコイルのリードと繋がっていない。

そもそもなんで?
コーンのハトメ周辺に染みがあるのは、なんらかの溶剤を使ってリードの接着剤を剥がそうとしたもの。ハトメが黒いのは、はんだごてを当てた熱によって塗料が焦げたものだった。想像するに、エッジの張替えのさいに誤ってリードをハトメから引っこ抜けるように切ってしまい、その復旧を途中で諦めた、とかだろう。自分も工具がリードに引っ掛かっていることに気付いてヒヤリとすることがたまにある。
ほじくり返してみる。けっこう深いところまで掘らないとボイスコイル側のリードが顕れてくれない。

ダンパー接着位置よりも内側、ギャップに収まるギリギリの位置か……
 

後編に続く